離婚時のマンション売却で使える控除・特例
離婚によりマンションの売却を検討されている方にとって、税金面での控除や特例の活用は大きな関心事です。財産分与で不動産を分ける際、適用できる税制優遇措置を正しく理解することで、数百万円単位の税負担を軽減できる可能性があります。
この記事でわかること
- 離婚時のマンション売却で利用できる3,000万円特別控除の適用要件
- 財産分与と税金の関係、譲渡所得税が発生するケース
- 共有名義の場合の控除の受け方と持分割合の影響
- 離婚前後の売却タイミングによる税負担の違い
- 所有期間10年超の場合の軽減税率特例との併用方法
(1) 離婚売却の税制優遇の全体像
離婚に伴うマンション売却では、主に以下の税制優遇が利用できます。
制度名 | 控除・軽減額 | 主な適用要件 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 譲渡所得から最高3,000万円控除 | 居住用財産、住まなくなってから3年以内の売却 |
所有期間10年超の軽減税率 | 6,000万円以下の部分は税率14.21% | 所有期間10年超、居住用財産 |
譲渡損失の損益通算 | 給与所得等から損失を控除 | 住宅ローン残債がある等の要件 |
国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」では、これらの制度の詳細が解説されています。
(2) マンション特有の注意点
マンションの場合、以下の点に特に注意が必要です。
- 減価償却の計算:建物部分は経年劣化により取得費が減少するため、譲渡所得が大きくなる傾向
- 管理費・修繕積立金:売却時の清算金は譲渡費用に含められる可能性
- 駐車場等の付属設備:居住用として一体で使用していた場合は控除対象
財産分与と税金の関係
(1) 財産分与は原則非課税
離婚時の財産分与そのものは、原則として贈与税の対象外です。これは、夫婦が婚姻期間中に共同で築いた財産を清算する行為であり、贈与には該当しないためです。
ただし、国税庁の「財産分与による資産の移転」によれば、以下の場合には課税される可能性があります。
- 分与された財産が婚姻期間中の協力で得た財産を大幅に超える場合
- 離婚が租税回避を目的としていると認められる場合
(2) 譲渡所得税が発生するケース
財産分与自体は非課税でも、マンションを売却して現金化した場合は、譲渡した側に譲渡所得税が発生します。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
ここで3,000万円特別控除を適用できれば、多くのケースで譲渡所得税はゼロまたは大幅に軽減されます。
(3) 住宅ローン残債の取扱い
住宅ローンが残っている場合、売却代金でローンを完済できないケース(オーバーローン)では、売却損が発生します。この場合、一定要件を満たせば「譲渡損失の損益通算及び繰越控除」により、給与所得等から損失を差し引き、税金の還付を受けられる可能性があります。
3,000万円特別控除の適用条件
(1) 居住要件と期間制限
3,000万円特別控除の適用を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 居住用財産であること:自己が居住していたマンションであること
- 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却先の制限:配偶者や直系血族、同族会社等への売却は対象外
判定日の重要性: 「住まなくなってから3年以内」の判定は、住まなくなった日ではなく、その日の属する年の12月31日から3年後の12月31日までとなります。例えば、2023年6月に転居した場合、2026年12月31日までの売却が対象です。
(2) 共有名義の場合の控除枠
夫婦共有名義のマンションを売却する場合、各人がそれぞれ3,000万円の控除を受けられます。つまり、夫婦で最大6,000万円の控除が可能です。
例:
- 売却価格:5,000万円
- 取得費・譲渡費用:1,000万円
- 譲渡所得:4,000万円
- 持分:夫50%、妻50%
→ 夫の譲渡所得2,000万円、妻の譲渡所得2,000万円 → 各人が3,000万円控除を適用し、課税なし
(3) 住まなくなってから3年以内の売却
離婚により一方が転居した場合でも、転居してから3年以内に売却すれば、転居した側も3,000万円控除を適用できます。
注意点:
- 転居後に他の用途(賃貸等)に使用した場合は控除不可
- 別居期間が長期化すると「居住用」の要件を満たさない可能性
軽減税率の特例
(1) 所有期間10年超の税率軽減
マンションの所有期間が10年を超える場合、国税庁の「所有期間10年超の居住用財産の軽減税率」により、以下の軽減税率が適用されます。
譲渡所得 | 税率 |
---|---|
6,000万円以下の部分 | 所得税10%、住民税4%(合計14.21%、復興特別所得税含む) |
6,000万円超の部分 | 所得税15%、住民税5%(合計20.315%) |
通常の長期譲渡所得税率(20.315%)と比べ、約6%の軽減となります。
(2) 3,000万円控除との併用
軽減税率の特例は、3,000万円特別控除と併用可能です。
計算例:
- 譲渡所得:8,000万円
- 3,000万円控除適用後:5,000万円
- 軽減税率適用:5,000万円 × 14.21% = 710.5万円
通常税率(20.315%)では約1,015万円の税金が、軽減税率では約710万円となり、約300万円の節税になります。
(3) マンションの減価償却計算
所有期間の計算では、取得日から売却した年の1月1日までの期間で判定します。12月に購入し翌年1月に売却した場合、実質1ヶ月でも「1年超」とカウントされます。
また、マンションの建物部分は減価償却により取得費が減少するため、譲渡所得が大きくなりやすい点に注意が必要です。
共有名義の場合の注意点
(1) 各人が控除を受けられる仕組み
法務省の資料によれば、夫婦共有名義のマンションを売却する場合、各人が持分に応じた譲渡所得を計算し、それぞれ3,000万円の控除を適用できます。
ポイント:
- 持分割合に関わらず、各人が満額3,000万円の控除を受けられる
- 一方が控除枠を使い切らなくても、他方に移譲はできない
(2) 持分割合と控除額の関係
持分割合により譲渡所得が分配されますが、控除額は各人独立して適用されます。
例:持分が夫70%、妻30%の場合
- 譲渡所得合計:5,000万円
- 夫の譲渡所得:3,500万円 → 控除後500万円(課税対象)
- 妻の譲渡所得:1,500万円 → 控除後0円(非課税)
(3) 売却代金の分配方法
売却代金は、登記上の持分割合に応じて分配するのが原則です。ただし、離婚時の財産分与として別の割合で分配することも可能です。この場合、税務署への説明が必要となる場合があります。
離婚前後の売却タイミング
(1) 離婚前売却と離婚後売却の違い
売却のタイミングにより、税務上の扱いが異なります。
タイミング | メリット | デメリット |
---|---|---|
離婚前売却 | 手続きが比較的シンプル | 売却代金の分配で揉める可能性 |
離婚後売却 | 財産分与として明確 | 元配偶者との連絡・協力が必要 |
どちらのタイミングでも、要件を満たせば3,000万円控除は適用できます。
(2) 住宅ローン控除との関係
国税庁の資料によれば、3,000万円特別控除を適用すると、その年から3年間は新たな住宅の住宅ローン控除が受けられなくなります。
検討ポイント:
- 新居で住宅ローン控除を受ける予定がある場合、どちらが有利か計算が必要
- 住宅ローン控除額が少ない場合は、3,000万円控除を優先する方が得策なケースが多い
(3) 確定申告の手続き
3,000万円特別控除を適用するには、売却した年の翌年2月16日~3月15日に確定申告が必要です。
必要書類:
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書のコピー
- 登記事項証明書
- 住民票(売却時の住所を確認するため)
共有名義の場合は、各人がそれぞれ確定申告を行います。
まとめ
離婚に伴うマンション売却では、3,000万円特別控除や所有期間10年超の軽減税率など、複数の税制優遇措置を活用できます。財産分与自体は原則非課税ですが、マンションを売却して現金化する場合は譲渡所得税が発生するため、これらの控除を正しく適用することで、税負担を大幅に軽減できます。
共有名義の場合は各人が3,000万円ずつ控除を受けられる点、住まなくなってから3年以内という期間制限がある点、住宅ローン控除との関係に注意が必要な点など、実務上のポイントを押さえて、適切なタイミングで売却を進めることが重要です。
税務面で不安がある場合は、税理士や不動産会社の専門家に相談することをおすすめします。