離婚時戸建て売却の税務基礎知識
離婚に伴い戸建てを売却する場合、財産分与と譲渡所得の課税関係を正しく理解することが重要です。離婚前に売却するか、離婚後に売却するかで税務処理が大きく異なるため、タイミングの選択が税負担を左右します。
この記事の重要ポイント
- 財産分与する側には譲渡所得税が発生する可能性があるが、受ける側は原則非課税
- 共有名義の戸建てを離婚後に売却する場合、各自3,000万円控除を適用でき、最大6,000万円の控除が可能
- 離婚成立後の売却が税務上推奨されるが、個別事情により異なるため税理士相談が重要
- オーバーローン(売却額<ローン残高)で譲渡損失が出た場合、損失繰越控除を受けるには確定申告が必須
- 確定申告は譲渡した年の翌年2月16日~3月15日に行う
(1) 財産分与による譲渡と通常売却の違い
国税庁の「離婚による財産分与の税金」によると、財産分与として不動産を渡す場合、分与する側には譲渡所得税が発生する可能性があります。一方、分与を受ける側は原則として贈与税は課されません(ただし、分与額が過大な場合は贈与税が課される可能性があります)。
財産分与と通常売却の比較
項目 | 財産分与 | 通常売却 |
---|---|---|
譲渡所得税(渡す側) | 発生する可能性あり | 発生する可能性あり |
贈与税(受ける側) | 原則非課税(過大分与は課税) | - |
3,000万円控除 | 適用可能(要件を満たせば) | 適用可能(要件を満たせば) |
売却代金の分配 | 離婚協議で決定 | 共有持分に応じて按分 |
(2) 共有名義の場合の課税関係
共有名義の戸建てを売却する場合、各共有者の持分に応じて譲渡所得を計算します。例えば夫50%・妻50%の共有名義であれば、売却益も50%ずつ按分されます。
共有名義のメリット
- 各自が3,000万円控除を適用できるため、最大6,000万円の控除が可能
- 各共有者が居住実態を満たせば、それぞれ控除を受けられる
財産分与と譲渡所得の関係
(1) 財産分与する側の譲渡所得税
国税庁の資料によると、財産分与として戸建てを渡す場合、分与時の時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得税が課税される可能性があります。
譲渡所得の計算式
譲渡所得 = 譲渡価額(分与時の時価) - 取得費 - 譲渡費用
例えば、購入時3,000万円の戸建てを、離婚時の時価4,000万円で財産分与した場合、1,000万円の譲渡所得が発生します(簡略化した例)。
(2) 財産分与を受ける側の税務
財産分与を受ける側は、原則として贈与税は課されません。これは、財産分与が夫婦の共有財産の清算であり、贈与ではないと考えられるためです。
ただし、以下の場合は贈与税が課される可能性があります。
- 分与額が過大である場合(夫婦の財産状況や離婚の事情から見て不相当に高額)
- 贈与税や相続税を回避する目的で離婚したと認められる場合
(3) 慰謝料・養育費との税務上の区別
財産分与・慰謝料・養育費は税務上異なる扱いを受けます。
項目 | 支払う側 | 受け取る側 |
---|---|---|
財産分与(不動産) | 譲渡所得税が発生する可能性 | 原則非課税(過大分与は贈与税) |
慰謝料 | 非課税(所得控除なし) | 非課税(所得税課税なし) |
養育費 | 非課税(所得控除なし) | 非課税(所得税課税なし) |
譲渡所得の計算方法
(1) 取得費の考え方
国税庁の「譲渡所得の計算のしかた」によると、取得費は購入時の価格と購入にかかった費用の合計です。建物部分は減価償却分を差し引きます。
取得費に含まれる費用
- 購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 購入時の登記費用(登録免許税・司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 測量費用・造成費用
- 増改築費用(購入後に実施したもの)
取得費が不明な場合
購入時の契約書が見つからない場合、**概算取得費(譲渡価額×5%)**を使用できます。ただし、実際の取得費が証明できれば、そちらを使用した方が税負担を軽減できます。
(2) 譲渡費用に含められる費用
譲渡費用は、売却のために直接かかった費用です。
譲渡費用に含まれる費用
- 売却時の仲介手数料
- 売却時の測量費用・境界確定費用
- 建物解体費用(更地渡しの場合)
- 売買契約書の印紙代
- 売却に伴う立退料
譲渡費用に含まれない費用
- 住宅ローンの利息・繰上返済手数料
- 修繕費・固定資産税(売却前の維持費用)
- 引越し費用
(3) 共有持分がある場合の按分計算
共有名義の戸建てを売却する場合、譲渡所得は各共有者の持分に応じて按分します。
按分計算の例
- 売却価格:5,000万円
- 取得費:3,000万円(建物減価償却後)
- 譲渡費用:200万円
- 共有持分:夫50%・妻50%
譲渡所得 = 5,000万円 - 3,000万円 - 200万円 = 1,800万円
夫の譲渡所得 = 1,800万円 × 50% = 900万円
妻の譲渡所得 = 1,800万円 × 50% = 900万円
各自が3,000万円控除を適用できれば、この例では非課税となります。
(4) 減価償却の計算
建物部分は減価償却により、取得費から毎年一定額が減少します。
減価償却費の計算方法(定額法)
減価償却費累計額 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
償却率は建物の構造により異なります。
構造 | 耐用年数(居住用) | 償却率 |
---|---|---|
木造 | 33年 | 0.031 |
鉄骨造(軽量) | 40年 | 0.025 |
鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 |
計算例
木造戸建て(建物取得価額2,000万円、築10年)の場合:
減価償却費累計額 = 2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 10年 = 558万円
取得費(建物) = 2,000万円 - 558万円 = 1,442万円
適用できる特別控除
(1) 3,000万円特別控除の要件
国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によると、居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。
主な適用要件
- 自己の居住用財産であること
- 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
- 売却先が配偶者や直系血族でないこと
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
(2) 居住実態による適用可否
離婚により一方が家を出た場合、居住実態がなくなるため、3年以内に売却しないと控除が適用できなくなります。
ケース別の適用可否
ケース | 3,000万円控除 |
---|---|
離婚後も両者が居住を継続 | 各自適用可能 |
一方が家を出て3年以内に売却 | 両者適用可能 |
一方が家を出て3年超経過後に売却 | 居住継続者のみ適用可能 |
財産分与で一方が取得後すぐ売却 | 取得者は適用不可の可能性 |
(3) 譲渡損失の繰越控除(オーバーローン時)
オーバーローン(売却額<ローン残高)で譲渡損失が出た場合、損失繰越控除により、他の所得から損失を差し引くことができます。
適用要件
- 住宅ローンが残っている居住用財産を売却
- 売却価格がローン残高を下回る(譲渡損失が発生)
- 売却後に新居を購入しない場合でも適用可能(令和5年改正)
損失繰越控除は最長3年間繰り越せます。
確定申告の手続きと必要書類
(1) 申告期限と申告先
確定申告は、譲渡した年の翌年2月16日~3月15日に行います。申告先は、譲渡した年の1月1日時点の住所地を管轄する税務署です。
(2) 確定申告書第三表の記入方法
国税庁の「確定申告に必要な書類」によると、譲渡所得の申告には**確定申告書第三表(分離課税用)**を使用します。
第三表の主な記入欄
- 譲渡価額(売却価格)
- 取得費(購入価格 - 減価償却費)
- 譲渡費用(仲介手数料等)
- 特別控除額(3,000万円控除等)
- 課税譲渡所得金額
(3) 必要書類一覧
確定申告時に提出・添付する書類は以下の通りです。
必須書類
- 確定申告書(第一表・第二表・第三表)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 売買契約書のコピー(購入時・売却時の両方)
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
3,000万円控除を適用する場合の追加書類
- 戸籍の附票のコピー(居住実態の証明)
譲渡損失の繰越控除を適用する場合の追加書類
- ローン残高証明書
- 譲渡損失の金額の明細書
(4) 電子申告(e-Tax)の利用方法
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、オンラインで申告書を作成・提出できます。
e-Taxのメリット
- 自宅から申告できる(税務署へ行く必要がない)
- 24時間受付(メンテナンス時間を除く)
- 還付金の振込が早い(3週間程度)
- マイナンバーカードとICカードリーダーで本人確認
離婚前後の売却タイミングによる違い
(1) 離婚成立前に売却する場合の課税リスク
離婚成立前に売却すると、財産分与との課税関係が複雑化します。売却代金の分配方法によっては、贈与税が課される可能性があります。
リスク
- 共有持分と異なる割合で売却代金を分配すると、差額部分に贈与税が課される可能性
- 離婚協議中の売却は、税務署から贈与税回避目的と判断されるリスク
(2) 離婚成立後に売却する場合のメリット
離婚成立後に売却することで、税務関係が明確化されます。
メリット
- 財産分与として不動産を分与した後、受け取った側が単独で売却できる
- 共有名義のまま売却する場合、各自の持分が明確
- 3,000万円控除の適用要件が満たしやすい
(3) タイミング選択のポイント
離婚成立後の売却が税務上推奨されますが、以下の要素を考慮して判断する必要があります。
- 住宅ローン残高(オーバーローンの場合は早期売却も検討)
- 居住実態(一方が家を出てから3年以内に売却する必要)
- 離婚協議の進捗状況(財産分与の合意形成)
- 市場環境(不動産価格の動向)
個別事情により最適なタイミングは異なるため、税理士への相談が推奨されます。
まとめ
離婚に伴い戸建てを売却する場合、財産分与と譲渡所得の課税関係を正しく理解することが重要です。財産分与する側には譲渡所得税が発生する可能性があり、共有名義の場合は各自3,000万円控除を適用できるため、最大6,000万円の控除が可能です。
離婚成立後の売却が税務上推奨されますが、居住実態や住宅ローン残高、市場環境などを考慮して、最適なタイミングを選択する必要があります。オーバーローンで譲渡損失が発生する場合は、損失繰越控除を活用することで他の所得から損失を差し引くことができます。
確定申告は譲渡した年の翌年2月16日~3月15日に行い、必要書類を揃えて税務署に提出します。税務処理は複雑なため、税理士に相談することで、正確な申告と節税アドバイスが受けられます。