買い替え売却の確定申告は選択が重要
戸建てを売却して新居を購入する買い替えでは、売却時の譲渡所得税の申告が必要です。国税庁が定める特例制度には「買換え特例(課税繰延)」「3,000万円特別控除」「譲渡損失の損益通算」があり、どの制度を選ぶかで税負担が大きく変わります。また、買い替え先の住宅ローン控除との併用制限もあるため、事前に正確な情報を把握し、最適な選択をすることが重要です。
この記事のポイント
- 買換え特例は課税を繰延する制度で、買い替え先売却時まで税金を先送りできる
- 3,000万円特別控除は即時非課税だが、買換え特例とは併用不可
- 譲渡損失の損益通算は買い替え先の住宅ローン控除と併用可能
- 所有期間の判定は売却年の1月1日時点で10年超が要件(特例により異なる)
- 必要書類は売却・購入両方の契約書、登記事項証明書、住宅ローン残高証明書など
1. 買い替え特例の仕組みと要件
(1) 特定居住用財産の買換え特例
国税庁の「特定居住用財産の買換え特例」は、一定要件を満たせば譲渡益への課税を買い替え先の売却時まで繰延できる制度です。
仕組み:
- 旧居の売却益に対する税金を買い替え先の売却時まで繰延
- 非課税ではなく、課税を先送りする制度
- 買い替え先を売却する際に、旧居の取得費を引き継いで計算
主な要件:
- 所有期間: 売却年の1月1日時点で10年超
- 居住期間: 売却年の1月1日までに10年以上居住
- 売却価格: 1億円以下
- 買い替え先: 床面積50㎡以上280㎡以下
- 買い替え期間: 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに購入
(2) 譲渡損失の損益通算・繰越控除
買い替えで譲渡損失(売却価格が取得費を下回る)が出た場合、損益通算・繰越控除の特例が適用できます。
仕組み:
- 譲渡損失を給与所得などと損益通算し、所得税・住民税を軽減
- 損失額が大きい場合、翌年以降3年間繰越可能
主な要件:
- 所有期間: 売却年の1月1日時点で5年超
- 住宅ローン残高: 売却時にローン残高あり
- 買い替え先: 床面積50㎡以上
- 買い替え先のローン: 返済期間10年以上の住宅ローンあり
メリット:
- 買い替え先の住宅ローン控除と併用可能(買換え特例との大きな違い)
- 給与所得と相殺して所得税・住民税を軽減
(3) 適用要件の確認
各特例の適用要件を確認し、自分のケースにどれが適用できるかを判断します。
特例 | 所有期間 | 買い替え先のローン控除 | 適用ケース |
---|---|---|---|
買換え特例 | 10年超 | 併用不可 | 譲渡益が大きい場合 |
3,000万円控除 | なし | 併用不可 | 譲渡益が3,000万円以下 |
譲渡損失の損益通算 | 5年超 | 併用可能 | 譲渡損失が出る場合 |
2. 買い替え時の税金計算
(1) 譲渡所得の計算式
譲渡所得は以下の計算式で求めます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費:
- 購入価格 + 購入時の諸費用(仲介手数料、登録免許税、不動産取得税など)
- 建物は減価償却を考慮(木造戸建ての償却率: 年0.046)
譲渡費用:
- 仲介手数料
- 測量費
- 印紙税
- 建物解体費用(更地渡しの場合)
(2) 取得費・譲渡費用の算定
取得費の計算例:
仮に、木造戸建てを20年前に3,000万円で購入し、今回5,000万円で売却する場合:
建物取得費: 2,000万円
土地取得費: 1,000万円
減価償却費: 2,000万円 × 0.9 × 0.046 × 20年 = 1,656万円
減価償却後の建物取得費: 2,000万円 - 1,656万円 = 344万円
取得費合計: 1,000万円(土地) + 344万円(建物) = 1,344万円
譲渡費用の計算例:
仲介手数料: (5,000万円 × 3% + 6万円) × 1.1 = 171.6万円
測量費: 50万円
印紙税: 3万円
譲渡費用合計: 224.6万円
譲渡所得:
5,000万円 - (1,344万円 + 224.6万円) = 3,431.4万円
(3) 特例適用時の計算方法
3,000万円特別控除を適用した場合:
課税譲渡所得: 3,431.4万円 - 3,000万円 = 431.4万円
所有期間10年超の長期譲渡所得税率: 14.21%(所得税10% + 住民税4% + 復興特別所得税0.21%)
税額: 431.4万円 × 14.21% = 約61.3万円
買換え特例を適用した場合:
課税を買い替え先の売却時まで繰延(現時点では課税なし)
買い替え先を売却する際に、旧居の取得費(1,344万円)を引き継いで計算
3. 買い替え売却時の確定申告手続き
(1) 必要書類の準備
買い替え売却時の確定申告には、以下の書類が必要です。
共通書類:
- 確定申告書(第一表・第二表)
- 譲渡所得の内訳書(国税庁HPからダウンロード)
- 売却した戸建ての売買契約書(コピー可)
- 売却した戸建ての登記事項証明書(法務局で取得)
- 取得費の証明書類(購入時の売買契約書、領収書など)
特例別の追加書類:
特例 | 追加書類 |
---|---|
買換え特例 | 買い替え先の売買契約書、登記事項証明書、住民票 |
3,000万円控除 | 住民票、戸籍の附票 |
譲渡損失の損益通算 | 買い替え先の売買契約書、住宅ローン残高証明書、住民票 |
(2) 申告書の作成方法
確定申告書の作成手順:
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセス
- 譲渡所得を選択し、売却物件の情報を入力
- 取得費・譲渡費用を入力
- 特例の選択(買換え特例、3,000万円控除、譲渡損失の損益通算)
- 必要書類をスキャンしてPDF添付(e-Tax利用時)
- 申告書を提出
(3) 提出期限と方法
申告期限:
- 売却した年の翌年2月16日~3月15日
- 引渡し日(決済日)が基準(契約日ではない)
提出方法:
- e-Tax(オンライン申告)
- 郵送(税務署宛て)
- 窓口持参(税務署)
e-Taxを利用すれば、書類の原本提出が不要になり、還付金も早く受け取れます(3週間程度)。
4. 買い替え先の住宅ローン控除
(1) 特例との併用制限
買い替え先の住宅ローン控除は、旧居の売却時に適用した特例により併用制限があります。
旧居の特例 | 買い替え先の住宅ローン控除 |
---|---|
買換え特例 | 併用不可 |
3,000万円控除 | 併用不可 |
譲渡損失の損益通算 | 併用可能 |
重要:
- 買換え特例や3,000万円控除を使うと、買い替え先の住宅ローン控除が受けられない
- 譲渡損失の損益通算は住宅ローン控除と併用可能
(2) 適用要件
買い替え先の住宅ローン控除の要件:
- 床面積: 50㎡以上(合計所得1,000万円以下の場合は40㎡以上)
- 住宅ローン: 返済期間10年以上
- 居住開始: 取得から6ヶ月以内
- 所得制限: 合計所得2,000万円以下
(3) 控除額の計算
新築・買取再販の場合:
- 年末ローン残高の**0.7%**を13年間控除
- 限度額: 認定住宅5,000万円、ZEH水準4,500万円、省エネ基準4,000万円
中古住宅の場合:
- 年末ローン残高の**0.7%**を10年間控除
- 限度額: 認定住宅3,000万円、その他2,000万円
控除額の計算例:
仮に、認定住宅を4,000万円で購入し、年末ローン残高が3,500万円の場合:
年間控除額: 3,500万円 × 0.7% = 24.5万円
13年間の控除総額: 24.5万円 × 13年 = 318.5万円(最大)
5. 特例選択のポイント
(1) 3,000万円控除との比較
買換え特例と3,000万円控除のどちらを選ぶかは、以下の基準で判断します。
項目 | 買換え特例 | 3,000万円控除 |
---|---|---|
課税方法 | 繰延(先送り) | 即時非課税 |
所有期間 | 10年超 | 制限なし |
譲渡益 | 制限なし | 3,000万円まで非課税 |
住宅ローン控除 | 併用不可 | 併用不可 |
適用ケース | 譲渡益が3,000万円超 | 譲渡益が3,000万円以下 |
(2) どちらを選ぶべきか
3,000万円控除を選ぶべきケース:
- 譲渡益が3,000万円以下
- 買い替え先を長期保有する予定(繰延の意味がない)
- 即時に税負担を確定させたい
買換え特例を選ぶべきケース:
- 譲渡益が3,000万円超
- 買い替え先を短期間で売却する予定はない
- 当面の税負担を軽減したい
譲渡損失の損益通算を選ぶべきケース:
- 譲渡損失が発生
- 買い替え先の住宅ローン控除も受けたい
- 給与所得が高く、損益通算で税負担を軽減できる
(3) 税理士への相談推奨
特例の選択は税負担に大きく影響するため、税理士への相談を推奨します。
税理士への相談メリット:
- 複数の特例を比較し、最適な選択をアドバイス
- 申告書の作成を代行し、書類不備を防止
- 税務調査のリスクを軽減
税理士報酬の目安:
- 譲渡所得の確定申告: 5~15万円程度
6. 申告時の注意事項
(1) 面積・価格要件の確認
特例適用には、買い替え先の面積・価格要件があります。
買換え特例:
- 床面積: 50㎡以上280㎡以下
- 売却価格: 1億円以下
譲渡損失の損益通算:
- 床面積: 50㎡以上
- 住宅ローン: 返済期間10年以上
面積は登記簿面積で判定するため、登記事項証明書で確認が必要です。
(2) 所有期間の判定
所有期間の判定は売却年の1月1日時点で行います。
判定例:
仮に、2014年4月1日に購入した戸建てを2024年11月1日に売却した場合:
判定日: 2024年1月1日
所有期間: 2014年4月1日~2024年1月1日 = 9年9ヶ月
→ 10年未満のため、買換え特例は適用不可
購入日・売却日ではなく、売却年の1月1日時点で判定する点に注意が必要です。
(3) 申告期限内の手続き
確定申告は売却した年の翌年2月16日~3月15日が期限です。
期限を過ぎると:
- 特例が適用できない(3,000万円控除など)
- 無申告加算税(5~20%)
- 延滞税(年2.4~8.7%)
期限内に申告できない場合は、税務署に相談し、期限延長の申請を検討します。
まとめ
買い替え売却の確定申告では、特例の選択が税負担を大きく左右します。以下のポイントを押さえ、最適な選択をすることが重要です。
- 買換え特例は課税繰延で、買い替え先売却時まで税金を先送りできる
- 3,000万円特別控除は即時非課税だが、買換え特例とは併用不可
- 譲渡損失の損益通算は買い替え先の住宅ローン控除と併用可能
- 所有期間の判定は売却年の1月1日時点で行う
- 必要書類は売却・購入両方の契約書、登記事項証明書、住宅ローン残高証明書など
- 申告期限は売却した年の翌年2月16日~3月15日
- 税理士への相談で最適な特例選択と申告書作成をサポート
特例の選択ミスや申告漏れを避けるため、早めに税理士に相談し、適切な手続きを進めることをお勧めします。
よくある質問
Q1. 買い替え特例と3,000万円控除はどちらを選ぶべきですか?
A. 譲渡益の大きさで判断します。譲渡益が3,000万円以下なら、3,000万円特別控除を選ぶことで即時に非課税となります。譲渡益が3,000万円超の場合は、買換え特例で課税を買い替え先の売却時まで繰延することができます。ただし、買換え特例は非課税ではなく課税の先送りであるため、買い替え先を長期保有する予定なら3,000万円控除の方が有利な場合もあります。税理士への相談を推奨します。
Q2. 買い替え特例を適用すると住宅ローン控除は使えませんか?
A. 買換え特例(課税繰延)を使うと、買い替え先の住宅ローン控除は併用できません。一方、譲渡損失の損益通算・繰越控除なら、買い替え先の住宅ローン控除と併用可能です。譲渡損失が出る場合は、損益通算を選択することで給与所得と相殺でき、さらに住宅ローン控除も受けられるため、税負担を大幅に軽減できます。
Q3. 買い替えの確定申告に必要な書類は何ですか?
A. 売却・購入両方の売買契約書、登記事項証明書、取得費の証明書類(購入時の売買契約書・領収書)が共通で必要です。特例により追加書類が異なり、買換え特例なら買い替え先の売買契約書・登記事項証明書、譲渡損失の損益通算なら住宅ローン残高証明書が必要です。書類不備で特例が適用できなくなるリスクがあるため、税理士に確認することをお勧めします。
Q4. 売却が翌年にずれ込んだ場合の申告はいつになりますか?
A. 確定申告は、実際の譲渡年(引渡し日が属する年)の翌年2月16日~3月15日に行います。契約日ではなく、引渡し日(決済日)が基準です。例えば、2024年12月に契約し、2025年1月に引渡しをした場合、申告は2026年2月16日~3月15日になります。引渡し日が年をまたぐ場合は注意が必要です。