投資売却中古戸建ての必要書類・チェックリスト|完全ガイド

公開日: 2025/10/12

投資用中古戸建て売却で必要な書類を正しく理解する

投資用に保有していた中古戸建てを売却する場合、居住用物件とは異なる書類が必要になります。特に賃借人がいる状態で売却する「オーナーチェンジ物件」では、賃貸借契約書や家賃収支記録など、賃貸運用に関する書類の引継ぎが重要です。

本記事では、投資用中古戸建て売却で必要となる書類を、基本書類・投資用特有書類・建物状態書類に分けて解説します。また、オーナーチェンジ物件の注意点や、売却後の確定申告で必要な書類についても詳しく紹介します。

この記事の要点

  • 投資用物件は賃貸借契約書・レントロール・家賃収支記録が追加で必要
  • オーナーチェンジ物件では敷金・礼金の引継ぎと入居者への通知が必須
  • 建物状況調査(インスペクション)は法的義務ではないが実施すると有利
  • 譲渡所得の計算には減価償却費を考慮した取得費が必要
  • 所有期間5年超で長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下で短期譲渡所得(税率39.63%)

1. 投資用中古戸建て売却における必要書類の全体像

(1) 居住用物件との書類の違い

投資用中古戸建ての売却では、居住用物件の基本書類に加えて、賃貸運用に関する書類が必要です。

書類カテゴリ 居住用物件 投資用物件
登記・権利関係書類 必須 必須
賃貸借契約書 不要 必須
レントロール 不要 必須(賃貸中の場合)
家賃収支記録 不要 推奨(買主の判断材料)
修繕履歴 推奨 特に重要
確定申告書類 3,000万円特別控除 減価償却計算が複雑

投資用物件の買主は、収益性を重視するため、家賃収入実績や修繕費用の履歴が重要な判断材料となります。

(2) オーナーチェンジ物件の場合の注意点

賃借人が入居している状態で売却する「オーナーチェンジ物件」では、以下の点に注意が必要です。

  • 賃貸借契約は新オーナーに引き継がれる(買主が新たな賃貸人となる)
  • 敷金・礼金・前受家賃の引継ぎ処理が必要
  • 入居者への「賃貸人変更通知」を送付し、新オーナーの連絡先と家賃振込先を通知
  • 管理会社がある場合は管理委託契約の変更手続きも必要

国土交通省の「賃貸借契約書と重要事項説明書」標準書式によれば、賃貸借契約の内容を正確に買主に開示することが重要です。

(3) 書類準備のタイミング

投資用中古戸建ての売却では、以下のタイミングで書類を準備します。

売却開始前(1~2週間)

  • 基本書類の確認(登記識別情報、固定資産税納税通知書等)
  • 賃貸借契約書・レントロールの整理
  • 修繕履歴・家賃収支記録の作成

媒介契約締結後(1~2週間)

  • 登記事項証明書の取得
  • 建物状況調査(インスペクション)の実施検討
  • 印鑑証明書の取得

売買契約前(1週間)

  • 賃貸借契約の詳細確認
  • 入居者情報の整理
  • 敷金預り証の準備

2. 基本的な売却必要書類一覧

(1) 登記済権利証(登記識別情報)

不動産の所有権を証明する書類です。2005年以降は「登記識別情報通知」という12桁の英数字による書類に変更されています。売却時の所有権移転登記で必要となるため、早めに所在を確認してください。

紛失した場合は、司法書士による本人確認手続き(事前通知制度または資格者代理人による本人確認)で対応できますが、追加費用(3~5万円程度)と時間がかかります。

(2) 登記事項証明書(登記簿謄本)

現在の登記内容を証明する書類で、所有者、抵当権の有無、建物の構造・面積などが記載されています。法務局の窓口またはオンライン(登記情報提供サービス)で取得できます。

法務局の「土地・建物の登記事項証明書の取得方法」によれば、オンライン申請なら手数料が安く(500円程度)、郵送で受け取れます。

投資用物件の場合、登記情報と実態の不一致(増築・改築の未登記)がないか確認することが重要です。未登記の増改築がある場合、買主の融資審査に影響する可能性があります。

(3) 固定資産税納税通知書

毎年4~6月頃に市区町村から送付される通知書で、固定資産税・都市計画税の年税額が記載されています。売買契約時に年税額を買主と日割り精算するため、最新年度分が必要です。

紛失した場合は、市区町村の資産税課で固定資産税評価証明書を取得できます(手数料300円程度)。

(4) 印鑑証明書と実印

売買契約書や登記申請書に実印を押印し、印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)を添付します。市区町村で発行でき、マイナンバーカードがあればコンビニで取得可能です(手数料200~300円)。

(5) 本人確認書類

売買契約時に運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの本人確認書類が必要です。宅地建物取引業法により、不動産会社は売主・買主の本人確認を行う義務があります。

3. 投資用物件特有の追加書類

(1) 賃貸借契約書

オーナーチェンジ物件の場合、現在の賃貸借契約書が必須です。以下の内容を買主に開示します。

  • 契約期間(更新日含む)
  • 月額賃料・共益費
  • 敷金・礼金の金額
  • 特約事項(ペット可、更新料等)
  • 契約形態(普通借家契約、定期借家契約)

賃貸借契約は新オーナーに引き継がれるため、契約内容を正確に伝えることが重要です。国土交通省の標準契約書式を参考にしてください。

(2) レントロール(賃料収入明細表)

レントロールは、賃貸物件の賃料収入を一覧化した書類です。以下の情報を記載します。

  • 各部屋の賃料・共益費
  • 契約期間・更新日
  • 入居者の属性(個人・法人等)
  • 敷金・礼金の預り状況

投資用物件の買主は、レントロールをもとに収益性を判断します。空室がある場合は、空室期間と理由も記載すると買主の理解が深まります。

(3) 家賃収支記録

過去数年分の家賃収入と支出(管理費、修繕費、固定資産税等)の記録があると、買主が収益性を判断しやすくなります。確定申告書の不動産所得内訳書を提示する方法もあります。

以下の情報を整理してください。

  • 年間家賃収入(実績)
  • 管理費・修繕費
  • 固定資産税・都市計画税
  • 火災保険料
  • その他経費(仲介手数料、広告費等)

(4) 修繕履歴・管理記録

投資用物件では、修繕履歴が収益性の維持に直結するため、買主にとって重要な情報です。以下の記録を整理してください。

  • 屋根・外壁の塗装(時期・費用・施工業者)
  • 給排水設備の交換(時期・費用)
  • シロアリ駆除・防蟻処理
  • 設備故障時の修理記録

修繕履歴があることで、物件の維持管理状況が良好であることを証明でき、査定価格のプラス要因になります。

(5) 入居者情報と敷金・礼金の扱い

オーナーチェンジ物件では、入居者情報と敷金の引継ぎが必要です。

入居者情報

  • 入居者氏名(個人情報保護に配慮)
  • 入居時期
  • 契約更新履歴
  • 家賃滞納の有無

敷金の引継ぎ

  • 敷金預り金額
  • 敷金預り証(領収書)
  • 原状回復特約の内容

敷金は新オーナーに引き継がれるため、預り金額を売買代金から精算するのが一般的です。引渡し時に「敷金預り証」を新オーナーに交付します。

4. 建物の状態に関する書類

(1) 建物状況調査(インスペクション)報告書

建物状況調査(インスペクション)とは、建築士等の専門家が建物の劣化状況や欠陥の有無を調査することです。2018年の宅地建物取引業法改正により、既存住宅取引時に実施の有無を説明する義務が生じました。

国土交通省の「建物状況調査(インスペクション)ガイドライン」によれば、以下の項目を調査します。

  • 構造耐力上主要な部分(基礎、柱、梁等)
  • 雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁等)
  • 設備配管(給排水管の劣化等)

費用は5~10万円程度、調査時間は2~3時間程度です。報告書があると買主の不安が軽減され、売却が円滑に進みます。

(2) 設備・修繕の記録

給湯器、エアコン、キッチン、浴室などの設備交換記録があると、買主が維持費用を見積もりやすくなります。設備の保証書や取扱説明書も一緒に提供してください。

(3) 耐震診断書(ある場合)

1981年以前に建築された物件(旧耐震基準)の場合、耐震診断を実施していれば診断書を提供してください。耐震基準適合証明書があれば、買主が住宅ローン控除を受けられる可能性があります。

(4) リフォーム・リノベーション履歴

賃貸運用中にリフォームを実施した場合、その履歴を記録してください。以下の情報があると買主の評価が高まります。

  • リフォーム時期
  • 工事内容(水回り、内装、外壁等)
  • 工事費用
  • 施工業者名
  • 領収書または見積書のコピー

5. 売却後の確定申告に必要な書類

(1) 売買契約書の写し

売却時の売買契約書は、譲渡所得の計算で売却価格を証明する書類です。確定申告時に添付するため、コピーを保管してください。

(2) 取得時の契約書・領収書

不動産を購入した際の売買契約書や領収書は、取得費を証明する書類です。国税庁の「譲渡所得の計算方法と確定申告」によれば、取得費が不明の場合は売却価格の5%を取得費とみなす(概算取得費)ことになり、税負担が大きくなります。

取得時の契約書を紛失した場合、以下の書類で取得費を推定できる場合があります。

  • 固定資産税評価証明書
  • 購入時の銀行振込記録
  • 住宅ローン契約書
  • 不動産登記の記録(購入時期の推定)

(3) 譲渡費用の領収書

譲渡費用とは、売却に直接かかった費用で、以下が該当します。

  • 仲介手数料
  • 印紙税
  • 測量費
  • 建物解体費(売却のために解体した場合)
  • 立退料(売却のために賃借人に支払った場合)

これらの領収書を保管し、確定申告時に添付してください。

(4) 固定資産税評価証明書

取得費不明の場合や、建物の減価償却計算で使用します。市区町村の資産税課で取得できます(手数料300円程度)。

(5) 減価償却計算書

投資用物件の場合、取得費は購入価格から減価償却費を差し引いた金額となります。減価償却の計算は複雑なため、税理士に依頼することを推奨します。

減価償却の基本

  • 建物部分のみが減価償却の対象(土地は対象外)
  • 木造住宅の耐用年数:22年
  • 鉄骨造の耐用年数:34年(骨格材の厚さによる)
  • 減価償却方法:定額法(投資用は定率法も可能)

所有期間が5年超の場合は長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下の場合は短期譲渡所得(税率39.63%)となります。所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で計算する点に注意してください。

6. 書類準備から引渡しまでのチェックリスト

(1) 売却開始前の準備

  • 登記識別情報(権利証)の所在確認
  • 固定資産税納税通知書の所在確認
  • 賃貸借契約書の整理
  • レントロールの作成
  • 家賃収支記録の整理
  • 修繕履歴の記録作成

(2) 契約時の必要書類

  • 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 印鑑証明書(3ヶ月以内)
  • 実印
  • 本人確認書類
  • 賃貸借契約書の写し
  • 建物状況調査報告書(実施した場合)

(3) 決済・引渡し時の必要書類

  • 登記識別情報(権利証)
  • 印鑑証明書(3ヶ月以内)
  • 実印
  • 固定資産税納税通知書
  • 公共料金の精算書
  • 敷金預り証

(4) 賃貸借契約の引継ぎ手続き

  • 賃貸人変更通知の作成・送付
  • 敷金の引継ぎ処理
  • 前受家賃の精算
  • 管理会社への通知(管理委託契約の変更)
  • 家賃振込先の変更通知

賃貸人変更通知は、決済日の1週間前までに入居者に送付することを推奨します。新オーナーの連絡先、家賃振込先、管理会社の変更内容を記載してください。

まとめ

投資用中古戸建て売却では、基本書類に加えて、賃貸借契約書・レントロール・家賃収支記録が必要です。オーナーチェンジ物件では、敷金・礼金の引継ぎと入居者への「賃貸人変更通知」が必須となります。

建物状況調査(インスペクション)は法的義務ではありませんが、実施すると買主の不安が軽減され、売却がスムーズに進みます。費用は5~10万円程度です。

譲渡所得の計算には、減価償却費を考慮した取得費が必要です。所有期間5年超で長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下で短期譲渡所得(税率39.63%)となります。減価償却の計算は複雑なため、税理士への相談を推奨します。

賃貸借契約の引継ぎ、敷金の精算、入居者への通知など、オーナーチェンジ物件特有の手続きを計画的に進めてください。

よくある質問

Q1オーナーチェンジ物件の場合、追加で必要な書類は?

A1賃貸借契約書、レントロール(賃料明細)、敷金預り証、家賃収支記録、入居者への通知書が必要です。賃貸借契約は新オーナーに引き継がれるため、契約内容の詳細を買主に開示してください。敷金も引き継ぐため、預り金額の証明が重要です。決済時に敷金を売買代金から精算し、新オーナーに預り証を交付します。

Q2建物状況調査(インスペクション)は必須ですか?

A2法的義務ではありませんが、2018年の宅建業法改正で実施の有無を説明する義務があります。実施すると売却がスムーズになり、価格交渉で有利です。費用は5~10万円程度、調査時間は2~3時間程度です。築年数が古い物件や、買主が住宅ローンを利用する場合は実施を推奨します。

Q3取得時の契約書を紛失した場合、譲渡所得の計算はどうなりますか?

A3取得費不明の場合、売却価格の5%を取得費とみなす(概算取得費)ことになり、税負担が大きくなります。固定資産税評価証明書、購入時の銀行振込記録、住宅ローン契約書等で取得費を推定できる場合もあります。減価償却の計算も必要になるため、税理士に相談することを推奨します。

Q4賃貸借契約の引継ぎはどのように行いますか?

A4決済時に賃貸借契約、敷金、前受家賃を新オーナーに引き継ぎます。入居者には「賃貸人変更通知」を送付し、新オーナーの連絡先と家賃振込先を通知してください。敷金の引継ぎ額は売買代金から精算するのが一般的です。管理会社がある場合は管理委託契約も変更します。通知は決済日の1週間前までに送付することを推奨します。

Q5投資用物件の譲渡所得税はどう計算しますか?

A5売却価格-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得です。取得費は購入価格から減価償却費を差し引いた額となります。所有期間5年超で長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下で短期譲渡所得(税率39.63%)です。所有期間の判定は売却した年の1月1日時点で計算します。減価償却の計算が複雑なため、税理士への相談を推奨します。

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