離婚によるマンション売却の確定申告の基礎知識
離婚に伴いマンションを売却する場合、確定申告が必要になるケースがあります。財産分与による譲渡か、通常の売却かによって税務上の扱いが大きく異なるため、正しい理解が重要です。
この記事のポイント
- 財産分与による譲渡は原則非課税だが、時価を著しく超える部分は課税対象
- 共有名義の場合、各名義人が持分ごとに譲渡所得を計算し、それぞれ確定申告が必要
- 離婚前に居住していれば3,000万円特別控除が適用可能(住まなくなった日から3年以内の売却)
- 離婚協議書・財産分与契約書が税務署から求められる可能性がある
- 申告期限は売却した年の翌年2月16日~3月15日
(1) 確定申告が必要なケース
離婚に伴うマンション売却では、以下のケースで確定申告が必要です。
確定申告が必須
- マンションを第三者に売却して利益が出た場合
- 共有名義のマンションを売却し、各自の持分に応じて譲渡益が発生した場合
- 3,000万円特別控除などの特例を適用する場合(譲渡益が控除額以下でも申告必須)
確定申告が不要なケース
- 財産分与として元配偶者に名義変更し、時価の範囲内である場合(原則非課税)
- 売却損が発生し、損益通算の特例を適用しない場合
ただし、財産分与による譲渡であっても、時価を著しく超える部分がある場合は課税対象となります。判断が難しいケースでは税理士への相談が推奨されます。
(2) 離婚前後での税務上の違い
離婚成立のタイミングと売却時期により、税務上の扱いが異なります。
離婚前の売却
- 夫婦共有名義の場合、各自の持分に応じて譲渡所得を計算
- 3,000万円特別控除は各自適用可能(要件を満たせば)
- 売却代金の分配方法は自由に決められる
離婚後の売却
- 単独名義に変更後の売却は、名義人のみが申告
- 離婚前に居住していた実態があれば、3,000万円特別控除が適用可能
- 住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売却する必要がある
(3) 申告を怠った場合のペナルティ
確定申告を怠ると、以下のペナルティが課される可能性があります。
- 無申告加算税: 納付すべき税額に対して15~20%
- 延滞税: 納期限の翌日から納付日までの期間に応じて年7.3~14.6%
- 重加算税: 意図的な隠蔽と判断された場合、40%
特に、税務署は不動産の登記情報を把握しているため、申告漏れは高確率で発覚します。期限内に正しく申告することが重要です。
財産分与と譲渡所得の関係
(1) 財産分与による譲渡は原則非課税
国税庁の「離婚に伴う財産分与により取得した財産の課税関係」によれば、財産分与として元配偶者にマンションを譲渡する場合、譲渡する側には原則として譲渡所得税は課税されません。
これは、財産分与が夫婦の共有財産の清算であり、新たな利益の発生とは見なされないためです。
(2) 時価超過分は課税対象
ただし、以下のケースでは課税対象となります。
- 財産分与として譲渡した金額が、時価を著しく超えている場合
- 離婚に伴う財産分与として社会通念上不相当に過大である場合
- 財産分与の実体がなく、贈与や譲渡所得の偽装と認められる場合
例:時価3,000万円のマンションを、財産分与として5,000万円と評価して譲渡した場合、超過分の2,000万円は課税対象となる可能性があります。
(3) 財産分与と通常売却の税制の違い
項目 | 財産分与による譲渡 | 通常の売却 |
---|---|---|
譲渡所得税 | 原則非課税(時価の範囲内) | 譲渡益に対して課税 |
確定申告 | 原則不要(時価超過分がある場合は必要) | 必須 |
3,000万円控除 | 適用不可(非課税のため不要) | 適用可能(要件を満たせば) |
必要書類 | 離婚協議書・財産分与契約書 | 売買契約書・登記事項証明書等 |
(4) 財産分与のタイミングと課税関係
財産分与は離婚成立後に行うのが原則です。離婚前に財産分与として譲渡した場合、税務署から「実質的な贈与」と判断される可能性があります。
財産分与の適切なタイミング
- 離婚成立後、できるだけ早く財産分与を行う
- 財産分与契約書を作成し、公正証書化することが推奨される
- 離婚成立から2年以内に財産分与請求権を行使する必要がある
離婚によるマンション売却の税額計算方法
(1) 譲渡所得の基本計算式
国税庁の「譲渡所得の計算方法」によれば、譲渡所得は以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)
例:3,500万円で購入したマンションを4,000万円で売却、譲渡費用150万円の場合
譲渡所得 = 4,000万円 - (3,500万円 + 150万円) = 350万円
(2) 取得費の引き継ぎ
財産分与で元配偶者から取得したマンションを売却する場合、取得費は元配偶者が取得した時点の価格を引き継ぎます。
例:夫が3,000万円で購入したマンションを財産分与で妻が取得し、その後4,000万円で売却した場合
取得費 = 3,000万円(夫の購入価格を引き継ぐ)
譲渡所得 = 4,000万円 - 3,000万円 - 譲渡費用
(3) 譲渡費用として認められる項目
譲渡費用として認められるのは、売却のために直接かかった費用のみです。
認められる費用
- 仲介手数料
- 印紙税
- 測量費
- 解体費(売却のために解体した場合)
- 登記費用(抵当権抹消登記等)
認められない費用
- 住宅ローンの利息・残債
- 引越し費用
- 修繕費(売却目的以外の通常のメンテナンス)
(4) 短期・長期譲渡所得の税率
譲渡した年の1月1日時点での所有期間によって、税率が異なります。
所有期間 | 区分 | 税率(所得税+住民税) |
---|---|---|
5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
財産分与で取得した場合、所有期間は元配偶者の取得時点から通算されます。
離婚によるマンション売却で使える控除・特例
(1) 3,000万円特別控除の適用条件
国税庁の「マイホームを売ったときの特例」によれば、居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
適用要件
- 自分が住んでいた家屋を売却すること
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却先が親族や同族会社でないこと
- 前年・前々年にこの特例を受けていないこと
(2) 離婚前の居住実態の証明
離婚後に売却する場合でも、離婚前に居住していた実態があれば3,000万円特別控除が適用可能です。
居住実態の証明方法
- 住民票の写し(売却時と取得時)
- 光熱費の領収書
- 郵便物の記録
- 離婚協議書(居住実態の記載があれば)
特に、離婚協議中に空き家になった場合でも、住まなくなった日から3年以内であれば控除が適用されます。
(3) 10年超所有の軽減税率
所有期間が10年を超える居住用財産を売却した場合、3,000万円特別控除を適用した後の譲渡所得に対して、軽減税率が適用されます。
課税譲渡所得 | 税率 |
---|---|
6,000万円以下の部分 | 14.21%(所得税10.21%+住民税4%) |
6,000万円超の部分 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
(4) 住宅ローン控除との関係
3,000万円特別控除を適用すると、その年とその前後2年間(計5年間)は、新たに購入した住宅の住宅ローン控除を受けられません。
どちらが有利かは、譲渡益の額、新居の住宅ローン残高、所得税額などによって異なるため、税理士に試算を依頼することが推奨されます。
離婚によるマンション売却の確定申告手続き
(1) 必要書類の準備
確定申告には、以下の書類が必要です。
基本書類
- 確定申告書第一表・第二表
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
添付書類
- 売却した家屋・土地の登記事項証明書
- 売買契約書のコピー
- 住民票の写し(売却時と取得時)
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
特例適用時の追加書類
- (3,000万円控除)居住用財産の譲渡に関する証明書
- (財産分与)離婚協議書・財産分与契約書
(2) 離婚協議書・財産分与契約書
財産分与による譲渡の場合、離婚協議書や財産分与契約書が税務署から求められる可能性があります。
記載すべき内容
- 財産分与の対象となる財産(マンションの所在地・面積等)
- 分与の割合・金額
- 財産分与であることの明記(贈与や売買でないこと)
- 離婚成立日
公正証書化すると証明力が高まり、税務署への説明もスムーズになります。
(3) 確定申告書の記入方法
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで申告書を作成できます。
記入のポイント
- 第三表の「分離課税の短期・長期譲渡所得に関する事項」に記入
- 譲渡価額、取得費、譲渡費用を正確に記入
- 特例を適用する場合は、該当欄にチェックを入れる
(4) 申告期限と提出方法
確定申告の期限は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。
提出方法
- e-Tax(電子申告): 自宅から24時間いつでも申告可能
- 郵送: 管轄の税務署に郵送
- 税務署窓口: 直接持参
e-Taxを利用すれば、還付金の受取が早く(約3週間)、添付書類の一部を省略できるメリットがあります。
共有名義の場合の申告実務と注意点
(1) 持分ごとの譲渡所得計算
夫婦共有名義のマンションを売却した場合、各名義人が持分に応じて譲渡所得を計算します。
例:夫50%・妻50%の共有名義、売却価格4,000万円、取得費3,000万円、譲渡費用200万円の場合
譲渡所得 = 4,000万円 - 3,000万円 - 200万円 = 800万円
夫の譲渡所得 = 800万円 × 50% = 400万円
妻の譲渡所得 = 800万円 × 50% = 400万円
(2) 各名義人の申告義務
共有名義の場合、各名義人がそれぞれ確定申告する必要があります。どちらか一方が申告漏れすると、税務署から指摘されます。
申告のポイント
- 各自が持分に応じた譲渡所得を申告
- 3,000万円特別控除も各自適用可能(要件を満たせば)
- 売却代金の分配方法と持分が異なる場合は、贈与税の対象となる可能性がある
(3) 売却代金の分配方法
売却代金は、原則として持分に応じて分配します。持分と異なる割合で分配した場合、差額が贈与と見なされる可能性があります。
例:夫50%・妻50%の共有名義で、売却代金4,000万円を夫3,000万円・妻1,000万円で分配した場合
適正な分配: 夫2,000万円・妻2,000万円
実際の分配: 夫3,000万円・妻1,000万円
差額: 夫が妻から1,000万円を贈与されたと見なされる可能性がある
(4) よくある申告ミス
ミス1:共有名義を単独名義で申告
- 夫婦どちらか一方のみが全額を申告してしまう
- 各自が持分に応じて申告する必要がある
ミス2:取得費を二重計上
- 夫婦それぞれが全額の取得費を計上してしまう
- 取得費も持分に応じて計算する必要がある
ミス3:特例の重複適用
- 3,000万円控除を夫婦で合計6,000万円と誤解
- 各自最大3,000万円まで控除可能だが、譲渡所得が各自3,000万円以下なら全額控除
まとめ
離婚に伴うマンション売却では、財産分与による譲渡か通常の売却かによって税務上の扱いが大きく異なります。財産分与は原則非課税ですが、時価を著しく超える部分は課税対象となります。
特に押さえるべきポイント:
- 共有名義の場合、各名義人が持分ごとに譲渡所得を計算し、それぞれ確定申告が必要
- 離婚前に居住していれば、離婚後の売却でも3,000万円特別控除が適用可能(住まなくなった日から3年以内)
- 離婚協議書・財産分与契約書が税務署から求められる可能性があるため、公正証書化が推奨される
- 申告期限は売却した年の翌年2月16日~3月15日
- 判断が難しいケースでは税理士への相談が推奨される
離婚は感情的にも経済的にも負担が大きい出来事です。税務面での不安を軽減するため、早めに専門家に相談し、正しい手続きを踏むことが重要です。