相続資金でマンション購入時の確定申告
相続で得た資金でマンションを購入する場合、住宅ローンを利用すれば住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けることができます。ただし、相続した実家などを売却して購入資金を賄うケースでは、売却時の特例との併用制限があるため注意が必要です。本記事では、相続資金でのマンション購入における確定申告の仕組み、必要書類、タイミングの最適化について実務的に解説します。
この記事で分かること:
- 相続資金でマンション購入時の住宅ローン控除の仕組みと適用要件
- 年末ローン残高の0.7%を13年間控除できる計算方法と最大控除額
- 相続物件売却時の3,000万円控除・空き家特例との併用制限
- 確定申告の手続きと必要書類(購入と売却の両方を申告する場合)
- 相続物件売却と新マンション購入のタイミング調整の重要性
(1) 相続資金での購入でも住宅ローン控除は適用可能
相続で得た資金でマンションを購入する場合でも、住宅ローンを利用すれば住宅ローン控除が適用されます。相続資金を頭金にして、残りを住宅ローンで賄うケースが一般的です。
住宅ローン控除の基本:
- 年末のローン残高の0.7%を所得税・住民税から控除
- 控除期間は原則13年間(中古マンションでも適用可能)
- 初年度は確定申告が必須(2年目以降は年末調整可)
(2) 相続物件売却と新マンション購入の関係
相続した実家などを売却して得た資金で新マンションを購入するケースでは、売却時の特例(3,000万円特別控除や空き家特例)と住宅ローン控除は併用できません。
併用制限のルール:
- 相続物件売却で3,000万円控除や空き家特例を使うと、購入年と前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が使えない
- どちらか一方の特例を選択する必要がある
- 税額シミュレーションを行い、有利な方を選択することが重要
出典:国税庁 - 住宅ローン控除と3,000万円特別控除の併用制限
(3) 初年度は確定申告が必須
住宅ローン控除を受けるためには、購入した年の翌年2月16日〜3月15日の間に確定申告が必要です。給与所得者でも初年度は確定申告が必須となります。
申告時期の例:
- 2025年にマンション購入 → 2026年2月16日〜3月15日に確定申告
- 2年目以降は年末調整で控除を受けられる(会社員の場合)
住宅ローン控除の仕組み
(1) 年末ローン残高の0.7%を13年間控除
住宅ローン控除は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%を所得税・住民税から控除できる制度です。控除期間は原則13年間です。
計算例(年末ローン残高3,000万円の場合):
- 3,000万円 × 0.7% = 21万円
- この21万円が所得税・住民税から控除される
控除期間:
- 新築マンション・買取再販:13年間
- 中古マンション(既存住宅):10年間
(2) 最大控除額と計算方法
住宅ローン控除の最大控除額は、住宅の性能によって異なります。
住宅性能 | 借入限度額 | 最大控除額(年間) | 13年間の総額 |
---|---|---|---|
認定住宅(長期優良・低炭素) | 5,000万円 | 35万円 | 455万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 31.5万円 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 28万円 | 364万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 21万円 | 273万円 |
※中古マンションの場合、借入限度額は上記より低く設定されています。
(3) 所得税・住民税からの控除
住宅ローン控除は、まず所得税から控除され、控除しきれない分は住民税から控除されます。
控除の順序:
- 所得税から控除(控除額の上限なし)
- 所得税で控除しきれない分は住民税から控除(上限97,500円/年)
具体例:
- 所得税額:15万円
- 住宅ローン控除額:21万円
- 所得税から15万円控除 → 残り6万円を住民税から控除
住宅ローン控除の適用要件
(1) 床面積50㎡以上(登記簿面積)
住宅ローン控除を受けるためには、登記簿面積が50㎡以上である必要があります。
注意点:
- 登記簿面積はパンフレット記載の専有面積より小さいことが多い
- 登記簿面積は壁の中心線で計算される(内法面積)
- 購入前に登記簿面積を確認することが重要
(2) 所得3,000万円以下(相続物件売却益を含む)
住宅ローン控除を受けるためには、合計所得金額が3,000万円以下である必要があります。
注意点:
- 相続物件を売却した年は、売却益(譲渡所得)も合計所得に含まれる
- 売却益が大きく所得が3,000万円を超えると、その年は住宅ローン控除を受けられない
- 売却時期と購入時期をずらすことで、所得が3,000万円以下になる年に購入することが可能
(3) 借入期間10年以上
住宅ローン控除を受けるためには、借入期間が10年以上である必要があります。
対象となる住宅ローン:
- 銀行の住宅ローン
- フラット35
- 財形住宅融資
- 勤務先からの借入(金利0.2%以上)
(4) 住宅性能による借入限度額の違い
住宅の性能(認定住宅・ZEH水準・省エネ基準)によって、借入限度額が異なります。
中古マンションの借入限度額:
- 認定住宅:3,000万円
- ZEH水準省エネ住宅:3,000万円
- 省エネ基準適合住宅:3,000万円
- その他の住宅:2,000万円
中古マンションでも、省エネ基準に適合していれば借入限度額が3,000万円になります。購入前に住宅性能評価書や省エネ基準適合証明書の有無を確認しましょう。
相続物件売却との併用制限
(1) 3,000万円控除・空き家特例との併用不可
相続した実家などを売却する際、以下の特例を利用できますが、これらの特例と住宅ローン控除は併用できません。
併用できない特例:
- 3,000万円特別控除(居住用財産を売却した場合)
- 空き家特例(相続した空き家を売却した場合の3,000万円控除)
- 買換え特例(特定の居住用財産の買換え)
出典:国税庁 - 住宅ローン控除と3,000万円特別控除の併用制限
(2) 購入年と前後2年間(計5年間)の制限
併用制限は、**購入年と前後2年間(計5年間)**に適用されます。
制限期間の例(2025年に購入した場合):
- 2023年(購入の2年前)
- 2024年(購入の1年前)
- 2025年(購入年)
- 2026年(購入の1年後)
- 2027年(購入の2年後)
この5年間に相続物件売却で3,000万円控除や空き家特例を使うと、住宅ローン控除は受けられません。
(3) どちらの特例が有利か判断が重要
3,000万円控除と住宅ローン控除、どちらを選ぶべきかは、売却益の大きさ、ローン残高、所得により異なります。
判断のポイント:
- 3,000万円控除:一度きりの控除。売却益が大きい場合に有利
- 住宅ローン控除:13年間の控除。ローン残高が大きく、長期間にわたり控除を受けられる
例:
- 売却益2,000万円、ローン残高3,000万円の場合
- 3,000万円控除を使うと、譲渡所得税がゼロ(控除額の範囲内)
- 住宅ローン控除を使うと、13年間で約273万円控除(年間21万円×13年)
- この場合、売却益の税率(20.315%)を考慮すると、3,000万円控除の方が有利なケースが多い
(4) 税額シミュレーションの必要性
併用制限があるため、税理士に相談して税額シミュレーションを行うことが推奨されます。
シミュレーションで確認すべき項目:
- 相続物件の売却益と譲渡所得税額
- 3,000万円控除を使った場合の節税額
- 住宅ローン控除を使った場合の13年間の総控除額
- 所得3,000万円以下の要件を満たすか
確定申告の手続きと必要書類
(1) 相続物件売却と購入の両方を申告
相続物件を売却して新マンションを購入した場合、売却の譲渡所得と住宅ローン控除の両方を確定申告します。
申告の流れ:
- 相続物件の売却益(譲渡所得)を計算
- 3,000万円控除や空き家特例を使うか判断
- 住宅ローン控除の要件を満たすか確認
- 確定申告書に両方の情報を記載
(2) 住宅ローン控除の必要書類
住宅ローン控除の確定申告には、以下の書類が必要です。
書類名 | 取得先 | 備考 |
---|---|---|
住宅借入金等特別控除額の計算明細書 | 国税庁ホームページ | 確定申告書に添付 |
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 | 金融機関 | 年末時点のローン残高を証明 |
売買契約書(コピー) | 本人 | 購入価格・取得日を証明 |
登記事項証明書 | 法務局 | 床面積・取得日を証明 |
源泉徴収票 | 勤務先 | 給与所得者の場合 |
マイナンバーカード(またはマイナンバー通知カード + 身分証明書) | 本人 | 本人確認 |
(3) 相続物件売却の必要書類
相続物件を売却した場合、譲渡所得の申告に以下の書類が必要です。
書類名 | 取得先 | 備考 |
---|---|---|
譲渡所得の内訳書 | 国税庁ホームページ | 確定申告書に添付 |
売却した相続物件の売買契約書(コピー) | 本人 | 売却価格を証明 |
被相続人が取得した時の売買契約書(コピー) | 本人 | 取得費を証明 |
譲渡費用の領収書(仲介手数料等) | 不動産会社 | 売却にかかった費用を証明 |
相続税申告書の控え | 本人 | 相続税の取得費加算特例を使う場合 |
(4) 電子申告(e-Tax)の方法
確定申告は、電子申告(e-Tax)を利用すると便利です。
e-Taxのメリット:
- 自宅から申告可能(税務署に行く必要なし)
- 24時間受付(メンテナンス時間を除く)
- 添付書類の提出を省略できる(保管は必要)
e-Taxの利用方法:
- マイナンバーカードを取得
- ICカードリーダーまたはマイナンバーカード対応スマホを準備
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
- 画面の指示に従って入力・送信
タイミングの最適化
(1) 相続物件売却と購入の時期調整
相続物件の売却と新マンションの購入のタイミングを調整することで、税制上有利になる場合があります。
タイミング調整の例:
- 売却を先に行う場合:売却益が大きく、3,000万円控除を使いたい場合。売却から3年以上経ってから購入すれば、住宅ローン控除も併用可能(ただし売却時の控除を使わなかった場合のみ)
- 購入を先に行う場合:住宅ローン控除を優先したい場合。購入後3年以上経ってから売却すれば、売却時の3,000万円控除も併用可能
(2) 所得3,000万円超の年は控除不可
相続物件の売却益により所得が3,000万円を超える年は、住宅ローン控除を受けられません。
対策:
- 売却時期と購入時期をずらす
- 所得が3,000万円以下になる年に購入する
- 分割売却を検討する(複数年に分けて売却)
(3) 専門家(税理士)への相談推奨
相続物件売却と新マンション購入の両方を行う場合、税制が複雑になるため、税理士への相談が推奨されます。
税理士に相談すべきケース:
- 売却益が大きく、どちらの特例が有利か判断が難しい
- 所得が3,000万円を超える可能性がある
- 相続税の取得費加算特例を併用したい
- 複数の不動産を相続・売却する
税理士に依頼すれば、税額シミュレーションを行い、最も有利な方法を提案してもらえます。
まとめ
相続資金でマンションを購入する場合、住宅ローンを利用すれば住宅ローン控除を受けることができます。年末ローン残高の0.7%を13年間控除できるため、総額で数百万円の節税効果が期待できます。
ただし、相続した実家などを売却して購入資金を賄う場合、売却時の3,000万円控除や空き家特例と住宅ローン控除は併用できません。購入年と前後2年間(計5年間)に売却時の特例を使うと、住宅ローン控除は受けられないため、どちらが有利か慎重に判断する必要があります。
住宅ローン控除を受けるためには、床面積50㎡以上、所得3,000万円以下、借入期間10年以上などの要件を満たす必要があります。特に、相続物件の売却益により所得が3,000万円を超える年は控除を受けられないため、売却時期と購入時期の調整が重要です。
確定申告の初年度は、売買契約書・登記事項証明書・年末残高証明書などの書類を準備し、2月16日〜3月15日の間に申告を行います。電子申告(e-Tax)を利用すれば、自宅から申告でき、添付書類の提出も省略できるため便利です。
税制が複雑になるため、税理士に相談して税額シミュレーションを行い、最も有利な方法を選択することが推奨されます。