マンション売却で使える控除・特例とは
マンションを売却する際には、譲渡所得税がかかる場合がありますが、居住用財産の売却であれば複数の税制優遇措置を利用できます。主な制度は以下の3つです。
- 3,000万円特別控除: 譲渡所得から最高3,000万円を控除
- 軽減税率の特例: 所有期間10年超の場合、税率を14.21%に軽減
- 買換え特例: 新居購入時に課税を繰延べ
この記事の結論を先にまとめると、以下の通りです。
- 3,000万円特別控除は所有期間を問わず利用でき、譲渡益3,000万円以下なら税額ゼロにできる
- 所有期間10年超なら3,000万円控除と軽減税率を併用可能で節税効果が大きい
- 買換え特例は3,000万円控除との選択適用で、譲渡益が大きい場合に検討
- 減価償却計算や有利判定は複雑なため税理士への相談を推奨
(1) 売却時に利用できる税制優遇の全体像
国税庁「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によれば、居住用マンションの売却では譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。さらに所有期間が10年を超える場合は、国税庁「居住用財産の軽減税率の特例」に基づき、控除後の譲渡益に対して通常20.315%の税率が14.21%に軽減されます。
また、売却後に新居を購入する予定があれば、国税庁「特定の居住用財産の買換え特例」により課税を繰延べることも可能です。
(2) 控除・特例の併用と選択適用
重要なのは、すべての特例を同時に使えるわけではない点です。
特例 | 3,000万円控除 | 軽減税率 | 買換え特例 |
---|---|---|---|
3,000万円控除 | - | ○併用可 | ×選択適用 |
軽減税率 | ○併用可 | - | ×選択適用 |
買換え特例 | ×選択適用 | ×選択適用 | - |
3,000万円控除と軽減税率は併用できますが、買換え特例はいずれか一方しか選べません。どちらが有利かは譲渡益の額や今後の売却予定により異なります。
2. 3,000万円特別控除の基本
(1) 適用要件と控除額
3,000万円特別控除は、国税庁「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によれば、以下の要件を満たせば利用できます。
- 自分が居住していたマンションの売却であること
- 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係でないこと
- 売却年の前年・前々年に同じ特例を利用していないこと
所有期間に関する要件はないため、購入後すぐに売却した場合でも利用可能です。ただし、転居済みの場合は転居日から3年目の年末までに売却する必要があります。
(2) 居住用財産の定義
「居住用財産」とは、生活の本拠として使用していたマンションを指します。別荘や投資用マンションは対象外です。ただし、転勤等でやむを得ず賃貸に出していた期間があっても、主として居住の用に供していたと認められれば適用される場合があります。判断が難しいケースでは税理士に相談することをお勧めします。
(3) 確定申告の手続き
3,000万円控除を受けるには、売却した年の翌年2月16日~3月15日の間に確定申告が必要です。必要書類は以下の通りです。
- 譲渡所得の内訳書
- 登記事項証明書(売却物件の履歴確認用)
- 売買契約書の写し
- 譲渡費用の領収書
控除適用により税額がゼロになる場合でも、確定申告は必須です。
3. 軽減税率の特例
(1) 所有期間10年超の税率軽減
国税庁「居住用財産の軽減税率の特例」によれば、売却年の1月1日時点で所有期間が10年を超えている居住用マンションを売却した場合、譲渡所得税率が以下のように軽減されます。
課税譲渡所得 | 通常税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 20.315% | 14.21% |
6,000万円超の部分 | 20.315% | 20.315% |
注意すべきは、売却日ではなく売却年の1月1日時点で判定される点です。例えば2025年12月に売却した場合、2025年1月1日時点で10年超所有していることが条件になります。
(2) 3,000万円控除との併用
軽減税率の特例は3,000万円控除と併用できます。具体例で見てみましょう。
例: 所有期間12年、譲渡益5,000万円の場合
- まず3,000万円控除を適用: 5,000万円 - 3,000万円 = 2,000万円
- 残りの2,000万円に軽減税率14.21%を適用: 2,000万円 × 14.21% = 284.2万円
通常税率20.315%なら406.3万円の税額となるため、約122万円の節税効果があります。
(3) 税率の計算方法
軽減税率14.21%の内訳は以下の通りです。
- 所得税: 10%
- 復興特別所得税: 0.21%(所得税額の2.1%)
- 住民税: 4%
通常の長期譲渡所得税率(20.315%)と比較すると、約6ポイントの軽減となります。
4. 買換え特例
(1) 課税の繰延べの仕組み
国税庁「特定の居住用財産の買換え特例」によれば、買換え特例は売却益への課税を新居の売却時まで繰延べる制度です。課税が免除されるわけではない点に注意が必要です。
適用要件は以下の通りです。
- 売却するマンションの所有期間が10年超(売却年の1月1日時点)
- 居住期間が10年以上
- 売却価額が1億円以下
- 新居の床面積が50㎡以上
- 売却年の前年から翌年までに新居を取得・居住
(2) 3,000万円控除との選択適用
買換え特例と3,000万円控除は選択適用で、どちらか一方しか使えません。一般的な判断基準は以下の通りです。
3,000万円控除が有利なケース:
- 譲渡益が3,000万円以下(税額ゼロになる)
- 新居を長期保有する予定がない(課税繰延のメリットが小さい)
買換え特例が有利なケース:
- 譲渡益が3,000万円を大きく超える
- 新居を長期保有予定で、将来さらに高値で売却できる見込み
(3) 適用要件と買換え資産の範囲
買換え資産(新居)は国内の居住用財産に限られます。別荘や投資用マンションは対象外です。また、売却と新居取得のタイミングも重要で、売却年の前年1月1日から翌年12月31日までの間に新居を取得し居住する必要があります。
5. 譲渡所得の計算方法
(1) 譲渡価額・取得費・譲渡費用
国税庁「譲渡所得の計算方法」によれば、譲渡所得は以下の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)
- 譲渡価額: 売却代金(固定資産税の精算金を含む)
- 取得費: 購入代金 + 購入時諸費用 - 減価償却費
- 譲渡費用: 仲介手数料、印紙税、登記費用など売却に直接かかった費用
(2) マンションの減価償却計算
マンションの取得費は、建物部分について減価償却を行う必要があります。国税庁「譲渡所得の計算方法」によれば、非事業用の鉄筋コンクリート造マンションは以下の計算式を使います。
減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
- 償却率: 0.022(耐用年数47年の定額法)
- 経過年数: 6か月以上の端数は1年、6か月未満は切り捨て
例えば建物取得価額2,000万円、所有期間12年の場合:
2,000万円 × 0.9 × 0.022 × 12年 = 475.2万円
取得費は「2,000万円 - 475.2万円 = 1,524.8万円」となります。
(3) 取得費が不明な場合の概算取得費
購入時の契約書を紛失した場合など取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算できます。ただし、実際の取得費が5%を超える場合は不利になるため、契約書の再発行や通帳記録などで取得費を証明することをお勧めします。
6. 控除・特例の選択基準
(1) 譲渡益の額による判断
譲渡益の額によって最適な特例は異なります。
- 譲渡益3,000万円以下: 3,000万円控除で税額ゼロ(最優先)
- 譲渡益3,000万円超、所有期間10年超: 3,000万円控除+軽減税率の併用
- 譲渡益が大きく新居購入予定あり: 買換え特例も検討
(2) 買換え予定の有無による判断
新居購入予定がある場合は、買換え特例の検討が必要です。ただし、以下のケースでは3,000万円控除の方が有利です。
- 譲渡益が3,000万円以下(課税がゼロになる)
- 新居を短期間で売却予定(課税繰延のメリットが小さい)
- 新居の価格が下落する可能性が高い(繰延べた課税が増える)
(3) 税理士への相談タイミング
以下のケースでは税理士への相談を強くお勧めします。
- 譲渡益が3,000万円を大きく超える場合
- 減価償却計算が複雑な場合(リフォーム歴が多い、建物価格が不明など)
- 買換え特例と3,000万円控除の有利判定が難しい場合
- 過去に同じ特例を利用した記憶があいまいな場合
税理士報酬は一般的に5万円~15万円程度ですが、誤った申告による追徴課税リスクを考えると十分に価値があります。
まとめ
マンション売却時の控除・特例は、適用要件と併用ルールを正しく理解することで大きな節税効果を得られます。特に所有期間10年超の場合は3,000万円控除と軽減税率の併用で大幅な節税が可能です。一方、買換え特例は課税の繰延べであり免除ではない点に注意が必要です。
譲渡所得の計算、特に減価償却の計算は複雑なため、譲渡益が大きい場合や判断に迷う場合は早めに税理士に相談することをお勧めします。確定申告期限は売却翌年の3月15日ですが、余裕をもって準備を進めましょう。