離婚に伴うマンション取得と控除・特例の基本
離婚に伴いマンションを取得する場合、財産分与による取得、新規購入、共有名義からの単独名義への変更など、さまざまなパターンがあります。それぞれの場合で適用できる控除・特例が異なるため、正しく理解して活用することで税負担を軽減できます。
この記事でわかる重要ポイント:
- 財産分与によるマンション取得は原則として贈与税非課税(社会通念上妥当な範囲内)
- 財産分与後も住宅ローン控除の適用要件を満たせば控除を受けられる
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置は離婚後の取得でも適用可能
- 共有名義から単独名義への変更時は贈与税リスクに注意が必要
- 財産分与のタイミングと税務処理により節税効果が大きく異なる
(1) 財産分与と税金の関係
離婚に伴うマンションの取得方法は主に以下の3つです。
主な取得方法:
取得方法 | 内容 | 税務上の扱い |
---|---|---|
財産分与 | 元配偶者から財産分与としてマンションを譲り受ける | 取得側は原則として贈与税非課税 |
共有持分の取得 | 共有名義のマンションで一方の持分を取得 | 財産分与なら原則非課税、売買なら譲渡所得税が発生 |
新規購入 | 離婚後に新たにマンションを購入 | 通常の不動産取得と同じ扱い |
これらの方法により、適用できる控除・特例が異なります。
(2) 取得側の税務上の扱い
財産分与で取得した場合の原則:
- 贈与税は原則非課税: 離婚に伴う財産分与は、夫婦が婚姻中に形成した財産を分配するものであり、贈与には該当しない
- 不動産取得税: 財産分与でも課税対象だが、軽減措置あり
- 登録免許税: 所有権移転登記に課税(本則2.0%、住宅用は0.3%に軽減)
例外的に贈与税が課税されるケース:
- 財産分与額が社会通念上不相当に過大な場合
- 贈与税を免れるために離婚を偽装した場合
これらの例外に該当しない限り、財産分与による取得は贈与税の対象外です。
(3) 適用できる控除・特例
離婚に伴うマンション取得で適用できる主な控除・特例は以下の通りです。
主な控除・特例:
- 住宅ローン控除: 新規購入または財産分与後のローン借り換えで適用可能
- 登録免許税の軽減: 住宅用家屋の税率軽減(本則2.0% → 0.3%)
- 不動産取得税の軽減: 床面積等の要件を満たせば税額軽減
- ひとり親控除: 子供を扶養する場合、所得税から35万円控除
- 住宅取得資金の贈与税非課税: 親から資金援助を受ける場合、最大1000万円まで非課税
これらを適切に活用することで、税負担を大きく軽減できます。
財産分与による取得の税務
(1) 贈与税は原則非課税
財産分与によるマンション取得では、取得側に贈与税は原則として課税されません。
非課税の根拠:
- 財産分与の性質: 夫婦が婚姻中に形成した共有財産を分配するものであり、新たな財産の移転(贈与)ではない
- 国税庁の見解: 財産分与により取得した財産は、贈与により取得したものとみなされない(相続税法基本通達9-8)
- 適正な範囲: 夫婦の財産・協力の程度等を考慮して、社会通念上相当な範囲内であること
財産分与協議書に「財産分与として譲渡する」旨を明記し、適正な分与であることを示すことが重要です。
(2) 過大な財産分与のリスク
財産分与額が不相当に過大な場合、過大部分について贈与税が課税される可能性があります。
過大と判断される可能性があるケース:
- 婚姻中の財産形成への貢献度を超える分与: 一方が全く財産形成に貢献していないのに、過半の財産を取得
- 慰謝料的要素が含まれる: 慰謝料は財産分与とは別の性質であり、過大な慰謝料的給付は贈与と認定される可能性
- 離婚の偽装: 贈与税を免れるために形式的に離婚したと認定される場合
リスク回避のポイント:
- 財産分与は原則として2分の1ずつを基本とする
- 貢献度や有責性により調整する場合は、離婚協議書にその理由を明記
- 慰謝料は財産分与とは別に設定し、混同しない
(3) 取得費と取得時期の引き継ぎ
財産分与でマンションを取得した場合、将来売却する際の譲渡所得計算では、元の所有者(元配偶者)の取得費と取得時期を引き継ぎます。
引き継ぎのルール:
項目 | 引き継ぎの内容 |
---|---|
取得費 | 元配偶者が購入した際の取得費(購入代金 + 諸費用) |
取得時期 | 元配偶者が取得した時期 |
所有期間 | 元配偶者の所有期間を通算 |
将来の売却時の注意点:
- 財産分与を受けた時の時価ではなく、元の取得費で計算
- 所有期間5年超・10年超の判定は、元配偶者の取得時期から通算
- 取得費が不明の場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算
将来の売却を見越して、元配偶者の取得時の契約書や領収書を保管しておくことが重要です。
住宅ローン控除の適用
(1) 財産分与後の住宅ローン控除
財産分与でマンションを取得した場合でも、住宅ローン控除の適用要件を満たせば控除を受けられます。
住宅ローン控除の基本要件:
- 住宅ローンの利用: 返済期間10年以上の住宅ローンを利用
- 自己居住: 取得後6ヶ月以内に居住し、控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住
- 床面積: 50㎡以上(合計所得1000万円以下なら40㎡以上も可)
- 築年数: 1982年以降に建築された住宅(新耐震基準)または耐震基準適合証明あり
- 所得制限: 合計所得金額2000万円以下
財産分与での特有の注意点:
- ローンの借り換え: 財産分与で元配偶者のローンを引き継ぐ場合、借り換えが必要なことが多い
- 新規のローン: 借り換え後のローンが10年以上であれば、住宅ローン控除を適用可能
- 取得時期: 財産分与を受けた日(登記日)が取得日となる
(2) ローンの借り換えと控除
共有名義のマンションで一方が財産分与により単独名義にする場合、住宅ローンの借り換えが必要になることがあります。
借り換え時の住宅ローン控除:
- 新規ローンとして扱われる: 借り換え後のローンが10年以上であれば、住宅ローン控除の対象
- 控除期間: 借り換え時点から13年間(新築・買取再販の場合)または10年間(中古住宅の場合)
- 年末残高の上限: 中古マンションの場合、借入限度額2000万円(控除上限額14万円/年)
借り換え時の注意点:
- 借り換え前のローン残高を超える部分は住宅ローン控除の対象外
- 元配偶者のローンを単純に引き継ぐだけでは、住宅ローン控除を新たに適用できない
- 金融機関の審査で離婚直後の収入証明が求められる場合がある
(3) 適用要件の確認
住宅ローン控除を受けるには、初年度に確定申告が必要です。
確定申告で提出する書類:
- 確定申告書
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローンの年末残高証明書(金融機関から取得)
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 売買契約書または財産分与協議書のコピー
- マイナンバー関係書類
2年目以降は年末調整で控除を受けられます(給与所得者の場合)。
その他の税制優遇措置
(1) 登録免許税の軽減
離婚に伴う財産分与や新規購入でマンションを取得した場合、所有権移転登記に登録免許税が課税されますが、住宅用家屋については軽減措置があります。
登録免許税の税率:
登記の種類 | 本則税率 | 軽減税率(住宅用) |
---|---|---|
所有権移転登記(財産分与) | 2.0% | 0.3%(2026年3月31日まで) |
所有権移転登記(売買) | 2.0% | 0.3%(2026年3月31日まで) |
抵当権設定登記 | 0.4% | 0.1%(2026年3月31日まで) |
軽減要件:
- 自己居住用の住宅であること
- 床面積50㎡以上
- 築年数要件または耐震基準適合
- 取得後1年以内に登記
軽減措置を受けるには、登記申請時に住宅用家屋証明書を添付します。
(2) 不動産取得税の軽減
財産分与でマンションを取得した場合も、不動産取得税が課税されますが、軽減措置があります。
不動産取得税の軽減:
- 税率: 本則4% → 3%(2027年3月31日まで)
- 控除額: 建物について最大1200万円を控除(築年数により異なる)
- 土地の軽減: 一定の計算により税額が軽減される
軽減要件:
- 床面積50㎡以上240㎡以下
- 自己居住用
- 取得後6ヶ月以内に申請
不動産取得税は都道府県税であり、取得後に納税通知書が届きます。軽減措置を受けるには、期限内に都道府県税事務所に申請が必要です。
(3) 特例措置の活用
離婚後に新たにマンションを購入する場合、以下の特例も活用できる可能性があります。
親から資金援助を受ける場合:
- 住宅取得資金の贈与税非課税: 父母・祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、最大1000万円まで非課税(省エネ等住宅の場合)
- 適用要件: 取得する住宅が床面積50㎡以上240㎡以下、合計所得2000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の場合は1000万円以下)
ひとり親控除:
- 控除額: 所得税35万円、住民税30万円
- 適用要件: 離婚後、生計を同じくする子供がいる、合計所得500万円以下、事実婚でない
- 住宅ローン控除との併用: 可能
離婚後の新生活で住宅を取得する際、これらの特例を活用することで税負担を軽減できます。
離婚時のマンション取得で注意すべきポイント
(1) 財産分与と売却のタイミング
共有名義のマンションを処分する方法として、財産分与と売却の2つがあります。
財産分与の場合:
- 取得側: 原則として贈与税非課税
- 譲渡側: 財産分与として譲渡した場合、譲渡所得税が課税される可能性あり(3000万円特別控除の適用可否を確認)
売却の場合:
- 離婚前の売却: 夫婦それぞれが3000万円特別控除を適用できる可能性(共有持分に応じて)
- 離婚後の売却: それぞれが単独で3000万円特別控除を適用可能
選択のポイント:
- 譲渡益が大きい場合は売却して3000万円特別控除を活用
- どちらかが住み続ける場合は財産分与が選択肢
- 譲渡側の税負担を考慮して判断
どちらが有利かは個別の状況により異なるため、税理士に相談して試算することをおすすめします。
(2) 住宅ローンの名義変更
共有名義のマンションで一方が単独名義にする場合、住宅ローンの扱いが問題になります。
住宅ローンの処理パターン:
パターン | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
債務引受 | 一方が全額の債務を引き受ける | 金融機関の承諾が必要、審査あり |
借り換え | 新たに単独でローンを組む | 金融機関の審査、諸費用が発生 |
連帯債務の解消 | 連帯債務者から一方を外す | 金融機関の承諾が必要、困難な場合が多い |
金融機関の審査:
- 離婚後の単独での返済能力が審査される
- 養育費は収入として認められる場合と認められない場合がある
- 勤続年数が短い場合は審査が厳しい
住宅ローンの名義変更は金融機関の承諾が必須であり、審査に通らない場合は財産分与が困難になることもあります。
(3) 共有名義の解消
共有名義のマンションを一方の単独名義にする際の税務上の注意点です。
財産分与として処理する場合:
- 取得側: 原則として贈与税非課税
- 譲渡側: 譲渡所得税が課税される可能性あり(3000万円特別控除の適用可否を確認)
売買として処理する場合:
- 取得側: 通常の不動産取得と同じ扱い
- 譲渡側: 譲渡所得税が課税(3000万円特別控除の適用可能)
贈与として処理する場合:
- 取得側: 贈与税が課税される(不利)
- 譲渡側: 譲渡所得税が課税される可能性あり
財産分与として処理することで、取得側の税負担を回避できるため、離婚協議書に「財産分与として譲渡する」旨を明記することが重要です。
専門家への相談と手続き
(1) 弁護士・税理士への相談
離婚に伴うマンション取得では、法律と税務の両面から専門家のアドバイスが必要です。
弁護士に相談すべき事項:
- 財産分与の割合と方法
- 離婚協議書の作成
- 財産分与と慰謝料の区分
- 住宅ローンの名義変更手続き
税理士に相談すべき事項:
- 財産分与と売却のどちらが有利か
- 譲渡所得税の試算
- 住宅ローン控除の適用可否
- 確定申告の手続き
相談費用は一般的に、弁護士が初回相談30分5000円〜、税理士が1時間1万円〜程度ですが、適切なアドバイスにより数十万円〜数百万円の節税効果が得られる可能性があります。
(2) 必要書類と手続きの流れ
財産分与でマンションを取得する場合の主な手続きは以下の通りです。
手続きの流れ:
- 離婚協議: 財産分与の内容を協議
- 離婚協議書の作成: 財産分与の内容を明記
- 離婚届の提出: 市区町村役場に提出
- 所有権移転登記: 法務局に登記申請(財産分与を原因とする移転登記)
- 住宅ローンの処理: 名義変更または借り換え
- 税務申告: 必要に応じて確定申告
必要書類(所有権移転登記):
- 登記申請書
- 離婚協議書または調停調書
- 戸籍謄本(離婚の記載があるもの)
- 登記識別情報(権利証)
- 印鑑証明書
- 住民票
- 固定資産評価証明書
- 住宅用家屋証明書(登録免許税軽減を受ける場合)
(3) 確定申告の必要性
離婚に伴うマンション取得では、以下の場合に確定申告が必要です。
確定申告が必要なケース:
- 住宅ローン控除を受ける場合: 初年度のみ確定申告が必要(2年目以降は年末調整)
- 財産分与で譲渡した側: 譲渡所得が発生した場合
- 不動産取得税の軽減を受ける場合: 都道府県税事務所への申請(確定申告ではない)
確定申告の期限:
- 翌年2月16日〜3月15日
- 住宅ローン控除を受ける場合、期限内に申告しないと控除を受けられない
確定申告は税理士に依頼することもできますが、国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用すれば、指示に従って入力するだけで申告書を作成できます。
まとめ
離婚に伴うマンション取得では、財産分与、住宅ローン控除、登録免許税・不動産取得税の軽減など、さまざまな税制優遇措置を活用できます。以下のポイントを押さえることでスムーズに進められます。
- 財産分与によるマンション取得は原則として贈与税非課税(社会通念上妥当な範囲内)
- 財産分与後も住宅ローン控除の適用要件を満たせば控除を受けられる
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置は離婚後の取得でも適用可能
- 共有名義から単独名義への変更は財産分与として処理することで取得側の税負担を回避
- 財産分与と売却のどちらが有利かは個別の状況により異なるため税理士に相談
- 住宅ローンの名義変更は金融機関の承諾が必須で審査がある
- 将来の売却を見越して元配偶者の取得時の契約書や領収書を保管
- 住宅ローン控除を受けるには初年度に確定申告が必要
離婚という状況下でも、法律と税務の専門家(弁護士・税理士)のサポートを受けることで、トラブルを防ぎながら適切にマンションを取得し、税制優遇措置を最大限に活用できます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 離婚で配偶者からマンションを譲り受けた場合、取得側に税金はかかりますか?
A: 財産分与による取得は原則として贈与税非課税です。離婚に伴う財産分与は、夫婦が婚姻中に形成した財産を分配するものであり、贈与には該当しないためです。ただし、社会通念上妥当な範囲を超える過大な財産分与の場合、超過部分に贈与税が課税される可能性があります。不動産取得税と登録免許税は課税されますが、軽減措置があります。
Q2: 財産分与で取得したマンションで住宅ローン控除は使えますか?
A: 自己居住要件、面積要件、築年数要件などを満たせば適用可能です。財産分与でマンションを取得し、10年以上の住宅ローンを利用している場合(借り換えを含む)、住宅ローン控除を受けられます。ただし、ローンの借り換えが必要な場合、新たなローンが10年以上あることが条件です。初年度は確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で控除を受けられます。
Q3: 財産分与と売却のどちらを先にすべきですか?
A: ケースバイケースです。離婚前の売却は夫婦それぞれが3000万円特別控除を使える可能性があります。財産分与の場合は受け取り側は原則非課税ですが、譲渡側に譲渡所得税が課税されるリスクがあります。どちらが有利かは、マンションの譲渡益の額、将来の居住予定、住宅ローンの残債などにより異なるため、個別状況を踏まえて税理士への相談が必須です。
Q4: 共有名義のマンションを離婚で一方が取得する場合、税金はどうなりますか?
A: 一方が他方の持分を財産分与で取得する場合、取得側は原則非課税です。ただし、譲渡側の持分について譲渡所得税が発生する可能性があります。譲渡側は3000万円特別控除を適用できる場合があるため、事前に税理士に相談して試算することをおすすめします。財産分与として処理することで、取得側の贈与税を回避できるため、離婚協議書に明記することが重要です。
Q5: 離婚後にマンションを売却する場合、取得費はどうなりますか?
A: 財産分与による取得の場合、元の所有者(元配偶者)の取得時期と取得費を引き継ぎます。分与時の時価ではなく、元の取得費を基準に譲渡所得を計算します。所有期間5年超・10年超の判定も、元配偶者の取得時期から通算します。将来の売却を見越して、元配偶者の取得時の契約書や領収書を保管しておくことが重要です。取得費が不明の場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算できます。