土地売却で知っておくべき税制の基本
土地を売却すると譲渡所得税が発生します。マイホーム(居住用財産)の売却とは異なり、土地売却には3,000万円特別控除などの一般的な優遇措置が適用されないケースが多く、税負担が大きくなる可能性があります。
しかし、公共事業のための収用や低未利用土地の売却など、特定の条件を満たす場合には控除・特例を活用できます。本記事では、土地売却時の税制の基礎知識と、適用できる主な控除・特例を網羅的に解説します。
この記事でわかること
- 土地売却時の譲渡所得税の基本的な仕組み
- 譲渡所得税の計算方法と取得費の算出ルール
- 土地売却時に適用できる主な控除・特例
- 所有期間による税率の違い(短期・長期)
- 相続した土地の取得費・所有期間の取り扱い
- 確定申告の手続きと必要書類
1. 土地売却の税制概要|控除・特例の基礎知識
(1) 譲渡所得税とは
土地を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して「譲渡所得税」が課税されます。
国税庁の「土地や建物を売ったとき」によれば、譲渡所得税は以下の特徴があります。
- 分離課税: 給与所得や事業所得とは別に計算される
- 所得税と住民税: 国税(所得税)と地方税(住民税)の両方が課税される
- 所有期間で税率が変わる: 5年以下か5年超かで税率が大きく異なる
(2) 土地売却に適用できる控除・特例一覧
土地売却時に適用できる主な控除・特例は以下の通りです。
特例 | 控除額・効果 | 主な要件 |
---|---|---|
収用等の5,000万円特別控除 | 最高5,000万円控除 | 公共事業のための収用 |
低未利用土地の100万円特別控除 | 最高100万円控除 | 市街化区域内、売却価格500万円以下 |
優良住宅地造成等の軽減税率 | 税率14%に軽減 | 一定の住宅地造成事業への譲渡 |
注意: 居住用財産の3,000万円特別控除は、土地のみの売却には適用されません。建物と一体で自己が居住していた場合のみ適用されます。
(3) 居住用財産との違い
マイホーム(居住用財産)と土地のみの売却では、税制上の扱いが大きく異なります。
居住用財産の場合:
- 3,000万円特別控除が適用可能
- 所有期間10年超なら軽減税率特例も併用可能
土地のみの場合:
- 居住用財産の特例は原則適用されない
- 収用や低未利用土地など、特定の条件を満たす場合のみ特例が適用される
2. 譲渡所得税の計算方法
(1) 基本的な計算式
国税庁の「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」によれば、譲渡所得は以下の計算式で算出します。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
売却価格: 土地を売却して得た代金
取得費: 土地を取得した際の購入代金、測量費、造成費など
譲渡費用: 売却のためにかかった仲介手数料、測量費、印紙税など
(2) 取得費の計算(測量費・造成費)
国税庁の「土地建物の譲渡所得の計算における取得費」によれば、以下の費用を取得費に算入できます。
取得費に含められる費用:
- 土地の購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 測量費
- 造成費、整地費
- 埋立費、盛土費
- 取得時の印紙税
具体例:
- 購入代金: 3,000万円
- 購入時の仲介手数料: 100万円
- 造成費: 200万円
- 測量費: 30万円
取得費 = 3,000万円 + 100万円 + 200万円 + 30万円 = 3,330万円
重要: 測量費や造成費の領収書を保管しておくことで、取得費を増やし、譲渡所得を減らすことができます。
(3) 取得費不明の場合(概算取得費)
相続した土地や古い土地で、購入時の契約書や領収書が見つからない場合、概算取得費を使用できます。
概算取得費:
概算取得費 = 売却価格 × 5%
具体例:
- 売却価格: 5,000万円
- 概算取得費: 5,000万円 × 5% = 250万円
- 譲渡費用: 150万円
譲渡所得 = 5,000万円 - (250万円 + 150万円) = 4,600万円
注意: 概算取得費を使うと、実際の取得費より低くなることが多く、譲渡所得が大きくなり税負担が重くなります。可能な限り購入時の書類を探すことが重要です。
3. 土地売却時の主な控除・特例
(1) 収用等の5,000万円特別控除
国税庁の「収用等により土地建物を売ったときの特例」によれば、公共事業のために土地が収用された場合、譲渡所得から最高5,000万円を控除できます。
適用要件:
- 公共事業(道路、学校、公園など)のための収用
- 収用等の通知を受けた日から6ヶ月以内に売買契約を締結
- 買取申出があった日から1年以内に売却
税負担の軽減効果:
- 譲渡所得: 6,000万円
- 5,000万円特別控除を適用: 6,000万円 - 5,000万円 = 1,000万円
- 税額(長期譲渡所得の場合): 1,000万円 × 20.315% ≒ 203万円
控除なしの場合は約1,219万円の税額となるため、約1,016万円の軽減になります。
(2) 低未利用土地の100万円特別控除
国税庁の「低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」によれば、2020年7月から以下の要件を満たす土地の売却に100万円の特別控除が適用されます。
適用要件:
- 市街化区域内の土地(都市計画区域内の用途地域が定められている区域)
- 利用されていない土地または利用程度が低い土地
- 売却価格が500万円以下
- 所有期間が5年超(長期譲渡所得)
- 売却後の土地が適切に利用されること
- 市町村の確認書が必要
活用例:
- 売却価格: 400万円
- 取得費: 100万円
- 譲渡費用: 20万円
- 譲渡所得: 400万円 - 100万円 - 20万円 = 280万円
- 100万円特別控除を適用: 280万円 - 100万円 = 180万円
- 税額: 180万円 × 20.315% ≒ 37万円
控除なしの場合は約57万円の税額となるため、約20万円の軽減になります。
(3) 優良住宅地造成等の軽減税率
国税庁の「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」によれば、一定の住宅地造成事業のために土地を譲渡した場合、軽減税率が適用されます。
適用要件:
- 所有期間が5年超(長期譲渡所得)
- 国や地方公共団体、住宅・都市整備公団等への譲渡
- 優良な住宅地の造成事業のために譲渡すること
軽減税率:
- 通常の長期譲渡所得税率: 20.315%
- 軽減税率: 14%(所得税10% + 住民税4%)
これにより、約6%の税率軽減が実現します。
4. 所有期間と税率の関係
(1) 短期譲渡所得(5年以下)
所有期間が5年以下で売却した場合、「短期譲渡所得」として高い税率が適用されます。
税率:
- 所得税: 30.63%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 9%
- 合計: 39.63%
具体例:
- 譲渡所得: 2,000万円
- 税額: 2,000万円 × 39.63% = 792万円
(2) 長期譲渡所得(5年超)
所有期間が5年超で売却した場合、「長期譲渡所得」として軽減された税率が適用されます。
税率:
- 所得税: 15.315%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 5%
- 合計: 20.315%
具体例:
- 譲渡所得: 2,000万円
- 税額: 2,000万円 × 20.315% = 406万円
短期譲渡所得と比べて約386万円の軽減になります。
(3) 所有期間の判定時期
重要: 所有期間の判定は、譲渡した年の1月1日時点で行います。
具体例:
- 取得日: 2018年3月1日
- 売却日: 2023年12月1日
- 判定: 2023年1月1日時点で「4年10ヶ月」→ 5年以下 → 短期譲渡所得
この場合、2024年1月1日以降に売却すれば長期譲渡所得として扱われ、税率が大幅に軽減されます。
5. 土地売却で注意すべきリスクと対策
(1) 相続した土地の取得費・所有期間の引継ぎ
相続で取得した土地の場合、被相続人(亡くなった方)の取得時期と取得費を引き継ぎます。
具体例:
- 被相続人の取得日: 1990年1月1日
- 被相続人の取得費: 1,000万円
- 相続開始日: 2024年1月1日
- 売却日: 2024年12月1日
所有期間の判定:
- 2024年1月1日時点で34年 → 長期譲渡所得
取得費:
- 被相続人の取得費1,000万円を引き継ぐ
このため、相続直後に売却しても長期譲渡所得として扱われる可能性が高く、税率面では有利です。
(2) 農地転用や用途変更の許可
農地を売却する場合、農地転用の許可が必要になることがあります。
農地転用:
- 農地を宅地や駐車場などに転用する場合、農業委員会の許可が必要
- 許可取得には数ヶ月かかることがある
- 許可が下りないと売却できない
対策:
- 売却前に農業委員会に相談
- 転用許可の見込みを確認してから売買契約を締結
- 契約書に「転用許可が下りない場合は契約解除」などの条項を設ける
(3) 境界確定と測量の必要性
土地売却時には、隣接地との境界を確定させる必要があります。
境界確定の重要性:
- 境界が不明確だと売却後にトラブルになる可能性
- 買主から境界確定を求められることが一般的
- 測量費用は売主負担が一般的(30万円~100万円程度)
測量費用は譲渡費用に算入:
- 売却のために行った測量費用は譲渡費用として譲渡所得から差し引ける
- 領収書を保管しておくこと
6. 確定申告の手続きと必要書類
(1) 確定申告の期限と方法
土地を売却した場合、譲渡所得が発生していなくても確定申告が必要です。
申告期限:
- 売却した年の翌年2月16日~3月15日
申告方法:
- 税務署の窓口で提出
- 郵送で提出
- e-Taxで電子申告
(2) 必要書類一覧
確定申告には以下の書類が必要です。
必須書類:
- 確定申告書(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書のコピー(購入時・売却時)
- 仲介手数料の領収書
- 測量費、造成費などの領収書
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
特例適用時に必要な書類:
- 収用証明書(収用等の特例適用時)
- 市町村の確認書(低未利用土地の特例適用時)
(3) 税理士への相談
土地売却の税務は複雑であり、以下のような場合は税理士への相談を推奨します。
税理士相談が推奨されるケース:
- 譲渡所得が1,000万円を超える
- 取得費が不明で概算取得費を使う必要がある
- 複数の特例の適用可否を判断したい
- 相続した土地で権利関係が複雑
- 農地や山林など特殊な土地を売却する
税理士報酬は一般に10万円~30万円程度ですが、適切な特例適用により数百万円の税負担軽減が実現することもあります。
まとめ
土地売却時には譲渡所得税が発生しますが、適切な控除・特例を活用することで税負担を軽減できます。
特に以下の点を押さえておきましょう。
- 所有期間5年以下(短期)と5年超(長期)で税率が大きく異なる(39.63% vs 20.315%)
- 取得費の計算では、測量費や造成費も算入可能(領収書の保管が重要)
- 取得費不明の場合は概算取得費(売却価格の5%)を使えるが、税負担が重くなる
- 公共事業の収用なら5,000万円特別控除、低未利用土地なら100万円特別控除が適用できる
- 相続した土地は被相続人の取得費・所有期間を引き継ぐ
- 確定申告は売却した年の翌年2月16日~3月15日
税務上の判断は個別のケースにより異なるため、税理士に相談して最適な戦略を立てることを強く推奨します。