買い替えによる土地購入の基礎知識
既存の不動産を売却して土地を購入する「買い替え」では、旧居の売却と新規の土地購入が連動するため、税務処理が複雑になります。売却益が出れば譲渡所得税が課税され、損失が出れば損益通算・繰越控除が適用できます。
土地のみの購入は住宅ローン控除の対象外ですが、2年以内に住宅を建築すれば遡って控除を受けられます。本記事では、買い替えで土地を購入したときの確定申告・税金計算・必要書類を実務視点で解説します。
この記事でわかること
- 買い替えの定義と旧居売却とのタイミング調整
- 土地購入時の税金(不動産取得税・登録免許税・印紙税)
- 買い替え特例・譲渡損失の繰越控除の適用要件
- 取得費に算入できる諸費用(仲介手数料・登記費用・造成費等)
- 確定申告の手順と必要書類
買い替えの定義と範囲
買い替えとは、既存の不動産を売却し、その資金で新たな不動産を購入することです。
買い替えの典型的なパターン
- 自宅マンションを売却して土地を購入(注文住宅用)
- 自宅戸建てを売却して土地を購入(建て替え用)
- 投資用物件を売却して土地を購入(新たな投資用)
本記事では、居住用財産(自宅)を売却して土地を購入する場合を中心に解説しますが、投資用物件の買い替えにも一部適用できます。
旧居売却とのタイミング調整
買い替えでは、旧居の売却と土地購入のタイミング調整が重要です。
売り先行(旧居売却→土地購入)
- メリット:資金計画が明確、つなぎ融資不要
- デメリット:仮住まいが必要、引越し2回
買い先行(土地購入→旧居売却)
- メリット:仮住まい不要、引越し1回
- デメリット:つなぎ融資が必要、金利負担増
同時決済
- メリット:仮住まい・つなぎ融資不要
- デメリット:タイミング調整が難しい
買い替え特例や譲渡損失の繰越控除には、旧居売却と新居(土地)購入の期間制限があるため、タイミング調整が税務上も重要です。
住宅建築予定の場合の注意点
土地を購入後に住宅を建築する予定の場合、以下の点に注意が必要です。
住宅ローン控除
- 土地取得後2年以内に住宅を建築して居住開始
- 土地取得費も住宅ローン控除の対象
買い替え特例・譲渡損失の繰越控除
- 新居(土地+住宅)の取得が要件
- 土地のみでは適用されない場合がある
不動産取得税の軽減措置
- 土地取得後3年以内に住宅を建築
- 軽減措置の適用を受けられる
土地購入後の住宅建築計画を明確にし、期限内に完成させることが税務上重要です。
土地購入時の各種税金
不動産取得税の計算と軽減措置
土地を購入したときに課税される地方税です(総務省「不動産取得税の申告と軽減措置」)。
税率
- 土地:固定資産税評価額 × 3%(令和6年3月31日まで)
- 原則は4%だが、特例で3%に軽減
軽減措置
- 住宅用地:固定資産税評価額を1/2に減額
- 適用要件:土地取得後3年以内に住宅を建築
計算例
- 固定資産税評価額:1500万円
- 軽減措置適用:1500万円 × 1/2 = 750万円
- 不動産取得税:750万円 × 3% = 22.5万円
申告期限
- 土地取得後60日以内(自治体により異なる)
- 軽減措置の申請も同時に行う
不動産取得税は自治体から納税通知書が送付されますが、軽減措置は自己申告が必要なため、期限内に申請してください。
登録免許税の計算
土地の所有権移転登記時に課税される国税です(国税庁「登録免許税の計算と納付方法」)。
税率
- 土地の所有権移転登記:固定資産税評価額 × 2.0%
- 軽減措置(令和8年3月31日まで):1.5%
計算例
- 固定資産税評価額:1500万円
- 登録免許税:1500万円 × 1.5% = 22.5万円
登録免許税は登記申請時に現金または収入印紙で納付します。司法書士に依頼すれば代理納付してもらえます。
印紙税
土地の売買契約書に貼付する印紙税です。
契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1000万円超〜5000万円以下 | 1万円 |
5000万円超〜1億円以下 | 3万円 |
1億円超〜5億円以下 | 6万円 |
印紙税は売買契約書に印紙を貼付して消印することで納付します。
旧居売却と連動する税制優遇
特定居住用財産の買換え特例
居住用財産を買い替えた場合、旧居の譲渡益への課税を将来に繰り延べることができる制度です(国税庁「特定居住用財産の買換え特例」)。
適用要件
- 譲渡対価が1億円以下
- 所有期間10年超、居住期間10年以上
- 新居(土地+住宅)の床面積50㎡以上、土地面積500㎡以下
- 旧居売却の前年から翌年までの3年間に新居を取得
繰延のメカニズム
- 旧居の譲渡益への課税を将来の売却時まで繰り延べ
- 新居(土地)の取得費は、旧居の取得費を引き継ぐ
計算例
- 旧居の取得費:2000万円
- 旧居の譲渡価格:5000万円(譲渡益3000万円)
- 新居(土地)の購入価格:6000万円
- 買換え特例適用:譲渡益3000万円への課税を繰り延べ
- 新居(土地)の取得費:6000万円 - 3000万円 = 3000万円(将来売却時)
買換え特例は将来の売却時に課税されるため、長期保有を前提とした場合に有利です。
譲渡損失の繰越控除
旧居を売却して損失が出た場合、譲渡損失を給与所得など他の所得と損益通算でき、控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せます(国税庁「買い替え特例と譲渡損失の繰越控除」)。
適用要件
- 旧居の住宅ローン残高が売却価格を上回る(オーバーローン)
- 新居を購入し、年末までに居住開始
- 新居で住宅ローンを借入(借入期間10年以上)
計算例
- 旧居の住宅ローン残高:3000万円
- 旧居の譲渡価格:2500万円
- 譲渡損失:500万円
- 給与所得:600万円
- 損益通算後の所得:600万円 - 500万円 = 100万円
譲渡損失は給与所得から控除できるため、所得税・住民税が軽減されます。控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せます。
買い替え特例の適用要件
買い替え特例と譲渡損失の繰越控除は、適用要件が異なります。
項目 | 買換え特例 | 譲渡損失の繰越控除 |
---|---|---|
譲渡価格 | 1億円以下 | 制限なし |
所有期間 | 10年超 | 5年超 |
居住期間 | 10年以上 | 制限なし |
ローン残高 | 制限なし | オーバーローン |
新居の取得 | 必須 | 必須 |
どちらか一方しか適用できないため、税理士と相談して有利な方を選択してください。
確定申告の手順と必要書類
確定申告が必要なケース
買い替えで土地を購入した場合、以下のケースで確定申告が必要です。
旧居を売却して譲渡所得が発生した場合
- 譲渡益が出た場合(買換え特例を適用する場合も申告必要)
- 譲渡損失を損益通算する場合
土地を購入し、住宅建築予定の場合
- 住宅ローン控除の適用を受ける(土地取得後2年以内に住宅建築)
土地を賃貸に出す場合
- 不動産所得が発生(年間20万円超)
買い替え時の添付書類
買い替えで土地を購入し、旧居の譲渡所得を申告する場合、以下の書類が必要です。
旧居の譲渡所得申告
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 確定申告書B(第三表:譲渡所得用)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)
- 旧居の売買契約書のコピー
- 旧居の登記事項証明書
- 旧居の取得費を証明する書類(購入時の売買契約書等)
買換え特例を適用する場合の追加書類
- 買換え特例の適用を受ける旨の申告書
- 新居(土地)の売買契約書のコピー
- 新居(土地)の登記事項証明書
- 住宅建築予定を証明する書類(建築確認申請書等)
譲渡損失の繰越控除を適用する場合の追加書類
- 譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)
- 旧居の住宅ローン残高証明書
- 新居の住宅ローン年末残高証明書
- 新居(土地)の売買契約書のコピー
- 新居(土地)の登記事項証明書
申告期限と提出先
確定申告期限
- 毎年2月16日〜3月15日
- 旧居を売却した年の翌年に申告
提出先
- 住所地を管轄する税務署
- e-Tax(電子申告)なら24時間提出可能
納税期限
- 確定申告期限と同じ(3月15日)
- 振替納税を利用すれば4月下旬に口座引き落とし
取得費に算入できる諸費用
仲介手数料
土地購入時の仲介手数料は、取得費に算入できます。
仲介手数料の相場
- 土地価格3000万円の場合:(3000万円 × 3% + 6万円) × 1.1 = 105.6万円
取得費算入の効果
- 将来土地を売却する際の譲渡所得計算で差し引ける
- 譲渡益が減少し、税負担が軽減される
登記費用・測量費
以下の費用も取得費に算入できます。
費用項目 | 取得費算入 | 備考 |
---|---|---|
登録免許税 | ○ | 所有権移転登記 |
司法書士報酬 | ○ | 登記手続き代行 |
測量費 | ○ | 境界確定測量 |
仲介手数料 | ○ | 不動産会社への支払い |
不動産取得税 | △ | 取得費または必要経費(選択可) |
固定資産税の精算金 | ○ | 引き渡し日以降の按分額 |
領収書の保管
- 取得費を証明するため、領収書を永久保存
- 将来の譲渡所得計算で必要
造成費・整地費用
土地の造成費・整地費用も取得費に算入できます。
取得費算入できる造成費
- 土地の盛土・切土
- 擁壁工事
- 地盤改良工事
- 整地・雑草除去
取得費算入の時期
- 土地購入後の造成費も取得費に算入可能
- 住宅建築前の造成費は土地の取得費
- 住宅建築後の造成費は建物の取得費
造成費の領収書も永久保管し、将来の譲渡所得計算に備えてください。
将来の売却を見据えた記録保存
売買契約書の保管
土地の売買契約書は、取得費を証明する最も重要な書類です。
保管すべき書類
- 土地の売買契約書(原本またはコピー)
- 重要事項説明書
- 仲介手数料の領収書
- 登記費用の領収書
保管期間
- 土地を売却するまで永久保存
- 紛失すると取得費を証明できない
領収書・請求書の整理
取得費に算入できる諸費用の領収書を整理・保管します。
整理方法
- 年度別・項目別にファイリング
- スキャンしてデジタル保存も推奨
- クラウドストレージでバックアップ
保管すべき領収書
- 仲介手数料
- 登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
- 測量費
- 造成費・整地費用
- 不動産取得税(取得費に算入する場合)
取得費の計算方法
将来土地を売却する際の取得費は、以下の式で計算します。
取得費 = 購入価格 + 取得時の諸費用
計算例
- 土地の購入価格:3000万円
- 仲介手数料:105.6万円
- 登記費用(登録免許税+司法書士報酬):50万円
- 測量費:30万円
- 造成費:100万円
- 取得費:3000万円 + 105.6万円 + 50万円 + 30万円 + 100万円 = 3285.6万円
将来土地を5000万円で売却した場合
- 譲渡益:5000万円 - 3285.6万円 = 1714.4万円
- 譲渡所得税(長期譲渡所得):1714.4万円 × 20.315% = 約348万円
取得費を正しく計上することで、税負担を適正化できます。
まとめ
買い替えで土地を購入する場合、以下の点を押さえることが重要です。
土地購入時の税金
- 不動産取得税:固定資産税評価額 × 1.5%(軽減措置適用、3年以内に住宅建築が条件)
- 登録免許税:固定資産税評価額 × 1.5%(軽減措置適用)
- 印紙税:契約金額に応じて
買い替え特例・譲渡損失の繰越控除
- 買換え特例:譲渡益への課税を将来に繰り延べ(所有期間10年超、譲渡対価1億円以下が要件)
- 譲渡損失の繰越控除:給与所得等と損益通算、3年間繰越可能(オーバーローンが条件)
確定申告
- 旧居売却の翌年2〜3月に申告
- 買換え特例・譲渡損失の繰越控除は申告が必須
- 土地購入後2年以内に住宅建築で住宅ローン控除適用
取得費に算入できる諸費用
- 仲介手数料・登記費用・測量費・造成費・整地費用
- 領収書を永久保存し、将来の譲渡所得計算に備える
買い替えで土地を購入する場合、旧居の売却と連動する税制優遇があるため、税理士への相談を推奨します。
よくある質問
買い替えで土地を購入する場合、確定申告は必要ですか?
旧居を売却して譲渡所得が発生した場合、または譲渡損失を繰越控除する場合は確定申告が必要です。土地購入だけであれば申告不要ですが、住宅建築予定で住宅ローン控除を受ける場合は申告が必要です。買換え特例を適用する場合も確定申告が必須です。旧居売却の翌年2月16日〜3月15日に申告してください。
買い替え特例とは何ですか?
居住用財産を買い替えた場合、旧居の譲渡益への課税を将来に繰り延べることができる制度です。一定の要件(譲渡対価1億円以下、所有期間10年超、居住期間10年以上等)を満たす必要があります。課税が免除されるのではなく、新居(土地)を将来売却する際に課税されるため、長期保有を前提とした場合に有利です。
土地購入の諸費用はどこまで取得費に含められますか?
仲介手数料、登記費用、測量費、造成費、整地費用などが取得費に算入できます。これらは将来土地を売却する際の譲渡所得計算で差し引けるため、領収書を保管しておくことが重要です。不動産取得税は取得費に算入するか、購入年度の必要経費とするか選択できます。固定資産税の精算金(引き渡し日以降の按分額)も取得費に算入できます。
旧居売却で損失が出た場合、どうなりますか?
一定の要件を満たせば、譲渡損失を給与所得など他の所得と損益通算でき、控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せます。適用要件は、旧居の住宅ローン残高が売却価格を上回ること(オーバーローン)、新居を購入して年末までに居住開始すること、新居で10年以上の住宅ローンを借入することです。この制度を使うには確定申告が必須です。