マンション売却時の確定申告が必要な理由
マンションを売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、確定申告が必要です。確定申告を行わないと、3,000万円特別控除などの特例が適用されず、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があります。また、譲渡損失が出た場合でも、損益通算の特例を受けるには確定申告が必須です。売却した年の翌年2月16日から3月15日までが申告期限となります。
この記事で分かること:
- マンション売却時の確定申告が必要なケースと申告期限
- 譲渡所得の計算方法(取得費・譲渡費用の範囲)
- 3,000万円特別控除や軽減税率などの特例制度
- 確定申告に必要な書類のチェックリスト
- よくある申告ミスとその対策
マンション売却時の確定申告の基礎知識
確定申告が必要なケース
国税庁の「No.3302 マイホームを売ったときの特例」によると、マンションを売却して譲渡所得が発生した場合、確定申告が必要です。
確定申告が必要なケース:
- 譲渡益が出た場合: 売却価格が取得費と譲渡費用の合計を上回る場合
- 特例を適用する場合: 3,000万円特別控除、軽減税率、買換え特例などを適用する場合(譲渡益がなくても申告必須)
- 譲渡損失を損益通算する場合: 売却で損失が出て、他の所得と損益通算する場合
会社員の場合、通常は年末調整で税務手続きが完結しますが、不動産の売却は給与所得とは別に分離課税として申告する必要があります。
利益が出なくても申告が必要な場合
譲渡益が出ない場合でも、以下のケースでは確定申告が必要です。
申告が必要なケース:
- 3,000万円特別控除を適用する場合: 譲渡益が3,000万円以下でも、特例適用のため申告が必要
- 損益通算を行う場合: 譲渡損失を他の所得(給与所得など)と損益通算する場合
- 繰越控除を行う場合: 譲渡損失を翌年以降に繰り越す場合
特例を適用しない場合で、譲渡益が出なければ確定申告は不要ですが、後から税務署に指摘されるリスクを避けるため、申告しておくことをお勧めします。
申告を怠った場合のペナルティ
確定申告を期限内に行わなかった場合、以下のペナルティが課される可能性があります。
無申告加算税:
- 納税額の15%(50万円以下の部分)
- 納税額の20%(50万円超の部分)
- 自主的に期限後申告した場合は5%に軽減
延滞税:
- 納期限の翌日から完納日までの日数に応じて計算
- 年率2.4%〜8.7%程度(年度により変動)
さらに、3,000万円特別控除などの特例は確定申告しないと適用されないため、本来受けられる控除が受けられなくなります。
譲渡所得の計算方法
基本計算式(売却額-取得費-譲渡費用)
国税庁の「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」によると、譲渡所得は以下の計算式で算出します。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除
計算例:
- 売却価格: 4,000万円
- 取得費: 2,500万円
- 譲渡費用: 150万円
- 特別控除: 3,000万円
譲渡所得 = 4,000万円 - (2,500万円 + 150万円) - 3,000万円
= 4,000万円 - 2,650万円 - 3,000万円
= -1,650万円(譲渡益なし)
この場合、特別控除後の譲渡所得がマイナスなので、税金は発生しません。
取得費に含められる項目
取得費には、マンションを購入した際にかかった以下の費用が含まれます。
取得費に含まれる項目:
- マンションの購入代金(土地・建物)
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 印紙税
- 測量費
- リフォーム費用(購入直後の大規模改修など、資産価値を高める工事)
- 設備費(エアコン、給湯器などの後付け設備)
注意点:
- 建物部分は減価償却を考慮する必要があります(マイホームの場合、非事業用の償却率を使用)
- リフォーム費用は「資産価値を高めるもの」のみ取得費に含められます(修繕費は除く)
譲渡費用として認められる項目
譲渡費用には、マンションを売却するために直接かかった費用が含まれます。
譲渡費用として認められる項目:
- 売却時の仲介手数料
- 印紙税(売買契約書に貼付)
- 測量費(売却のために実施した場合)
- 建物解体費(売却条件として解体した場合)
- 立退料(賃借人がいた場合)
- 広告費(売却のための広告を自己負担した場合)
譲渡費用に含まれないもの:
- 引越し費用
- 売却前の修繕費(資産価値を維持するだけの修繕)
- 住宅ローンの返済費用
- 抵当権抹消登記費用(売却のための直接費用ではないため)
取得費不明時の概算取得費(売却価格の5%)
購入時の売買契約書や領収書を紛失し、取得費が分からない場合、「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とすることができます。
概算取得費の計算例:
- 売却価格: 4,000万円
- 概算取得費: 4,000万円 × 5% = 200万円
ただし、概算取得費を使用すると取得費が極端に低くなり、譲渡所得が大きく増加します。可能な限り、購入時の資料を探すことをお勧めします。
代替資料の例:
- 購入時の銀行振込記録
- 住宅ローンの契約書(借入金額から推定)
- 固定資産税評価証明書(評価額から推定)
- 購入時の不動産会社の資料
- 登記事項証明書(抵当権設定額から推定)
これらの資料があれば、税理士に相談して取得費を合理的に推定できる場合があります。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率
譲渡所得の税率は、所有期間によって異なります。所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で5年を超えるかどうかで決まります。
短期譲渡所得(所有期間5年以内):
- 所得税: 30.63%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 9%
- 合計: 39.63%
長期譲渡所得(所有期間5年超):
- 所得税: 15.315%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 5%
- 合計: 20.315%
税率の違いによる税額の差(譲渡所得1,000万円の場合):
所有期間 | 税率 | 税額 |
---|---|---|
5年以内(短期) | 39.63% | 396.3万円 |
5年超(長期) | 20.315% | 203.15万円 |
差額 | - | 193.15万円 |
短期譲渡の場合、税負担が約2倍になるため、可能であれば所有期間が5年を超えてから売却する方が有利です。
適用できる特例制度
3,000万円特別控除の要件
国税庁の「No.3302 マイホームを売ったときの特例」によると、自己居住用マンションを売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
適用要件:
- 自分が住んでいたマンションを売却(別荘や投資用は対象外)
- 売却相手が親族や関連会社ではない
- 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていない
- 他の特例(買換え特例など)と併用していない(10年超所有の軽減税率とは併用可)
- 住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却
控除額の計算例:
- 売却価格: 4,000万円
- 取得費: 2,500万円
- 譲渡費用: 150万円
- 譲渡所得: 4,000万円 - 2,650万円 = 1,350万円
- 特別控除: 3,000万円
- 控除後の譲渡所得: 0円(1,350万円 < 3,000万円のため全額控除)
この特例を適用すると、譲渡所得が3,000万円以下であれば税金がかからなくなります。
10年超所有の軽減税率
所有期間が10年を超える自己居住用マンションを売却した場合、譲渡所得のうち6,000万円以下の部分に14.21%の軽減税率が適用されます。
軽減税率の内訳:
- 所得税: 10.21%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 4%
- 合計: 14.21%(6,000万円以下の部分)
- 6,000万円超の部分: 20.315%(長期譲渡所得の通常税率)
適用要件:
- 所有期間が売却した年の1月1日時点で10年超
- 自己居住用マンション(3,000万円特別控除の要件と同じ)
- 3,000万円特別控除と併用可能
併用時の計算例:
- 譲渡所得: 5,000万円
- 3,000万円特別控除適用後: 2,000万円
- 軽減税率適用: 2,000万円 × 14.21% = 284.2万円
3,000万円特別控除と併用することで、大幅な節税が可能です。
買換え特例の概要
国税庁の「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」によると、マンションを売却して新しい住宅を購入する場合、譲渡益への課税を繰り延べる特例があります。
買換え特例の要件:
- 所有期間が売却した年の1月1日時点で10年超
- 居住期間が10年以上
- 売却価格が1億円以下
- 買換え住宅の床面積が50㎡以上
- 売却した年の前年から翌年までに買換え住宅を取得
注意点:
- 3,000万円特別控除や軽減税率とは併用不可
- 課税の繰延であり、免除ではない(次回売却時に課税される)
- 売却価格より購入価格が高い場合のみ適用可能
どちらが有利かは個別の状況によるため、税理士に相談することをお勧めします。
譲渡損失の損益通算
国税庁の「No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」によると、マンション売却で損失が出た場合、一定の要件を満たせば他の所得(給与所得など)と損益通算できます。
損益通算の要件:
- 所有期間が売却した年の1月1日時点で5年超
- 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに買換え住宅を取得
- 買換え住宅に住宅ローン(返済期間10年以上)がある
- 譲渡損失 = 売却価格 - 住宅ローン残高(売却価格の方が低い場合のみ)
損益通算により、給与所得などの税金が還付される可能性があります。また、控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越すことができます。
特例の併用可否
特例の併用可否をまとめると以下の通りです。
特例1 | 特例2 | 併用 |
---|---|---|
3,000万円控除 | 10年超所有の軽減税率 | 可 |
3,000万円控除 | 買換え特例 | 不可 |
10年超所有の軽減税率 | 買換え特例 | 不可 |
譲渡損失の損益通算 | 他の特例 | 条件次第 |
どの特例を適用するかは、譲渡所得の金額、買換えの有無、住宅ローンの残高などによって判断します。
必要書類の準備
確定申告書第三表
譲渡所得は、確定申告書第三表(分離課税用)に記入します。通常の確定申告書(第一表・第二表)に加えて、第三表を作成します。
譲渡所得の内訳書
「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」を作成します。売却したマンションの所在地、売却価格、取得費、譲渡費用などを詳細に記入します。
売買契約書のコピー
売却時の売買契約書: 売却価格、売却日、買主の氏名を確認するため
購入時の売買契約書: 取得費の証明として必須(紛失した場合は代替資料を探す)
領収書(仲介手数料等)
購入時の領収書:
- 仲介手数料
- 登記費用(司法書士報酬、登録免許税)
- 不動産取得税
- リフォーム費用(資産価値を高める工事)
売却時の領収書:
- 仲介手数料
- 測量費
- 広告費(自己負担した場合)
登記事項証明書
マンションの所有権を証明するため、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得します。法務局の窓口またはオンライン申請で取得できます。
特例適用時の追加書類
3,000万円特別控除を適用する場合:
- 住民票の写し(売却時の住所確認)
- マイナンバー確認書類
10年超所有の軽減税率を適用する場合:
- 登記事項証明書(所有期間の確認)
買換え特例を適用する場合:
- 買換え住宅の売買契約書
- 買換え住宅の登記事項証明書
譲渡損失の損益通算を行う場合:
- 住宅ローンの残高証明書
- 買換え住宅の登記事項証明書
三井のリハウスの「マンション売却の確定申告のやり方」も参考にしてください。
確定申告の手続きと期限
申告期限(売却翌年2月16日~3月15日)
マンションを売却した年の翌年2月16日から3月15日までが確定申告期間です。この期間内に、税務署に申告書を提出し、納税します。
スケジュール例(2024年に売却した場合):
- 2024年: マンション売却
- 2025年1月: 必要書類の準備開始
- 2025年2月16日〜3月15日: 確定申告
- 2025年3月15日: 納税期限
確定申告書等作成コーナーの利用
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の指示に従って入力するだけで申告書を作成できます。
利用手順:
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセス
- 「作成開始」をクリック
- 「分離課税の所得」を選択
- 「土地建物等の譲渡所得」を選択
- 画面の指示に従って入力
- 申告書をPDF出力またはe-Taxで送信
e-Tax(電子申告)の方法
e-Taxを利用すると、自宅から24時間申告できます。
e-Tax利用のメリット:
- 税務署に行く必要がない
- 24時間受付
- 添付書類の省略(PDF化して送信)
- 還付が早い(3週間程度)
e-Tax利用に必要なもの:
- マイナンバーカード
- ICカードリーダーまたはスマートフォン(マイナンバーカード読み取り用)
- パソコンまたはスマートフォン
郵送・窓口申告の手順
e-Taxを利用しない場合、郵送または税務署の窓口で申告できます。
郵送申告:
- 確定申告書、添付書類を封筒に入れて郵送
- 控えが必要な場合は、返信用封筒(切手貼付)を同封
- 消印日が提出日となるため、3月15日の消印有効
窓口申告:
- 管轄の税務署に持参
- 申告期間は混雑するため、早めの提出がお勧め
- 相談が必要な場合は、税務署の相談コーナーを利用
納税の方法とタイミング
譲渡所得の税金は、確定申告書を提出した後、3月15日までに納付します。
納税方法:
- 銀行・郵便局の窓口で納付(納付書を使用)
- インターネットバンキング(e-Tax)
- クレジットカード(手数料がかかる)
- 振替納税(事前に申請が必要)
還付がある場合(源泉徴収税額が多い場合)は、申告後1〜2ヶ月で還付金が振り込まれます。
よくある申告ミスと対策
取得費の計算ミス
よくあるミス:
- 購入時の仲介手数料や登記費用を取得費に含めない
- リフォーム費用を取得費に含めるべきか判断できない
- 建物の減価償却を考慮しない(マイホームでも減価償却が必要)
対策:
- 購入時の領収書を全て保管し、取得費に含められるか確認
- 資産価値を高めるリフォームは取得費、修繕は取得費に含めない
- 税理士に相談して正確な減価償却計算を行う
譲渡費用の範囲の誤認
よくあるミス:
- 引越し費用や修繕費を譲渡費用に含める
- 抵当権抹消登記費用を譲渡費用に含める
- 売却前のリフォーム費用を譲渡費用に含める
対策:
- 譲渡費用は「売却のために直接かかった費用」のみ
- 不明な場合は税務署または税理士に確認
所有期間の判定ミス
よくあるミス:
- 購入日から売却日までの実際の所有期間で判定
- 売却した年の1月1日時点ではなく、売却日時点で判定
対策:
- 所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定
- 5年超かどうかは、売却年の1月1日時点の所有期間で判断
特例要件の確認漏れ
よくあるミス:
- 住まなくなってから3年以上経過してから売却(3,000万円控除が使えない)
- 前年に同じ特例を使っている(重複適用不可)
- 親族への売却(特例対象外)
対策:
- 特例の要件を事前に確認
- 売却時期を調整できる場合は、特例要件を満たすタイミングで売却
必要書類の不備
よくあるミス:
- 購入時の売買契約書を紛失(概算取得費になり税負担増)
- 領収書がなく、譲渡費用を証明できない
- 特例適用に必要な追加書類を添付しない
対策:
- 購入時の書類は売却まで大切に保管
- 紛失した場合は代替資料を探す
- 確定申告前に必要書類チェックリストを確認
まとめ
マンションを売却して譲渡所得が発生した場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。譲渡所得は「売却価格 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除」で計算し、所有期間が5年以内の短期譲渡所得は税率39.63%、5年超の長期譲渡所得は税率20.315%となります。
自己居住用マンションであれば、3,000万円特別控除や10年超所有の軽減税率などの特例を活用することで、大幅な節税が可能です。ただし、特例を適用するには確定申告が必須で、申告しないと特例が受けられません。
確定申告には、売買契約書、領収書、登記事項証明書などが必要で、国税庁の確定申告書等作成コーナーやe-Taxを利用すると、自宅から効率的に申告できます。取得費の計算ミスや特例要件の確認漏れなど、よくあるミスを避けるため、不明点がある場合は税理士に相談することをお勧めします。