投資用戸建て購入で相続税対策をお考えの方へ
将来の相続対策として投資用戸建ての購入を検討する方が増えています。現金で保有するよりも不動産にすることで相続税評価額を下げられ、さらに賃貸に出すと貸家建付地として評価減が受けられるためです。
ただし、投資用不動産は居住用と異なり小規模宅地等の特例の減額率が低く(50%)、空室リスクや管理負担も考慮する必要があります。節税目的だけでなく、賃貸経営としての実態も重要です。
この記事で分かること(要約)
- 現金1億円が不動産評価で約7,000万円になり、さらに賃貸に出すと貸家建付地の評価減で約8割程度の評価額に圧縮可能
- 貸家建付地の評価減は「自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」で計算し、借地権割合は地域により異なる(東京都心部は70%、地方は50%等)
- 小規模宅地等の特例は貸付事業用として200㎡まで50%減額が可能(居住用は330㎡で80%減額)
- 生前贈与は年間110万円以下なら非課税、相続時精算課税制度は累計2,500万円まで贈与税非課税だが相続時に持ち戻される
- 相続後の家賃収入は不動産所得として所得税の対象となるため、相続人全体の税負担を考慮する必要がある
1. 投資用戸建て購入と相続税・贈与税の基本
(1) 投資用戸建てで関係する税金
投資用戸建てを購入・保有・相続する際には、複数の税金が関係します。
税金 | 課税タイミング | 税率・計算方法 |
---|---|---|
不動産取得税 | 購入時 | 固定資産税評価額×3%(住宅用土地は軽減あり) |
登録免許税 | 登記時 | 固定資産税評価額×1.5%(土地)、2.0%(建物) |
固定資産税・都市計画税 | 毎年1月1日時点 | 固定資産税評価額×1.4%(標準税率) |
所得税(不動産所得) | 毎年(家賃収入) | (家賃収入-必要経費)×所得税率 |
贈与税 | 生前贈与時 | 累進税率(10%〜55%) |
相続税 | 相続時 | 累進税率(10%〜55%) |
(2) 相続税と贈与税の違い
国税庁「相続税の計算」によれば、相続税と贈与税は以下の違いがあります。
相続税
- 相続により財産を取得した場合に課される
- 基礎控除: 3,000万円 + 600万円×法定相続人の数
- 税率: 10%〜55%(累進税率)
贈与税
- 生前に財産の贈与を受けた場合に課される
- 基礎控除: 年間110万円(暦年贈与)
- 税率: 10%〜55%(累進税率)
贈与税は相続税よりも税率が高く設定されているため、単純な生前贈与は必ずしも有利とは限りません。
(3) 投資用不動産の相続税対策としてのメリット
投資用戸建てを購入する相続税対策のメリットは、現金よりも不動産の方が相続税評価額が低くなることです。
例: 現金1億円 vs 投資用戸建て1億円
- 現金1億円: 相続税評価額1億円
- 投資用戸建て1億円: 相続税評価額約7,000万円(土地・建物の評価額による)
さらに、賃貸に出すと貸家建付地の評価減が受けられ、評価額を約8割程度まで圧縮できる可能性があります。
2. 相続税評価額を下げる仕組み
(1) 現金と不動産の評価額の違い
現金は額面通りに評価されますが、不動産は以下の方法で評価されます。
- 土地: 路線価方式または倍率方式(固定資産税評価額の約80%)
- 建物: 固定資産税評価額(建築費の約50%〜70%)
この評価方法により、不動産は購入価格よりも低い金額で評価されます。
(2) 固定資産税評価額と相続税評価額
国税庁「貸家の評価」によれば、建物の相続税評価額は固定資産税評価額を基準に計算されます。
建物の評価額
- 自己居住用: 固定資産税評価額×100%
- 賃貸用(貸家): 固定資産税評価額×70%
固定資産税評価額は建築費の約50%〜70%であるため、賃貸用建物の相続税評価額は建築費の約35%〜49%となります。
(3) 投資用戸建ての評価額計算例
例: 購入価格1億円(土地7,000万円、建物3,000万円)
土地の評価額
- 路線価評価: 7,000万円×80%(路線価は公示価格の約80%) = 5,600万円
建物の評価額(賃貸用)
- 固定資産税評価額: 3,000万円×60%(建築費の約60%) = 1,800万円
- 貸家評価: 1,800万円×70% = 1,260万円
合計評価額
- 5,600万円 + 1,260万円 = 6,860万円
購入価格1億円が相続税評価額で約6,860万円となり、約3,140万円の評価減が実現します。
3. 貸家建付地と貸家の評価減
(1) 貸家建付地の評価方法
国税庁「貸家建付地の評価」によれば、賃貸中の土地(貸家建付地)は以下の計算式で評価されます。
貸家建付地の評価額
- 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
計算要素
- 借地権割合: 地域により異なる(東京都心部70%、地方50%等)
- 借家権割合: 全国一律30%
- 賃貸割合: 実際に賃貸している部分の割合(満室なら100%)
(2) 貸家建付地の評価減の計算例
例: 自用地評価額5,600万円、借地権割合70%、賃貸割合100%の場合
- 評価減率: 1 - (70% × 30% × 100%) = 1 - 0.21 = 0.79
- 貸家建付地の評価額: 5,600万円 × 0.79 = 4,424万円
自用地評価額5,600万円が貸家建付地として4,424万円に減額され、約1,176万円の評価減が実現します。
(3) 賃貸割合と評価減の関係
貸家建付地の評価減は、**実際に賃貸している部分の割合(賃貸割合)**により変動します。
- 満室(賃貸割合100%): 評価減率21%(借地権割合70%の地域)
- 半分空室(賃貸割合50%): 評価減率10.5%
空室が多いと評価減の効果が薄れるため、相続時に賃貸経営を安定させることが重要です。
4. 生前贈与と相続時精算課税制度の活用
(1) 生前贈与による相続税対策
生前贈与は、相続財産を減らすことで相続税を軽減する方法です。
暦年贈与
- 年間110万円までの贈与は非課税
- 毎年計画的に贈与することで、相続財産を減らせる
例: 毎年110万円を10年間贈与
- 総額: 110万円 × 10年 = 1,100万円
- 贈与税: 0円(毎年110万円以下のため)
(2) 相続時精算課税制度の概要
国税庁「相続時精算課税制度」によれば、この制度を選択すると以下のメリットがあります。
制度の特徴
- 累計2,500万円まで贈与税が非課税
- 2,500万円を超える部分は一律20%の贈与税
- 相続時に贈与財産を相続財産に持ち戻して精算
適用要件
- 贈与者: 60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者: 18歳以上の子または孫
(3) どちらが有利か:暦年贈与 vs 精算課税
暦年贈与が有利なケース
- 長期的に計画的に贈与できる場合
- 相続までの期間が長い場合(10年以上)
相続時精算課税が有利なケース
- 短期間で大きな金額を贈与したい場合
- 評価額が将来上昇する可能性がある財産(株式、不動産等)
投資用戸建ての場合、将来の家賃収入を相続人に移転できるメリットもあります。
5. 小規模宅地等の特例(貸付事業用)
(1) 貸付事業用宅地の特例
国税庁「小規模宅地等の特例(貸付事業用)」によれば、投資用戸建ての土地にも小規模宅地等の特例が適用できます。
貸付事業用宅地の特例
- 減額率: 50%
- 適用面積: 200㎡まで
例: 貸家建付地評価額4,424万円、面積150㎡の場合
- 特例適用後: 4,424万円 × 50% = 2,212万円
さらに約2,212万円の評価減が実現します。
(2) 適用要件と減額率
貸付事業用宅地の特例を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
要件
- 被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等
- 相続開始前3年以上継続して貸付事業を行っていたこと
- 相続人が相続税の申告期限まで引き続き貸付事業を継続すること
相続直前に急いで賃貸を始めても、3年以上の継続要件を満たさないため特例が適用されません。
(3) 居住用との違い
小規模宅地等の特例には、居住用と貸付事業用で大きな違いがあります。
区分 | 減額率 | 適用面積 |
---|---|---|
居住用(特定居住用宅地等) | 80% | 330㎡まで |
貸付事業用 | 50% | 200㎡まで |
居住用の方が減額率・適用面積とも有利です。自宅と投資用不動産の両方がある場合、どちらに特例を適用するか検討が必要です。
6. 投資用戸建てで注意すべき相続税対策のポイント
(1) 空室リスクと評価への影響
貸家建付地の評価減は、賃貸割合(実際に賃貸している部分の割合)により変動します。
空室がある場合の評価減
- 満室(賃貸割合100%): 評価減率21%(借地権割合70%の地域)
- 半分空室(賃貸割合50%): 評価減率10.5%
- 全室空室(賃貸割合0%): 評価減なし
相続時に空室が多いと評価減の効果が薄れるため、賃貸経営の安定が重要です。
(2) 相続後の不動産所得と所得税
国税庁「不動産所得と相続税」によれば、相続後の家賃収入は不動産所得として所得税の対象となります。
不動産所得の計算
- 不動産所得 = 家賃収入 - 必要経費(固定資産税、修繕費、減価償却費等)
相続人が複数いる場合、持分割合に応じて不動産所得が分配され、各相続人が確定申告を行います。相続人の所得が増えることで、所得税・住民税の負担が増える点に注意が必要です。
(3) 複数相続人での共有リスク
投資用戸建てを複数の相続人で共有すると、以下のリスクがあります。
共有のデメリット
- 賃貸経営の意思決定に全員の同意が必要(リフォーム、売却等)
- 家賃収入の分配でトラブルになる可能性
- 将来の売却時に意見が分かれる
相続前に遺言書で所有者を明確にする、または相続後に換価分割(売却して現金で分配)を検討するなど、対策が必要です。
まとめ
投資用戸建て購入は、相続税対策として有効な手段です。現金1億円が不動産評価で約7,000万円になり、さらに賃貸に出すと貸家建付地の評価減で約8割程度の評価額に圧縮できます。小規模宅地等の特例(貸付事業用)を適用すれば、200㎡まで50%の減額が可能です。
貸家建付地の評価減は「自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」で計算され、借地権割合は地域により異なります(東京都心部70%、地方50%等)。空室が多いと評価減の効果が薄れるため、賃貸経営の安定が重要です。
生前贈与は年間110万円以下なら非課税、相続時精算課税制度は累計2,500万円まで贈与税非課税ですが相続時に持ち戻されます。相続後の家賃収入は不動産所得として所得税の対象となるため、相続人全体の税負担を考慮する必要があります。節税目的だけでなく、賃貸経営としての実態も重視し、税理士への相談をおすすめします。