投資用戸建て相続の税務基礎知識
投資用戸建てを相続した場合、居住用とは異なる税務上の取り扱いがあります。相続税評価では賃貸中の不動産として「貸家建付地」「貸家」の評価減が適用でき、小規模宅地等の特例も貸付事業用として利用可能です。ただし、居住用(80%減額)と比べて貸付事業用(50%減額)は減額率が低いため、注意が必要です。
この記事でわかること:
- 相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)
- 貸家建付地・貸家の相続税評価方法と評価減の計算
- 小規模宅地等の特例(貸付事業用:200㎡まで50%減額)
- 取得費加算の特例(相続開始から3年10ヶ月以内)
- 減価償却費の計算と譲渡所得の算定方法
1. 相続税の基本
(1) 基礎控除額の計算
相続税の基礎控除額は、投資用・居住用に関わらず同じ計算式です。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円です。相続財産の総額がこの金額以下であれば相続税は課税されません(国税庁「相続税のあらまし」参照)。
(2) 投資用不動産の取扱い
投資用戸建ては、相続財産として相続税の課税対象となります。ただし、賃貸中の不動産は「貸家建付地」「貸家」として評価減が適用されるため、自用の不動産よりも評価額が低くなります。
(3) 相続税の申告期限
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限内に申告書を提出し、納税する必要があります。
2. 投資用不動産の相続税評価
(1) 貸家建付地の評価方法
賃貸中の建物が建っている土地(貸家建付地)は、以下の式で評価します(国税庁「貸家建付地・貸家の評価」参照)。
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
- 自用地評価額: 路線価または倍率方式で計算した土地の評価額
- 借地権割合: 路線価図に記載(A=90%、B=80%、C=70%など)
- 借家権割合: 全国一律30%
- 賃貸割合: 賃貸面積÷総床面積
(2) 貸家の評価方法
賃貸中の建物(貸家)は、以下の式で評価します。
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
全室が賃貸中(賃貸割合100%)の場合、建物の評価額は固定資産税評価額の70%(1-0.3×1.0)となります。
(3) 評価減の計算
例: 自用地評価額5,000万円、借地権割合70%、全室賃貸中の場合
貸家建付地の評価額 = 5,000万円 ×(1 - 0.7 × 0.3 × 1.0)
= 5,000万円 × 0.79
= 3,950万円
自用地と比べて1,050万円(21%)の評価減となります。
3. 小規模宅地等の特例(事業用)
(1) 貸付事業用の特例(200㎡まで50%減額)
投資用戸建ては、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」として、200㎡までの部分について評価額を50%減額できます(国税庁「小規模宅地等の特例」参照)。
注意: 居住用宅地等(330㎡まで80%減額)と比べて、減額率が低い点に注意が必要です。
(2) 適用要件
貸付事業用宅地等の特例を受けるための主な要件は以下の通りです。
- 被相続人が貸付事業を行っていた宅地等であること
- 相続人が相続税の申告期限まで貸付事業を継続し、宅地等を保有していること
- 相続開始前3年を超えて貸付事業を行っていたこと
(3) 相続開始前3年以内の賃貸開始の制限
重要: 相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地等は、特例の適用対象外となります。ただし、相続開始前3年を超えて特定貸付事業(事業規模での貸付)を行っている場合は適用可能です。
この制限は、相続税対策として駆け込み的に賃貸を開始することを防止するために設けられています。
4. 投資用不動産の売却
(1) 取得費加算の特例
相続した投資用戸建てを売却する場合、取得費加算の特例が適用できます。この特例は、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、相続税の一部を譲渡所得の計算上、取得費に加算できる制度です(国税庁「譲渡所得と取得費加算の特例」参照)。
取得費に加算できる相続税額 = 相続税額 × 譲渡資産の相続税評価額 ÷ 全体の課税価格
適用期限: 相続開始を知った日の翌日から3年10ヶ月以内の売却
(2) 減価償却費の計算
投資用戸建てを売却する際、取得費から減価償却費を差し引く必要があります。減価償却費は、被相続人が取得した時からの期間で計算します(国税庁「譲渡所得の計算(減価償却)」参照)。
減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
償却率は建物の構造により異なります(木造:0.031、鉄筋コンクリート:0.022など)。
(3) 売却タイミングの判断
取得費加算の特例を活用するためには、相続開始から3年10ヶ月以内に売却を完了させる必要があります。相続税の納税資金確保や賃貸経営の継続可否を総合的に判断し、早めに売却の意思決定を行うことが重要です。
5. 譲渡所得の計算
(1) 取得費の算定
相続で取得した投資用戸建ての取得費は、被相続人が取得した際の価格を引き継ぎます。
取得費 = 被相続人の取得価額 - 減価償却費(相続人+被相続人の保有期間)
取得費加算の特例を適用する場合、上記取得費に相続税の一部を加算できます。
(2) 減価償却費の引継ぎ
被相続人が既に計上した減価償却費も引き継ぐため、相続人は被相続人の取得時からの減価償却費を計算する必要があります。被相続人の購入時の契約書や確定申告書などの資料を確認しましょう。
(3) 譲渡費用の範囲
譲渡費用として認められるものには、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙税、建物取壊し費用などがあります。これらを適切に計上することで、譲渡所得を軽減できます。
6. 賃貸継続か売却かの判断
(1) 賃貸継続時の税務
賃貸を継続する場合、不動産所得として確定申告が必要です(国税庁「不動産所得と必要経費」参照)。賃料収入から必要経費(減価償却費、修繕費、固定資産税、管理費など)を差し引いた金額が課税対象となります。
(2) 不動産所得の計算
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
必要経費には、固定資産税、都市計画税、損害保険料、修繕費、減価償却費、管理委託料などが含まれます。
(3) 固定資産税・維持費との比較
賃貸を継続するか売却するかの判断では、以下の要素を総合的に検討します。
比較項目 | 賃貸継続 | 売却 |
---|---|---|
収入 | 継続的な賃料収入 | 一時的な売却代金 |
税金 | 不動産所得税、固定資産税 | 譲渡所得税(取得費加算特例適用可) |
維持費 | 修繕費、管理費が継続 | 売却後は不要 |
相続税 | 納税資金の確保が課題 | 売却代金で納税可能 |
管理負担 | 賃貸管理の手間 | 売却後は不要 |
判断のポイント:
- 相続税の納税資金が必要な場合 → 売却を検討
- 賃料収入が見込め、管理負担が軽い場合 → 賃貸継続を検討
- 建物の老朽化が進んでいる場合 → 早期売却を検討
税理士に相談し、キャッシュフロー分析を行った上で判断することをおすすめします。
まとめ
投資用戸建てを相続した場合、貸家建付地・貸家の評価減により相続税評価額を下げることができます。小規模宅地等の特例は貸付事業用として200㎡まで50%減額が適用可能ですが、居住用(330㎡まで80%減額)より減額率が低い点に注意が必要です。
相続開始前3年以内に賃貸を開始した場合、小規模宅地等の特例の適用対象外となるため、早めの対策が重要です。相続した投資用戸建てを売却する場合、取得費加算の特例(相続開始から3年10ヶ月以内)を活用することで譲渡所得税を軽減できます。
賃貸を継続するか売却するかの判断では、賃料収入、固定資産税、維持費、相続税納税資金、管理負担などを総合的に検討することが重要です。複雑な税務判断については、税理士に相談することをおすすめします。