買い替え売却土地の確定申告|特例・税率・書類を完全解説

公開日: 2025/10/18

買い替えで土地を売却したときの確定申告の基本

買い替えで土地を売却した場合、譲渡所得税の確定申告が必要です。本記事では、譲渡所得の計算方法、買い替え特例の適用要件、3,000万円控除との選択、確定申告の手続きと必要書類、申告期限まで、実務的な観点から解説します。

この記事のポイント:

  • 譲渡所得の計算式(売却価格−取得費−譲渡費用)
  • 所有期間5年超で税率が約39%→約20%に半減(判定日は売却年の1月1日)
  • 買い替え特例は課税繰延べ(非課税ではない)で3,000万円控除と選択制
  • 土地のみの買い替えは特例対象外(建物と一体での譲渡が必要)
  • 確定申告期限は売却翌年の2月16日〜3月15日

土地売却時の税金計算の基本

(1) 譲渡所得の計算式

土地売却時の譲渡所得は、以下の計算式で算出されます。

譲渡所得 = 売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)

取得費の内訳:

  • 購入価格
  • 購入時の仲介手数料
  • 購入時の登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 測量費・造成費

譲渡費用の内訳:

  • 売却時の仲介手数料
  • 売却時の測量費
  • 解体費(更地にして売却する場合)
  • 印紙税

計算例:

項目 金額
売却価格 5,000万円
取得費(購入価格3,500万円+諸費用200万円) 3,700万円
譲渡費用(仲介手数料など) 180万円
譲渡所得 1,120万円

国税庁の「譲渡所得の計算方法」では、取得費と譲渡費用を漏れなく計上することが重要とされています。

取得費が分からない場合:

購入時の契約書がない場合、売却価格の5%を概算取得費として計上できます。

概算取得費 = 売却価格 × 5%

例: 売却価格5,000万円の場合、概算取得費は250万円となります。ただし、実際の取得費が5%を超える場合は、法務局で取得時期を調査し、実額を算出する方が節税になります。

(2) 長期譲渡所得と短期譲渡所得の違い

土地売却時の税率は、所有期間により大きく異なります。

所有期間 税率 内訳
5年以内(短期譲渡) 約39% 所得税30% + 住民税9%
5年超(長期譲渡) 約20% 所得税15% + 住民税5%

重要: 所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点での所有期間で判断されます。

具体例:

  • 2020年4月に取得した土地を2025年5月に売却
  • 2025年1月1日時点では所有期間4年9ヶ月 → 短期譲渡(税率約39%)
  • 長期譲渡にするには、2026年1月以降の売却が必要

所有期間が5年に近い場合は、売却時期を調整することで税負担を大幅に削減できます。

確定申告の手続きと流れ

(1) 確定申告が必要なケース

土地を売却して譲渡所得(利益)が発生した場合、確定申告が必要です。

確定申告が必要なケース:

  • 譲渡所得(利益)が発生した場合
  • 買い替え特例を適用する場合(譲渡損失でも申告必要)
  • 特定の事業用資産の買換え特例を適用する場合

確定申告が不要なケース:

  • 譲渡損失(赤字)が発生し、特例を適用しない場合

ただし、譲渡損失が出た場合でも、確定申告をすることで損益通算や繰越控除を利用でき、他の所得から税金還付を受けられる可能性があります。

(2) 申告書の記載方法

土地売却の確定申告では、以下の書類を作成します。

  1. 確定申告書B(第一表・第二表)
  2. 確定申告書 第三表(分離課税用): 譲渡所得の計算を記載
  3. 譲渡所得の内訳書(計算明細書): 取得費・譲渡費用の詳細を記載
  4. 特例適用の計算明細書: 買い替え特例を適用する場合

国税庁の「確定申告書の記載方法」では、e-Tax(電子申告)を利用すると、自動計算機能により記載ミスを減らせるとされています。

土地売却で利用できる特例・控除

(1) 特定の事業用資産の買換え特例

事業用の土地を買い替える場合、一定の要件を満たすと、譲渡所得課税を繰延べできる特例があります。

特定の事業用資産の買換え特例の要件:

  • 事業用(賃貸など)の土地を売却
  • 売却年の前年から翌年までに事業用の土地を購入
  • 売却価格と購入価格の関係により繰延割合が決まる

繰延べの計算:

繰延所得 = 譲渡所得 × (購入価格 ÷ 売却価格)
課税所得 = 譲渡所得 − 繰延所得

計算例:

  • 売却価格: 5,000万円
  • 購入価格: 6,000万円
  • 譲渡所得: 1,000万円
繰延所得 = 1,000万円 × (6,000万円 ÷ 5,000万円) = 1,000万円(全額繰延)
課税所得 = 1,000万円 − 1,000万円 = 0円

購入価格が売却価格以上の場合、譲渡所得の全額を繰延べできます。

注意: この特例は課税の繰延べであり、非課税ではありません。買い替えた土地を将来売却する際に、繰延べた譲渡所得が課税されます。

(2) その他の節税制度

土地売却時に利用できる主な特例は以下の通りです。

特例 対象 効果
居住用財産の3,000万円特別控除 居住用の土地(建物と一体) 譲渡所得から3,000万円控除
特定居住用財産の買換え特例 10年超所有の居住用土地 課税繰延べ
相続財産の取得費加算 相続後3年10ヶ月以内の売却 相続税を取得費に加算

重要: 土地のみの売却では、居住用財産の特例は適用されません。建物と一体で譲渡する必要があります。

3,000万円控除と買い替え特例の選択:

これらの特例は併用できないため、どちらか一方を選択します。

  • 3,000万円控除: 譲渡所得が3,000万円以下なら税金がゼロになる
  • 買い替え特例: 譲渡所得が3,000万円を超える場合、課税を繰延べられる

一般的に、譲渡所得が3,000万円以下なら3,000万円控除、超える場合は買い替え特例を選択する方が有利です。

必要書類の準備と提出方法

(1) 売買契約書と印紙税

確定申告では、以下の書類が必要です。

基本的な必要書類:

  1. 売却時の売買契約書(コピー): 売却価格・売却日を証明
  2. 購入時の売買契約書(コピー): 取得費を証明
  3. 仲介手数料の領収書: 譲渡費用を証明
  4. 測量費・解体費の領収書: 譲渡費用を証明
  5. 登記事項証明書: 所有期間を証明

買い替え特例を適用する場合の追加書類:

  • 新しく購入した土地の売買契約書(コピー)
  • 新しい土地の登記事項証明書
  • 事業用であることを証明する書類(賃貸借契約書など)

国税庁によると、売買契約書に貼付する印紙税は譲渡費用として計上できます。

(2) その他の必要書類

取得費が分からない場合や、特例を適用する場合は、以下の書類も必要です。

  • 取得時期が分かる書類: 法務局の登記簿謄本(閉鎖登記簿)
  • 相続で取得した場合: 相続税の申告書・遺産分割協議書
  • 贈与で取得した場合: 贈与契約書・贈与税の申告書

取得費の証明は税額に大きく影響するため、可能な限り実額を証明する書類を準備しましょう。

申告期限と納付スケジュール

(1) 確定申告の期限(2月16日〜3月15日)

土地を売却した年の翌年、2月16日から3月15日までに確定申告を行います。

具体例:

  • 2024年中に土地を売却 → 2025年2月16日〜3月15日に確定申告

期限が土日祝日の場合は、翌平日が期限となります。

e-Tax(電子申告)の利用:

e-Taxを利用すると、自宅から24時間申告でき、添付書類の一部を省略できます。また、還付金の受取が早くなるメリットもあります。

(2) 納付方法と延納制度

確定申告後、税金を納付します。

納付方法:

  • 銀行・郵便局での現金納付
  • 口座振替(事前登録が必要)
  • クレジットカード納付(決済手数料がかかる)
  • コンビニ納付(納税額30万円以下)
  • e-Tax経由でのネットバンキング納付

延納制度:

納税額が多額の場合、納期限までに半額を納付し、残りを5月末まで延納できる制度があります。ただし、延納期間中は利子税(年率0.9%程度)がかかります。

よくある間違いと注意点

(1) 取得費と譲渡費用の計上漏れ

取得費と譲渡費用の計上漏れは、税額を高くする原因となります。

計上漏れが多い項目:

  • 購入時の仲介手数料
  • 購入時の登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 売却時の測量費・解体費
  • 印紙税

領収書や契約書を整理し、漏れなく計上しましょう。

取得費が分からない場合の対策:

概算取得費(売却価格の5%)を使うと税負担が大きくなる場合があります。以下の方法で取得費を調査できます。

  1. 法務局で登記簿謄本を取得: 取得時期が分かれば、当時の公示地価から推定可能
  2. 金融機関に住宅ローンの記録を照会: 借入額から購入価格を推定
  3. 不動産会社に過去の取引記録を照会: 仲介した不動産会社に記録が残っている場合あり

(2) 特例適用要件の確認不足

買い替え特例や3,000万円控除には、細かい要件があります。

よくある適用要件の見落とし:

  • 土地のみの売却: 居住用財産の特例は、建物と一体での譲渡が必要
  • 所有期間の判定ミス: 売却年の1月1日時点で判定
  • 居住期間の要件: 3,000万円控除は、売却前3年以内に居住していた必要あり
  • 面積・価格要件: 買い替え特例には、土地面積500㎡以下、建物床面積50㎡以上などの要件あり

特例の適用要件は複雑なため、税理士に相談することをお勧めします。

期限後申告のペナルティ:

確定申告の期限に遅れると、以下のペナルティが課されます。

  • 無申告加算税: 本来の税額の5-20%
  • 延滞税: 年率2.4-8.7%程度(年により変動)
  • 特例の適用不可: 買い替え特例や3,000万円控除が適用できなくなる場合あり

期限内申告を心がけましょう。

まとめ

買い替えで土地を売却した場合、譲渡所得の確定申告が必要です。譲渡所得は「売却価格−(取得費+譲渡費用)」で計算され、所有期間5年超で税率が約39%から約20%に半減します。所有期間の判定は売却年の1月1日時点で行われるため、売却時期の調整が重要です。

買い替え特例は課税の繰延べであり、非課税ではありません。3,000万円控除と併用できないため、譲渡所得の額に応じて有利な方を選択します。また、土地のみの売却では居住用財産の特例は適用されず、建物と一体での譲渡が必要です。

確定申告期限は売却翌年の2月16日から3月15日です。期限に遅れると無申告加算税や延滞税が課され、特例が適用できなくなる場合があるため、期限内に申告しましょう。

取得費と譲渡費用は漏れなく計上し、特例の適用要件を正確に確認することが、税負担を最小化する鍵です。不明点がある場合は、税理士に相談することをお勧めします。

よくある質問

Q1土地売却で利益が出なかった場合も確定申告は必要ですか?

A1譲渡損失(赤字)が出た場合、確定申告は義務ではありません。ただし、確定申告をすることで損益通算や繰越控除を利用でき、他の所得(給与所得など)から税金還付を受けられる可能性があります。特に、買い替えで新しい土地を購入した場合、譲渡損失を他の所得と損益通算できる特例があります。申告した方が有利なケースが多いため、税理士に相談することをお勧めします。

Q2取得費が分からない場合はどうすればいいですか?

A2購入時の契約書などがない場合、売却価格の5%を概算取得費として計上できます。例えば、売却価格5,000万円の場合、概算取得費は250万円となります。ただし、実際の取得費が5%を超える場合は、概算取得費を使うと税負担が大きくなります。法務局で登記簿謄本(閉鎖登記簿)を取得して取得時期を調査したり、金融機関に住宅ローンの記録を照会したりすることで、実額を算出できる場合があります。実額を証明できれば、節税効果が大きくなるため、調査する価値があります。

Q3確定申告の期限に遅れた場合、どうなりますか?

A3期限後申告となり、無申告加算税(本来の税額の5-20%)や延滞税(年率2.4-8.7%程度)が課されます。また、買い替え特例や3,000万円控除などの特例の適用を受けられなくなる場合があります。確定申告期限は売却翌年の2月16日から3月15日です。期限が土日祝日の場合は翌平日が期限となります。e-Tax(電子申告)を利用すると24時間申告でき、期限ギリギリでも対応しやすくなります。必ず期限内に申告するよう心がけましょう。

Q4相続した土地を売却した場合、確定申告はどうすればいいですか?

A4相続で取得した土地を売却する場合、相続税の申告期限から3年10ヶ月以内の売却であれば、支払った相続税を取得費に加算できる特例があります。この特例により、譲渡所得が減少し、税負担が軽減されます。取得費は、被相続人(亡くなった方)が取得した時の価格を引き継ぎます。相続時の評価額ではなく、被相続人の取得価格が基準となる点に注意してください。確定申告では、相続税の申告書や遺産分割協議書を添付し、特例適用を申請します。詳細は税理士に相談することをお勧めします。

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