相続資金での戸建て購入における控除・特例の全体像
親や祖父母から相続した資金、または住宅購入資金の贈与を受けて戸建てを購入する場合、さまざまな税制優遇が利用可能です。本記事では、住宅取得資金贈与の非課税枠・相続時精算課税制度・住宅ローン控除との併用について、国税庁の公式情報に基づき詳しく解説します。
本記事のポイント
- 住宅取得資金贈与は省エネ住宅1,000万円・一般住宅500万円まで非課税(2026年12月31日まで)
- 相続時精算課税制度と併用すると、最大3,610万円まで贈与税非課税で受贈可能
- 住宅ローン控除と併用可能だが、贈与額分は控除対象から除外される
- 相続で取得した住宅・借入金は住宅ローン控除の対象外
- 不動産取得税・登録免許税の軽減措置で諸費用を大幅削減できる
(1) 相続財産を活用した不動産購入と税制優遇
相続財産(現金)を活用して住宅を購入する場合、以下の税制優遇を利用できます。
相続後に現金で購入する場合:
- 不動産取得税の軽減措置
- 登録免許税の軽減措置
- 相続税の納付資金としても活用可能(小規模宅地等の特例は別途検討)
生前贈与で購入資金を受け取る場合:
- 住宅取得資金贈与の非課税特例(最大500万円~1,000万円)
- 相続時精算課税制度(最大2,500万円)
- 上記2つの併用で最大3,610万円まで非課税
(2) 利用できる主な控除・特例
制度名 | 非課税枠 | 適用期限 | 併用可否 |
---|---|---|---|
住宅取得資金贈与の非課税 | 省エネ住宅1,000万円、一般住宅500万円 | 2026年12月31日 | 相続時精算課税と併用可 |
相続時精算課税(基礎控除) | 年110万円 | 恒久化 | 上記特例と併用可 |
相続時精算課税(特別控除) | 累計2,500万円 | 恒久化 | 上記特例と併用可 |
住宅ローン控除 | 年末残高の0.7%(最大13年間) | 2025年12月31日入居 | 贈与額を除いた部分で適用可 |
(3) 相続税との関係
生前贈与の場合:
- 相続時精算課税を選択すると、贈与額は相続時に相続財産に加算される
- 住宅取得資金贈与の非課税枠内の贈与は相続財産に加算されない
相続後に購入する場合:
- 相続税の申告期限(相続開始から10カ月以内)に注意
- 小規模宅地等の特例を受けられる実家の土地がある場合、売却タイミングを慎重に検討
住宅取得資金贈与の非課税枠と適用要件
(1) 非課税枠(省エネ住宅1,000万円・一般住宅500万円)
直系尊属(父母・祖父母)から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税になります(国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」)。
2024~2026年の非課税枠:
- 省エネ住宅: 1,000万円
- 一般住宅: 500万円
省エネ住宅の定義:
以下のいずれかを満たす住宅(国税庁公式パンフレットより):
- 断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上
- 耐震等級2以上または免震建築物
- 高齢者等配慮対策等級3以上
省エネ基準を満たさない新築住宅は、非課税枠が500万円に半減するため注意が必要です。
(2) 適用要件(年齢・所得・床面積等)
受贈者の要件:
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
- 贈与を受けた年の合計所得金額2,000万円以下
- 贈与者の直系卑属(子・孫)
住宅の要件:
- 床面積50㎡以上240㎡以下(登記簿面積)
- 床面積の1/2以上が自己居住用
- 中古住宅の場合は昭和57年以降建築、または耐震基準適合証明等
居住時期:
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住開始(または居住見込み)
- 居住見込みの場合、同年12月31日までに実際に居住することが必要
(3) 申告手続きと必要書類
申告期限:
- 贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日
必要書類:
- 贈与税の申告書(第一表・第一表の二)
- 源泉徴収票または確定申告書の写し(所得要件確認)
- 登記事項証明書(床面積・取得日確認)
- 売買契約書の写し(取得価額確認)
- 省エネ住宅の場合は性能証明書(住宅性能評価書・建設住宅性能評価書等)
重要: 非課税枠内であっても申告は必須です。申告を怠ると特例が適用されず、通常の贈与税(最大55%)が課税されます。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
(1) 相続時精算課税制度の仕組み(基礎控除2,500万円)
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税が非課税となる制度です(国税庁「相続時精算課税選択の特例」)。
2024年改正のポイント:
- 年110万円の基礎控除が新設(2024年1月1日以降の贈与)
- この基礎控除内の贈与は相続財産に加算されない
住宅取得資金贈与との併用時の特例:
- 住宅取得資金贈与と併用する場合に限り、贈与者が60歳未満でも選択可能(2026年12月31日まで)
(2) メリット(多額の資金を非課税で贈与可能)
最大のメリット:
住宅取得資金贈与の非課税枠と併用すると、最大3,610万円まで贈与税非課税で受贈できます(税理士法人チェスターの解説より)。
計算例(省エネ住宅の場合):
- 基礎控除: 110万円
- 特別控除: 2,500万円
- 住宅取得資金贈与: 1,000万円
- 合計: 3,610万円
その他のメリット:
- 早期に資金移転できる(相続時の納税資金準備に有効)
- 贈与時の評価額で相続税を計算(将来値上がりする資産の贈与に有利)
(3) デメリット(相続時に精算・通常の暦年贈与が使えなくなる)
主なデメリット:
一度選択すると暦年贈与に戻れない
同じ贈与者からの贈与は、以後すべて相続時精算課税の対象となり、年110万円の基礎控除(改正後は適用あり)以外の暦年贈与の非課税枠が使えなくなります。相続時に贈与額を加算
贈与額は相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合、相続税が増加する可能性があります。2,500万円超の贈与は一律20%課税
特別控除2,500万円を超える贈与には、超過分に対し一律20%の贈与税が課税されます(住宅取得資金贈与の非課税枠は別枠)。
選択時の注意点:
相続税の課税が見込まれる場合、トータルの税負担を税理士にシミュレーションしてもらうことをお勧めします。
住宅ローン控除との併用可否
(1) 住宅取得資金贈与と住宅ローン控除の併用
住宅取得資金贈与と住宅ローン控除は併用可能です。ただし、贈与額分は住宅ローン控除の対象から除外されます。
計算方法(国税庁質疑応答事例より):
住宅ローン控除の対象となる借入金の年末残高は、以下の計算で調整されます。
控除対象借入金 = 年末残高 × (住宅取得価額 - 贈与額) / 住宅取得価額
(2) 併用時の控除額の調整
具体例:
- 住宅取得価額: 4,000万円
- 贈与額: 1,000万円
- 住宅ローン: 3,000万円
- 年末残高: 2,950万円(1年目)
調整計算:
控除対象借入金 = 2,950万円 × (4,000万円 - 1,000万円) / 4,000万円
= 2,950万円 × 0.75
= 2,212.5万円
控除額:
2,212.5万円 × 0.7% = 約15.5万円(1年目)
贈与を受けた分だけ、住宅ローン控除の対象が減少する点に注意してください。
(3) 併用のメリットと注意点
メリット:
- 頭金を増やすことで住宅ローンの金利負担を軽減
- 贈与税は非課税、住宅ローン控除も一部適用可能
- 審査で有利(借入額が減るため)
注意点:
- 贈与額が大きいほど住宅ローン控除の効果は減少
- 低金利(0.5~1.5%)の場合、住宅ローン控除(0.7%)の方が有利なケースもある
- 資金計画は贈与額と借入額のバランスを事前にシミュレーション
重要: 相続で取得した住宅や借入金は住宅ローン控除の対象外です(国税庁「相続により取得した住宅に係る借入金」)。あくまで「購入」に伴う贈与が対象です。
相続資金での購入時の取得費の取り扱い
(1) 相続財産(現金)での購入時の取得費
相続した現金で住宅を購入する場合、購入価額がそのまま取得費となります。
取得費の内訳:
- 購入代金(土地・建物)
- 仲介手数料
- 登録免許税・不動産取得税
- 司法書士報酬
(2) 将来の譲渡所得税への影響
将来その住宅を売却する際、譲渡所得税は以下のように計算されます。
譲渡所得 = 売却価額 - 取得費 - 譲渡費用
注意点:
- 建物の取得費は、所有期間に応じて減価償却が必要
- 土地の取得費は減価償却なし
(3) 相続した不動産を売却して購入する場合の取得費
相続した実家等を売却し、その資金で新たに住宅を購入する場合、以下の取得費が適用されます。
売却時の取得費:
- 被相続人(親等)が取得した時の価額
- 相続時の評価額ではない点に注意
購入時の取得費:
- 新たに購入した住宅の購入価額
税制優遇:
- 相続した実家を売却する場合、「被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除」が適用できるケースがある(一定要件あり)
不動産取得税と登録免許税の軽減措置
(1) 不動産取得税の軽減措置(新築・中古)
不動産取得税は、住宅を取得した際に都道府県が課税する税金です。一定要件を満たすと軽減措置が適用されます。
新築住宅の軽減:
- 固定資産税評価額から1,200万円控除(一般住宅)
- 認定長期優良住宅は1,300万円控除
- 税率: 3%(本則4%)
中古住宅の軽減:
- 築年数に応じた控除額(最大1,200万円)
- 昭和57年以降建築、または耐震基準適合証明等が必要
土地の軽減:
以下のいずれか高い方を税額から控除:
- 45,000円
- 土地1㎡あたりの評価額 × 1/2 × 住宅床面積 × 2 × 3%
(2) 登録免許税の軽減措置(所有権移転・抵当権設定)
登録免許税は、登記時に課税される国税です。住宅用家屋について軽減税率が適用されます(2024年3月31日まで、延長の可能性あり)。
所有権移転登記(中古住宅):
住宅区分 | 本則 | 軽減税率 |
---|---|---|
一般住宅 | 2.0% | 0.3% |
認定長期優良住宅 | 2.0% | 0.1% |
認定低炭素住宅 | 2.0% | 0.1% |
抵当権設定登記(住宅ローン利用時):
区分 | 本則 | 軽減税率 |
---|---|---|
全住宅 | 0.4% | 0.1% |
(3) 軽減措置の適用要件と手続き
適用要件:
- 床面積50㎡以上
- 取得後1年以内の登記
- 自己居住用
- 中古住宅の場合は昭和57年以降建築、または耐震基準適合証明
手続き:
- 登記申請時に軽減措置の適用を申請
- 必要書類(住宅用家屋証明書等)を添付
諸費用の目安(3,000万円の中古住宅の場合):
- 登録免許税(軽減後): 約9万円(0.3%)
- 不動産取得税(軽減後): 土地・建物合わせて10~30万円程度
- 司法書士報酬: 5~10万円程度
合計で30~50万円程度の諸費用が発生するため、資金計画に含めておきましょう。
まとめ
相続資金や親からの贈与で戸建てを購入する場合、住宅取得資金贈与の非課税枠・相続時精算課税制度・住宅ローン控除を適切に組み合わせることで、大幅な節税が可能です。
重要なポイント:
- 住宅取得資金贈与は省エネ住宅1,000万円・一般住宅500万円まで非課税(2026年12月31日まで)
- 相続時精算課税と併用すると最大3,610万円まで贈与税非課税
- 住宅ローン控除と併用可能だが、贈与額分は控除対象から除外
- 相続で取得した住宅・借入金は住宅ローン控除の対象外
- 非課税枠内でも申告は必須(申告漏れで特例不適用)
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置で諸費用削減
相続時精算課税は一度選択すると撤回できないため、将来の相続税も含めて税理士に相談の上、慎重に判断することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1: 親から住宅購入資金の贈与を受ける場合、いくらまで非課税ですか?
A: 省エネ住宅(省エネ基準適合住宅)なら1,000万円、一般住宅なら500万円まで非課税です(2024年時点)。要件は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住開始、床面積50㎡以上240㎡以下、年間所得2,000万円以下、贈与者は直系尊属(親・祖父母)等です。非課税枠内でも申告が必要で、期限を過ぎると適用されないため注意してください。
Q2: 相続時精算課税制度とは何ですか?いつ使うべきですか?
A: 60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です。累計2,500万円まで贈与税非課税、超過分は一律20%課税されます。相続時に贈与額を相続財産に加算して精算します。多額の資金を一度に贈与する場合に有利です。ただし一度選択すると暦年贈与の非課税枠(年110万円の基礎控除は2024年改正で復活)が従来通りには使えなくなるため、将来の相続税額も考慮して選択してください。税理士への相談を推奨します。
Q3: 住宅取得資金贈与と住宅ローン控除は併用できますか?
A: 併用可能です。ただし贈与額が購入価格の一部の場合、住宅ローン控除の対象は残りの住宅ローン部分のみです。例えば4,000万円の物件を、贈与1,000万円+住宅ローン3,000万円で購入した場合、住宅ローン控除は3,000万円の借入に対して適用されます(さらに贈与額分で按分調整)。両方を最大限活用するには、贈与額と借入額のバランスを事前にシミュレーションすることが重要です。
Q4: 相続した現金で購入する場合と住宅ローンを組む場合、どちらが得ですか?
A: ケースバイケースです。現金購入なら金利負担ゼロですが住宅ローン控除は受けられません。住宅ローン控除は年末残高の0.7%を最大13年間控除(最大455万円)できます。低金利(0.5~1.5%)なら控除額が金利負担を上回る場合もあります。相続資金を頭金にして一部ローンを組む方法も検討してください。資金計画と控除額をシミュレーションし、税理士やファイナンシャルプランナーへの相談を推奨します。