買い替え売却マンションの控除・特例|3000万円控除と買換え完全ガイド

公開日: 2025/10/14

買い替えに伴うマンション売却と控除・特例の基本

マンションを売却して新居に買い替える際、適切な税制上の控除・特例を活用することで、譲渡所得税の負担を大きく軽減できる可能性があります。ただし、複数の制度があり、それぞれに適用要件や併用制限があるため、自分の状況に最適な選択をすることが重要です。

買い替え時に活用できる主な制度は以下の通りです:

  • 3,000万円特別控除:マイホーム売却時に譲渡所得から最高3,000万円まで控除(所有期間不問)
  • 10年超所有軽減税率:所有期間10年超の場合、6,000万円以下の部分に14.21%の軽減税率を適用(3,000万円控除と併用可)
  • 買換え特例:所有期間10年超・居住期間10年以上の場合、譲渡益の課税を将来に繰り延べ(3,000万円控除とは選択適用)
  • 譲渡損失の損益通算・繰越控除:売却損が出た場合、給与所得等と損益通算でき、翌年以降3年間繰り越し可能

国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」や「特定の居住用財産の買換えの特例」によれば、これらの特例には併用制限があり、どれを選ぶかによって最終的な税負担が大きく変わります。

(1) 譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税は、以下の計算式で算出されます(国税庁「譲渡所得の計算方法」参照):

譲渡所得 = 収入金額 - 取得費 - 譲渡費用

  • 収入金額:売却価格
  • 取得費:購入代金、購入時の仲介手数料、リフォーム費用など(建物部分は減価償却後の金額)
  • 譲渡費用:売却時の仲介手数料、印紙税、測量費など

(2) 取得費の計算(減価償却後)

建物部分の取得費は、所有期間中の減価償却費を差し引いて計算します。マンションの場合、非事業用建物の償却率(RC造:0.015)を適用します:

減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 0.015 × 経過年数

例えば、建物部分が2,000万円で10年所有した場合:
2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年 = 270万円が減価償却費となり、取得費は1,730万円となります。

(3) 所有期間と税率

譲渡所得に対する税率は、所有期間によって異なります:

所有期間 区分 所得税率 住民税率 合計(復興税込)
5年以下 短期 30.63% 9% 39.63%
5年超 長期 15.315% 5% 20.315%

所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で計算する点に注意が必要です。

買い替え特例(課税繰延べ)とは

買い替え特例は、一定の要件を満たすマイホームを売却して新居に買い替える場合、譲渡益の課税を将来に繰り延べられる制度です(国税庁「特定の居住用財産の買換えの特例」参照)。

(1) 特例の仕組みと適用要件

売却する物件の要件

  • 居住期間が10年以上
  • 所有期間が10年超(売却した年の1月1日時点で判定)
  • 売却価格が1億円以下

仕組み:譲渡益への課税が新居の売却時まで繰り延べられます。譲渡益が消えるわけではなく、新居の取得費として旧居の取得費を引き継ぎます。

(2) 新居の要件(面積・価格)

買い替える新居には以下の要件があります:

  • 床面積:50㎡以上(登記簿面積)
  • 取得価格:1億円以下
  • 居住開始期限:取得した年の翌年12月31日まで

(3) 買い替え時期の制限

新居の取得時期には制限があります:

  • 旧居を売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までの間に取得すること

つまり、売却の前後1年(合計3年間)の範囲内で新居を取得する必要があります。

3,000万円特別控除との選択適用

買い替え特例と3,000万円特別控除は、どちらか一方しか適用できません(併用不可)。どちらを選ぶべきかは、譲渡益の額や将来の売却予定によって異なります。

(1) 特別控除の要件

3,000万円特別控除は、マイホーム売却時に譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です(国税庁「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」参照)。

主な要件

  • 自己の居住用財産であること
  • 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却先が親族等の特別な関係者でないこと
  • 所有期間は不問(短期所有でも適用可能)

(2) 買い替え特例との比較

項目 3,000万円特別控除 買換え特例
適用効果 譲渡所得から最高3,000万円控除 課税を将来に繰延べ
所有期間要件 なし 10年超(1月1日時点)
居住期間要件 なし 10年以上
住宅ローン控除との併用 可能(要件あり) 不可
将来の影響 なし 新居売却時に課税

(3) どちらを選ぶべきか

3,000万円特別控除が有利なケース

  • 譲渡益が3,000万円以下の場合(完全非課税となる)
  • 新居で住宅ローン控除を受けたい場合
  • 将来的に新居を売却する可能性が高い場合

買換え特例が有利なケース

  • 譲渡益が3,000万円を大きく超える場合(課税を繰り延べられる)
  • 新居を長期間保有する予定の場合
  • 住宅ローン控除を受ける必要がない場合

ただし、買換え特例を使うと、新居売却時に旧居の譲渡益も含めて課税されるため、長期的な税負担をシミュレーションすることが重要です。

売却損が出た場合の損益通算・繰越控除

マンション売却で損失が出た場合、一定の要件を満たせば、給与所得等と損益通算でき、翌年以降3年間繰り越すことができます(国税庁「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」参照)。

(1) 損益通算の要件

マイホーム買換えに伴う譲渡損失の損益通算の要件

  • 所有期間が5年超(売却した年の1月1日時点で判定)
  • 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得すること
  • 新居で住宅ローンを組むこと(10年以上の返済期間)
  • 新居の床面積が50㎡以上であること

(2) 繰越控除の仕組み

損益通算しても控除しきれない損失は、翌年以降3年間繰り越すことができます:

:譲渡損失が1,500万円、年間給与所得が500万円の場合

  • 1年目:500万円と損益通算 → 所得税ゼロ(残り1,000万円)
  • 2年目:500万円と損益通算 → 所得税ゼロ(残り500万円)
  • 3年目:500万円と損益通算 → 所得税ゼロ

この制度により、売却損が出た場合でも税負担を軽減できます。

(3) 住宅ローン控除との併用

譲渡損失の損益通算・繰越控除は、新居の住宅ローン控除と併用可能です(国税庁「住宅ローン控除」参照)。

ただし、損益通算により所得がゼロまたは少額になった年は、住宅ローン控除の適用額も少なくなる(または適用できない)点に注意が必要です。

買い替え時の注意点とリスク

買い替えに伴う控除・特例には、いくつかの注意点とリスクがあります。

(1) 特例の併用制限

以下の組み合わせは併用できません

  • 買換え特例と3,000万円特別控除
  • 買換え特例と住宅ローン控除(新居の)

一方、以下の組み合わせは併用可能です:

  • 3,000万円特別控除と10年超所有軽減税率
  • 譲渡損失の損益通算・繰越控除と住宅ローン控除

(2) 新居取得のタイミング

買換え特例や譲渡損失の損益通算を利用する場合、新居の取得期限があります:

  • 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日まで

この期限を超えると特例が適用できないため、買い替えスケジュールの計画が重要です。

(3) 住宅ローン控除の適用制限

買換え特例を利用すると、新居で住宅ローン控除を受けられません。住宅ローン控除は年間最大21万円(認定住宅の場合)の控除が受けられるため、長期的な税負担を考慮して選択する必要があります。

リスク例

  • 買換え特例と3,000万円特別控除の選択誤り
  • 新居取得期限の超過
  • 所有期間・居住期間の判定ミス(1月1日時点での判定を忘れる)
  • 複数特例の併用制限の確認不足

買い替えをスムーズに進めるための手続き

買い替え時の控除・特例を適用するには、確定申告が必要です。

(1) 必要な書類

共通書類

  • 確定申告書
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 売買契約書のコピー(売却・購入の両方)
  • 登記事項証明書

特例別の追加書類

  • 3,000万円特別控除:住民票の写し、戸籍の附票など
  • 買換え特例:新居の登記事項証明書、住民票の写しなど
  • 譲渡損失の損益通算:新居の住宅ローンの残高証明書など

(2) 確定申告の手続き

確定申告は、売却した年の翌年2月16日~3月15日に行います。e-Taxでの電子申告も可能です。

手続きの流れ

  1. 譲渡所得の計算(収入金額 - 取得費 - 譲渡費用)
  2. 適用する特例の選択
  3. 必要書類の準備
  4. 確定申告書の作成・提出

(3) 税理士への相談

買い替え時の税制は複雑で、選択肢が多いため、税理士への相談をお勧めします:

  • 譲渡益・譲渡損の正確な計算
  • 複数特例の最適な選択(シミュレーション)
  • 将来の税負担も含めた長期的な提案
  • 確定申告書の作成サポート

特に、買換え特例と3,000万円特別控除のどちらを選ぶかは、将来の売却予定や新居での住宅ローン控除の有無など、総合的な判断が必要です。

まとめ

マンションの買い替え時には、3,000万円特別控除、買換え特例、譲渡損失の損益通算など、複数の控除・特例が利用できる可能性があります。それぞれに適用要件や併用制限があるため、自分の状況に最適な選択をすることが重要です。

ポイント

  • 譲渡益が3,000万円以下なら、3,000万円特別控除で完全非課税が可能
  • 譲渡益が大きく、長期保有予定なら買換え特例も選択肢
  • 売却損が出た場合、損益通算・繰越控除で給与所得等と相殺できる
  • 買換え特例と住宅ローン控除は併用不可
  • 所有期間・居住期間の判定は売却年の1月1日時点で行う

最適な選択をするためには、譲渡所得の正確な計算と、将来の税負担も含めたシミュレーションが不可欠です。税理士への相談を検討し、確実に特例を活用してください。

よくある質問

Q1マンションを買い替える場合、買い替え特例と3000万円特別控除のどちらがお得ですか?

A1譲渡益の額、新居の価格、将来の売却予定により異なります。譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円特別控除で完全非課税となるため有利です。譲渡益が3,000万円を大きく超える場合は、買換え特例で課税を繰り延べる選択肢もありますが、両方の併用はできません。また、新居で住宅ローン控除を受けたい場合は、買換え特例は利用できないため、3,000万円特別控除を選ぶ必要があります。税理士への相談が必須です。

Q2買い替え特例の適用要件は何ですか?

A2売却物件について、居住期間が10年以上、所有期間が10年超(売却した年の1月1日時点で判定)、売却価格が1億円以下であることが必要です。新居については、床面積50㎡以上、取得価格1億円以下、取得した年の翌年12月31日までに居住開始することが要件です。また、新居の取得時期は、旧居を売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までの範囲内である必要があります。

Q3マンション売却で損失が出た場合、税金はどうなりますか?

A3居住用財産の譲渡損失は、一定の要件を満たせば、給与所得などの他の所得と損益通算できます。具体的には、所有期間が5年超で、新居を取得して住宅ローンを組む場合などに適用可能です。損益通算しても控除しきれない損失は、翌年以降3年間繰り越すことができます。この制度は、新居の住宅ローン控除との併用も可能です(ただし、損益通算により所得がゼロまたは少額になった年は、住宅ローン控除の適用額も少なくなります)。

Q4買い替え特例を使った後、新居を売却するときの税金はどうなりますか?

A4買換え特例は課税を繰り延べる制度のため、新居を売却するときに旧居の譲渡益も含めて計算されます。具体的には、新居の取得費として旧居の取得費を引き継ぐため、新居を長期保有していても、実質的な譲渡益が大きくなり、税負担が大きくなる可能性があります。そのため、将来的に新居を売却する予定がある場合は、買換え特例よりも3,000万円特別控除を選んだ方が有利になることがあります。

Q5買い替え時に住宅ローン控除は使えますか?

A5新居購入で住宅ローン控除を受ける場合、売却時に買い替え特例を使うと併用できません。一方、3,000万円特別控除または譲渡損失の損益通算を選べば、新居の住宅ローン控除との併用が可能です(一定の要件を満たす必要があります)。住宅ローン控除は年間最大21万円(認定住宅の場合)の控除が受けられるため、長期的な税負担を考慮して、どの特例を選ぶかを判断する必要があります。

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