買い替えで新築マンション購入時の控除・特例とは?
買い替えで新築マンションを購入する場合、住宅ローン控除をはじめとした税制優遇措置をうまく活用することで、大幅な節税が可能です。しかし、旧居売却時の特例と新居購入時の控除には複雑な適用関係があり、誤った選択をすると数百万円の損失につながることもあります。
本記事では、買い替えに特化した控除・特例の仕組みを実務的に解説します。
この記事でわかること:
- 買い替えでも住宅ローン控除は回数制限なく使える
- 3000万円特別控除と住宅ローン控除の併用不可ルール
- 譲渡損失の特例なら住宅ローン控除と併用可能
- 新築マンション特有の注意点(床面積・省エネ基準)
- 確定申告の手続きと有利な特例選択のポイント
1. 買い替えで新築マンション購入時の控除・特例の全体像
(1) 買い替えに特化した税制メリット
買い替えでは、旧居売却側と新居購入側の両方で税制優遇を受けられる可能性があります。ただし、両方を同時に使えるケースと使えないケースがあるため、事前の確認が重要です。
(2) 利用可能な主な控除・特例一覧
買い替え時に利用できる主な制度は以下の通りです:
制度 | 対象 | 主な内容 | 住宅ローン控除との併用 |
---|---|---|---|
住宅ローン控除 | 新居購入 | 年末残高の0.7%を最大13年間控除 | - |
3000万円特別控除 | 旧居売却 | 譲渡所得から3000万円控除 | 併用不可 |
買換え特例 | 旧居売却 | 譲渡益課税の繰延 | 併用不可 |
譲渡損失の損益通算・繰越控除 | 旧居売却 | 売却損を所得と相殺、3年間繰越可 | 併用可 |
(3) 売却側と購入側の特例の関係
重要なポイント:
- 住宅ローン控除は回数制限なし。買い替えでも2回目、3回目と利用可能
- 3000万円特別控除や買換え特例を使うと、住宅ローン控除が使えなくなる期間がある
- 譲渡損失の特例は住宅ローン控除と併用可能
2. 住宅ローン控除は買い替えでも回数制限なし
(1) 2回目以降も適用可能
住宅ローン控除には回数制限がありません(国税庁)。過去に利用したことがあっても、以下の要件を満たせば再度適用を受けられます:
- 借入期間10年以上
- 床面積50㎡以上(合計所得1,000万円以下なら40㎡以上)
- 合計所得3,000万円以下(2024-2025年の新築取得の場合)
- 取得から6か月以内に入居し、控除を受ける年の12月31日まで居住
(2) 控除率0.7%・最大13年間
2024年以降に新築マンションを購入した場合の控除内容は以下の通りです:
- 控除率:年末ローン残高の0.7%
- 控除期間:最大13年間
- 控除上限(年間):
- 認定長期優良住宅:35万円(借入限度額5,000万円)
- ZEH水準住宅:31.5万円(借入限度額4,500万円)
- 省エネ基準適合住宅:28万円(借入限度額4,000万円)
(3) 借入限度額|認定住宅5,000万円・ZEH4,500万円・省エネ4,000万円
2024-2025年の借入限度額(国土交通省):
住宅の種類 | 借入限度額 | 13年間の最大控除額 |
---|---|---|
認定長期優良住宅 | 5,000万円 | 455万円 |
ZEH水準住宅 | 4,500万円 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 364万円 |
注意: 2024年1月以降に建築確認を受けた新築マンションは、省エネ基準適合が必須です。省エネ基準を満たさない一般住宅は控除対象外となります。
3. 旧居売却の3000万円特別控除と住宅ローン控除の併用不可ルール
(1) 併用不可の期間|居住前2年~居住後3年
最も注意すべきルールは、3000万円特別控除と住宅ローン控除の併用制限です(国税庁):
併用不可の条件:
新居に居住を開始した年の前2年・当年・後3年(合計6年間)に、旧居売却で以下の特例を使っていないこと:
- 居住用財産の3000万円特別控除
- 居住用財産の買換え特例
- 居住用財産の交換特例
具体例:
2024年に新築マンションに入居する場合、2022年~2027年の間に旧居売却で3000万円特別控除を使うと、住宅ローン控除が受けられなくなります。
(2) 2020年税制改正による厳格化
以前は「新居に居住した年とその前後2年」の計5年間の制限でしたが、2020年の税制改正で「前2年・後3年」の計6年間に延長されました。
(3) 特例選択の判断基準
どちらを選ぶべきか?
判断材料 | 3000万円特別控除が有利 | 住宅ローン控除が有利 |
---|---|---|
旧居の売却益 | 大きい(2000万円超) | 小さい(1000万円以下) |
新居の借入額 | 小さい(2000万円以下) | 大きい(4000万円以上) |
年収 | 低い(500万円以下) | 高い(800万円以上) |
試算が必要:売却益・借入額・所得によって有利不利が変わるため、税理士への相談を推奨します。
4. 譲渡損失の特例なら住宅ローン控除と併用可能
(1) 譲渡損失の損益通算・繰越控除とは
旧居を売却して損失が出た場合、譲渡損失の損益通算・繰越控除が利用できます:
- 損益通算:売却損を給与所得などと相殺し、その年の所得税を軽減
- 繰越控除:相殺しきれなかった損失を翌年以降3年間繰り越して控除
(2) 住宅ローン控除との併用が認められる理由
譲渡損失の特例は、住宅ローン控除と併用可能です(国税庁質疑応答事例)。理由は以下の通り:
- 譲渡損失の特例は「損失の救済」が目的
- 3000万円特別控除は「利益への優遇」が目的
- 両者は趣旨が異なるため併用が認められる
買い替えで売却損が出た場合は、迷わず両方の特例を利用しましょう。
(3) 添付書類の兼用が可能
住宅ローン控除と譲渡損失の特例を同時に申告する場合、一部の添付書類(登記簿謄本など)を兼用できます。確定申告の手間が軽減されます。
5. 新築マンション特有の注意点|床面積・省エネ基準
(1) マンションの床面積は登記面積(内法面積)で判定
住宅ローン控除の床面積要件(50㎡以上)は、**登記面積(内法面積)**で判定されます。販売図面に記載されている壁芯面積ではありません。
(2) 壁芯面積より2-3㎡小さい点に注意
重要な注意点:
- 壁芯面積:壁の中心から測定した面積(販売図面に記載)
- 内法面積:壁の内側から測定した面積(登記簿謄本に記載)
一般的に、内法面積は壁芯面積より2-3㎡小さくなります。例えば、壁芯面積52㎡でも内法面積が49㎡だと、住宅ローン控除は受けられません。
購入前に確認を:
床面積がギリギリの物件を検討する場合、契約前に登記面積が50㎡以上かを確認しましょう。
(3) 2024年1月以降は省エネ基準適合が必須
2024年1月以降に建築確認を受けた新築マンションは、省エネ基準適合が住宅ローン控除の要件です。省エネ基準を満たさない場合、控除を受けられません。
6. 買い替え時の確定申告と特例選択
(1) 住宅ローン控除の確定申告
住宅ローン控除を受けるには、購入した年の翌年2月16日~3月15日に確定申告が必要です。
必要書類:
- 確定申告書
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローンの年末残高証明書
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 売買契約書の写し
- 省エネ基準適合証明書(省エネ住宅の場合)
(2) 旧居売却の特例との有利判定
買い替えでは、以下の組み合わせから選択します:
- 住宅ローン控除のみ(旧居売却で特例を使わない)
- 3000万円特別控除のみ(住宅ローン控除を放棄)
- 譲渡損失の特例 + 住宅ローン控除(併用可能)
(3) 売却益・借入額・所得による選択
シミュレーション例(野村證券を参考):
ケース1:売却益3000万円、借入額2000万円、年収500万円 → 3000万円特別控除が有利(所得税・住民税約600万円の軽減)
ケース2:売却益500万円、借入額5000万円、年収800万円 → 住宅ローン控除が有利(13年間で最大455万円の控除)
ケース3:売却損1000万円、借入額4000万円、年収800万円 → 両方併用(損益通算で約200万円軽減 + 住宅ローン控除で最大364万円)
まとめ
買い替えで新築マンションを購入する場合、住宅ローン控除は回数制限なく利用可能です。ただし、旧居売却で3000万円特別控除を使うと、新居居住前2年~後3年の間は住宅ローン控除が使えません。
一方、旧居売却で損失が出た場合の譲渡損失の特例は、住宅ローン控除と併用可能です。売却益・借入額・所得によって有利な選択が変わるため、税理士への相談を推奨します。
また、新築マンションの床面積は登記面積(内法面積)で50㎡以上が必要です。壁芯面積より2-3㎡小さい点に注意し、購入前に確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 買い替えで2回目の住宅ローン控除は使えますか?
A: 使えます。住宅ローン控除に回数制限はありません。ただし、新居居住前2年~後3年に旧居売却で3000万円特別控除や買換え特例を使っていないことが条件です。要件を満たせば、何度でも利用できます。
Q2: 3000万円特別控除と住宅ローン控除、どちらを選ぶべきですか?
A: 売却益・借入額・所得によって変わります。売却益が小さく借入額が大きい場合は住宅ローン控除、売却益が大きい場合は3000万円特別控除が有利です。具体的な金額で試算し、税理士に相談することを推奨します。
Q3: マンションの床面積が50㎡ギリギリの場合、注意点はありますか?
A: 住宅ローン控除の床面積は登記面積(内法面積)で判定されます。壁芯面積50㎡でも内法面積で50㎡未満なら控除は受けられません。一般的に内法面積は壁芯面積より2-3㎡小さいため、購入前に登記面積を確認しましょう。
Q4: 買い替えで旧居を売却して損した場合も特例は使えますか?
A: 使えます。譲渡損失の損益通算・繰越控除と住宅ローン控除は併用可能です。売却損を給与所得と相殺し、翌年以降3年間繰越控除できます。売却損が出た場合は、両方の特例を利用しましょう。