投資用中古マンション売却の引き渡し・引越し完全ガイド

公開日: 2025/10/14

投資用中古マンション売却の特殊性

(1) 居住用物件との違い

投資用中古マンションの売却では、居住用物件とは異なる特有の手続きが発生します。最も大きな違いは賃借人の存在です。居住用は売主が空室にして引き渡すのが一般的ですが、投資用では賃借人が居住したまま売却する「オーナーチェンジ」が主流となります。

また、引き渡し時には以下のような追加手続きが必要です:

  • 賃貸借契約の引き継ぎ手続き
  • 敷金・保証金の承継
  • 賃料・管理費の日割り精算
  • 賃借人への新オーナー通知

これらは居住用物件の売却では発生しないため、投資用物件特有の実務知識が求められます。

(2) 賃借人がいる場合の対応

賃借人が居住中の投資用マンションを売却する場合、賃借人の同意は不要です(民法第605条)。賃貸借契約は物件に付随する権利として新オーナーに自動的に承継されます。これを「オーナーチェンジ売却」と呼びます。

ただし、賃借人への通知義務があります。具体的には:

通知内容 タイミング
新オーナー名と連絡先 引き渡し後速やかに
賃料振込先の変更 同上
賃貸借契約の継続 同上

通知は書面で行うのが一般的で、通知漏れは賃料不払いトラブルの原因となります(法務省民事局「投資用不動産の売買と賃借人の権利」)。

(3) 空室での売却との比較

空室状態での売却と賃借人入居中での売却(オーナーチェンジ)には、それぞれメリット・デメリットがあります。

オーナーチェンジ売却のメリット

  • 賃料収入が継続するため、投資家向けに売りやすい
  • 退去手続き・原状回復工事が不要
  • 引き渡し直後から買主に賃料収入

デメリット

  • 内覧制約があり、購入希望者が室内を見られない場合がある
  • 賃借人トラブルがあると売却価格に影響
  • 賃貸借契約の引継ぎ手続きが煩雑

一般的に、投資家向けに売却する場合はオーナーチェンジが有利とされています。

2. オーナーチェンジ売却の引き渡し手続き

(1) 賃借人への通知義務

オーナーチェンジ売却では、引き渡し後速やかに新オーナーから賃借人へ書面で通知する必要があります。通知内容は以下の通りです:

  • 所有者変更の事実
  • 新オーナーの氏名・住所・連絡先
  • 今後の賃料振込先
  • 賃貸借契約の継続(条件変更なし)

通知は普通郵便ではなく配達証明付き内容証明郵便で送付するのが確実です。通知漏れにより賃借人が旧オーナーに賃料を振り込み続けるトラブルを防げます。

(2) 引き渡しと所有権移転のタイミング

引き渡しと所有権移転のタイミングは、通常決済日に同時に行われます。具体的な流れは以下の通りです:

  1. 決済日当日:買主が売買代金を振込
  2. 司法書士による登記申請:所有権移転登記・抵当権抹消登記を同日申請
  3. 物件引き渡し:鍵・賃貸借契約書・管理組合書類などを引き渡し
  4. 登記完了:通常1週間程度で登記完了(所有権は決済日に遡って効力発生)

法務省民事局「不動産売買における引き渡しと所有権移転」によれば、所有権移転の効力は登記完了日ではなく決済日に遡及するため、引き渡し日以降の賃料は買主の収入となります。

(3) 賃貸借契約の自動承継

賃貸借契約は民法第605条により新オーナーに自動承継されます。これは以下を意味します:

  • 賃借人の同意は不要
  • 賃貸借契約の内容(賃料・契約期間など)は変更されない
  • 敷金返還義務も新オーナーに引き継がれる

ただし、「自動承継」とはいえ実務上は以下の書類引継ぎが必要です:

引継ぎ書類 内容
賃貸借契約書原本 契約条件確認のため
賃借人の身分証コピー 本人確認書類
敷金預かり証 敷金額の証明
賃料支払履歴 滞納有無の確認

これらを決済時に売主から買主へ引き渡すことで、トラブルを防止できます。

3. 賃貸借契約の引き継ぎ

(1) 賃貸借契約書の引継ぎ手続き

賃貸借契約書の引継ぎは、決済日に以下の流れで行います:

  1. 契約書原本の引き渡し:売主→買主
  2. 賃貸借契約内容の確認:賃料・契約期間・特約事項など
  3. 賃借人情報の引き渡し:身分証コピー、緊急連絡先など
  4. 滞納有無の確認:賃料支払履歴をチェック

国土交通省「賃貸借契約の承継と敷金の取り扱い」によれば、賃貸借契約は新オーナーに自動承継されるため賃借人の署名・押印は不要ですが、トラブル防止のため契約書原本は必ず引き継ぎましょう。

(2) 賃借人への新オーナー通知

賃借人への通知は、引き渡し後遅くとも1週間以内に書面で行うのが一般的です。通知には以下を記載します:

通知内容例

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

この度、〇〇マンション〇号室の所有者が変更となりましたので、ご通知申し上げます。

【新所有者情報】

  • 氏名:〇〇〇〇
  • 住所:〇〇県〇〇市〇〇
  • 電話:000-0000-0000

【賃料振込先変更】

  • 銀行名:〇〇銀行 〇〇支店
  • 口座番号:普通 0000000
  • 名義:〇〇〇〇

賃貸借契約の内容に変更はございません。今後ともよろしくお願いいたします。

この通知を怠ると、賃借人が旧オーナーに賃料を振り込み続け、回収トラブルに発展する恐れがあります。

(3) 賃料・共益費の日割り精算

引き渡し月の賃料・共益費は、引き渡し日を基準に日割り精算します。計算例は以下の通りです:

例:引き渡し日が8月15日の場合

項目 金額 売主収入(8/1-8/14) 買主収入(8/15-8/31)
賃料 10万円 45,161円 54,839円
共益費 1万円 4,516円 5,484円
合計 11万円 49,677円 60,323円

※31日換算:10万円÷31日×14日=45,161円

決済時に売主が既に受け取っている場合、買主持ち分(60,323円)を売主から買主へ返金します。逆に賃借人が未払いの場合、売主持ち分は売主が回収責任を負います。

4. 敷金・保証金の承継

(1) 敷金返還義務の引き継ぎ(民法改正)

2020年4月の民法改正により、敷金返還義務は新オーナーに当然承継されると明文化されました(民法第605条の2)。これにより:

  • 賃借人の同意は不要
  • 売主と買主の個別合意も不要(法律上当然に承継)
  • 賃借人が退去する際、新オーナーが敷金を返還する

従来は「敷金承継の合意書」を作成するケースもありましたが、改正後は法律上当然に承継されるため、特別な書面は不要です(法務省民事局「投資用不動産の売買と賃借人の権利」)。

(2) 決済時の敷金精算方法

敷金は賃借人への返還義務があるため、決済時に売主から買主へ敷金相当額を引き渡すのが一般的です。

精算方法

  1. 敷金額の確認:賃貸借契約書で敷金額をチェック(例:賃料2ヶ月分=20万円)
  2. 決済時の調整:売買代金から敷金相当額を減額し、買主が受け取る
  3. 敷金預かり証の引き渡し:売主→買主へ敷金預かり証を引き継ぐ

例:売買価格2,500万円、敷金20万円の場合

  • 買主が売主に支払う金額:2,500万円 - 20万円=2,480万円
  • 買主は敷金20万円を預かった状態で所有開始
  • 賃借人退去時、買主が敷金20万円を返還

(3) 前払い賃料の取り扱い

賃借人が翌月分の賃料を前払いしている場合、その扱いは引き渡し日によって異なります。

例:8月15日引き渡し、9月分賃料10万円を8月末に前払い

パターン 扱い
8月末以前に引き渡し 9月分賃料は全額買主収入(精算不要)
9月1日以降に引き渡し 9月分賃料を日割り精算(売主・買主で按分)

前払い賃料がある場合、決済時に賃料支払状況を確認し、必要に応じて精算します。この点は売買契約書で明記しておくとトラブル防止になります。

5. 管理費・修繕積立金の精算

(1) 引き渡し日での日割り精算

マンションの管理費・修繕積立金は、引き渡し日を基準に日割り精算します。計算方法は賃料と同様です。

例:引き渡し日8月15日、管理費1.5万円、修繕積立金1万円の場合

項目 月額 売主負担(8/1-8/14) 買主負担(8/15-8/31)
管理費 1.5万円 6,774円 8,226円
修繕積立金 1万円 4,516円 5,484円
合計 2.5万円 11,290円 13,710円

決済時に、買主負担分を買主から売主へ支払う形で精算します。管理組合への支払いは通常口座引き落としのため、名義変更手続きも必要です。

(2) 管理組合への所有者変更届

引き渡し後、速やかに管理組合へ所有者変更届を提出します。提出書類は以下の通りです:

  • 所有者変更届(管理組合指定の書式)
  • 登記簿謄本(所有権移転の証明)
  • 新オーナーの住民票または身分証コピー
  • 口座振替依頼書(管理費・修繕積立金の引き落とし口座)

国土交通省「マンション引き渡し時の管理組合手続き」によれば、届出を怠ると管理費請求が旧オーナーに届き続けるため、引き渡し後1週間以内の届出が推奨されています。

(3) 滞納がある場合の対応

もし売主が管理費・修繕積立金を滞納している場合、滞納分は売主が決済時に清算するのが原則です。

滞納がある場合の対応:

  1. 決済前に滞納額を確認:管理組合に問い合わせ
  2. 決済時に滞納分を清算:売主が管理組合に支払う(または買主が立替え、売買代金から減額)
  3. 滞納ゼロで引き渡し:買主は滞納のない状態で所有開始

滞納があるまま引き渡すと、管理組合から買主に請求が来る恐れがあるため、決済前に必ず滞納有無を確認しましょう。

6. 引き渡し時期と税務の関係

(1) 譲渡所得の計算

投資用マンション売却では、譲渡所得に対して所得税・住民税が課税されます。譲渡所得の計算式は以下の通りです:

譲渡所得 = 譲渡収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

  • 譲渡収入金額:売買価格
  • 取得費:購入価格 - 減価償却費累計額
  • 譲渡費用:仲介手数料、印紙税、測量費など

投資用物件の場合、減価償却費累計額を差し引いた取得費を使用するため、居住用物件より譲渡所得が大きくなる傾向があります(国税庁「投資用不動産売却時の確定申告」)。

(2) 引き渡し年度と課税タイミング

譲渡所得の課税年度は引き渡し日(所有権移転日)基準です。これは税務上重要なポイントです。

  • 12月28日引き渡し:当年分の所得として翌年3月15日までに確定申告
  • 1月4日引き渡し:翌年分の所得として翌々年3月15日までに確定申告

年末年始をまたぐ場合、引き渡し時期を数日ずらすだけで課税タイミングが1年変わるため、節税目的で引き渡し時期を調整する投資家も少なくありません。

また、所有期間5年以下の短期譲渡所得は税率約39%、5年超の長期譲渡所得は税率約20%と税率が大きく異なるため、5年経過直後に売却するのが節税の基本です。

(3) 必要書類の準備

譲渡所得の確定申告には、以下の書類が必要です:

書類 用途
売買契約書(売却時) 譲渡収入金額の証明
売買契約書(購入時) 取得費の証明
減価償却費計算書 取得費から差し引く額の計算
仲介手数料領収書 譲渡費用の証明
登記費用領収書 譲渡費用の証明
固定資産税評価証明書 建物・土地の按分計算用

これらは引き渡し時に受け取るまたは過去の記録から準備する必要があります。特に購入時の売買契約書は再発行できないため、紛失している場合は取得費を「売却価格の5%」とみなされ、税負担が大幅に増えます。

まとめ

投資用中古マンションの引き渡し・引越しは、居住用物件とは異なる特有の手続きが必要です。特に以下の点に注意しましょう:

  • オーナーチェンジ売却:賃借人入居中でも売却可能。賃貸借契約は新オーナーに自動承継
  • 敷金の承継:民法改正により敷金返還義務は自動承継。決済時に敷金相当額を売主→買主へ引き渡し
  • 賃料・管理費の日割り精算:引き渡し日を基準に按分計算。決済時に精算
  • 賃借人への通知:引き渡し後速やかに新オーナーから書面で通知(賃料振込先変更など)
  • 管理組合への届出:引き渡し後1週間以内に所有者変更届を提出
  • 引き渡し時期と税務:課税年度は引き渡し日基準。5年超所有で税率が約半分に

これらの手続きを漏れなく行うことで、スムーズな引き渡しが実現できます。不明点があれば、不動産仲介会社や税理士に相談しながら進めることをお勧めします。

よくある質問

Q1. 賃借人がいる状態で売却できますか?

可能です。オーナーチェンジ売却と呼ばれ、賃貸借契約は新オーナーに自動承継されます。賃借人の同意は不要ですが、引き渡し後速やかに新オーナーから賃借人へ書面で通知する必要があります。賃料収入が継続するため、投資家向けに売却しやすいメリットがあります。

Q2. 敷金はどうなりますか?

民法改正により、敷金返還義務は新オーナーに自動承継されます。決済時に売主から買主へ敷金相当額を引き継ぎ(売買代金から減額する形で精算)、賃借人が退去する際は新オーナーが敷金を返還します。賃借人の同意は不要です。

Q3. 引き渡し月の賃料はどう精算しますか?

引き渡し日を基準に日割り精算するのが一般的です。例えば15日引き渡しなら、前半14日分は売主の収入、後半16日分(15日含む)は買主の収入となります。決済時に調整金を授受することで精算します。

Q4. 賃借人への通知はいつ行いますか?

引き渡し後速やかに(遅くとも1週間以内に)新オーナーから書面で通知します。通知内容は新オーナーの氏名・連絡先、賃料振込先の変更、賃貸借契約の継続などです。通知漏れは賃料不払いトラブルの原因となるため必須です。

Q5. 引き渡し時期は税金に影響しますか?

大きく影響します。譲渡所得の課税年度は引き渡し日(所有権移転日)基準のため、12月末引き渡しなら当年の所得、翌年1月なら翌年度の所得となります。また、所有期間5年以下は税率約39%、5年超は税率約20%のため、5年経過直後の売却が節税の基本です。引き渡し時期を調整する投資家も多くいます。

よくある質問

Q1賃借人がいる状態で売却できますか?

A1可能です。オーナーチェンジ売却と呼ばれ、賃貸借契約は新オーナーに自動承継されます。賃借人の同意は不要ですが、引き渡し後速やかに新オーナーから賃借人へ書面で通知する必要があります。賃料収入が継続するため、投資家向けに売却しやすいメリットがあります。

Q2敷金はどうなりますか?

A2民法改正により、敷金返還義務は新オーナーに自動承継されます。決済時に売主から買主へ敷金相当額を引き継ぎ(売買代金から減額する形で精算)、賃借人が退去する際は新オーナーが敷金を返還します。賃借人の同意は不要です。

Q3引き渡し月の賃料はどう精算しますか?

A3引き渡し日を基準に日割り精算するのが一般的です。例えば15日引き渡しなら、前半14日分は売主の収入、後半16日分(15日含む)は買主の収入となります。決済時に調整金を授受することで精算します。

Q4賃借人への通知はいつ行いますか?

A4引き渡し後速やかに(遅くとも1週間以内に)新オーナーから書面で通知します。通知内容は新オーナーの氏名・連絡先、賃料振込先の変更、賃貸借契約の継続などです。通知漏れは賃料不払いトラブルの原因となるため必須です。

Q5引き渡し時期は税金に影響しますか?

A5大きく影響します。譲渡所得の課税年度は引き渡し日(所有権移転日)基準のため、12月末引き渡しなら当年の所得、翌年1月なら翌年度の所得となります。また、所有期間5年以下は税率約39%、5年超は税率約20%のため、5年経過直後の売却が節税の基本です。引き渡し時期を調整する投資家も多くいます。

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