投資用新築戸建て売却時の確定申告手続きガイド完全版

公開日: 2025/10/16

投資用新築戸建て売却の税務基礎知識

投資用新築戸建てを売却する場合、居住用不動産とは異なる税務処理が必要です。3,000万円特別控除等の居住用特例は適用されず、減価償却後の取得費計算、短期・長期譲渡の区分など、投資用不動産特有の注意点を理解しましょう。

この記事のポイント:

  • 投資用と居住用の税務上の違い、3,000万円特別控除が適用されない点を理解できる
  • 減価償却費の計算方法と減価償却後の取得費の算出方法がわかる
  • 譲渡所得の計算方法(取得費・譲渡費用の範囲)と建物・土地の分離計算を把握できる
  • 短期譲渡(39.63%)と長期譲渡(20.315%)の税率差と所有期間の判定方法を理解できる
  • 確定申告の手続き、必要書類、賃貸収入との関係と注意点を学べる

(1) 投資用と居住用の税務上の違い

居住用不動産:

  • 自己が居住している不動産
  • 3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率等の特例が適用可能
  • 税負担を大きく軽減できる

投資用不動産:

  • 賃貸経営目的で所有する不動産
  • 居住用特例は適用されない
  • 一般税率(短期39.63%・長期20.315%)が適用される

(2) 3,000万円特別控除が適用されない点

投資用新築戸建てには、居住用財産の3,000万円特別控除は適用されません。

居住用財産の3,000万円特別控除:

  • 自己が居住していた不動産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度
  • 投資用不動産は「自己が居住していた」要件を満たさないため、適用されない

税負担の比較(譲渡所得4,000万円・長期譲渡所得の場合):

  • 居住用(3,000万円控除適用): (4,000万円 - 3,000万円) × 20.315% = 203万1,500円
  • 投資用(控除なし): 4,000万円 × 20.315% = 812万6,000円
  • 差額: 609万4,500円

投資用不動産は居住用に比べて税負担が大きくなります。

(3) 新築後すぐの売却は短期譲渡になりやすい

新築戸建てを購入後すぐに売却すると、所有期間が5年以下となり短期譲渡所得(税率39.63%)が適用されます。

所有期間の判定:

  • 売却した年の1月1日時点で所有期間を判定します
  • 例: 2020年3月に購入、2024年12月に売却 → 2024年1月1日時点で所有期間3年10ヶ月 → 短期譲渡所得

税率差:

  • 短期譲渡所得(5年以下): 39.63%
  • 長期譲渡所得(5年超): 20.315%
  • 約2倍の税率差があるため、売却時期の検討が重要

減価償却と取得費の関係

投資用不動産では、建物の減価償却費を取得費から差し引く必要があります。減価償却により取得費が減少し、譲渡所得が増加するため、税負担が大きくなります。

(1) 減価償却費とは

減価償却費とは、建物の経年劣化分を費用として計上する会計処理です。

減価償却の対象:

  • 建物のみ(土地は減価償却しない)
  • 新築・中古問わず、建物は減価償却の対象

減価償却の目的:

  • 賃貸経営中は、減価償却費を経費として計上し、不動産所得を減らして節税
  • 売却時は、減価償却累計額を取得費から差し引き、譲渡所得を計算

(2) 定額法による償却計算

平成19年4月1日以降に取得した建物は、定額法で減価償却を計算します。

定額法の計算式:

減価償却費(年) = 建物の取得価額 × 償却率

償却率:

  • 耐用年数に応じて償却率が定められています
  • 新築木造住宅(事業用): 耐用年数22年 → 償却率0.046
  • 新築木造住宅(非事業用): 耐用年数33年(22年×1.5) → 償却率0.031

事業用と非事業用の区分:

  • 事業用: 賃貸経営(5棟10室以上の事業的規模)
  • 非事業用: 賃貸経営(5棟10室未満の事業的規模でない)
  • 新築戸建て1棟の賃貸は非事業用となることが多い

(3) 減価償却後の取得費の計算

取得費の計算式:

取得費 = (建物の取得価額 - 減価償却累計額) + 土地の取得価額

減価償却累計額の計算:

減価償却累計額 = 建物の取得価額 × 償却率 × 経過年数

計算例:

  • 建物の取得価額: 2,000万円(木造・非事業用)
  • 土地の取得価額: 1,500万円
  • 経過年数: 5年
  • 償却率: 0.031(耐用年数33年)
  • 減価償却累計額 = 2,000万円 × 0.031 × 5年 = 310万円
  • 建物の取得費 = 2,000万円 - 310万円 = 1,690万円
  • 取得費合計 = 1,690万円 + 1,500万円 = 3,190万円

減価償却により建物の取得費が減少し、譲渡所得が増加します。

(4) 建物と土地の按分計算

建物と土地の取得価額を分ける必要があります。

按分方法:

  1. 購入時の売買契約書に記載がある場合: その金額を使用
  2. 記載がない場合: 固定資産税評価額の比率で按分

固定資産税評価額による按分例:

  • 物件価格: 3,500万円
  • 建物の固定資産税評価額: 1,400万円
  • 土地の固定資産税評価額: 1,400万円
  • 按分比率: 建物50%、土地50%
  • 建物の取得価額 = 3,500万円 × 50% = 1,750万円
  • 土地の取得価額 = 3,500万円 × 50% = 1,750万円

譲渡所得の計算方法

投資用新築戸建ての譲渡所得は、以下の計算式で算出します。

(1) 取得費の考え方(減価償却累計額を控除)

取得費に含まれるもの:

  • 土地・建物の購入代金
  • 購入時の仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 増改築費用(設備の交換、リフォーム費用)
  • 測量費

建物の取得費:

  • 建物の取得価額から減価償却累計額を差し引いた金額

土地の取得費:

  • 土地の取得価額(減価償却なし)

(2) 譲渡費用に含められる費用

譲渡費用に含まれるもの:

  • 売却時の仲介手数料
  • 印紙税
  • 測量費
  • 建物の取壊し費用
  • 売買契約解除に伴う違約金

譲渡費用に含まれないもの:

  • 修繕費(賃貸経営中の通常の維持管理費)
  • 固定資産税・都市計画税

(3) 建物と土地の分離計算

建物と土地は別々に計算します。

建物の譲渡所得:

建物の譲渡所得 = 建物の売却価格 - (建物の取得費 + 譲渡費用の按分額)

土地の譲渡所得:

土地の譲渡所得 = 土地の売却価格 - (土地の取得費 + 譲渡費用の按分額)

合計:

譲渡所得合計 = 建物の譲渡所得 + 土地の譲渡所得

(4) 譲渡所得の計算式

基本計算式:

譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

計算例:

  • 売却価格: 4,500万円(建物2,000万円、土地2,500万円)
  • 建物の取得費: 1,690万円(取得価額2,000万円 - 減価償却累計額310万円)
  • 土地の取得費: 1,500万円
  • 譲渡費用: 150万円(仲介手数料等)
  • 譲渡所得 = 4,500万円 - (1,690万円 + 1,500万円 + 150万円) = 1,160万円

短期譲渡と長期譲渡の税率の違い

譲渡所得税の税率は、所有期間により大きく異なります。

(1) 所有期間の判定方法(譲渡年の1月1日時点)

所有期間の起算日:

  • 不動産を取得した日から売却した日までの期間

判定日:

  • 売却した年の1月1日時点で所有期間を判定
  • 例: 2020年3月に購入、2025年12月に売却 → 2025年1月1日時点で所有期間4年10ヶ月 → 短期譲渡所得
  • 例: 2019年12月に購入、2025年3月に売却 → 2025年1月1日時点で所有期間5年1ヶ月 → 長期譲渡所得

売却時期を調整することで、税率が大きく変わります。

(2) 短期譲渡所得の税率(39.63%)

短期譲渡所得:

  • 所有期間5年以下で売却した場合
  • 税率: 所得税30.63% + 住民税9% = 39.63%

税額計算例(譲渡所得1,160万円):

  • 税額 = 1,160万円 × 39.63% = 459万7,080円

(3) 長期譲渡所得の税率(20.315%)

長期譲渡所得:

  • 所有期間5年超で売却した場合
  • 税率: 所得税15.315% + 住民税5% = 20.315%

税額計算例(譲渡所得1,160万円):

  • 税額 = 1,160万円 × 20.315% = 235万6,540円

短期と長期の税額差:

  • 短期: 459万7,080円
  • 長期: 235万6,540円
  • 差額: 224万540円

約2倍の税率差があるため、5年超まで保有することで大きな節税効果があります。

(4) 新築後すぐの売却リスク

新築戸建てを購入後すぐに売却すると、短期譲渡所得(税率39.63%)が適用されます。

リスク:

  • 税負担が約2倍になる
  • 新築プレミアムが剥がれ、売却価格が購入価格を下回る可能性
  • 購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用等)を回収できない

対策:

  • 5年超の保有を前提とした投資計画を立てる
  • 短期売却が必要な場合、税負担を考慮した売却価格を設定
  • 税理士に相談し、税務リスクを事前に確認

確定申告の手続きと必要書類

投資用新築戸建てを売却した場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。

(1) 申告期限と申告先

申告期限:

  • 売却した年の翌年2月16日から3月15日まで
  • 例: 2024年に売却 → 2025年2月16日から3月15日までに申告

申告先:

  • 売却した年の1月1日時点の住所地を管轄する税務署

申告方法:

  • 税務署窓口に持参
  • 郵送
  • e-Tax(電子申告)

(2) 確定申告書第三表の記入方法

提出書類:

  • 確定申告書第一表・第二表
  • 確定申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)

第三表の記入項目:

  • 収入金額: 売却価格
  • 取得費: 建物の取得費(減価償却後) + 土地の取得費
  • 譲渡費用: 仲介手数料、印紙税等
  • 譲渡所得: 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)
  • 税額: 譲渡所得 × 税率(短期39.63%・長期20.315%)

(3) 必要書類一覧

売却時の書類:

  • 売買契約書のコピー
  • 仲介手数料の領収書
  • 測量費・取壊し費用等の領収書
  • 固定資産税・都市計画税の清算金の明細

取得時の書類:

  • 購入時の売買契約書のコピー
  • 購入時の仲介手数料・登記費用の領収書
  • 増改築費用の領収書

減価償却計算の証明資料:

  • 減価償却費の計算明細(自作可)
  • 建物の固定資産税評価額の証明書(按分計算に使用)

(4) 減価償却計算の証明資料

減価償却費の計算明細:

  • 建物の取得価額
  • 耐用年数
  • 償却率
  • 経過年数
  • 減価償却累計額
  • 減価償却後の取得費

固定資産税評価額の証明書:

  • 固定資産税納税通知書のコピー
  • 固定資産評価証明書(市町村で取得)

賃貸収入との関係と注意点

投資用新築戸建てを売却した年は、賃貸収入(不動産所得)と譲渡所得の両方を申告する必要があります。

(1) 売却年の不動産所得申告

不動産所得の計算:

  • 総収入金額: 家賃収入、礼金、更新料等
  • 必要経費: 減価償却費、借入金利子、固定資産税、管理費、修繕費等
  • 不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費

売却年の減価償却費:

  • 売却年の1月1日から売却日までの期間に対応する減価償却費を計上
  • 例: 5月に売却 → 1月1日から5月までの5ヶ月分を計上

(2) 引渡し時期による按分計算

家賃収入の按分:

  • 引渡し日までの家賃収入は売主の収入
  • 引渡し日以降の家賃収入は買主の収入

固定資産税の按分:

  • 1月1日時点の所有者に課税されるため、売主が納税
  • 引渡し日以降の税金相当額を買主から受け取り、収入に計上

(3) 事業的規模の場合の損益通算

事業的規模の基準:

  • 5棟10室基準: 戸建て5棟以上またはアパート・マンション10室以上
  • 新築戸建て1棟の場合、事業的規模には該当しない

損益通算:

  • 事業的規模の場合、譲渡損失を他の不動産所得と損益通算可能
  • 事業的規模でない場合、譲渡損失は他の所得と損益通算できない(投資用不動産の場合、給与所得等とは通算不可)

(4) 専門家(税理士)への相談推奨

投資用新築戸建ての売却は、税務が複雑になるため、税理士への相談をおすすめします。

相談すべきケース:

  • 減価償却費の計算方法が不明
  • 建物と土地の按分方法が不明
  • 短期譲渡と長期譲渡の判定が不明
  • 賃貸収入との関係が複雑

税理士に相談するメリット:

  • 正確な譲渡所得の計算
  • 確定申告書の作成サポート
  • 税務調査への対応
  • 節税対策の提案

まとめ

投資用新築戸建ての売却では、居住用特例(3,000万円特別控除等)は適用されず、一般税率(短期39.63%・長期20.315%)が適用されます。減価償却により建物の取得費が減少し、譲渡所得が増加するため、税負担が大きくなります。減価償却費は定額法で計算し、建物の取得価額×償却率×経過年数で算出します。

譲渡所得は、収入金額から取得費(減価償却後)と譲渡費用を差し引いて計算します。所有期間は売却年の1月1日時点で判定し、5年以下は短期譲渡所得(税率39.63%)、5年超は長期譲渡所得(税率20.315%)となります。約2倍の税率差があるため、5年超の保有を前提とした投資計画が重要です。

確定申告は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに行います。確定申告書第三表(分離課税用)と譲渡所得の内訳書を提出し、必要書類(売買契約書、領収書、減価償却計算明細等)を添付します。売却年は賃貸収入(不動産所得)と譲渡所得の両方を申告する必要があります。税務が複雑な場合は、税理士への相談をおすすめします。

よくある質問

Q1投資用新築戸建てを売却する場合、居住用の3,000万円特別控除は使えますか?

A1投資用不動産には3,000万円特別控除は適用されません。居住用財産(自己が居住していた不動産)のみが対象で、投資用不動産には一般税率(短期39.63%・長期20.315%)が適用されます。居住用に比べて税負担が大きくなるため、売却時期の検討が重要です。

Q2新築後すぐに売却すると税率が高くなると聞きましたが本当ですか?

A2譲渡年の1月1日時点で所有期間5年以下なら短期譲渡所得(税率39.63%)、5年超なら長期譲渡所得(税率20.315%)となります。約2倍の税率差があるため、売却時期の検討が重要です。5年超まで保有することで大きな節税効果が得られます。

Q3減価償却後の取得費はどのように計算しますか?

A3建物の取得費は、取得価額から減価償却累計額を差し引いて計算します。減価償却は定額法で、建物の取得価額×償却率×経過年数で算出します。土地は減価償却しません。築年数が浅くても減価償却は発生し、取得費が減少するため譲渡所得が増加します。

Q4投資用新築戸建てを売却して赤字になった場合、確定申告は必要ですか?

A4譲渡損失が出ても申告義務があります。事業的規模(5棟10室基準)の場合は他の不動産所得と損益通算できますが、給与所得等とは通算できません。新築戸建て1棟の場合は事業的規模に該当しないため、譲渡損失は他の所得と通算できないことが多いです。

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