相続新築マンション売却で確定申告が必要なケース
相続した新築マンションを売却する際、確定申告が必要かどうかは「譲渡所得」の発生有無で決まります。多くの方が不安に感じる「相続税評価額と売却価格の差」についても、正確な計算方法を理解すれば適切に対処できます。
この記事でわかること:
- 相続新築マンション売却の確定申告が必要な具体的ケース
- 被相続人の取得費を引き継ぐ計算方法と減価償却の継続処理
- 相続税の取得費加算特例による大きな節税効果
- 3000万円特別控除の適用要件と空き家特例の活用
- 必要書類の準備と確定申告書の記入手順
(1) 譲渡所得がプラスになる場合
譲渡所得は「売却価格 - 取得費 - 譲渡費用」で計算されます。この計算結果がプラスになる場合、確定申告が必要です。
相続で取得したマンションの場合、被相続人が購入した時の取得費を引き継ぎます。国税庁の「譲渡所得の概要」によれば、建物については被相続人の所有期間分の減価償却を継続して計算する必要があります。
例えば、親が3年前に5000万円で購入した新築マンションを相続し、5200万円で売却した場合、取得費は5000万円から3年分の減価償却を差し引いた額になります。
(2) 特例適用で税額ゼロでも申告が必要
「相続税の取得費加算特例」や「3000万円特別控除」を適用して税額がゼロになる場合でも、確定申告は必須です。特例の適用を受けるためには、確定申告書に必要事項を記載し、添付書類を提出する必要があります。
特に相続税の取得費加算特例は、相続税申告期限から3年以内という期限があるため、早めの申告準備が重要です。
譲渡所得の計算方法と取得費の引継ぎルール
相続した新築マンションの譲渡所得計算は、通常の売却と異なる特殊なルールがあります。
(1) 被相続人の取得費を引き継ぐ仕組み
相続で取得した不動産の取得費は、被相続人が実際に支払った金額を引き継ぎます。相続税評価額ではありません。
取得費に含まれるもの:
- マンションの購入代金(土地・建物)
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 購入時の測量費、整地費など
被相続人が購入時の契約書や領収書を保管していない場合、売却価格の5%を取得費とする概算取得費を使用できますが、実額が分かる場合は実額を使用すべきです。
(2) 減価償却の継続計算
建物については、被相続人の所有期間分の減価償却を継続して計算します。国税庁の「減価償却資産の償却率表」によれば、鉄筋コンクリート造マンションの耐用年数は47年(非事業用は1.5倍の70年)です。
減価償却の計算式:
建物の取得費 × 0.9 × 償却率 × 所有年数(被相続人+相続人)
例:
- 建物取得費:3000万円
- 非事業用RC造:償却率0.015(1/70)
- 被相続人の所有期間:3年
- 減価償却額:3000万円 × 0.9 × 0.015 × 3年 = 121.5万円
- 建物の取得費:3000万円 - 121.5万円 = 2878.5万円
(3) 所有期間の判定(被相続人の取得時期から)
譲渡所得の税率は所有期間によって大きく異なります:
所有期間 | 税率 | 内訳 |
---|---|---|
5年以下(短期) | 39.63% | 所得税30.63% + 住民税9% |
5年超(長期) | 20.315% | 所得税15.315% + 住民税5% |
相続の場合、被相続人が取得した時点から計算します。親が3年前に購入したマンションを相続した場合、相続後すぐに売却しても3年の所有期間としてカウントされます。
判定基準日は「売却した年の1月1日時点」で5年を超えているかどうかです。
相続税の取得費加算特例とは
相続した不動産を売却する際の最大の節税ポイントが「相続税の取得費加算特例」です。
(1) 適用要件と計算方法
国税庁の「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によれば、以下の要件を満たす場合に適用できます:
適用要件:
- 相続または遺贈により取得した財産であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
加算できる相続税額:
取得費に加算できる相続税 = 支払った相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続財産全体の相続税評価額)
(2) 相続税申告期限から3年以内の期限管理
この特例の最大のポイントは期限管理です。相続税の申告期限(被相続人の死亡日から10ヶ月)の翌日から3年以内に売却する必要があります。
例:
- 被相続人死亡:2024年1月15日
- 相続税申告期限:2024年11月15日
- 特例適用期限:2027年11月15日
この期限を1日でも過ぎると特例は適用できません。
(3) 節税効果のシミュレーション
ケーススタディ:
- 売却価格:6000万円
- 取得費:4000万円(減価償却後)
- 譲渡費用:200万円
- 支払った相続税:500万円(このうち加算対象300万円)
特例なしの場合:
譲渡所得 = 6000万円 - 4000万円 - 200万円 = 1800万円
税額 = 1800万円 × 20.315% = 365.7万円(長期の場合)
特例ありの場合:
譲渡所得 = 6000万円 - (4000万円 + 300万円) - 200万円 = 1500万円
税額 = 1500万円 × 20.315% = 304.7万円
節税額 = 365.7万円 - 304.7万円 = 61万円
3000万円特別控除の適用要件(相続時)
居住用財産の3000万円特別控除は、相続した不動産でも一定要件のもと適用可能です。
(1) 被相続人または相続人の居住実態
国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によれば、以下のケースで適用できます:
適用できるケース:
- 相続人が相続後に居住した場合:相続人自身が居住していた家屋とその敷地を売却
- 被相続人が居住していた場合:空き家特例の要件を満たす場合(後述)
適用できないケース:
- 被相続人が賃貸していたマンション
- 投資用として購入していた新築マンション
- 別荘として使用していた物件
(2) 空き家特例の適用判断
被相続人が居住していたマンションを相続人が居住せずに売却する場合、「空き家特例」が適用できる可能性があります。
空き家特例の主な要件:
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)
- 相続開始直前まで被相続人が1人で居住
- 相続時から売却時まで空き家状態
- 耐震リフォームまたは取壊し後の売却
- 売却価格が1億円以下
ただし、新築マンションの場合は築年数の要件を満たさないため、空き家特例は適用できません。相続人が居住していない新築マンションは、3000万円控除の対象外となります。
(3) 取得費加算特例との併用可否
3000万円特別控除と相続税の取得費加算特例は、同時に適用することはできません。どちらか有利な方を選択する必要があります。
選択の目安:
- 譲渡所得が3000万円以下 → 3000万円控除で税額ゼロに
- 譲渡所得が3000万円超 → 取得費加算特例の節税額と比較
- 支払った相続税が多額 → 取得費加算特例が有利な場合も
必要書類の準備と確定申告書の記入手順
相続した新築マンションの売却には、通常の不動産売却とは異なる追加書類が必要です。
(1) 相続関連の追加書類
基本的な売却書類:
- 売買契約書のコピー(売却時・購入時両方)
- 仲介手数料等の領収書
- 登記事項証明書(法務局の「登記事項証明書の取得方法」参照)
相続関連の追加書類:
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書のコピー(または遺言書)
- 相続登記完了後の登記事項証明書
相続税の取得費加算特例を使う場合:
- 相続税申告書のコピー(第1表、第11表、第15表)
- 相続税の納付書または領収書
3000万円控除を使う場合:
- 居住していたことを証明する書類(住民票の除票など)
- 耐震基準適合証明書(空き家特例の場合)
(2) 確定申告書第三表の記入ポイント
譲渡所得の申告には、通常の確定申告書(第一表・第二表)に加えて、**確定申告書第三表(分離課税用)**が必要です。
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力できます。
主な記入項目:
- 収入金額:売却価格
- 必要経費:取得費 + 譲渡費用(+ 相続税加算額)
- 特別控除額:3000万円(適用する場合)
- 税率:短期39.63% または 長期20.315%
(3) 譲渡所得の内訳書の書き方
確定申告書第三表に加えて、「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」も提出します。
記入する主な内容:
- 売却した不動産の所在地・面積
- 売却価格の内訳(土地・建物)
- 購入時の価格と購入年月日(被相続人の取得時)
- 減価償却費の計算
- 譲渡費用の明細
- 特例の適用状況
被相続人の取得時期・取得費を正確に記載することが重要です。
売却タイミングと遺産分割の注意点
相続した不動産の売却には、通常の売却にはない法的・税務的な注意点があります。
(1) 相続登記完了後の売却
不動産を売却するためには、相続登記(名義変更)が完了している必要があります。
相続登記の手順:
- 遺産分割協議(相続人全員の合意)
- 必要書類の収集(戸籍謄本、印鑑証明書など)
- 登記申請書の作成・提出
- 登記完了(通常1-2週間)
2024年4月から相続登記が義務化されており、相続を知った日から3年以内に登記しないと過料(10万円以下)の対象となります。
(2) 遺産分割協議未了での制約
遺産分割協議が整わない場合、以下の方法があります:
共有登記で売却:
- 相続人全員の共有持分で登記
- 売却には相続人全員の同意が必要
- 売却代金は持分に応じて分配
代償分割:
- 1人が相続して他の相続人に代償金を支払う
- 単独名義で売却可能
- 代償金の資金調達が必要
遺産分割協議が難航している場合、家庭裁判所の調停・審判を利用することも検討すべきです。
(3) 相続税申告期限内売却のメリット
相続税の申告期限(10ヶ月)内に売却すると、以下のメリットがあります:
メリット1:相続税の納税資金確保
- 相続税の納付期限も10ヶ月
- 売却代金で相続税を支払える
- 延納・物納を避けられる
メリット2:取得費加算特例の期限に余裕
- 申告期限から3年以内という期限に余裕
- 慎重に売却活動ができる
デメリット:
- 短期間での売却は買い叩かれるリスク
- 市場動向を見極める時間が少ない
売却を急ぐか、じっくり待つかは、相続税の納税資金の状況と市場環境を総合的に判断すべきです。
まとめ
相続した新築マンションを売却する際の確定申告は、通常の売却とは異なる特殊なルールがあります。
押さえるべきポイント:
- 取得費は被相続人の取得費を引き継ぐ:相続税評価額ではなく実際の取得費。建物は減価償却の継続計算が必要
- 所有期間も被相続人から継承:相続後すぐの売却でも、親の所有期間を含めて判定
- 相続税の取得費加算特例:相続税申告期限から3年以内なら相続税の一部を取得費に加算可能。期限管理が重要
- 3000万円控除は要件確認:相続人が居住していた場合のみ適用。新築マンションは空き家特例の対象外
- 相続登記完了が売却の前提:2024年4月から義務化、3年以内の登記が必要
- 遺産分割協議の状況:未了の場合は共有登記での売却または代償分割を検討
税制は頻繁に改正されるため、実際の申告前には税理士や税務署への相談をおすすめします。特に相続税の取得費加算特例と3000万円控除の選択は、専門家の試算を受けてから判断すべきです。
よくある質問
Q1. 相続したマンションの取得費はどう計算しますか?
被相続人が購入した時の取得費を引き継ぎます。建物は被相続人の所有期間分の減価償却を継続して計算します。土地の取得費は減価償却なしでそのまま引き継ぎます。
相続税評価額ではなく、実際の購入価格や購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用など)の合計額が取得費となります。契約書等が残っていない場合は売却価格の5%を概算取得費とすることもできますが、実額が判明している場合は実額を使用すべきです。
Q2. 相続税の取得費加算特例とは何ですか?
相続税の申告期限(被相続人の死亡日から10ヶ月)の翌日から3年以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例です。
譲渡所得を減らすことができるため、大きな節税効果があります。ただし期限管理が重要で、3年の期限を1日でも過ぎると適用できません。また3000万円特別控除との併用はできないため、どちらが有利か試算して選択する必要があります。
Q3. 相続人が住んでいない場合でも3000万円控除は使えますか?
被相続人が居住していた家屋であれば、一定要件を満たす場合に「空き家特例」により3000万円控除が適用できます。ただし、新築マンションの場合は築年数の要件(昭和56年5月31日以前建築)を満たさないため、空き家特例は適用できません。
相続人自身が相続後に居住していた場合は、通常の居住用財産の3000万円控除が適用できます。投資用や賃貸用として相続し、相続人が一度も居住していない場合は、3000万円控除の対象外となります。
Q4. 遺産分割前でも売却できますか?
法律上は相続人全員の共有財産として売却することは可能ですが、実務上は困難です。不動産の売買契約には所有者全員の署名・押印が必要であり、相続登記が完了していないと買主や金融機関が契約に応じないケースがほとんどです。
一般的な流れは、遺産分割協議を整えて相続登記(共有または単独名義)を完了させた後に売却活動を開始します。共有登記の場合は相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議が難航している場合は、家庭裁判所の調停を利用することも検討すべきです。