土地買い替えの控除・特例|課税繰延と3000万円控除

公開日: 2025/10/14

土地の買い替えで活用できる税制優遇の全体像

土地を売却して新しい住居を購入する「買い替え」では、複数の税制優遇措置を選択できます。特に「買い替え特例(課税の繰延べ)」と「3,000万円特別控除」は、どちらを選択するかで税負担が大きく変わるため、事前の理解が重要です。

本記事では、買い替え時の土地売却で利用できる控除・特例の全体像と、それぞれの適用要件、選択のポイントを網羅的に解説します。

この記事でわかること

  • 土地買い替え時に適用できる控除・特例の種類
  • 買い替え特例(課税繰延べ)の仕組みと適用要件
  • 3,000万円特別控除との選択基準
  • 譲渡所得税の計算方法と税率
  • 買い替え時の注意点とリスク
  • 確定申告の手続きと必要書類

1. 買い替え時の土地売却と控除・特例の基本

(1) 土地売却の税制概要

土地を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して譲渡所得税が課税されます。

国税庁の「土地建物等を譲渡したとき」によれば、譲渡所得税には以下の特徴があります。

  • 分離課税: 給与所得とは別に計算
  • 所有期間で税率が変わる: 5年以下(短期)39.63%、5年超(長期)20.315%
  • 特例の適用で税負担軽減が可能

(2) 買い替え時に適用できる特例一覧

土地を売却して新居を購入する買い替え時には、以下の特例を選択できます。

特例 効果 主な要件
買い替え特例 課税を繰延べ 居住期間10年以上、譲渡対価1億円以下
3,000万円特別控除 最高3,000万円控除 居住用財産の売却
所有期間10年超の軽減税率 税率14%に軽減 所有期間10年超

重要: 買い替え特例と3,000万円特別控除は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

(3) 居住用財産と非居住用財産の違い

居住用財産(マイホーム)の場合:

  • 3,000万円特別控除が適用可能
  • 買い替え特例も適用可能

非居住用財産(投資用・セカンドハウス等)の場合:

  • 3,000万円特別控除は原則適用不可
  • 買い替え特例も適用不可

土地のみの売却でも、自己が居住していた建物の敷地であれば居住用財産として扱われます。

2. 買い替え特例(課税繰延べ)とは

(1) 特例の仕組みと適用要件

国税庁の「特定の居住用財産の買換えの特例」によれば、一定の要件を満たす場合、譲渡益への課税を繰り延べることができます。

繰延べの仕組み:

  • 旧居の譲渡価額 ≦ 新居の取得価額の場合: 全額繰延べ
  • 旧居の譲渡価額 > 新居の取得価額の場合: 差額のみ課税

重要: これは「課税の免除」ではなく「課税の繰延べ」です。将来、新居を売却する際に繰り延べられた課税分が発生します。

(2) 居住期間10年超・譲渡対価1億円以下の要件

買い替え特例の主な適用要件は以下の通りです。

旧居(売却する物件)の要件:

  • 所有期間が10年超であること
  • 居住期間が10年以上であること
  • 譲渡価額が1億円以下であること
  • 自己が居住していた家屋またはその敷地であること

注意: 居住期間と所有期間は異なります。購入後すぐに居住開始した場合は一致しますが、賃貸に出していた期間などは居住期間に含まれません。

(3) 新居の要件と取得時期

新居にも要件があります。

新居の要件:

  • 床面積が50㎡以上であること
  • 敷地面積が500㎡以下であること
  • 取得後1年以内に居住すること
  • 日本国内にあること

取得時期:

  • 売却した年の前年1月1日から売却した年の翌年12月31日までに新居を取得すること

つまり、売却の前年から翌年までの3年間が取得可能期間となります。

3. 3,000万円特別控除との選択適用

(1) 特別控除の要件

国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」によれば、以下の要件を満たす場合に適用されます。

要件:

  • 自己が居住していた家屋またはその敷地を売却すること
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと
  • 前年・前々年に同じ特例を適用していないこと

控除の効果:

  • 譲渡所得から最高3,000万円を控除
  • 譲渡所得が3,000万円以下なら課税所得がゼロになる

(2) 買い替え特例との比較

項目 3,000万円特別控除 買い替え特例
適用効果 譲渡所得から最高3,000万円を控除 課税を繰延べ
所有期間要件 なし 10年超
居住期間要件 なし 10年以上
譲渡価額制限 なし 1億円以下
新居の要件 なし あり(床面積50㎡以上等)
将来の税負担 なし あり(繰延べのため)
併用 不可 不可

(3) どちらを選ぶべきか

選択の基準は以下の通りです。

3,000万円特別控除が有利なケース:

  • 譲渡益が3,000万円以下(課税がゼロになる)
  • 新居を将来売却する予定がある(繰延べた税負担を避けたい)

買い替え特例が有利なケース:

  • 譲渡益が3,000万円を大きく超える
  • 新居の取得価額が高い(繰延べ額が大きい)
  • 新居を終の棲家とする予定(将来の売却予定なし)

多くのケースで3,000万円特別控除の方が有利です。買い替え特例は課税を先送りするだけで、将来の売却時に税負担が発生するためです。

4. 譲渡所得税の計算方法

(1) 基本的な計算式

国税庁の「譲渡所得の計算のしかた(土地や建物を譲渡したとき)」によれば、譲渡所得は以下の計算式で算出します。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

具体例:

  • 売却価格: 6,000万円
  • 取得費: 2,000万円
  • 譲渡費用: 200万円

譲渡所得 = 6,000万円 - (2,000万円 + 200万円) = 3,800万円

(2) 取得費と譲渡費用

取得費に含まれるもの:

  • 土地の購入代金
  • 購入時の仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 測量費、造成費

譲渡費用に含まれるもの:

  • 売却時の仲介手数料
  • 印紙税
  • 売却のための測量費
  • 建物の取り壊し費用(更地で売却した場合)

(3) 所有期間と税率(長期・短期)

所有期間により税率が大きく異なります。

短期譲渡所得(5年以下):

  • 税率: 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)

長期譲渡所得(5年超):

  • 税率: 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)

所有期間の判定:

  • 譲渡した年の1月1日時点で判定
  • 例: 2018年3月1日取得、2023年12月1日売却 → 2023年1月1日時点で4年10ヶ月 → 短期譲渡所得

1日の違いで税率が約20%変わるため、売却タイミングの検討が重要です。

5. 買い替え時の注意点とリスク

(1) 特例の併用制限

買い替え時の税制優遇には、複数の併用制限があります。

併用できない組み合わせ:

  • 買い替え特例 × 3,000万円特別控除
  • 3,000万円特別控除 × 新居の住宅ローン控除(一定期間)

併用できる組み合わせ:

  • 3,000万円特別控除 × 所有期間10年超の軽減税率特例

(2) 売却と購入のタイミング

買い替え特例を適用する場合、売却と購入のタイミングに制限があります。

取得可能期間:

  • 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日まで

例:

  • 売却日: 2024年6月1日
  • 取得可能期間: 2023年1月1日~2025年12月31日

この期間外に新居を取得すると、買い替え特例は適用できません。

(3) 確定申告期限と必要書類の不備リスク

特例を適用するには、確定申告が必須です。

申告期限:

  • 売却した年の翌年2月16日~3月15日

必要書類:

  • 登記事項証明書(旧居・新居)
  • 売買契約書のコピー(旧居・新居)
  • 住民票(居住期間を証明)
  • 仲介手数料等の領収書

書類に不備があると特例が適用されず、本来払う必要のない税金を支払うことになるため、早めの準備が重要です。

6. 確定申告の手続きと必要書類

(1) 確定申告の期限と方法

土地を売却した場合、特例を適用する・しないにかかわらず確定申告が必要です。

申告方法:

  • 税務署の窓口で提出
  • 郵送で提出
  • e-Taxで電子申告

申告期限:

  • 売却した年の翌年2月16日~3月15日

(2) 必要書類一覧

基本的な書類:

  • 確定申告書(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書のコピー(購入時・売却時)
  • 仲介手数料の領収書
  • 登記事項証明書(登記簿謄本)

買い替え特例適用時に追加で必要な書類:

  • 新居の登記事項証明書
  • 新居の売買契約書のコピー
  • 住民票(居住期間10年以上を証明)
  • 戸籍の附票(10年以上の居住履歴)

3,000万円特別控除適用時に追加で必要な書類:

  • 住民票(居住していたことを証明)

(3) 税理士への相談

以下のような場合は、税理士への相談を推奨します。

税理士相談が推奨されるケース:

  • 譲渡益が3,000万円前後で、どちらの特例が有利か判断に迷う
  • 買い替え特例の適用要件を満たしているか不明
  • 相続した土地で権利関係が複雑
  • 農地や山林など特殊な土地を売却する
  • 取得費が不明で概算取得費を使う必要がある

税理士報酬は一般に15万円~30万円程度ですが、適切な特例選択により数百万円の税負担軽減が実現することもあります。

まとめ

土地の買い替え時には、買い替え特例と3,000万円特別控除のいずれかを選択できます。適切な選択により、税負担を大幅に軽減できます。

特に以下の点を押さえておきましょう。

  • 買い替え特例は「課税の繰延べ」であり「免除」ではない
  • 譲渡益が3,000万円以下なら、3,000万円特別控除で課税ゼロになる
  • 買い替え特例の要件は厳格(居住期間10年以上、譲渡価額1億円以下等)
  • 両特例は併用不可。どちらか一方を選択する
  • 所有期間5年以下(短期)と5年超(長期)で税率が大きく異なる(39.63% vs 20.315%)
  • 確定申告は必須(売却した年の翌年2月16日~3月15日)

税務上の判断は個別のケースにより異なるため、税理士に相談して最適な戦略を立てることを強く推奨します。

よくある質問

Q1土地を買い替える場合、買い替え特例と3,000万円特別控除のどちらを選ぶべきですか?

A1譲渡益の額、新居の価格、将来の売却予定により異なります。譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円特別控除で課税がゼロになるため有利です。譲渡益が3,000万円を大きく超え、新居の取得価額も高い場合は買い替え特例も選択肢になりますが、課税を繰り延べるだけで将来の売却時に税負担が発生します。両特例は併用できません。個別の状況により最適な選択は異なるため、税理士への相談を強く推奨します。

Q2買い替え特例の適用要件は何ですか?

A2売却物件は所有期間10年超、居住期間10年以上、譲渡価額1億円以下が要件です。新居は床面積50㎡以上、敷地面積500㎡以下、取得後1年以内に居住することが必要です。売却と新居取得のタイミングも重要で、売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得する必要があります。居住期間と所有期間は異なるため、賃貸に出していた期間などは居住期間に含まれない点に注意してください。

Q3買い替え特例を使った後、新居を売却するときの税金はどうなりますか?

A3課税が繰り延べられているため、新居売却時に旧居の譲渡益も含めて計算されます。新居の取得費は旧居の取得費を引き継ぐため、長期保有していても税負担が大きくなる可能性があります。例えば、旧居の取得費2,000万円、新居の取得価額6,000万円で買い替え特例を適用した場合、新居の取得費は2,000万円として扱われます(6,000万円ではない)。将来、新居を7,000万円で売却すると、譲渡益は5,000万円となり、大きな税負担が発生します。

Q4土地の所有期間はいつから計算しますか?

A4売却した年の1月1日時点で判定します。所有期間5年以下なら短期譲渡所得(税率39.63%)、5年超なら長期譲渡所得(税率20.315%)が適用されます。例えば、2018年3月1日に取得し、2023年12月1日に売却した場合、2023年1月1日時点で4年10ヶ月となり短期譲渡所得になります。2024年1月1日以降に売却すれば長期譲渡所得として扱われ、税率が約20%軽減されます。1日の違いで税負担が大きく変わるため、売却タイミングの検討が重要です。

Q5買い替え時に確定申告は必要ですか?

A5買い替え特例または3,000万円特別控除を適用する場合、確定申告が必須です。申告期限は売却した年の翌年2月16日~3月15日です。必要書類として、旧居・新居の登記事項証明書、売買契約書、住民票(居住期間を証明)、仲介手数料等の領収書を事前に準備する必要があります。書類に不備があると特例が適用されず、本来払う必要のない税金を支払うことになるため、早めの準備が重要です。

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