買い替え時の戸建て購入における必要書類の全体像
既存物件を売却して戸建てに買い替える際には、通常の購入時とは異なる書類が必要になります。買い替え特例の活用、住み替えローンの利用、土地・建物それぞれの登記手続きなど、戸建て特有の複雑な手続きに備えて、必要書類を事前に準備することが重要です。
この記事のポイント
- 買い替えでは既存物件の売買契約書や残債証明書が必須
- 戸建ては土地・建物それぞれの登記が必要でマンションより複雑
- 買い替え特例と3,000万円特別控除は併用できない
- 住み替えローンやつなぎ融資には売却予定物件の査定書が必要
- 確定申告時には旧居・新居両方の書類が必要
(1) 必要書類のカテゴリーと取得タイミング
買い替え時の戸建て購入で必要な書類は、以下の4つのカテゴリーに分類されます。
カテゴリー | 主な書類 | 取得タイミング |
---|---|---|
売買契約時 | 本人確認書類、印鑑証明書、住民票 | 契約前1~2週間 |
住宅ローン申込時 | 所得証明書類、既存ローン残債証明書、査定書 | 申込前1ヶ月 |
登記手続き時 | 登記申請書、固定資産評価証明書 | 決済日前後 |
確定申告時 | 売買契約書、譲渡所得計算書、登記事項証明書 | 翌年2~3月 |
各書類には有効期限があるため、取得タイミングを把握しておくことが重要です。特に印鑑証明書や住民票は発行から3ヶ月以内が一般的です。
(2) 買い替え特有の追加書類
通常の戸建て購入に加えて、買い替えの場合は以下の書類が追加で必要になります。
買い替え特有の必須書類
- 既存物件の売買契約書(売却時)
- 住宅ローン残債証明書(金融機関発行)
- 売却予定物件の査定書(不動産会社発行)
- 旧居の登記事項証明書
- 買い替え特例適用時の譲渡所得計算書
これらの書類は、住み替えローンの審査や買い替え特例の適用に不可欠です。金融機関は既存ローンの完済計画を確認するため、売却予定物件の査定書や売買契約書を求めます。
(3) 戸建て特有の書類(土地・建物の登記)
戸建ての場合、マンションと異なり土地と建物それぞれの登記が必要です。
土地の登記に必要な書類
- 土地の登記申請書
- 土地の登記識別情報(売主側)
- 土地の固定資産評価証明書
建物の登記に必要な書類
- 建物の登記申請書
- 建物の登記識別情報(売主側)
- 建物の固定資産評価証明書
- 建築確認済証(新築の場合)
マンションの場合は建物全体の登記の一部を取得する形ですが、戸建ては土地・建物それぞれで完全な所有権移転登記が必要なため、書類も登録免許税も2倍になります。
売買契約時の必要書類
(1) 本人確認書類(運転免許証・パスポート等)
売買契約時には、宅地建物取引業法に基づく本人確認が必要です。
認められる本人確認書類
- 運転免許証
- パスポート
- マイナンバーカード
- 健康保険証(顔写真付き書類と併用)
顔写真付きの公的書類が原則ですが、健康保険証の場合は住民票などの補足書類が必要になることがあります。
(2) 印鑑証明書・実印
売買契約には実印の押印と印鑑証明書の提出が必要です。
印鑑証明書の取得方法
- 市区町村役場の窓口(本人または代理人)
- コンビニエンスストア(マイナンバーカード必要)
- 郵送請求
印鑑証明書の有効期限は発行から3ヶ月以内が一般的です。売買契約と決済(登記)の両方で必要なため、有効期限に注意が必要です。
(3) 手付金・契約金の準備
売買契約時には手付金(売買代金の5~10%程度)の支払いが必要です。
手付金の準備方法
- 現金
- 預金小切手
- 銀行振込
買い替えの場合、既存物件の売却代金を手付金に充てることが多いですが、売却タイミングがずれる場合は自己資金や「つなぎ融資」を利用します。
(4) 住民票
住宅ローンの申し込みや登記手続きには住民票が必要です。
住民票の種類
- 世帯全員の住民票(家族全員で移転する場合)
- 個人の住民票(単身の場合)
- 本籍地記載の有無(登記には本籍地記載が必要な場合あり)
住民票も発行から3ヶ月以内が有効期限です。マイナンバーカードがあればコンビニで取得できます。
住宅ローン・住み替えローン申し込み時の必要書類
(1) 所得証明書類(源泉徴収票・確定申告書)
住宅ローンの審査には所得証明書類が必須です。
会社員の場合
- 源泉徴収票(直近1~3年分)
- 給与明細書(直近3ヶ月分)
- 住民税決定通知書または課税証明書
自営業の場合
- 確定申告書(直近3期分)
- 決算書(直近3期分)
- 納税証明書(その1、その2)
自営業の場合は会社員より審査が厳格化されるため、3期分の確定申告書が求められることが一般的です。
参考: 住宅ローン控除(戸建て)|国税庁
(2) 既存ローン残債証明書
買い替えで住み替えローンを利用する場合、既存住宅ローンの残債証明書が必要です。
残債証明書の取得方法
- 現在の住宅ローン借入先金融機関に依頼
- 発行まで1~2週間程度かかる場合がある
- オンラインバンキングで残高照会できる場合もある
住み替えローンは、既存住宅の売却前に新居を購入する際、旧居のローン残債を新規ローンに組み込める商品です。金融機関は既存ローンの完済計画を確認するため、残債証明書が不可欠です。
(3) 売却予定物件の査定書・売買契約書
住み替えローンやつなぎ融資を利用する場合、売却予定物件の査定書や売買契約書が必要です。
必要な書類
- 不動産会社発行の査定書(売却見込み価格を証明)
- 媒介契約書(売却活動を開始していることの証明)
- 売買契約書(買主が決まっている場合)
金融機関は、売却予定物件の査定額が適正か、既存ローンを完済できるかを確認します。査定書は複数社から取得し、平均値を参考にすることが一般的です。
(4) 物件関連書類(重要事項説明書・建築確認済証)
購入する戸建ての物件関連書類も住宅ローン審査に必要です。
新築戸建ての場合
- 売買契約書
- 重要事項説明書
- 建築確認済証
- 建物表示登記(完了検査済証)
中古戸建ての場合
- 売買契約書
- 重要事項説明書
- 登記事項証明書
- 建築確認済証(あれば)
建築確認済証は、建物が建築基準法に適合していることを証明する重要な書類です。中古戸建ての場合、売主が紛失していることもあるため、事前に確認が必要です。
登記手続き時の必要書類
(1) 登記申請書(土地・建物それぞれ)
所有権移転登記の申請には、土地・建物それぞれの登記申請書が必要です。
登記申請書の記載事項
- 不動産の表示(所在、地番、地目、地積など)
- 登記の目的(所有権移転)
- 登記原因(売買)
- 権利者・義務者(買主・売主)
- 登録免許税額
登記申請書は通常、司法書士が作成します。土地・建物それぞれで作成が必要なため、マンションより手続きが複雑です。
(2) 登記識別情報(売主側)
売主が所有権を証明するために、登記識別情報(旧「権利証」)が必要です。
登記識別情報とは
- 不動産の所有者であることを証明する12桁の英数字
- 平成17年以降に登記した不動産に発行
- それ以前は「登記済証(権利証)」
売主が登記識別情報を紛失している場合、「事前通知」や「公証人による本人確認」などの代替手続きが必要になります。
(3) 印鑑証明書・住民票
登記手続きにも印鑑証明書と住民票が必要です。
登記時に必要な書類
- 売主: 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 買主: 住民票(発行から3ヶ月以内)
- 買主: 印鑑証明書(住宅ローンを利用する場合)
売買契約時に取得した印鑑証明書の有効期限が切れている場合、再取得が必要です。
(4) 固定資産評価証明書
登録免許税の計算に必要な固定資産評価証明書は、土地・建物それぞれで取得します。
固定資産評価証明書の取得方法
- 物件所在地の市区町村役場
- 郵送請求(遠方の場合)
- 発行手数料: 1通300円程度
固定資産評価証明書は毎年4月1日に更新されるため、決済日が4月以降の場合は最新年度のものを取得する必要があります。
買い替え特例活用時の追加書類
(1) 旧居の売買契約書・譲渡所得計算書
買い替え特例を活用する場合、旧居の売却に関する書類が必要です。
必要な書類
- 旧居の売買契約書
- 旧居の取得時の売買契約書(取得費の証明)
- 譲渡費用の領収書(仲介手数料、登記費用など)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)
譲渡所得の計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用
取得費が不明な場合、譲渡価格の5%を概算取得費として計算できますが、実際の取得費が証明できればより有利になることが多いため、購入時の売買契約書は大切に保管しておくことが重要です。
参考: 買い替え特例と譲渡所得|国税庁
(2) 譲渡損失の繰越控除の申告書類
マイホームを売却して損失が出た場合、「譲渡損失の繰越控除」を活用できます。
譲渡損失の繰越控除とは
- マイホーム売却時の損失を翌年以降最長3年間、給与所得等から控除できる制度
- 買い替えの場合、所得制限なし(通常は合計所得3,000万円以下)
- 住宅ローン残債がある場合に適用可能
必要な書類
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)
- 旧居の売買契約書
- 住宅ローン残債証明書
- 新居の登記事項証明書
- 新居の住宅ローン契約書
この制度を活用することで、売却損を給与所得と相殺し、所得税・住民税の還付を受けることができます。
(3) 3,000万円特別控除との併用制限の確認
買い替え特例と居住用財産の3,000万円特別控除は併用できません。
制度の比較
項目 | 3,000万円特別控除 | 買い替え特例 |
---|---|---|
効果 | 譲渡所得から3,000万円控除 | 譲渡益への課税を繰延 |
適用条件 | 譲渡益がある場合 | 買い替えで新居を取得 |
節税タイミング | 即座に節税 | 将来の売却時まで繰延 |
併用 | 買い替え特例と併用不可 | 3,000万円控除と併用不可 |
参考: 3,000万円特別控除|国税庁
どちらを選択するかは、譲渡益の額、将来の売却計画、税負担のシミュレーション結果などを総合的に判断する必要があります。税理士に相談することをお勧めします。
(4) 確定申告時の必要書類(戸建て購入・売却両方)
買い替えの場合、翌年の確定申告で旧居の売却と新居の購入、両方の書類が必要です。
旧居売却の申告書類
- 譲渡所得の内訳書
- 旧居の売買契約書(売却時・取得時)
- 譲渡費用の領収書
- 登記事項証明書
新居購入の申告書類(住宅ローン控除を受ける場合)
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローン契約書(金銭消費貸借契約書)
- 登記事項証明書
- 工事請負契約書または売買契約書
- 住民票
住宅ローン控除は初年度のみ確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で対応できます。
よくある質問(FAQ)
まとめ
買い替えで戸建てを購入する際には、通常の購入時とは異なる書類が多数必要になります。特に、既存物件の売買契約書や残債証明書、売却予定物件の査定書は、住み替えローンや買い替え特例の適用に不可欠です。
戸建ての場合、土地・建物それぞれの登記が必要なため、マンションより手続きが複雑です。登記申請書や固定資産評価証明書も土地・建物それぞれで準備が必要です。
買い替え特例と3,000万円特別控除は併用できないため、どちらを選択するかは税負担のシミュレーションが重要です。確定申告時には旧居の売却と新居の購入、両方の書類が必要になります。
書類の取得には時間がかかるものもあるため、余裕を持って準備を進めることをお勧めします。不明点があれば、不動産会社、司法書士、税理士などの専門家に相談しましょう。