投資購入中古戸建ての控除・特例|減価償却と損益通算の活用

公開日: 2025/10/19

投資用中古戸建て購入時の控除・特例を理解しよう

投資用(賃貸用)の中古戸建てを購入する場合、居住用住宅ローン控除は適用されません。しかし、不動産所得の必要経費として減価償却費や修繕費を計上でき、青色申告特別控除や損益通算など、投資家向けの税制優遇措置を活用できます。

本記事では、投資用中古戸建て購入時の税制措置を体系的に解説します。

この記事でわかること:

  • 投資用中古戸建てと住宅ローン控除の関係
  • 不動産所得の必要経費計上と減価償却費の仕組み
  • 中古戸建ての耐用年数計算方法
  • 損益通算による節税効果と制限
  • 青色申告特別控除の活用と確定申告の流れ

投資用中古戸建てと住宅ローン控除の適用不可

住宅ローン控除の自己居住要件

住宅ローン控除は、自己の居住の用に供する住宅の取得が必須要件です(国税庁「No.1225 住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等」)。

自己居住要件:

  • 取得後6ヶ月以内に居住開始
  • 控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住
  • 自己が住むための住宅であること

投資用不動産が対象外となる理由

投資用中古戸建ては、第三者に賃貸することを目的としており、自己居住用ではないため、住宅ローン控除の対象外です。

対象外となる物件:

  • 賃貸用不動産(アパート、マンション、戸建て等)
  • 事業用不動産(店舗、事務所等)
  • 別荘・セカンドハウス(自己居住が主たる目的でない)

投資用ローン(不動産投資ローン)には、住宅ローン控除のような特別な税制優遇はありません。

投資用中古戸建て購入で活用できる税制優遇

不動産所得の必要経費計上

投資用中古戸建てを賃貸経営する場合、不動産所得の必要経費として様々な費用を計上できます。

経費として計上できる主な項目:

  1. 減価償却費:建物部分の取得価格を耐用年数で配分
  2. 修繕費:壁紙の張り替え、設備の修理等
  3. 管理費:管理会社への委託料
  4. 借入金利息:投資用ローンの利息(元本は対象外)
  5. 固定資産税・都市計画税
  6. 損害保険料:火災保険、地震保険等
  7. その他:仲介手数料(取得時)、広告宣伝費、通信費等

不動産所得の計算式:

不動産所得 = 賃貸収入 - 必要経費

青色申告特別控除

青色申告を行うことで、不動産所得から最大65万円を控除できます。

青色申告特別控除の区分:

  • 65万円控除:複式簿記、電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存、事業的規模
  • 55万円控除:複式簿記、事業的規模(電子申告なし)
  • 10万円控除:簡易簿記、事業的規模でない場合も可

事業的規模の判定(5棟10室基準):

  • アパート:10室以上
  • 戸建て:5棟以上
  • 駐車場:50台以上

中古戸建て1棟のみの場合、事業的規模には該当せず、10万円控除が上限となります。

小規模企業共済等掛金控除

不動産投資家は、小規模企業共済に加入することで、掛金を所得控除できます。

小規模企業共済:

  • 掛金:月額1,000円~70,000円
  • 全額所得控除(年間最大84万円)
  • 退職金・廃業時の生活資金として積立

投資用中古戸建ての不動産所得が黒字の場合、小規模企業共済への加入で所得税・住民税を軽減できます。

減価償却費の仕組みと計算方法

減価償却費とは

減価償却費とは、建物や設備などの固定資産が時間経過とともに価値が減少する分を、毎年経費として計上する会計処理です。

減価償却の特徴:

  • 実際の支出を伴わない経費(帳簿上の経費)
  • 節税効果が高い
  • 建物部分のみ対象(土地は減価償却しない)

計算式(定額法):

減価償却費 = 建物取得価格 × 償却率
償却率 = 1 ÷ 耐用年数

中古戸建ての耐用年数計算

新築の法定耐用年数(木造住宅:22年)を超えた中古戸建ての耐用年数は、簡便法で計算します。

簡便法:

ケース1:法定耐用年数を全て経過している場合

耐用年数 = 法定耐用年数 × 0.2

例(築25年の木造戸建て):

法定耐用年数:22年
経過年数:25年(法定耐用年数を超過)
耐用年数 = 22年 × 0.2 = 4.4年 → 4年(端数切捨て)

ケース2:法定耐用年数の一部を経過している場合

耐用年数 = (法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 0.2

例(築10年の木造戸建て):

法定耐用年数:22年
経過年数:10年
耐用年数 = (22年 - 10年) + 10年 × 0.2
         = 12年 + 2年 = 14年

築年数別の減価償却シミュレーション

例(建物取得価格1,500万円、木造戸建て):

築年数 耐用年数 償却率 年間減価償却費
新築 22年 0.046 69万円
築10年 14年 0.072 108万円
築25年 4年 0.250 375万円

ポイント:

  • 築年数が古いほど耐用年数が短くなり、年間の減価償却費が大きくなる
  • 短期間で多額の経費を計上できるため、節税効果が高い
  • ただし、減価償却終了後は経費が減り、税負担が増加する

損益通算による節税効果と制限

損益通算の基本

投資用中古戸建ての不動産所得が赤字の場合、給与所得等と損益通算し、所得税・住民税を軽減できます。

損益通算の仕組み:

総所得 = 給与所得 + 不動産所得(赤字)

例:

給与所得:600万円
不動産所得:-200万円(赤字)

損益通算後の所得:600万円 - 200万円 = 400万円
→所得税・住民税が400万円ベースで計算される

土地分の借入利息は損益通算不可

重要な制限: 土地部分の取得に係る借入金利息は、損益通算から除外されます。

理由:

  • 土地は減価償却しないため、恒久的な資産
  • 土地の借入利息を損益通算すると、過度な節税が可能になるため制限

計算方法:

損益通算不可の金額 = 借入金利息 × (土地取得価格 ÷ 総取得価格)

例:

総取得価格:3,000万円(土地1,500万円、建物1,500万円)
借入金利息:60万円

損益通算不可 = 60万円 × (1,500万円 ÷ 3,000万円) = 30万円
損益通算可能な利息 = 60万円 - 30万円 = 30万円

赤字の場合の節税効果

具体例:

【前提】
給与所得:600万円(所得税率20%、住民税率10%)
賃貸収入:120万円/年
必要経費:
  減価償却費:100万円
  修繕費:30万円
  管理費:24万円
  固定資産税:12万円
  借入金利息(建物分のみ):30万円
  損害保険料:4万円
  合計:200万円

不動産所得 = 120万円 - 200万円 = -80万円(赤字)

【損益通算後】
総所得 = 600万円 - 80万円 = 520万円

【節税効果】
所得税:80万円 × 20% = 16万円
住民税:80万円 × 10% = 8万円
合計:24万円の節税

青色申告特別控除の活用

65万円控除の要件

青色申告で65万円控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります:

  1. 事業的規模であること(5棟10室基準)
  2. 複式簿記で記帳
  3. 貸借対照表損益計算書を作成
  4. 電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存
  5. 期限内申告(翌年3月15日まで)

事業的規模(5棟10室基準)とは

5棟10室基準:

  • アパート・マンション:10室以上
  • 戸建て:5棟以上
  • 駐車場:50台分以上

判定例:

中古戸建て:3棟
アパート:4室
合計:3棟 + 4室

戸建て換算:3棟 + (4室 ÷ 2) = 3棟 + 2棟 = 5棟
→事業的規模に該当(65万円控除可能)

中古戸建て1棟のみの場合、事業的規模に該当せず、10万円控除が上限となります。

複式簿記と貸借対照表の作成

65万円控除を受けるには、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を作成する必要があります。

複式簿記のメリット:

  • 資産・負債・純資産の状況を正確に把握
  • 収支の内訳を詳細に管理
  • 青色申告特別控除65万円を受けられる

会計ソフトの活用:

  • 弥生会計、freee、マネーフォワードクラウド等の会計ソフトを使用すれば、複式簿記の知識がなくても自動で貸借対照表・損益計算書を作成可能

投資用中古戸建ての確定申告の流れ

不動産所得の計算

確定申告では、以下の手順で不動産所得を計算します:

Step1: 賃貸収入の集計

  • 家賃収入
  • 礼金・更新料(収入)
  • 敷金・保証金(返還不要な部分のみ)

Step2: 必要経費の集計

  • 減価償却費、修繕費、管理費、借入金利息、固定資産税、損害保険料等

Step3: 不動産所得の計算

不動産所得 = 賃貸収入 - 必要経費 - 青色申告特別控除

経費として計上できる項目

投資用中古戸建て経営で経費計上できる主な項目:

項目 内容
減価償却費 建物部分の取得価格を耐用年数で配分
修繕費 壁紙張り替え、設備修理等(資本的支出は除く)
管理費 管理会社への委託料
借入金利息 投資用ローンの利息(元本は不可)
固定資産税・都市計画税 毎年納付する税金
損害保険料 火災保険、地震保険等
管理委託料 賃貸管理会社への手数料
広告宣伝費 入居者募集の広告費
通信費・交通費 不動産投資に関連する費用

注意点:

  • 元本返済は経費にならない(利息のみ)
  • 資本的支出(大規模修繕)は減価償却の対象
  • 私的な費用は計上不可

確定申告書の作成と提出

確定申告の期限:

  • 毎年2月16日~3月15日

提出方法:

  1. e-Tax(電子申告):自宅からオンラインで提出(65万円控除に必要)
  2. 郵送:税務署に郵送
  3. 窓口持参:税務署の窓口に直接提出

確定申告書の種類:

  • 確定申告書(第一表・第二表)
  • 青色申告決算書(不動産所得用)
  • 収支内訳書(白色申告の場合)

まとめ

投資用中古戸建て購入では、住宅ローン控除は使えませんが、不動産所得の必要経費計上、青色申告特別控除、損益通算など、投資家向けの税制優遇措置を活用できます。

重要なポイント:

  • 投資用不動産は住宅ローン控除の対象外(自己居住用が要件)
  • 減価償却費・修繕費・固定資産税など必要経費を計上可能
  • 中古戸建ては耐用年数が短く、年間の減価償却費が大きい(節税効果高)
  • 不動産所得の赤字は給与所得と損益通算可能(土地分の借入利息は除外)
  • 青色申告で10万円控除(事業的規模なら65万円控除)

投資用不動産の税務は複雑です。不明点があれば、税理士や税務署に相談しながら進めることをおすすめします。

よくある質問

Q1投資用中古戸建てでも住宅ローン控除は使えますか?

A1投資用(賃貸用)中古戸建ては「自己居住用」ではないため、住宅ローン控除の対象外です。住宅ローン控除は自分が住むための住宅購入にのみ適用されます。投資用ローンには特別な税制優遇はありませんが、不動産所得の必要経費計上や青色申告特別控除などの税制優遇措置を活用できます。

Q2投資用中古戸建て購入で使える税制優遇は何がありますか?

A2減価償却費・修繕費・固定資産税などの必要経費計上、青色申告特別控除(最大65万円)、小規模企業共済等掛金控除などが活用できます。不動産所得が赤字の場合は給与所得と損益通算も可能です(ただし土地分の借入利息は損益通算から除外)。

Q3中古戸建ての減価償却はどう計算しますか?

A3法定耐用年数(木造22年)を超えた中古戸建ては「法定耐用年数×0.2」、一部経過の場合は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」で計算します。建物部分の取得価格をこの年数で配分し経費計上します。築年数が古いほど耐用年数が短くなり、年間の減価償却費が大きくなるため節税効果が高まります。

Q4投資用中古戸建ての赤字は給与所得と相殺できますか?

A4不動産所得の赤字は給与所得等と損益通算が可能です。ただし、土地分の借入利息は損益通算から除外されるため注意が必要です。損益通算により所得税・住民税を軽減できますが、赤字が続くと金融機関の評価が下がる可能性があります。

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