買い替えマンション購入の確定申告|住宅ローン控除完全版

公開日: 2025/10/17

買い替えマンション購入で確定申告が必要になる場面

既存の住宅を売却して新たにマンションを購入する「買い替え」では、旧居の売却と新居の購入の両方で税務手続きが発生します。特に、住宅ローンを利用して購入する場合、住宅ローン控除の初年度は確定申告が必須です。また、旧居の売却益に対する課税と新居購入時の控除をどう組み合わせるかが、税負担を大きく左右します。

この記事でわかること

  • 買い替えにおける確定申告のタイミングと流れ
  • 住宅ローン控除の仕組みと適用要件(床面積・所得制限)
  • 3,000万円特別控除と住宅ローン控除の併用制限
  • どちらの控除を選ぶべきかの判断基準
  • 確定申告に必要な書類と準備タイミング

1. 買い替えマンション購入時の確定申告の基礎知識

(1) 買い替えにおける税務手続きの全体像

買い替えでは、旧居の売却と新居の購入という2つの取引が発生します。税務上はこれらを別々に扱いますが、互いに影響し合う関係にあります。

旧居売却時の税務:

  • 譲渡所得の確定申告(売却益がある場合)
  • 3,000万円特別控除や軽減税率などの特例適用の検討

新居購入時の税務:

  • 住宅ローン控除の確定申告(初年度のみ)
  • 登録免許税、不動産取得税の支払い

重要なのは、旧居売却時に3,000万円特別控除を使うと、新居の住宅ローン控除が使えなくなる「併用制限」があることです。

(2) 売却と購入の確定申告のタイミング

確定申告は取引が発生した年の翌年2月16日から3月15日に行います。

ケース1:同じ年に売却と購入を行った場合

  • 翌年の確定申告で、売却と購入の両方を1回で申告
  • ただし、申告書は売却用(第三表)と住宅ローン控除用で別々に作成

ケース2:異なる年にまたがる場合

  • 売却年の翌年:旧居の譲渡所得を申告
  • 購入年の翌年:新居の住宅ローン控除を申告

(3) 税理士への相談が必要なケース

以下のような場合は税理士への相談を検討すべきです:

  • 旧居の売却益が1,000万円を超える
  • 3,000万円控除と住宅ローン控除のどちらを選ぶか判断が難しい
  • 共有名義や複数の不動産取引がある
  • 相続した不動産を売却して買い替えた

税理士報酬の相場は5〜10万円程度ですが、判断ミスによる税負担の増加を考えれば、十分に元が取れる投資といえます。

2. 住宅ローン控除の仕組みと適用要件

(1) 住宅ローン控除の基本的な計算方法

住宅ローン控除は、年末時点のローン残高の0.7%を所得税(および一部住民税)から控除できる制度です。控除期間は新築・買取再販なら13年間、中古なら10年間です。

計算例:

年末ローン残高:3,500万円
控除額:3,500万円 × 0.7% = 24.5万円

この24.5万円が所得税から差し引かれ、所得税で控除しきれない分は住民税からも控除されます(上限あり)。

(2) 控除の適用要件(床面積・所得制限)

国税庁によれば、住宅ローン控除の適用には以下の要件があります:

物件要件:

  • 床面積50㎡以上(登記簿面積=内法面積で判定)
  • 2023年までに建築確認を受けた新築は40㎡以上も可能(所得1,000万円以下の場合)

ローン要件:

  • 借入期間10年以上
  • 金融機関等からの借入(親族からの借入は対象外)

所得要件:

  • 合計所得金額2,000万円以下
  • 40㎡以上50㎡未満は所得1,000万円以下

居住要件:

  • 取得後6ヶ月以内に居住開始
  • 控除適用年の12月31日まで引き続き居住

(3) 住宅性能による借入限度額の違い

国土交通省によれば、住宅の性能により控除の対象となる借入限度額が異なります:

住宅の種類 借入限度額(2024-2025年) 最大控除額(年)
認定住宅(長期優良・低炭素) 4,500万円 31.5万円
ZEH水準省エネ住宅 3,500万円 24.5万円
省エネ基準適合住宅 3,000万円 21.0万円
その他の住宅(新築) 0円 0円
中古住宅 3,000万円 21.0万円

重要: 2024年以降に建築確認を受けた新築住宅は、省エネ基準を満たさないと住宅ローン控除が受けられません。中古マンションの場合、この制限はありません。

3. 旧居売却との税制併用制限と選択基準

(1) 3000万円特別控除と住宅ローン控除の併用制限

国税庁によれば、旧居の売却で居住用財産の3,000万円特別控除を適用すると、**売却年とその前後2年間(計5年間)**は住宅ローン控除が適用できません。

併用制限の期間:

例:2024年に旧居を売却して3,000万円控除を適用した場合

2022年 ─┐
2023年  │ この期間に購入した住宅の
2024年  │ 住宅ローン控除は適用不可
2025年  │
2026年 ─┘

このため、買い替えでは「3,000万円控除」と「住宅ローン控除」のどちらか一方しか選択できないケースが多くなります。

(2) どちらを選択すべきかの判断基準

3,000万円控除が有利なケース:

  • 旧居の売却益が大きい(例:2,000万円以上)
  • 新居のローン残高が少ない、または早期返済予定
  • 所得税・住民税額が少なく、住宅ローン控除を使い切れない

住宅ローン控除が有利なケース:

  • 旧居の売却益が小さい(例:500万円以下)
  • 新居のローン残高が大きい(例:4,000万円以上)
  • 所得が高く、住宅ローン控除を満額活用できる

具体例で比較:

ケースA:売却益2,000万円、ローン残高4,000万円の場合

選択 3,000万円控除 住宅ローン控除
旧居売却時の税負担軽減 約400万円 0円
新居購入後13年間の税負担軽減 0円 約320万円
合計メリット 約400万円 約320万円

この場合、3,000万円控除を選ぶ方が約80万円有利です。

ケースB:売却益500万円、ローン残高4,000万円の場合

選択 3,000万円控除 住宅ローン控除
旧居売却時の税負担軽減 約100万円 0円
新居購入後13年間の税負担軽減 0円 約320万円
合計メリット 約100万円 約320万円

この場合、住宅ローン控除を選ぶ方が約220万円有利です。

(3) 売却と購入のタイミング調整による税務影響

併用制限を避けるためのタイミング調整:

方法1:売却を遅らせる

  • 新居購入から3年後以降に旧居を売却
  • 住宅ローン控除を優先し、売却時に3,000万円控除を利用
  • ただし、旧居の維持費や二重ローンの負担が発生

方法2:購入を早める

  • 旧居売却の3年前以前に新居を購入
  • 実務上は住み替えの流れに合わないため困難

実際には、タイミング調整よりも、どちらの控除が有利かを計算して選択する方が現実的です。

4. 買い替え時の税金計算方法

(1) 住宅ローン控除による税額軽減の計算

住宅ローン控除の具体的な計算例:

前提条件:

  • 省エネ基準適合の中古マンション購入
  • 借入額:3,500万円
  • 借入期間:35年
  • 年収:600万円(所得税20万円、住民税30万円/年)

1年目の控除額:

年末ローン残高:約3,450万円
控除額:3,450万円 × 0.7% = 24.15万円

所得税から控除:20万円
住民税から控除:4.15万円(上限9.75万円以内)
合計軽減額:24.15万円

13年間の累計(概算):

1年目〜13年目の平均残高:約2,800万円
年間平均控除額:約19.6万円
13年間の累計:約255万円

(2) 登録免許税・不動産取得税の計算

登録免許税:

登記の種類 本則税率 軽減税率(2027年3月31日まで)
所有権移転(中古) 2.0% 0.3%
抵当権設定 0.4% 0.1%

例:マンション価格3,000万円、ローン3,000万円の場合

所有権移転:3,000万円 × 0.3% = 9万円
抵当権設定:3,000万円 × 0.1% = 3万円
合計:12万円

不動産取得税:

居住用のマンションで床面積50㎡以上240㎡以下の場合、軽減措置があります。

(3) 軽減措置の適用と要件

登録免許税の軽減を受けるには、法務局での登記申請時に「住宅用家屋証明書」を市区町村から取得して添付する必要があります。この証明書により、税率が本則の約1/7〜1/4に軽減されます。

5. 確定申告に必要な書類と準備タイミング

(1) 住宅ローン控除の初年度申告書類

国税庁によれば、住宅ローン控除の初年度申告には以下の書類が必要です:

必須書類:

  • 確定申告書
  • (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
  • 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(金融機関発行)
  • 登記事項証明書(法務局で取得)
  • 売買契約書のコピー
  • マイナンバーカード等の本人確認書類

物件により追加で必要:

  • 住宅性能評価書のコピー(認定住宅・ZEH水準等の場合)
  • 耐震基準適合証明書または既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書(中古で1982年以前の建築の場合)

(2) 登記事項証明書・借入金証明書の取得

登記事項証明書:

  • 取得場所:法務局(窓口・郵送・オンライン)
  • 手数料:窓口600円、オンライン480円
  • 必要な種類:全部事項証明書

年末残高証明書:

  • 発行時期:毎年10月頃
  • 発行元:金融機関
  • 再発行:紛失した場合は金融機関に再発行依頼(有料の場合あり)

(3) 買い替え特例適用時の追加書類

買い替え時に特定の特例を適用する場合、追加書類が必要になることがあります:

  • 旧居の売買契約書・登記事項証明書
  • 住民票の写し(居住証明のため)
  • 戸籍の附票(住所の移転履歴を証明)

6. 買い替えマンション購入時の税務上の注意点

(1) 登記簿面積(内法)での床面積要件

住宅ローン控除の床面積要件50㎡は、**登記簿面積(内法面積)**で判定されます。これは壁の内側を測った面積で、販売図面に記載される「壁芯面積」よりも小さくなります。

壁芯面積と内法面積の違い:

販売図面の壁芯面積:52㎡
登記簿の内法面積:48㎡

→ 住宅ローン控除の要件(50㎡以上)を満たさない

特に、販売図面で50㎡台前半のマンションを購入する場合は、必ず登記簿面積を確認しましょう。

(2) 中古マンションの築年数要件

2022年以降、中古住宅の住宅ローン控除は築年数要件が大幅に緩和されました:

新基準(2022年以降):

  • 1982年1月1日以降に建築(新耐震基準)
  • または、耐震基準適合証明書を取得
  • または、既存住宅売買瑕疵保険に加入

旧基準(2021年まで):

  • マンション等の耐火建築物:築25年以内
  • 木造等:築20年以内

1982年以降の建築であれば、築年数に関係なく住宅ローン控除を受けられるようになりました。

(3) 所得制限と控除額の関係

住宅ローン控除は所得税・住民税から控除する制度のため、これらの税額が少ない場合、控除しきれないことがあります。

控除しきれないケース:

年末ローン残高:4,000万円
控除可能額:4,000万円 × 0.7% = 28万円

所得税:10万円
住民税控除上限:9.75万円
実際の控除額:19.75万円(8.25万円が使い切れない)

年収が500万円未満の場合、住宅ローン控除を満額活用できないケースが多くなります。この場合、旧居売却時に3,000万円控除を優先する方が有利になる可能性があります。

まとめ

買い替えでマンションを購入する際は、住宅ローン控除により年末ローン残高の0.7%を最長13年間控除できます。ただし、旧居売却時に3,000万円特別控除を使うと、前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が使えない併用制限があります。

どちらを選ぶかは、旧居の売却益とローン残高を比較してシミュレーションすることが重要です。売却益が大きい場合は3,000万円控除、ローン残高が大きく所得も十分にある場合は住宅ローン控除が有利になります。

確定申告は購入年の翌年に必要で、登記事項証明書や年末残高証明書などの書類準備が必要です。床面積は登記簿面積で判定されること、中古マンションは1982年以降の建築であれば築年数不問で適用可能なことに注意しましょう。

よくある質問

Q1. 旧居売却で3000万円控除を使った場合、新居の住宅ローン控除はどうなりますか?

A. 3,000万円特別控除を使うと、売却年とその前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が適用できません。例えば2024年に旧居を売却して3,000万円控除を使った場合、2022年から2026年までの期間に購入した住宅では住宅ローン控除が受けられません。売却益が大きい場合は3,000万円控除が有利ですが、売却益が小さい場合は住宅ローン控除を優先する方が有利なケースもあるため、具体的な金額でシミュレーションすることが重要です。

Q2. 買い替えの場合、確定申告は2回必要ですか?

A. 旧居の売却で譲渡所得がある場合は売却年の翌年に申告し、新居の住宅ローン控除は購入年の翌年に申告します。売却と購入が同じ年であれば1回の申告で処理できますが、申告書は売却用(第三表)と住宅ローン控除用で別々に作成します。異なる年にまたがる場合は、それぞれの年の翌年に確定申告が必要です。

Q3. 中古マンションでも住宅ローン控除は使えますか?

A. 使えます。2022年の税制改正により、1982年1月1日以降に建築された住宅(新耐震基準)であれば、築年数に関係なく住宅ローン控除が適用できます。1982年より前の建築の場合でも、耐震基準適合証明書を取得するか、既存住宅売買瑕疵保険に加入すれば適用可能です。借入限度額は3,000万円、控除期間は10年間です。

Q4. どちらの控除を選ぶべきか迷っています。判断基準は?

A. 旧居の売却益とローン残高を比較してシミュレーションすることが重要です。売却益が大きい(例:2,000万円以上)場合は3,000万円控除を優先すると、約400万円の税負担軽減が見込めます。売却益が小さい(例:500万円以下)一方でローン残高が大きい(例:4,000万円以上)場合は、住宅ローン控除の方が13年間で約300万円以上の軽減が見込めるため有利です。また、年収が低く所得税・住民税額が少ない場合は、住宅ローン控除を使い切れないため、3,000万円控除を優先する方が良いケースもあります。

Q5. マンションの床面積が50㎡ギリギリの場合、注意点はありますか?

A. 住宅ローン控除の床面積要件は、販売図面の「壁芯面積」ではなく「登記簿面積(内法面積)」で判定されます。壁芯面積は壁の中心線で測るため、登記簿面積より2〜4㎡程度大きくなります。販売図面で52㎡と記載されていても、登記簿面積が48㎡で要件を満たさないケースがあります。購入前に必ず登記簿面積を確認するか、売主・仲介業者に内法面積を確認しましょう。

よくある質問

Q1旧居売却で3000万円控除を使った場合、新居の住宅ローン控除はどうなりますか?

A13,000万円特別控除を使うと、売却年とその前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が適用できません。例えば2024年に旧居を売却して3,000万円控除を使った場合、2022年から2026年までの期間に購入した住宅では住宅ローン控除が受けられません。売却益が大きい場合は3,000万円控除が有利ですが、売却益が小さい場合は住宅ローン控除を優先する方が有利なケースもあるため、具体的な金額でシミュレーションすることが重要です。

Q2買い替えの場合、確定申告は2回必要ですか?

A2旧居の売却で譲渡所得がある場合は売却年の翌年に申告し、新居の住宅ローン控除は購入年の翌年に申告します。売却と購入が同じ年であれば1回の申告で処理できますが、申告書は売却用(第三表)と住宅ローン控除用で別々に作成します。異なる年にまたがる場合は、それぞれの年の翌年に確定申告が必要です。

Q3中古マンションでも住宅ローン控除は使えますか?

A3使えます。2022年の税制改正により、1982年1月1日以降に建築された住宅(新耐震基準)であれば、築年数に関係なく住宅ローン控除が適用できます。1982年より前の建築の場合でも、耐震基準適合証明書を取得するか、既存住宅売買瑕疵保険に加入すれば適用可能です。借入限度額は3,000万円、控除期間は10年間です。

Q4どちらの控除を選ぶべきか迷っています。判断基準は?

A4旧居の売却益とローン残高を比較してシミュレーションすることが重要です。売却益が大きい(例:2,000万円以上)場合は3,000万円控除を優先すると、約400万円の税負担軽減が見込めます。売却益が小さい(例:500万円以下)一方でローン残高が大きい(例:4,000万円以上)場合は、住宅ローン控除の方が13年間で約300万円以上の軽減が見込めるため有利です。また、年収が低く所得税・住民税額が少ない場合は、住宅ローン控除を使い切れないため、3,000万円控除を優先する方が良いケースもあります。

Q5マンションの床面積が50㎡ギリギリの場合、注意点はありますか?

A5住宅ローン控除の床面積要件は、販売図面の「壁芯面積」ではなく「登記簿面積(内法面積)」で判定されます。壁芯面積は壁の中心線で測るため、登記簿面積より2〜4㎡程度大きくなります。販売図面で52㎡と記載されていても、登記簿面積が48㎡で要件を満たさないケースがあります。購入前に必ず登記簿面積を確認するか、売主・仲介業者に内法面積を確認しましょう。

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