投資用中古戸建て購入で必要な書類の全体像
投資用中古戸建ての購入では、居住用と異なる書類準備が必要です。金融機関は物件の収益性を重視するため、事業計画書や物件評価書など投資特有の書類が求められます。また、建物の劣化状況を把握するインスペクションや修繕履歴の確認も重要です。
投資用中古戸建て購入で押さえるべきポイント
- 不動産投資ローンは事業性評価のため、事業計画書・収支計画書が必須
- 建物状況調査(インスペクション)で修繕費を見積もり、投資判断の精度を高める
- 減価償却資産台帳や賃貸契約書など、確定申告に必要な書類を購入時から準備
- 住宅ローン控除が使えないため、不動産所得の節税対策が重要
- 金融機関ごとに必要書類が大きく異なるため、事前確認が必須
(1) 投資用と居住用の必要書類の違い
投資用と居住用では、融資の性質が根本的に異なります。
項目 | 投資用 | 居住用 |
---|---|---|
ローン種類 | 不動産投資ローン(事業性融資) | 住宅ローン |
金利 | 2-4%台 | 0.5-1%台 |
審査基準 | 物件の収益性+借主の返済能力 | 借主の返済能力 |
必要書類 | 事業計画書・レントロール・物件評価書 | 本人確認・収入証明 |
頭金 | 2-3割必要なケース多い | 1割または頭金なし |
国土交通省の投資用不動産購入時の必要書類案内(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000046.html)では、投資用中古住宅購入の標準的な必要書類として、売買契約書、重要事項説明書、登記関連書類が挙げられています。
(2) 購入手続きの流れと書類準備のタイミング
物件選定・融資相談(1-2か月前)
- 物件情報資料の収集
- 金融機関への融資相談(必要書類リストの確認)
- 事業計画書の作成開始
融資申込・物件調査(1か月前)
- 不動産投資ローン申込書類の提出
- インスペクション(建物状況調査)の実施
- 修繕履歴・設備点検記録の確認
売買契約(2週間前)
- 売買契約書・重要事項説明書の受領
- 手付金の支払い
決済・引渡し
- 登記関連書類の準備
- 残代金決済・所有権移転登記
- 賃貸管理委託契約の締結
不動産投資ローン申込時の必要書類
(1) 本人確認・収入証明書類(確定申告書・源泉徴収票・課税証明書)
住宅金融支援機構の不動産投資ローン申込案内(https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/necessary.html)によれば、投資用不動産ローンには本人確認書類、収入証明書、事業計画書が必要とされています。
本人確認書類
- 運転免許証またはマイナンバーカード
- パスポート(顔写真付き身分証明書)
- 健康保険証(補助書類として)
収入証明書類
給与所得者の場合:
- 源泉徴収票(直近3年分)
- 課税証明書(直近3年分)
- 給与明細(直近3か月分)
自営業・法人経営者の場合:
- 確定申告書(直近3年分)
- 決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 納税証明書(その1・その2)
不動産投資ローンは事業性融資のため、居住用住宅ローンより多くの収入証明書類が求められます。
(2) 事業計画書・収支計画書・資金計画書
事業計画書
投資用不動産の運用方針を記載した書類です。以下の内容を含めます。
- 投資目的(家賃収入・将来の売却益等)
- 物件の収益性分析(表面利回り・実質利回り)
- リスク分析(空室リスク・修繕リスク・金利上昇リスク)
- 出口戦略(売却時期・価格想定)
収支計画書
年間の収入と支出を詳細に記載します。
【収入】
- 家賃収入(想定賃料×12か月×稼働率)
- 更新料・礼金収入
【支出】
- ローン返済額(元利均等返済)
- 管理費・修繕積立金
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料・地震保険料
- 修繕費(年間想定)
- 管理委託手数料(家賃の5%程度)
資金計画書
購入時の資金調達計画です。
- 物件価格
- 諸費用(登記費用・仲介手数料・税金)
- 自己資金
- 借入金額
金融機関により書類の様式や求められる精度が異なるため、融資相談時に確認が必要です。
(3) 物件評価書・レントロール(賃貸借契約一覧)
物件評価書
不動産鑑定士や金融機関が作成する物件の評価書です。立地条件、築年数、建物状態などから担保価値を算出します。
レントロール
オーナーチェンジ物件(入居者付き物件)の場合、既存の賃貸借契約一覧が必要です。
- 入居者情報(氏名・入居年月日)
- 賃料・共益費
- 敷金・礼金
- 契約期間・更新の有無
- 滞納状況
レントロールは物件の収益性を証明する重要書類であり、金融機関の融資判断に直結します。
売買契約・登記関連の必須書類
(1) 売買契約書・重要事項説明書
不動産売買の基本書類です。投資用物件でも居住用と同じ内容が記載されます。
売買契約書の記載事項
- 物件の表示(所在地・地番・地目・地積・建物構造等)
- 売買代金・支払方法
- 引渡時期
- 契約解除条項
- 特約事項
重要事項説明書
宅地建物取引士が説明する物件の重要事項です。
- 登記された権利関係
- 法令上の制限(用途地域・建ぺい率・容積率)
- インフラ整備状況(上下水道・ガス・電気)
- 契約解除に関する事項
投資用物件では、収益性に影響する再建築不可、接道義務違反などの制限に特に注意が必要です。
(2) 登記関連書類(印鑑証明書・住民票・委任状)
法務局の不動産登記申請手続き案内(https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00042.html)によれば、所有権移転登記には登記申請書、印鑑証明書、固定資産評価証明書が必要です。
買主が準備する書類
- 印鑑証明書(発行後3か月以内)
- 住民票(発行後3か月以内)
- 委任状(司法書士に登記を委任する場合)
- 実印
売主から受け取る書類
- 登記識別情報(権利証)
- 印鑑証明書(売主)
- 固定資産税納税通知書
(3) 固定資産税評価証明書・登記事項証明書
固定資産税評価証明書
市区町村役場で取得します(1通300円程度)。登録免許税の算出基準となります。
登記事項証明書
法務局で取得します(1通600円、オンライン請求は500円)。物件の権利関係を確認するため、購入前に必ず取得します。
物件調査・収益性評価に必要な書類
(1) 建物状況調査報告書(インスペクション)
国土交通省の既存住宅状況調査案内(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000068.html)では、中古住宅の構造耐力や劣化状況を専門家が調査する制度が説明されています。
インスペクションの調査項目
- 構造耐力上主要な部分(基礎・柱・梁・壁等)
- 雨水の浸入を防止する部分(屋根・外壁・開口部等)
- シロアリ被害の有無
- 設備の劣化状況(給排水・電気・ガス)
費用と所要時間
- 費用:5-10万円程度
- 所要時間:2-3時間
投資用物件では修繕費が収益性に直結するため、インスペクションの実施を強く推奨します。金融機関も調査報告書を重視します。
(2) 修繕履歴・リフォーム記録・設備点検記録
中古戸建ての価値を判断するため、過去の修繕履歴を確認します。
確認すべき修繕履歴
- 外壁塗装(10-15年周期)
- 屋根修繕(15-20年周期)
- 給排水設備の交換(20-30年)
- シロアリ防除処理(5年周期)
- リフォーム内容(間取り変更・設備更新等)
修繕履歴は確定申告時に減価償却資産として計上できる可能性があるため、領収書とともに保管します。
(3) 建築確認済証・検査済証・設計図書
建築確認済証・検査済証
建築基準法に適合していることを証明する書類です。築年数が古い物件では紛失しているケースが多いですが、市区町村の建築指導課で「台帳記載事項証明書」(1通300円程度)を取得して代替できます。
設計図書
平面図・立面図・配置図などです。リフォーム計画や将来の売却時に必要となります。
税務・賃貸管理に必要な書類
(1) 減価償却資産台帳・売買契約書(取得費の証明)
国税庁の不動産所得の確定申告案内(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm)によれば、不動産所得の計算には減価償却費の計上が必要です。
減価償却資産台帳
建物の取得価額、耐用年数、償却方法を記録する帳簿です。
- 木造戸建て:法定耐用年数22年
- 中古の場合:簡便法で耐用年数を短縮可能
取得費の証明書類
売買契約書は建物・土地の取得費を証明する重要書類です。確定申告時に必要なため、原本を大切に保管します。
(2) 賃貸管理委託契約書・入居者募集広告資料
国土交通省の賃貸住宅管理業法案内(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000268.html)では、賃貸管理に関する法的要件が解説されています。
賃貸管理委託契約書
管理会社に物件管理を委託する場合の契約書です。
- 管理業務の範囲(入居者募集・家賃集金・クレーム対応・修繕手配)
- 管理手数料(家賃の5%程度が一般的)
- 契約期間・解約条件
入居者募集広告資料
想定賃料の根拠となる周辺物件の募集事例です。事業計画書作成時に使用します。
(3) 確定申告用書類(不動産所得の内訳書・青色申告決算書)
不動産所得の内訳書
不動産所得の収入・経費を記載する書類です。確定申告書と一緒に提出します。
青色申告決算書
青色申告を選択する場合に必要です。最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。
保管すべき書類
- 賃貸借契約書(収入の証明)
- 領収書・請求書(経費の証明)
- 固定資産税納税通知書
- 火災保険証券
- 修繕費の領収書
これらは確定申告後も7年間保管する義務があります。
居住用購入との違いと注意点
(1) 住宅ローンと不動産投資ローンの審査基準の違い
項目 | 住宅ローン | 不動産投資ローン |
---|---|---|
審査対象 | 借主の返済能力 | 借主の返済能力+物件の収益性 |
金利 | 0.5-1%台 | 2-4%台 |
審査期間 | 1-2週間 | 2-4週間 |
頭金 | 1割またはなし | 2-3割必要なケース多い |
必要書類 | 本人確認・収入証明 | 事業計画書・収支計画・物件評価書 |
不動産投資ローンは事業性評価のため、審査基準が厳しく金利も高めです。複数の金融機関に相談し、条件を比較することを推奨します。
(2) 住宅ローン控除が使えない投資用物件の税務対策
投資用物件は住宅ローン控除の対象外です。代わりに以下の節税対策があります。
減価償却費の計上
建物の取得費を耐用年数で按分し、毎年経費として計上できます。
青色申告特別控除
最大65万円の所得控除が受けられます(電子申告の場合)。
経費の適正計上
- 修繕費
- 管理費
- 固定資産税
- 火災保険料
- ローン利息(元本は対象外)
- 減価償却費
これらを適正に計上することで、不動産所得を圧縮できます。
(3) 金融機関ごとの必要書類の違いと事前確認の重要性
金融機関により不動産投資ローンの必要書類は大きく異なります。
都市銀行
- 詳細な事業計画書が必要
- 物件評価が厳格
- 金利は比較的低め(2-3%台)
地方銀行
- 地元物件に強い
- 柔軟な審査対応
- 金利は中程度(3%前後)
信用金庫・信用組合
- 地域密着型
- 審査基準が比較的緩い
- 金利はやや高め(3-4%台)
ノンバンク系
- 審査スピードが速い
- 審査基準が緩い
- 金利が高い(4%以上)
融資相談時に必要書類のリストを確認し、早期に準備を始めることが重要です。
まとめ
投資用中古戸建ての購入では、居住用と異なり事業計画書や収支計画書など投資特有の書類が必要です。金融機関は物件の収益性を重視するため、レントロールや物件評価書の準備が融資の鍵となります。また、インスペクション(建物状況調査)により修繕費を見積もり、投資判断の精度を高めることが重要です。購入後は減価償却資産台帳や賃貸契約書など、確定申告に必要な書類を適切に保管しましょう。金融機関ごとに必要書類が異なるため、複数の金融機関に相談し、条件を比較することをおすすめします。