投資用中古戸建て売却後の確定申告が必要な理由
投資用中古戸建てを売却した場合、譲渡所得が発生すると確定申告が必要です。投資用不動産は居住用財産と異なり、3,000万円特別控除などの特例が適用されないため、譲渡益に対して課税されます。また、賃貸運用中に減価償却費を計上していた場合、取得費から減価償却累計額を差し引く必要があり、結果として譲渡所得が増加します。申告期限は売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。
この記事で分かること:
- 投資用中古戸建て売却時の譲渡所得計算方法
- 減価償却による取得費の減額処理
- 短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率の違い
- 投資用不動産と居住用不動産の税務上の違い
- 確定申告に必要な書類と申告書の記入方法
投資用中古戸建て売却の確定申告が必要なケース
譲渡所得がプラスになる場合
国税庁の「譲渡所得の概要」によると、不動産を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、確定申告が必要です。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 - 減価償却累計額) - 譲渡費用
取得費に含まれるもの:
- 土地・建物の購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 測量費
- 建物の建築代金、設備費
譲渡費用に含まれるもの:
- 売却時の仲介手数料
- 印紙税
- 測量費(売却のために実施した場合)
- 建物解体費(更地渡しの場合)
- 立退料(賃借人がいた場合)
これらの費用を差し引いても譲渡所得がプラスになる場合、確定申告が必要です。
賃貸開始前と賃貸中の違い
投資用として購入したものの、賃貸開始前に売却した場合と、賃貸運用後に売却した場合では、減価償却の取扱いが異なります。
賃貸開始前:
- 不動産所得の申告をしていない
- 減価償却費を計上していない
- 譲渡所得の取得費は購入時の価格から減価償却累計額を差し引かない(または最小限の減価償却を適用)
賃貸運用後:
- 不動産所得の申告で減価償却費を計上済み
- 譲渡所得の取得費から減価償却累計額を差し引く
- 減価償却が進んでいるほど取得費が減り、譲渡所得が増加する
賃貸運用期間が長いほど減価償却累計額が大きくなり、譲渡所得の税負担が増える傾向があります。
譲渡所得の計算方法と減価償却の取扱い
取得費の計算(不動産所得で償却済み分の反映)
投資用不動産を賃貸運用していた場合、毎年の不動産所得申告で減価償却費を計上します。この減価償却累計額は、売却時の取得費から差し引く必要があります。
建物の取得費の計算:
建物の取得費 = 購入時の建物価格 - 減価償却累計額
減価償却費の計算(定額法):
年間減価償却費 = 建物取得価格 × 償却率
国税庁の「減価償却資産の償却率表」によると、木造住宅の事業用耐用年数は22年で、償却率は0.046(定額法)です。
具体例:
- 購入価格: 土地1,500万円、建物1,500万円
- 木造戸建て(耐用年数22年、償却率0.046)
- 賃貸運用期間: 10年
年間減価償却費:
1,500万円 × 0.046 = 69万円
10年間の減価償却累計額:
69万円 × 10年 = 690万円
売却時の建物取得費:
1,500万円 - 690万円 = 810万円
譲渡所得の計算: 売却価格2,800万円、譲渡費用100万円の場合
譲渡所得 = 2,800万円 - (1,500万円 + 810万円) - 100万円 = 390万円
減価償却を考慮しない場合の譲渡所得は100万円ですが、減価償却累計額690万円を差し引くことで、譲渡所得が390万円に増加します。
建物と土地の按分方法
購入時に土地と建物の価格が明確に分かれていない場合、按分する必要があります。
按分方法:
- 売買契約書に記載された金額を使用(最も確実)
- 固定資産税評価額の比率で按分(契約書に記載がない場合)
- 鑑定評価額を使用(高額物件の場合)
固定資産税評価額による按分例:
- 購入価格: 3,000万円
- 固定資産税評価額: 土地1,200万円、建物800万円(合計2,000万円)
按分比率:
土地: 1,200万円 ÷ 2,000万円 = 60%
建物: 800万円 ÷ 2,000万円 = 40%
購入価格の按分:
土地: 3,000万円 × 60% = 1,800万円
建物: 3,000万円 × 40% = 1,200万円
短期譲渡(5年以内)と長期譲渡の税率差
譲渡所得の税率は、所有期間によって大きく異なります。所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で5年を超えるかどうかで決まります。
短期譲渡所得(所有期間5年以内):
- 所得税: 30.63%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 9%
- 合計: 39.63%
長期譲渡所得(所有期間5年超):
- 所得税: 15.315%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 5%
- 合計: 20.315%
税額の比較(譲渡所得390万円の場合):
所有期間 | 税率 | 税額 |
---|---|---|
5年以内(短期) | 39.63% | 154.6万円 |
5年超(長期) | 20.315% | 79.2万円 |
差額 | - | 75.4万円 |
短期譲渡の場合、税負担が約2倍になるため、売却時期の判断が重要です。
事業所得(不動産所得)との分離申告
譲渡所得は分離課税
譲渡所得は、給与所得や不動産所得とは別に「分離課税」として申告します。不動産所得が赤字でも、譲渡所得と損益通算することはできません。
分離課税の意味:
- 他の所得(給与、事業、不動産所得等)と合算せず、独立して課税
- 譲渡所得の税率(20.315%または39.63%)で計算
- 確定申告書第三表(分離課税用)を使用
青色申告・白色申告との関係
不動産所得で青色申告をしている場合でも、譲渡所得の申告には青色申告特別控除(65万円など)は適用されません。譲渡所得は青色・白色に関係なく、同じ計算方法と税率が適用されます。
ただし、減価償却費の計算は不動産所得で行った計算をそのまま引き継ぐため、青色申告で正確に減価償却を計上していた場合、譲渡所得の取得費も正確に算出できます。
繰越欠損金の活用
青色申告をしている場合、事業所得や不動産所得の赤字は翌年以降3年間繰り越すことができます。しかし、譲渡所得との損益通算はできないため、繰越欠損金を譲渡所得から差し引くことはできません。
ただし、譲渡所得が赤字(譲渡損失)になった場合、居住用財産の譲渡損失の特例に該当すれば、他の所得と損益通算できる場合がありますが、投資用不動産はこの特例の対象外です。
投資用不動産の特例と制限
3000万円特別控除は適用不可
国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によると、居住用財産の譲渡には譲渡所得から3,000万円を控除できる特例がありますが、投資用(賃貸用)不動産はこの特例の対象外です。
3,000万円特別控除の要件(投資用は対象外):
- 自分が住んでいる家屋を売却
- 以前住んでいた家屋で、住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却
- 家屋を取り壊した場合、取り壊し後1年以内に売買契約締結
投資用として購入し、一度も居住していない場合は、この特例は適用されません。
居住用との税務の違い
投資用不動産と居住用不動産の税務上の主な違いは以下の通りです。
項目 | 居住用不動産 | 投資用不動産 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 適用可能 | 適用不可 |
軽減税率の特例(所有期間10年超) | 適用可能(税率14.21%) | 適用不可 |
買換え特例 | 適用可能 | 要件次第で可 |
譲渡損失の損益通算 | 要件次第で可 | 不可 |
減価償却 | 非事業用の耐用年数 | 事業用の耐用年数 |
投資用不動産は特例が少ないため、税負担が大きくなる傾向があります。
消費税課税事業者の場合の扱い
個人で不動産投資を行っており、課税売上高が1,000万円を超えて消費税課税事業者になっている場合、建物の売却に消費税が課税されます(土地は非課税)。
消費税の扱い:
- 建物の売却価格には消費税10%が含まれる
- 譲渡所得の計算では、税抜価格を使用
- 消費税申告で納税(仕入税額控除可能)
課税事業者でない場合(免税事業者)は、建物の売却に消費税は課税されません。
必要書類の準備と確定申告書の記入手順
売却時に必要な書類一覧
確定申告に必要な書類は以下の通りです。
売却関係書類:
- 売買契約書の写し(売却時)
- 仲介手数料の領収書
- 測量費・解体費の領収書(該当する場合)
- 登記事項証明書(売却前の所有権確認用)
取得関係書類:
- 売買契約書の写し(購入時)
- 仲介手数料の領収書(購入時)
- 登記費用の領収書(購入時)
- 不動産取得税の納税通知書
減価償却関係書類:
- 過去の確定申告書(不動産所得の申告書)
- 減価償却費の計算明細(青色申告決算書または収支内訳書)
- 固定資産税評価額証明書(土地・建物の按分用)
法務局の「登記事項証明書の取得方法」を参考に、必要に応じて登記事項証明書を取得してください。
確定申告書第三表の記入ポイント
譲渡所得は、確定申告書第三表(分離課税用)に記入します。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の指示に従って入力できます。
記入項目:
- 収入金額: 売却価格
- 必要経費: 取得費(減価償却後)+ 譲渡費用
- 譲渡所得: 収入金額 - 必要経費
- 課税短期(長期)譲渡所得: 特別控除後の金額
- 税額: 譲渡所得 × 税率
記入時の注意点:
- 所有期間の判定(売却した年の1月1日時点で5年超かどうか)
- 建物と土地の内訳を正確に記入
- 減価償却累計額を取得費から差し引く
- 短期・長期の区分を間違えない
譲渡所得の内訳書の書き方
確定申告書第三表に加えて、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」を作成します。
内訳書に記入する項目:
- 譲渡した資産の所在地、種類、数量
- 売却価格、売却年月日、買主の氏名
- 取得価格、取得年月日、売主の氏名
- 取得費の内訳(購入代金、仲介手数料、登記費用など)
- 減価償却費の計算明細(建物の取得価格、償却率、償却年数、償却累計額)
- 譲渡費用の内訳(仲介手数料、測量費など)
- 譲渡所得の計算
内訳書は、売買契約書や領収書をもとに作成します。減価償却費の計算は、過去の確定申告書(不動産所得)で計上した金額を使用してください。
よくあるトラブルと対処法
減価償却計算のミス
減価償却計算でよくあるミスは以下の通りです。
ミス1: 不動産所得で償却した分を反映しない
- 不動産所得で既に償却した減価償却費を、譲渡所得の取得費から差し引かない
- 結果として取得費が過大になり、譲渡所得が過小になる
ミス2: 土地も減価償却する
- 土地は減価償却の対象外(建物のみ)
- 土地と建物の按分を間違えると、減価償却費が誤って計算される
ミス3: 耐用年数の選択ミス
- 居住用(非事業用)の耐用年数を使用してしまう
- 投資用は事業用の耐用年数を使用(木造22年、鉄筋コンクリート47年)
これらのミスを防ぐため、過去の確定申告書(不動産所得)と照合し、減価償却費の累計額を正確に把握することが重要です。
申告漏れのペナルティ
国税庁の「確定申告を忘れたとき(期限後申告)」によると、申告期限を過ぎると以下のペナルティが課されます。
無申告加算税:
- 納税額の15%(50万円以下の部分)
- 納税額の20%(50万円超の部分)
- 自主的に期限後申告した場合は5%に軽減
延滞税:
- 納期限の翌日から完納日までの日数に応じて計算
- 年率2.4%〜8.7%(年度により変動)
できるだけ早く期限後申告を行うことで、ペナルティを最小限に抑えることができます。
投資用か居住用かの判定誤り
投資用として購入したが、一時的に自分で住んだ場合や、購入時は居住用だったが途中で賃貸に出した場合など、投資用か居住用かの判定が難しいケースがあります。
判定基準:
- 購入時の意図(投資目的か居住目的か)
- 実際の使用状況(賃貸に出していたか、自分で住んでいたか)
- 居住期間と賃貸期間の割合
- 過去の確定申告での扱い(不動産所得として申告していたか)
居住用財産の特例を適用できるかどうかは、売却前に税理士や税務署に確認することをお勧めします。判定を誤ると、後から追徴課税される可能性があります。
まとめ
投資用中古戸建てを売却した場合、譲渡所得が発生すると確定申告が必要です。譲渡所得は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算しますが、賃貸運用中に不動産所得で計上した減価償却費の累計額を取得費から差し引く必要があります。減価償却が進んでいるほど取得費が減り、譲渡所得が増加します。
所有期間5年以内の短期譲渡所得は税率39.63%、5年超の長期譲渡所得は税率20.315%で、税負担が約2倍異なります。投資用不動産は居住用財産の特例(3,000万円特別控除など)が適用されないため、税負担が大きくなる傾向があります。
確定申告には、売買契約書、領収書、過去の確定申告書(不動産所得)などが必要で、確定申告書第三表(分離課税用)と譲渡所得の内訳書を作成します。減価償却計算のミスや申告漏れを防ぐため、不明点がある場合は税理士に相談することをお勧めします。申告期限は売却した年の翌年3月15日で、期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されるため、早めの準備が重要です。