買い替え売却戸建ての控除・特例|3000万円控除と比較

公開日: 2025/10/16

買い替え時の戸建て売却で利用できる控除・特例の全体像

新しい戸建てへの住み替えを検討されている方にとって、現在の戸建て売却時の税負担を最小化することは重要な課題です。買い替えでは、3,000万円特別控除や買換え特例など複数の制度があり、それぞれ適用要件や効果が異なります。

本記事では、買い替え時の戸建て売却で利用できる控除・特例の内容と選択のポイントを解説します。

この記事のポイント

  • 買い替え時に利用できる控除・特例の種類と適用要件
  • 3,000万円特別控除と買換え特例の違いと選択基準
  • 所有期間10年超の軽減税率特例との併用方法
  • 譲渡損失が発生する場合の損益通算・繰越控除
  • 新居の住宅ローン控除との併用制限

(1) 買い替え特有の税務上の選択肢

買い替えでは、売却益が出るか損失が出るかによって利用できる特例が異なります。

譲渡益が出る場合の主な特例

  • 居住用財産の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条)
  • 買換え特例(課税の繰延べ)(租税特別措置法36条の2)
  • 所有期間10年超の軽減税率特例(租税特別措置法31条の3)

譲渡損失が出る場合の主な特例

  • マイホーム買換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除(租税特別措置法41条の5)
  • 住宅ローン残債がある場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除(租税特別措置法41条の5の2)

(2) 譲渡益と譲渡損失で異なる特例

譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 譲渡収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費の計算(戸建ての場合)

  • 土地:購入価格(減価償却なし)
  • 建物:購入価格 - 減価償却費
  • 建物の減価償却:(建物取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数)

例:木造戸建て(償却率0.031)を20年前に3,000万円(土地1,500万円・建物1,500万円)で購入した場合

  • 土地の取得費:1,500万円
  • 建物の減価償却費:1,500万円 × 0.9 × 0.031 × 20年 = 837万円
  • 建物の取得費:1,500万円 - 837万円 = 663万円
  • 合計取得費:1,500万円 + 663万円 = 2,163万円

(3) 売却と購入のタイミングによる適用要件

買換え特例などでは、売却と購入のタイミングに関する要件があります。

タイミングの要件

  • 売り先行:売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得
  • 買い先行:購入した年の前年1月1日から翌年12月31日までに旧居を売却

国税庁の資料によれば、売却と購入の順序は問わず、前後3年の範囲内(計4年間)であれば特例の適用を受けられます。

2. 居住用財産の3,000万円特別控除

(1) 3,000万円特別控除の適用要件

国税庁タックスアンサー(No.3302)によれば、以下の要件を満たす場合に適用できます。

主な適用要件

  • 自己が居住していた家屋・土地を売却すること
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  • 売却した年の前年・前々年に3,000万円特別控除等を受けていないこと
  • 売主と買主が特別な関係(親子・夫婦等)でないこと

控除の効果

  • 譲渡所得から最高3,000万円を控除
  • 譲渡所得が3,000万円以下なら課税ゼロ
  • 所有期間の制限なし(短期所有でも適用可能)

(2) 所有期間・居住期間の判定

所有期間の区分

  • 短期譲渡所得:所有期間5年以下(税率約39%)
  • 長期譲渡所得:所有期間5年超(税率約20%)
  • 所有期間の起算:取得日から売却年の1月1日までで判定

例:2020年6月1日に取得した戸建てを2025年7月1日に売却

  • 実際の所有期間:5年1ヶ月
  • 税法上の所有期間:2020年6月1日〜2025年1月1日 = 4年7ヶ月(短期譲渡)

(3) 軽減税率特例との併用

3,000万円特別控除は、所有期間10年超の軽減税率特例と併用できます。

併用時の計算順序

  1. 譲渡所得から3,000万円を控除
  2. 残額に軽減税率を適用

例:譲渡所得5,000万円、所有期間10年超の場合

  • 3,000万円控除後:5,000万円 - 3,000万円 = 2,000万円
  • 軽減税率適用:2,000万円 × 14.21% = 約284万円
  • 併用なしの場合:5,000万円 × 20.315% = 約1,016万円
  • 節税効果:約732万円

3. 買換え特例(課税の繰延べ)

(1) 買換え特例の仕組みと適用要件

買換え特例(租税特別措置法36条の2)は、譲渡益への課税を新居の売却時まで繰り延べる制度です。

主な適用要件

  • 所有期間:売却年の1月1日時点で10年超
  • 居住期間:10年以上居住していたこと
  • 譲渡価額:1億円以下
  • 買い替え先:床面積50㎡以上、土地面積500㎡以下
  • タイミング:売却の前年〜翌年に新居を取得

課税繰延べの仕組み

旧居の譲渡価額 ≤ 新居の取得価額 → 課税を全額繰延べ
旧居の譲渡価額 > 新居の取得価額 → 差額のみ課税

例:旧居4,000万円で売却、新居5,000万円で購入

  • 旧居の譲渡価額(4,000万円)< 新居の取得価額(5,000万円)
  • 全額繰延べ → 現時点での課税ゼロ

(2) 課税の繰延べと将来の売却時の税負担

買換え特例は課税を「免除」するのではなく「繰り延べる」制度です。

将来の売却時の取得費

新居の取得費 = 新居の購入価格 - (旧居の譲渡価額 - 旧居の取得費)

例:

  • 旧居:取得費1,000万円、譲渡価額4,000万円(譲渡益3,000万円)
  • 新居:購入価格5,000万円
  • 特例適用後の新居の取得費:5,000万円 - (4,000万円 - 1,000万円) = 2,000万円

将来、新居を6,000万円で売却した場合の譲渡所得:

  • 譲渡所得 = 6,000万円 - 2,000万円 = 4,000万円(旧居の譲渡益が上乗せされる)

(3) 3,000万円特別控除との選択

買換え特例と3,000万円特別控除は併用できず、どちらか一方を選択します。

選択基準

状況 推奨する選択
譲渡益が3,000万円以下 3,000万円特別控除(課税ゼロ)
譲渡益が3,000万円超、新居の購入予定なし 3,000万円特別控除
譲渡益が大きく、新居の取得価額が高い 買換え特例を検討
新居を長期保有する予定 買換え特例を検討

4. 所有期間10年超の軽減税率特例

(1) 軽減税率の適用条件と税率

所有期間10年超の居住用財産を売却した場合、軽減税率が適用されます(租税特別措置法31条の3)。

軽減税率の内容

  • 譲渡所得6,000万円以下の部分:14.21%(所得税10% + 復興特別税0.21% + 住民税4%)
  • 譲渡所得6,000万円超の部分:20.315%(通常の長期譲渡所得税率)

通常の税率との比較

  • 長期譲渡所得の通常税率:20.315%
  • 軽減税率:14.21%
  • 差:6.105ポイント

(2) 3,000万円特別控除との併用

軽減税率特例は3,000万円特別控除と併用可能です。

併用時の計算例

  • 譲渡所得:8,000万円
  • 3,000万円控除後:5,000万円
  • 税額:5,000万円 × 14.21% = 約711万円

併用なしの場合

  • 税額:8,000万円 × 20.315% = 約1,625万円
  • 節税効果:約914万円

(3) 所有期間の計算方法

所有期間10年超の判定

  • 取得日から売却年の1月1日時点で10年超であること
  • 実際の所有年数ではなく、税法上の計算で判定

例:2014年6月1日に取得した戸建てを2024年7月1日に売却

  • 実際の所有期間:10年1ヶ月
  • 税法上の所有期間:2014年6月1日〜2024年1月1日 = 9年7ヶ月(10年未満、軽減税率適用不可)

売却年の1月1日時点で10年超とするには、2015年6月1日以前に取得している必要があります。

5. 譲渡損失の損益通算・繰越控除

(1) 譲渡損失が発生する場合の特例

買い替えで譲渡損失(売却損)が発生した場合、損益通算・繰越控除の特例を利用できます(租税特別措置法41条の5)。

主な適用要件

  • 所有期間:売却年の1月1日時点で5年超
  • 買い替え先:床面積50㎡以上の居住用財産を取得
  • 新居でローンを組むこと(10年以上の返済期間)
  • タイミング:売却の前年〜翌年に新居を取得

(2) 損益通算の仕組みと繰越控除

損益通算の仕組み

譲渡損失を他の所得(給与所得・事業所得等)と相殺 → 所得税・住民税を軽減

繰越控除

  • 損益通算しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越せる
  • 各年の所得から控除し、税負担を軽減

適用例

  • 譲渡損失:2,000万円
  • 給与所得:年600万円(所得税・住民税率約30%)
年度 譲渡損失残高 給与所得 損益通算後の課税所得 軽減効果
1年目 2,000万円 600万円 0円 約180万円
2年目 1,400万円 600万円 0円 約180万円
3年目 800万円 600万円 0円 約180万円
4年目 200万円 600万円 400万円 約60万円
合計 - - - 約600万円

(3) 住宅ローン残債がある場合の特例

住宅ローン残債がある状態で売却し、売却代金で完済できない場合の特例もあります(租税特別措置法41条の5の2)。

適用要件

  • 所有期間:5年超
  • 住宅ローン残債:売却価額を上回る残債がある
  • 損益通算の対象:住宅ローン残債と売却価額の差額まで

例:

  • 売却価額:3,000万円
  • ローン残債:3,500万円
  • 取得費:2,500万円
  • 譲渡損失:3,000万円 - 2,500万円 = 500万円
  • ローン差額:3,500万円 - 3,000万円 = 500万円
  • 損益通算対象:500万円(譲渡損失とローン差額の小さい方)

6. 控除・特例の選択と併用制限

(1) 3,000万円特別控除と買換え特例の比較

比較表

項目 3,000万円特別控除 買換え特例
所有期間要件 なし 10年超
居住期間要件 なし 10年以上
譲渡価額制限 なし 1億円以下
効果 3,000万円まで課税ゼロ 課税を繰延べ
将来の税負担 なし 新居売却時に課税
軽減税率との併用 可能 不可

(2) 新居の住宅ローン控除との併用制限

併用制限の内容

  • 3,000万円特別控除や買換え特例を適用すると、新居の住宅ローン控除が適用できない
  • 適用除外期間:売却年・前年・前々年に特例を受けた場合、新居の住宅ローン控除は適用不可

住宅ローン控除の効果

  • 年末ローン残高の0.7%を最大13年間控除
  • 最大控除額:新築住宅で最大455万円(認定住宅の場合)

選択の判断例

  • 譲渡益が小さい(100万円程度)場合:特例を使わず住宅ローン控除を優先
  • 譲渡益が大きい(1,000万円以上)場合:3,000万円特別控除を優先

(3) 買い替えの最適な税務戦略

戦略の立て方

  1. 譲渡所得の試算(売却予想価格 - 取得費 - 譲渡費用)
  2. 利用可能な特例の確認(所有期間・居住期間の要件チェック)
  3. 各特例の節税効果を比較
  4. 新居の住宅ローン控除との比較
  5. 税理士に相談して最終決定

国税庁の資料や租税特別措置法の規定は複雑であり、個別の状況により最適な選択が異なります。確定申告前に税理士への相談を推奨します。

まとめ

買い替え時の戸建て売却では、3,000万円特別控除・買換え特例・軽減税率特例など複数の制度があり、それぞれ適用要件や効果が異なります。譲渡益の大きさ、所有期間、新居の取得予定などに応じて最適な特例を選択することが重要です。

重要ポイントの再確認

  • 譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円特別控除で課税ゼロ
  • 買換え特例は課税の繰延べであり免除ではない
  • 所有期間10年超なら軽減税率特例との併用で大幅節税
  • 譲渡損失なら損益通算・繰越控除で所得税・住民税を軽減
  • 新居の住宅ローン控除との併用制限に注意

税務上の判断は個別の状況により異なるため、確定申告前に税理士への相談をおすすめします。

よくある質問

Q1買い替えで3,000万円特別控除と買換え特例はどちらが有利ですか?

A1譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円特別控除で課税ゼロになるため有利です。買換え特例は課税を繰り延べるだけで免除ではなく、将来の売却時に課税されます。ただし譲渡益が非常に大きく、新居の取得価額が高い場合は買換え特例が有利な場合もあります。両特例は併用できないため、税理士に相談して選択しましょう。

Q2所有期間10年超の軽減税率特例は3,000万円特別控除と併用できますか?

A2併用可能です。3,000万円特別控除で譲渡所得を控除した後、残額に軽減税率(14.21%)が適用されます。所有期間10年超の場合、譲渡所得6,000万円以下の部分に通常約20%ではなく約14%の税率が適用されるため、大幅な節税効果があります。

Q3買い替えで譲渡損失が出た場合、税制優遇はありますか?

A3マイホームの買い替えで譲渡損失が発生した場合、損益通算・繰越控除の特例を利用できます。売却損を他の所得(給与所得等)と相殺でき、相殺しきれなければ翌年以降3年間繰り越して控除できます。住宅ローン残債が売却価額を上回る場合も別の特例が用意されています。

Q4買い替え時の売却特例と新居の住宅ローン控除は併用できますか?

A43,000万円特別控除や買換え特例を適用すると、新居の住宅ローン控除が適用できなくなります。譲渡益が小さく税負担が少ない場合、特例を使わずに住宅ローン控除を優先する選択肢もあります。両者の節税効果を比較し、税理士に相談して総合的に判断することをおすすめします。

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