買い替えマンション売却の確定申告は特例選択が重要
新居購入のためにマンションを売却する買い替えでは、譲渡所得税の申告が必要です。国税庁が定める特例制度には「買換え特例(課税繰延)」と「3,000万円特別控除」があり、どちらを選ぶかで税負担が大きく変わります。また、買い替え先の住宅ローン控除との併用制限もあるため、長期的な視点で最適な選択をすることが重要です。
この記事のポイント
- 買換え特例は課税繰延で、買い替え先売却時まで税金を先送りできる(非課税ではない)
- 3,000万円特別控除は即時非課税だが、買換え特例とは併用不可
- 買換え特例を使うと新居の住宅ローン控除が使えない期間がある(取得年と前後2年の計5年間)
- 譲渡所得の計算で取得費・譲渡費用を正確に算定する
- 必要書類は売却・購入両方の契約書、登記事項証明書など
1. 買い替えによるマンション売却の基礎知識
(1) 買い替えの定義と流れ
買い替えとは、現在のマンション(旧居)を売却し、新たな住居(新居)を購入することです。
買い替えの典型的な流れ:
- 旧居の売却活動開始(査定・媒介契約)
- 新居の購入先探し
- 旧居の売買契約締結
- 新居の売買契約締結
- 旧居の決済・引渡し
- 新居の決済・引渡し
(2) 売却と購入のタイミング調整
買い替えでは、旧居の売却資金を新居の購入資金に充てるため、タイミング調整が重要です。
タイミングのパターン:
パターン | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
売却先行 | 旧居を先に売却し、仮住まいを経て新居購入 | 仮住まいの費用・引越し2回 |
購入先行 | 新居を先に購入し、旧居を後から売却 | つなぎ融資や二重ローンの負担 |
同時進行 | 売却と購入を同時期に完了 | スケジュール調整が複雑 |
(3) 確定申告が必要なケース
以下のケースでは確定申告が必要です。
- 譲渡所得が発生した場合
- 買換え特例や3,000万円特別控除を適用する場合(譲渡所得がゼロでも申告必須)
- 譲渡損失を損益通算・繰越控除する場合
2. 譲渡所得の計算方法
(1) 譲渡所得の計算式
譲渡所得は以下の計算式で求めます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
計算例:
仮に、マンションを5,000万円で売却し、取得費が3,000万円、譲渡費用が200万円の場合:
譲渡所得 = 5,000万円 - (3,000万円 + 200万円) = 1,800万円
(2) 取得費の範囲と引継ぎ
取得費の範囲:
- 購入価格
- 購入時の仲介手数料
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 改装・リフォーム費用
建物の減価償却:
マンション(鉄筋コンクリート造)の建物部分は減価償却を考慮します。
耐用年数: 47年(非事業用は1.5倍の70年)
償却率: 0.015(70年の場合)
減価償却累計額 = 建物取得費 × 0.9 × 0.015 × 経過年数
取得費(建物) = 建物取得費 - 減価償却累計額
計算例:
仮に、15年前に建物2,000万円で購入した場合:
減価償却累計額 = 2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 15年 = 405万円
取得費(建物) = 2,000万円 - 405万円 = 1,595万円
買換え特例を使う場合の取得費の引継ぎ:
買換え特例を適用すると、旧居の取得費を新居に引き継ぎます。新居を売却する際、旧居の取得費を含めて計算するため、課税が繰延されます。
(3) 譲渡費用の範囲
譲渡費用に含められる費用:
- 仲介手数料
- 印紙税
- 測量費
- 建物解体費用(更地渡しの場合)
- 立退料
譲渡費用に含められない費用:
- 修繕費・リフォーム費用(取得費に含める)
- 住宅ローンの繰上返済手数料
(4) 所有期間の判定
所有期間の判定は売却年の1月1日時点で行います。
判定例:
仮に、2014年4月1日に購入したマンションを2024年11月1日に売却した場合:
判定日: 2024年1月1日
所有期間: 2014年4月1日~2024年1月1日 = 9年9ヶ月
→ 10年未満のため、買換え特例(10年超が要件)は適用不可
3. 買い替え時の控除・特例の選択
(1) 3000万円特別控除
国税庁の「居住用財産の3,000万円特別控除」は、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
主な要件:
- 居住用財産であること(自己が居住していた住宅)
- 住まなくなってから3年以内の売却
メリット:
- 即時に非課税となる(課税が完結)
- 買換え特例と比べて手続きが簡素
デメリット:
- 新居の住宅ローン控除が3年間使えない(売却年と前後1年の計3年間)
(2) 買換え特例
国税庁の「特定居住用財産の買換え特例」は、譲渡益への課税を買い替え先の売却時まで繰延できる制度です。
主な要件:
- 所有期間: 売却年の1月1日時点で10年超
- 居住期間: 売却年の1月1日までに10年以上居住
- 売却価格: 1億円以下
- 新居の面積: 床面積50㎡以上280㎡以下
- 買い替え期間: 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに購入
メリット:
- 譲渡益が3,000万円超でも課税を繰延できる
- 当面の税負担を軽減
デメリット:
- 非課税ではなく課税の先送り(新居を売却する際に課税)
- 新居の住宅ローン控除が使えない(取得年と前後2年の計5年間)
(3) どちらが有利か(事前試算の重要性)
3,000万円控除を選ぶべきケース:
- 譲渡益が3,000万円以下
- 新居を長期保有する予定(繰延の意味がない)
- 新居の住宅ローン控除を最大限活用したい
買換え特例を選ぶべきケース:
- 譲渡益が3,000万円超
- 新居を短期間で売却する予定はない
- 当面の税負担を軽減したい
事前試算の重要性:
税理士に依頼し、両方の特例を比較して最適な選択をすることが推奨されます。
(4) 併用不可の注意点
3,000万円控除と買換え特例は併用不可です。どちらか一方を選択する必要があります。
4. 買換え特例の仕組みと適用条件
(1) 課税の繰延べとは
買換え特例は「非課税」ではなく「課税の繰延べ」です。
仕組み:
- 旧居の譲渡益に対する税金を新居の売却時まで先送り
- 新居を売却する際、旧居の取得費を引き継いで計算
計算例:
仮に、旧居を5,000万円で売却し、取得費が3,000万円、新居を6,000万円で購入した場合:
旧居の譲渡益: 5,000万円 - 3,000万円 = 2,000万円
買換え特例適用: 課税を繰延
新居の取得費: 6,000万円 - 2,000万円(繰延益) = 4,000万円
新居を7,000万円で売却する場合:
新居の譲渡益: 7,000万円 - 4,000万円 = 3,000万円(旧居の繰延益2,000万円を含む)
(2) 適用要件(売却額・購入額・面積等)
売却マンションの要件:
- 所有期間: 売却年の1月1日時点で10年超
- 居住期間: 売却年の1月1日までに10年以上居住
- 売却価格: 1億円以下
新居の要件:
- 床面積: 50㎡以上280㎡以下
- 建築後使用されたことのない住宅(新築)または築25年以内の中古住宅
(3) 売却と購入の期限制限
買換え特例を適用するには、売却と購入のタイミングが重要です。
期限制限:
- 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を購入
タイミング調整:
- 売却と購入を同じ年に完了させることで、確定申告が1回で済む
(4) 将来売却時の課税関係
買換え特例を適用すると、新居を売却する際に旧居の繰延益も含めて課税されます。
注意点:
- 新居の売却時に3,000万円控除を使えるか確認
- 新居の所有期間が5年超なら長期譲渡所得(税率20.315%)
5. 確定申告の手続きと必要書類
(1) 譲渡所得の内訳書
譲渡所得の内訳書には、以下の内容を記載します。
記載内容:
- 売却マンションの所在地・購入年月日・売却年月日
- 売却価格・取得費・譲渡費用
- 譲渡所得
(2) 売買契約書(旧居・新居)
旧居の売買契約書:
- 売却価格
- 売却年月日(引渡し日)
新居の売買契約書:
- 購入価格
- 購入年月日(引渡し日)
- 床面積(登記簿面積)
(3) 登記事項証明書
旧居の登記事項証明書:
- 所有期間の確認
- 居住用財産であることの証明
新居の登記事項証明書:
- 床面積の確認
- 新築または築25年以内の確認
(4) 買換え特例適用時の追加書類
買換え特例を適用する場合、以下の書類が追加で必要です。
- 住民票(旧居と新居の住所を証明)
- 戸籍の附票(居住期間の証明)
(5) 申告期限と提出先
申告期限:
- 売却した年の翌年2月16日~3月15日
提出先:
- 売却時の住所を管轄する税務署
- e-Tax(オンライン申告)
期限を過ぎると:
- 無申告加算税(5~20%)
- 延滞税(年2.4~8.7%)
- 特例が適用できなくなる
6. 住宅ローン控除との併用制限
(1) 買換え特例を選ぶと住宅ローン控除が使えない期間
買換え特例を適用すると、新居の住宅ローン控除が使えない期間があります。
制限期間:
- 新居取得年と前後2年(計5年間)
計算例:
仮に、2024年に旧居を売却し、2024年に新居を購入した場合:
制限期間: 2022年~2026年(5年間)
住宅ローン控除が使えない期間: 2024年~2026年(3年間)
(2) 3000万円控除を選ぶと3年間制限
3,000万円特別控除を適用すると、新居の住宅ローン控除が3年間使えない制限があります。
制限期間:
- 売却年と前後1年(計3年間)
(3) どちらが有利か(長期的な試算)
試算例:
仮に、譲渡益が2,500万円、新居の住宅ローン控除が年間30万円の場合:
3,000万円控除を選んだ場合:
譲渡所得税: 0円(2,500万円は3,000万円以内のため非課税)
住宅ローン控除: 使えない期間3年間 → 損失90万円
実質的な税負担: 90万円
買換え特例を選んだ場合:
譲渡所得税: 繰延(新居売却時に課税)
住宅ローン控除: 使えない期間5年間 → 損失150万円
実質的な税負担: 150万円(新居売却時にさらに課税)
この例では、3,000万円控除の方が有利です。ただし、ケースバイケースで異なるため、税理士への相談が推奨されます。
まとめ
買い替えマンション売却の確定申告では、特例の選択が税負担を大きく左右します。以下のポイントを押さえ、最適な選択をすることが重要です。
- 買換え特例は課税繰延で、買い替え先売却時まで税金を先送りできる(非課税ではない)
- 3,000万円特別控除は即時非課税だが、買換え特例とは併用不可
- 買換え特例を使うと新居の住宅ローン控除が5年間使えない、3,000万円控除は3年間制限
- 譲渡所得の計算で取得費・譲渡費用を正確に算定する
- 必要書類は売却・購入両方の契約書、登記事項証明書など
- 申告期限は売却した年の翌年2月16日~3月15日
- 税理士への相談で最適な特例選択と申告書作成をサポート
特例の選択ミスや申告漏れを避けるため、早めに税理士に相談し、適切な手続きを進めることをお勧めします。
よくある質問
Q1. 買い替えでマンションを売却する場合、確定申告は必要ですか?
A. 譲渡所得が発生した場合は確定申告が必要です。また、買換え特例や3,000万円特別控除を適用する場合も、譲渡所得がゼロになっても確定申告が必須です。譲渡損失が出た場合で損益通算・繰越控除を受ける場合も確定申告が必要です。
Q2. 買換え特例と3,000万円特別控除はどちらが有利ですか?
A. ケースバイケースです。買換え特例は課税を将来に繰り延べるだけなので、新居売却時に旧居の繰延益も含めて課税されます。3,000万円控除は今回で完結しますが、新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなります。譲渡益の大きさ、新居の住宅ローン控除額、新居の売却予定などを総合的に考慮して選択する必要があります。税理士への相談を推奨します。
Q3. 買換え特例を使うと住宅ローン控除は使えませんか?
A. 買換え特例を適用すると、新居取得年とその前後2年(計5年間)は住宅ローン控除を受けられません。3,000万円控除の場合は売却年と前後1年(計3年間)の制限です。住宅ローン控除が使えない期間の税負担と、特例による税軽減効果を比較して、どちらが有利か判断する必要があります。
Q4. 買換え特例の適用要件は何ですか?
A. 主な要件は以下の通りです。売却するマンションの所有期間が売却年の1月1日時点で10年超、居住期間が10年以上、売却価格が1億円以下、新居の床面積が50㎡以上280㎡以下、買い替えのタイミングが売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに購入、などです。これらの要件をすべて満たす必要があります。