投資売却中古戸建ての控除・特例|減価償却と短期・長期税率

公開日: 2025/10/19

投資用中古戸建て売却時の税金基礎知識を理解しよう

賃貸経営していた中古戸建てを売却する場合、居住用財産の税制優遇(3,000万円特別控除等)は適用されません。また、減価償却により取得費が減少するため、譲渡益が大きくなりやすい点に注意が必要です。

本記事では、投資用中古戸建て売却時の税制を体系的に解説します。

この記事でわかること:

  • 投資用中古戸建て売却の税金計算方法
  • 居住用との違いと減価償却の影響
  • 保有期間と税率の関係(短期譲渡・長期譲渡)
  • 減価償却費累計と取得費の調整
  • 賃貸中売却時の注意点と確定申告手続き

投資用中古戸建て売却の税金基礎知識

譲渡所得税の計算式

投資用不動産の売却時には、譲渡所得税(所得税・住民税)が課税されます。

譲渡所得の計算式:

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

取得費の調整:

取得費 = 購入代金 + 取得時諸費用 - 建物減価償却費累計額

投資用不動産は、賃貸期間中に減価償却費を経費計上しているため、取得費が減少します。これにより譲渡益が大きくなります。

取得費の範囲

取得費に含まれるもの:

  • 購入代金(土地・建物)
  • 仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 印紙税
  • リフォーム費用(資本的支出)

取得費に含まれないもの:

  • 投資用ローンの元本返済額
  • 修繕費(収益的支出)
  • 固定資産税・都市計画税

譲渡費用の範囲

譲渡費用に含まれるもの:

  • 仲介手数料
  • 測量費
  • 立退料(賃貸中の物件を売却する場合)
  • 建物取壊し費用(更地にして売却する場合)
  • 印紙税

譲渡費用に含まれないもの:

  • 抵当権抹消費用
  • 引越し費用

投資用不動産の特殊性と居住用との違い

居住用3,000万円特別控除は適用不可

重要: 投資用(事業用・賃貸用)不動産には、居住用財産の3,000万円特別控除は適用されません

国税庁「No.3302 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」によると、この特例は「自己が居住していた住宅」が対象です。

居住用特例が使えない物件:

  • 賃貸用不動産(アパート、マンション、戸建て等)
  • 事業用不動産(店舗、事務所等)
  • 別荘・セカンドハウス(主たる住居でない)

減価償却による取得費の減少

投資用中古戸建ては、賃貸期間中に減価償却費を経費計上します。この減価償却費累計額は、売却時の取得費から差し引かれます。

例:

購入価格:3,000万円(土地1,500万円、建物1,500万円)
取得時諸費用:200万円
賃貸期間:10年
減価償却費累計:700万円(建物のみ)

取得費 = 3,000万円 + 200万円 - 700万円 = 2,500万円

売却価格:3,200万円
譲渡費用:150万円

譲渡所得 = 3,200万円 - 2,500万円 - 150万円 = 550万円

減価償却により取得費が700万円減少したため、譲渡所得が増加しています。

賃貸中売却時の注意点

賃貸中の中古戸建てを売却する場合、以下の方法があります:

方法1:オーナーチェンジ(賃貸中のまま売却)

  • テナントはそのまま(賃貸借契約は新オーナーに承継)
  • 売却価格は低めになる傾向(投資家向け)
  • 立退き費用不要

方法2:空室にして売却

  • テナントに立ち退きを依頼
  • 立退料が発生する場合、譲渡費用として計上可能
  • 売却価格は高めになる傾向(実需層も対象)

立退料は高額になる場合があるため、事前に交渉が必要です。

保有期間と税率の関係

短期譲渡所得(5年以下):税率39.63%

所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得として高い税率が適用されます(国税庁「No.3202 土地や建物を売ったとき」)。

税率:

  • 所得税:30.63%(復興特別所得税含む)
  • 住民税:9%
  • 合計:39.63%

例(短期譲渡所得500万円):

所得税:500万円 × 30.63% = 153.15万円
住民税:500万円 × 9% = 45万円
合計:198.15万円

短期譲渡は税率が極めて高いため、5年超保有が基本戦略となります。

長期譲渡所得(5年超):税率20.315%

所有期間が5年を超える場合、長期譲渡所得として低い税率が適用されます。

税率:

  • 所得税:15.315%(復興特別所得税含む)
  • 住民税:5%
  • 合計:20.315%

例(長期譲渡所得500万円):

所得税:500万円 × 15.315% = 76.575万円
住民税:500万円 × 5% = 25万円
合計:101.575万円

短期譲渡と比較して、約96万円の節税効果があります。

保有期間の判定方法

重要: 所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。

例1:

取得:2020年3月1日
売却:2025年6月1日
実際の保有期間:5年3ヶ月

判定:2025年1月1日時点では取得後4年10ヶ月 → 短期譲渡所得(5年以下)

例2:

取得:2019年12月1日
売却:2025年3月1日
実際の保有期間:5年3ヶ月

判定:2025年1月1日時点では取得後5年1ヶ月 → 長期譲渡所得(5年超)

売却時期を調整することで、長期譲渡所得として有利な税率を適用できます。

減価償却と取得費の計算

減価償却費とは何か

減価償却費は、建物や設備などの固定資産が時間経過とともに価値が減少する分を、毎年経費として計上する会計処理です。

特徴:

  • 賃貸期間中は不動産所得の経費として計上
  • 売却時は取得費から差し引く
  • 実際の支出を伴わない(帳簿上の処理)

木造戸建ての減価償却(耐用年数22年)

新築木造戸建ての法定耐用年数:22年

減価償却費の計算(定額法):

年間減価償却費 = 建物取得価格 × 償却率
償却率 = 1 ÷ 耐用年数 = 1 ÷ 22年 = 0.046(4.6%)

例(建物取得価格1,500万円):

年間減価償却費 = 1,500万円 × 0.046 = 69万円
10年間の減価償却費累計 = 69万円 × 10年 = 690万円

中古戸建ての耐用年数:

  • 法定耐用年数を超過:22年 × 0.2 = 4.4年 → 4年
  • 一部経過:(22年 - 経過年数) + 経過年数 × 0.2

減価償却費累計と取得費の調整

取得費の調整式:

取得費 = 購入代金 + 取得時諸費用 - 建物減価償却費累計額

例:

購入代金:3,000万円(土地1,500万円、建物1,500万円)
取得時諸費用:200万円
賃貸期間:15年
年間減価償却費:69万円(建物1,500万円 × 0.046)
減価償却費累計:1,035万円(69万円 × 15年)

取得費 = 3,000万円 + 200万円 - 1,035万円 = 2,165万円

売却価格:3,500万円
譲渡費用:150万円
譲渡所得 = 3,500万円 - 2,165万円 - 150万円 = 1,185万円

長期譲渡所得税 = 1,185万円 × 20.315% = 約241万円

減価償却により取得費が1,035万円減少し、譲渡所得が大幅に増加しています。

投資用売却で失敗しないためのポイント

短期譲渡を避ける保有期間戦略

短期譲渡所得の税率(39.63%)は極めて高いため、最低でも5年超保有が基本戦略です。

戦略的な売却タイミング:

  1. 取得年の1月1日から起算して5年超経過後
  2. 売却価格が高騰している時期
  3. 減価償却終了前(取得費がゼロになる前)

例:

取得:2020年2月
5年経過:2025年2月
長期譲渡所得の判定:2026年1月1日以降の売却

→2026年1月以降に売却すれば長期譲渡所得として税率20.315%

減価償却計算の正確性

減価償却費の計算誤りは、取得費の過大計上・過小計上につながり、税務調査のリスクとなります。

注意点:

  • 建物と土地の割合を正確に把握(売買契約書、固定資産税評価額等で確認)
  • 耐用年数の計算(新築・中古で異なる)
  • 賃貸開始日から減価償却開始(購入日ではない)

不明点があれば、税理士に相談することを推奨します。

税理士・会計士への相談タイミング

以下の場合は、税理士・会計士への相談を推奨します:

相談すべきケース:

  1. 減価償却費累計の計算が不明確
  2. 賃貸期間中の確定申告で減価償却費を計上していない
  3. 建物と土地の割合が不明
  4. 取得費の証明書類を紛失
  5. 譲渡所得が大きく、税額が高額

相談時期:

  • 売却前:税額シミュレーション、売却タイミングの調整
  • 売却後・確定申告前:申告書作成、必要書類の確認

よくある質問(FAQ)

投資用中古戸建ては居住用の3,000万円特別控除を使えますか?

使えません。

居住用財産の3,000万円特別控除は、「自己が居住していた住宅」が対象です。投資用(事業用・賃貸用)不動産には適用されません。

税率:

  • 長期譲渡(5年超):20.315%
  • 短期譲渡(5年以下):39.63%

事業用資産の買換え特例(要件が厳格)は別途存在しますが、通常の投資用中古戸建て売却では適用困難です。

減価償却費とは何ですか?売却時にどう影響しますか?

減価償却費とは、建物価値が経年で減少する分を経費計上する仕組みです。

賃貸期間中:

  • 不動産所得の経費として計上
  • 節税効果あり

売却時:

  • 減価償却費累計額は取得費から差し引く
  • 取得費が減少するため、譲渡所得(利益)が増える

例:

建物取得価格:1,500万円
10年間の減価償却費累計:690万円

取得費 = 1,500万円 - 690万円 = 810万円(建物部分のみ)

賃貸期間中の確定申告履歴から減価償却費累計を計算します。

短期譲渡と長期譲渡の違いは何ですか?

保有期間による税率の違い:

  • 短期譲渡所得(5年以下):税率39.63%
  • 長期譲渡所得(5年超):税率20.315%

約2倍の税率差があるため、5年超保有が基本戦略です。

判定方法:

  • 売却した年の1月1日時点で5年超か否かを判定
  • 実際の保有期間とずれる場合があるため注意

賃貸中の中古戸建てを売却する場合の注意点は?

2つの選択肢:

  1. オーナーチェンジ(賃貸中のまま売却)

    • 立退き不要
    • 売却価格は低め(投資家向け)
  2. 空室にして売却

    • テナントに立退きを依頼
    • 立退料が発生する場合、譲渡費用として計上可能
    • 売却価格は高め(実需層も対象)

立退料の税務処理:

  • 譲渡費用として取得費に加算可能
  • 金額は交渉次第(家賃の3-6ヶ月分程度が目安)

まとめ

投資用中古戸建て売却では、居住用特例が使えず、減価償却により取得費が減少するため、譲渡所得が大きくなりやすい点に注意が必要です。

重要なポイント:

  • 居住用の3,000万円特別控除は適用不可
  • 減価償却により取得費が減少し、譲渡益が増加
  • 短期譲渡(5年以下)は税率39.63%と高額、5年超保有が基本戦略
  • 保有期間の判定は売却年の1月1日時点で行う
  • 賃貸中売却では立退料を譲渡費用として計上可能

投資用不動産の売却は税務が複雑です。不明点があれば、税理士や税務署に相談しながら進めることをおすすめします。

よくある質問

Q1投資用中古戸建ては居住用の3,000万円特別控除を使えますか?

A1使えません。居住用財産の3,000万円特別控除は「自己が居住していた住宅」が対象であり、投資用(事業用・賃貸用)不動産には適用されません。長期譲渡(5年超)でも税率20.315%で、居住用より高い税率となります。事業用資産の買換え特例は別途存在しますが、要件が厳格で通常の投資用戸建て売却では適用困難です。

Q2減価償却費とは何ですか?売却時にどう影響しますか?

A2建物価値が経年で減少する分を経費計上する仕組みです。木造戸建ては耐用年数22年で減価償却します。減価償却費累計額は取得費から差し引かれるため、取得費が減少し、譲渡所得(利益)が増えます。賃貸期間中の確定申告履歴から減価償却費累計を計算します。減価償却により取得費が大幅に減少するため、売却時の税負担が増加する点に注意が必要です。

Q3短期譲渡と長期譲渡の違いは何ですか?

A3保有期間5年以下が短期譲渡(税率39.63%)、保有期間5年超が長期譲渡(税率20.315%)です。約2倍の税率差があるため、5年超保有が基本戦略となります。保有期間の判定は売却年の1月1日時点で行われるため、実際の保有期間とずれる場合があります。売却タイミングを調整することで長期譲渡として有利な税率を適用できます。

Q4賃貸中の中古戸建てを売却する場合の注意点は?

A4オーナーチェンジ(賃貸中のまま売却)と空室にして売却の2つの選択肢があります。立退きを依頼する場合、テナント立退き費用が発生しますが、これは譲渡費用として計上可能です。立退料の金額は交渉次第ですが、家賃の3-6ヶ月分程度が目安です。オーナーチェンジは立退き不要ですが売却価格は低め、空室売却は売却価格が高めになる傾向があります。

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