住み替えで新築戸建てを購入する方へ
住み替えで新築戸建てを購入する際、住宅ローン控除をはじめとする複数の控除・特例を活用できます。特に認定長期優良住宅やZEH水準省エネ住宅の場合、一般新築住宅よりも大幅に優遇される仕組みになっています。
一方で、住み替えならではの注意点も存在します。旧居売却時に3,000万円特別控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなるため、どちらを優先すべきか慎重な判断が必要です。
この記事で分かること(要約)
- 新築戸建て購入時の住宅ローン控除は認定住宅で借入限度額5,000万円(最大控除額455万円)、ZEH水準で4,500万円(同409.5万円)
- 旧居で3,000万円控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間適用不可になるため、税額シミュレーションで有利不利を判定
- 親・祖父母からの住宅取得資金贈与は最大1,000万円まで非課税(省エネ住宅等の場合)
- 転勤で一時的に居住できなくなっても、再び住めば住宅ローン控除の残存期間内で再適用可能
- 登録免許税・不動産取得税も軽減措置があり、認定住宅はさらに優遇
1. 住み替え新築戸建て購入の控除・特例の全体像
(1) 住み替え新築購入で使える控除・特例の種類
住み替えで新築戸建てを購入する場合、以下の控除・特例を活用できます。
控除・特例 | 内容 | 根拠 |
---|---|---|
住宅ローン控除 | 年末ローン残高の0.7%を所得税から控除(13年間) | 国税庁「住宅ローン控除」 |
認定住宅の優遇 | 認定長期優良住宅は借入限度額5,000万円、ZEH水準は4,500万円 | 国税庁「認定住宅の新築等をした場合の住宅ローン控除」 |
住宅取得資金贈与の非課税 | 親・祖父母からの贈与が最大1,000万円まで非課税 | 国税庁「贈与税の住宅取得等資金の非課税特例」 |
登録免許税の軽減 | 所有権保存登記0.15%、抵当権設定登記0.1% | 国税庁「登録免許税の軽減措置」 |
不動産取得税の軽減 | 1,200万円控除等 | 総務省「不動産取得税の新築住宅特例」 |
(2) 新築戸建て購入と中古購入の控除額の違い
新築戸建ては中古住宅よりも住宅ローン控除の借入限度額が高く設定されています。
- 認定長期優良住宅(新築): 借入限度額5,000万円 → 最大控除額455万円(5,000万円×0.7%×13年)
- ZEH水準省エネ住宅(新築): 借入限度額4,500万円 → 最大控除額409.5万円
- 一般新築住宅: 借入限度額3,000万円 → 最大控除額273万円
- 中古住宅: 借入限度額2,000万円 → 最大控除額182万円(控除期間10年)
新築の場合、認定住宅であれば中古住宅の2倍以上の控除額を受けられる可能性があります。
(3) 住み替え時の有利不利シミュレーション
住み替えでは、旧居売却時の3,000万円特別控除と新居購入時の住宅ローン控除のどちらを優先すべきか判断が必要です。
例: 旧居の譲渡益2,000万円、新居のローン4,500万円(認定住宅)
- 旧居で3,000万円控除を使う場合: 譲渡所得税0円、ただし新居のローン控除3年間不可(損失約95万円)
- 旧居で控除を使わず新居でローン控除を使う場合: 譲渡所得税約400万円(20.315%)、ローン控除13年間で最大455万円
譲渡益が少なく、新居のローン残高が大きい場合は住宅ローン控除を優先する方が有利になるケースが多いです。
2. 新築戸建ての住宅ローン控除(認定住宅・ZEH水準)
(1) 住宅ローン控除の基本(0.7%・13年間)
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合、年末のローン残高の0.7%を所得税(控除しきれない場合は住民税からも一部)から控除できる制度です。
- 控除率: 0.7%
- 控除期間: 新築住宅は13年間(中古住宅は10年間)
- 所得要件: 合計所得金額2,000万円以下
- 床面積要件: 50㎡以上(2023年末までの建築確認の場合、所得1,000万円以下なら40㎡以上も可)
(2) 認定長期優良住宅の借入限度額5,000万円
認定長期優良住宅とは、耐久性・省エネ性・耐震性等の基準を満たし、所管行政庁の認定を受けた住宅です。
- 借入限度額: 5,000万円
- 最大控除額: 455万円(5,000万円×0.7%×13年)
- 認定基準: 劣化対策、耐震性、維持管理・更新の容易性、可変性、バリアフリー性、省エネルギー性、居住環境、住戸面積、維持保全計画の9項目
(3) ZEH水準省エネ住宅の借入限度額4,500万円
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準省エネ住宅は、省エネ基準を上回る性能を持つ住宅です。
- 借入限度額: 4,500万円
- 最大控除額: 409.5万円(4,500万円×0.7%×13年)
- 性能基準: 断熱性能・一次エネルギー消費量が基準値を満たす
(4) 一般新築住宅の借入限度額3,000万円
認定を取得しない一般的な新築住宅でも、省エネ基準に適合していれば借入限度額3,000万円の住宅ローン控除を受けられます。
- 借入限度額: 3,000万円
- 最大控除額: 273万円(3,000万円×0.7%×13年)
ただし、2024年以降に建築確認を受ける住宅で省エネ基準を満たさない場合、住宅ローン控除の対象外となる点に注意が必要です。
(5) 認定住宅の認定取得手続きと期間
認定長期優良住宅の認定を取得するには、以下の手続きが必要です。
- 建築士等による技術審査(登録住宅性能評価機関)
- 所管行政庁への認定申請
- 認定取得(申請から2〜3ヶ月程度)
認定取得には数十万円のコストがかかりますが、住宅ローン控除の借入限度額が2,000万円増えるため、ローン残高が大きい場合は費用対効果が高いと言えます。
3. 住み替え時の旧居売却特例との併用制限
(1) 3,000万円控除とローン控除の関係
旧居を売却して譲渡益が出た場合、「居住用財産の3,000万円特別控除」を使えば譲渡所得から3,000万円を控除できます。しかし、この特例を使うと新居の住宅ローン控除が制限されます。
国税庁「住宅ローン控除と譲渡所得の特例の関係」によれば、旧居で3,000万円控除を適用すると、新居の住宅ローン控除が売却年の翌年から3年間適用不可となります。
(2) 旧居で3,000万円控除を使うと新居ローン控除が3年間不可
例: 2025年に旧居売却・新居購入
- 旧居で3,000万円控除を使う → 新居のローン控除は2026年〜2028年の3年間使えない
- 2029年から残り10年間はローン控除適用可能
3年間の控除額の損失は、認定住宅(借入限度額5,000万円)の場合、約95万円(3,150万円×0.7%×3年、初年度ローン残高が4,500万円と仮定)に上ります。
(3) 買い替え特例(譲渡益繰延)とローン控除の併用不可
住み替え時に「特定居住用財産の買換え特例(譲渡益の繰延)」を使うこともできますが、この特例を適用すると住宅ローン控除は一切使えなくなります。
譲渡益が極めて大きく、次の住み替え時まで課税を先送りしたい場合以外は、買い替え特例よりも住宅ローン控除を優先する方が有利なケースが多いです。
(4) 有利不利の判定基準と試算例
旧居の譲渡益と新居のローン残高を比較し、どちらの特例を使うべきか試算しましょう。
判定基準
- 譲渡益が小さい(1,000万円未満): 住宅ローン控除優先が有利
- 譲渡益が大きい(3,000万円以上)かつローン残高が少ない: 3,000万円控除優先が有利
- 譲渡益・ローン残高とも中程度: 税理士等に相談して試算
4. 住宅取得資金贈与の非課税と転勤時の再適用ルール
(1) 親・祖父母からの贈与非課税枠(最大1,000万円)
親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税となります。
- 一般住宅: 500万円まで非課税
- 省エネ住宅等: 1,000万円まで非課税(2023年12月31日まで。2024年以降は要確認)
(2) 省エネ住宅・認定住宅での優遇
省エネ住宅等には、以下が含まれます。
- 断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上の住宅
- 耐震等級2以上または免震建築物の住宅
- 高齢者等配慮対策等級3以上の住宅
認定長期優良住宅やZEH水準省エネ住宅はこれらの基準を満たすため、非課税枠1,000万円の適用を受けられます。
(3) 転勤による住宅ローン控除の一時中断と再適用
転勤により家族全員が転居する場合、その年以降は住宅ローン控除が受けられなくなります。ただし、転勤が終わり再び居住すれば、残りの控除期間内で再適用が可能です。
再適用の要件
- 転勤等のやむを得ない事由により居住できなくなったこと
- 再び居住した年から残存期間内であること
- 再適用の初年度は確定申告が必要
再適用時には、勤務先発行の転勤命令書等が必要となる場合があるため、転勤前に準備しておくことをおすすめします。
(4) 単身赴任の場合の取り扱い
単身赴任で家族(配偶者等)が引き続き新居に居住する場合、住宅ローン控除は継続して適用できます。本人が単身赴任中であっても、家族が生活の拠点としている限り「居住の用に供している」とみなされるためです。
5. 登録免許税・不動産取得税の軽減措置
(1) 所有権保存登記の登録免許税軽減(0.15%)
新築戸建ての所有権保存登記にかかる登録免許税は、本則0.4%ですが、特例により0.15%に軽減されます。
例: 建物評価額1,500万円の場合
- 本則: 1,500万円×0.4% = 6万円
- 軽減後: 1,500万円×0.15% = 2.25万円
(2) 抵当権設定登記の登録免許税軽減(0.1%)
住宅ローンを組む際の抵当権設定登記も、本則0.4%から0.1%に軽減されます。
例: 借入額4,500万円の場合
- 本則: 4,500万円×0.4% = 18万円
- 軽減後: 4,500万円×0.1% = 4.5万円
(3) 不動産取得税の1,200万円控除
新築戸建ての不動産取得税は、建物の固定資産税評価額から1,200万円を控除した後、3%を乗じて計算します。
例: 建物評価額1,500万円の場合
- (1,500万円 - 1,200万円)× 3% = 9万円
建物評価額が1,200万円以下であれば、不動産取得税は0円となります。
(4) 認定住宅の追加優遇措置
認定長期優良住宅の場合、不動産取得税の控除額が1,200万円から1,300万円に増額されます。
6. 住み替え新築購入の確定申告と必要書類
(1) 確定申告の時期と方法
住宅ローン控除を受けるには、初年度は必ず確定申告が必要です。
- 申告期間: 入居した年の翌年2月16日〜3月15日
- 申告方法: 税務署窓口、郵送、e-Tax
2年目以降は、給与所得者であれば年末調整で手続き可能です。
(2) 住宅ローン控除の必要書類(登記事項証明書等)
確定申告時に必要な主な書類は以下の通りです。
- 確定申告書
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(金融機関発行)
- 登記事項証明書(法務局)
- 請負契約書または売買契約書の写し
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
(3) 認定住宅の場合の追加書類
認定長期優良住宅またはZEH水準省エネ住宅の場合、以下の書類も必要です。
- 認定長期優良住宅: 認定通知書の写し
- ZEH水準省エネ住宅: 住宅性能証明書または建設住宅性能評価書の写し
これらの書類がないと、一般新築住宅の借入限度額3,000万円しか適用されないため注意してください。
(4) 2年目以降の年末調整での手続き
2年目以降は、勤務先の年末調整で住宅ローン控除を受けられます。
- 税務署から送付される「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」
- 金融機関から送付される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
この2点を勤務先に提出すれば、確定申告は不要です。
まとめ
住み替えで新築戸建てを購入する際は、住宅ローン控除をはじめ複数の控除・特例を活用できます。特に認定長期優良住宅やZEH水準省エネ住宅は借入限度額が大きく、最大455万円の控除を受けられる可能性があります。
一方で、旧居売却時の3,000万円控除を使うと新居のローン控除が3年間使えなくなるため、どちらを優先すべきか税額シミュレーションを行うことが重要です。譲渡益が少なく、新居のローン残高が大きい場合は住宅ローン控除を優先する方が有利なケースが多いでしょう。
転勤の可能性がある方は、再適用ルールを確認し、転勤命令書等の書類を準備しておくことをおすすめします。確定申告時には認定通知書や住宅性能証明書を忘れずに提出し、優遇措置を最大限活用しましょう。