買い替え購入時の控除・特例の全体像
買い替えで戸建てを購入する場合、さまざまな控除・特例を活用することで大幅な節税が可能です。本記事では、住宅ローン控除・買い替え特例・登録免許税の軽減措置・贈与税の非課税措置について、実務的な観点から解説します。
本記事のポイント
- 住宅ローン控除は適用要件を満たせば13年間(新築)または10年間(中古)、年末残高の0.7%が控除される
- 買い替え特例は譲渡益課税を繰り延べる制度だが、住宅ローン控除との併用は不可
- 3,000万円特別控除と買い替え特例は選択制で、売却益の規模により最適解が異なる
- 贈与税の非課税枠を活用すれば、親等からの資金援助で最大500万円~1,000万円まで非課税
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置で、諸費用を大幅に削減できる
(1) 買い替え購入で使える控除・特例一覧
買い替えに伴う戸建て購入時には、以下の控除・特例が利用可能です。
制度名 | 内容 | 節税効果 |
---|---|---|
住宅ローン控除 | 年末残高の0.7%を所得税から控除 | 新築13年間で最大273万円、中古10年間で最大140万円 |
買い替え特例 | 譲渡益への課税を繰り延べ | 売却時の譲渡所得税を将来に先送り |
登録免許税の軽減 | 所有権移転登記の税率を軽減 | 一般住宅で0.3%、認定住宅で0.1%~0.2% |
不動産取得税の軽減 | 固定資産税評価額から控除 | 新築は1,200万円~1,300万円控除 |
贈与税の非課税 | 住宅取得資金の贈与を非課税化 | 一般住宅500万円、優良住宅1,000万円まで非課税 |
(2) 売却側の特例との関係
買い替えでは、売却側の特例(3,000万円特別控除・買い替え特例)と購入側の住宅ローン控除の関係を理解することが重要です。
重要な制約:
- 買い替え特例を選択した場合、住宅ローン控除は利用不可(国税庁「居住用財産の買換えの特例」)
- 3,000万円特別控除を選択した場合、住宅ローン控除は併用可能
多くのケースでは、3,000万円特別控除+住宅ローン控除の組み合わせが有利です。詳細は後述の「買い替え特例の活用ポイント」で解説します。
住宅ローン控除の適用要件と控除額
(1) 住宅ローン控除の基本
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合、年末残高の一定割合を所得税から控除する制度です(国税庁「住宅ローン控除」)。
2024年以降の控除率・控除期間:
- 控除率: 年末残高の0.7%
- 控除期間: 新築は13年間、中古は10年間
- 借入限度額: 住宅の性能により異なる(後述)
(2) 適用要件(床面積50㎡以上・借入期間10年以上等)
住宅ローン控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
住宅の要件:
- 床面積が50㎡以上(登記簿面積で判定)
- 床面積の1/2以上が自己居住用
- 中古住宅の場合は耐震基準適合証明書等が必要(後述)
ローンの要件:
- 借入期間10年以上
- 金融機関からの借入(親族等からの借入は対象外)
入居時期:
- 取得日から6カ月以内に入居
- 控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住
(3) 控除額と控除期間
控除額は住宅の性能により借入限度額が異なります。
新築・買取再販の場合:
住宅性能 | 借入限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
認定長期優良住宅・ZEH | 4,500万円 | 13年 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 13年 | 364万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 13年 | 273万円 |
中古住宅の場合:
住宅性能 | 借入限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
認定長期優良住宅・ZEH | 3,000万円 | 10年 | 210万円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 | 10年 | 210万円 |
その他の住宅 | 2,000万円 | 10年 | 140万円 |
(4) 中古住宅の築年数要件(耐震基準適合)
以前は築年数制限(木造22年以内、鉄筋コンクリート造25年以内)がありましたが、現在は耐震基準適合が必須に変更されました。
耐震基準適合の証明方法(いずれか):
- 昭和57年(1982年)以降に建築された住宅(新耐震基準)
- 耐震基準適合証明書の取得
- 既存住宅売買瑕疵保険への加入
- 既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)の取得
証明書取得の費用:
- 耐震基準適合証明書: 10~20万円程度
- 既存住宅売買瑕疵保険: 5~15万円程度(物件検査費用含む)
昭和56年以前の物件を購入する場合は、証明書取得費用も含めて資金計画を立てる必要があります。
(5) 所得制限(合計所得金額2,000万円以下)
住宅ローン控除は合計所得金額2,000万円以下の方が対象です。高所得者の方は控除を受けられない点に注意してください。
買い替え特例の活用ポイント
(1) 居住用財産の買換え特例とは
買い替え特例(居住用財産の買換え特例)は、居住用財産を買い替えた場合、譲渡益への課税を将来に繰り延べる制度です(国税庁「居住用財産の買換えの特例」)。
特例の内容:
- 売却時の譲渡所得税を、将来の売却時まで先送り
- 税金が免除されるわけではなく、あくまで「繰り延べ」
(2) 適用要件(譲渡価格・購入価格等)
買い替え特例を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
売却物件の要件:
- 所有期間10年超の居住用財産
- 居住期間10年以上
- 譲渡価格1億円以下
購入物件の要件:
- 床面積50㎡以上、かつ土地面積500㎡以下
- 譲渡の年の前年1月1日から翌年12月31日までに取得
- 取得の日から翌年12月31日までに居住
(3) 3,000万円特別控除との選択
買い替え特例と3,000万円特別控除は併用不可で、いずれかを選択する必要があります。
3,000万円特別控除:
- 譲渡所得から3,000万円を控除
- 譲渡益が3,000万円以下なら課税なし
- 住宅ローン控除と併用可能
どちらを選ぶべきか:
売却益の規模 | 推奨選択 | 理由 |
---|---|---|
3,000万円以下 | 3,000万円特別控除 | 譲渡所得税が完全に非課税。住宅ローン控除も併用可 |
3,000万円超 | ケースバイケース | 将来の売却予定・税率・住宅ローン控除額を総合的に判断 |
多くのケースでは、3,000万円特別控除+住宅ローン控除の組み合わせが有利です。
(4) 住宅ローン控除との併用不可
買い替え特例を選択した場合、購入した住宅について住宅ローン控除を受けることができません。この点は非常に重要です。
具体例:
- 売却益4,000万円の物件を売却
- 買い替え特例を選択すると、約800万円の譲渡所得税を繰り延べ可能
- しかし、住宅ローン控除(最大273万円)を放棄することになる
専門家と相談の上、トータルでの節税額を比較検討することをお勧めします。
登録免許税・不動産取得税の軽減措置
(1) 登録免許税の軽減税率
所有権移転登記時の登録免許税は、一定要件を満たす住宅について軽減税率が適用されます。
軽減税率(2024年3月31日まで):
住宅区分 | 本則 | 軽減税率 |
---|---|---|
中古住宅(一般) | 2.0% | 0.3% |
認定長期優良住宅 | 2.0% | 0.1% |
認定低炭素住宅 | 2.0% | 0.1% |
適用要件:
- 床面積50㎡以上
- 取得後1年以内の登記
- 中古住宅の場合は昭和57年以降建築、または耐震基準適合証明
(2) 不動産取得税の軽減措置
不動産取得税についても、一定要件を満たす住宅について軽減措置があります。
建物の軽減:
- 固定資産税評価額から1,200万円控除(一般住宅)
- 認定長期優良住宅は1,300万円控除
土地の軽減:
- 税額から45,000円控除(または土地1㎡あたりの固定資産税評価額×1/2×住宅床面積×2×3%のいずれか高い方)
(3) 認定長期優良住宅の追加優遇
認定長期優良住宅を購入する場合、以下の追加優遇があります。
- 登録免許税: 0.1%(一般住宅0.3%)
- 不動産取得税: 1,300万円控除(一般住宅1,200万円)
- 住宅ローン控除: 借入限度額が高い(中古3,000万円)
長期的に居住する予定であれば、認定住宅を選ぶメリットは大きいでしょう。
贈与税の非課税措置の活用
(1) 住宅取得等資金の贈与税非課税枠
親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受ける場合、一定額まで贈与税が非課税となります(国土交通省「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」)。
(2) 非課税枠の金額(一般住宅・優良住宅)
2024年以降の非課税枠:
住宅区分 | 非課税枠 |
---|---|
一般住宅 | 500万円 |
優良住宅(認定長期優良住宅・ZEH等) | 1,000万円 |
(3) 適用要件と手続き
受贈者の要件:
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
- 贈与を受けた年の合計所得金額2,000万円以下
- 贈与者の直系卑属(子・孫)
住宅の要件:
- 床面積40㎡以上240㎡以下(合計所得1,000万円以下の場合)
- 床面積50㎡以上240㎡以下(合計所得1,000万円超の場合)
手続き:
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに確定申告
- 贈与税の申告書に所定の書類を添付
(4) 相続時精算課税制度との併用
住宅取得資金の贈与税非課税措置は、相続時精算課税制度と併用可能です。
相続時精算課税制度:
- 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与
- 累計2,500万円まで贈与税非課税(ただし相続時に持ち戻し)
併用した場合の非課税額:
- 一般住宅: 500万円(住宅資金)+2,500万円(相続時精算)=3,000万円
- 優良住宅: 1,000万円(住宅資金)+2,500万円(相続時精算)=3,500万円
大規模な資金援助を受ける場合は、税理士に相談の上、最適なスキームを検討してください。
控除・特例を最大化する実践策
(1) 売却側の特例選択の最適化
買い替えでは、売却側の特例選択が全体の節税額を大きく左右します。
検討フロー:
- 売却益の見込み額を計算(売却価格-取得費-譲渡費用)
- 売却益が3,000万円以下→3,000万円特別控除を選択(住宅ローン控除も併用可)
- 売却益が3,000万円超→買い替え特例 vs. 3,000万円特別控除+住宅ローン控除を比較
(2) 住宅ローン控除と買い替え特例の比較
具体例(売却益4,000万円、住宅ローン残高3,000万円):
パターンA: 3,000万円特別控除+住宅ローン控除
- 譲渡所得税: (4,000万円-3,000万円)×20.315%=約203万円
- 住宅ローン控除: 3,000万円×0.7%×10年=210万円
- 実質的な節税額: 210万円-203万円=7万円
パターンB: 買い替え特例
- 譲渡所得税: 繰り延べ(将来支払い)
- 住宅ローン控除: なし
- 将来の売却時に課税(税率・物件価格次第)
将来売却する予定がない、または長期保有する場合は買い替え特例が有利なケースもあります。
(3) 贈与税非課税枠の活用タイミング
親等から資金援助を受ける場合、贈与のタイミングも重要です。
最適なタイミング:
- 購入年の1月~12月に贈与を受ける
- 翌年3月15日までに確定申告
- 優良住宅(認定長期優良住宅・ZEH)の場合は非課税枠1,000万円を活用
(4) 専門家への相談推奨事項
以下のケースでは、税理士・弁護士等の専門家への相談をお勧めします。
- 売却益が3,000万円超で、買い替え特例と3,000万円特別控除の選択に迷う場合
- 大規模な贈与(1,000万円超)を受ける場合
- 相続時精算課税制度を併用する場合
- 離婚・相続に伴う買い替えの場合
税制は複雑で、個別の事情により最適解が異なります。数十万円~数百万円の節税につながる可能性があるため、専門家への相談費用(5~10万円程度)は十分に回収できるでしょう。
まとめ
買い替えに伴う戸建て購入時の控除・特例は、適切に活用することで大幅な節税が可能です。特に、売却側の特例(3,000万円特別控除 vs. 買い替え特例)の選択と、住宅ローン控除の併用可否が全体の節税額を左右します。
重要なポイント:
- 売却益3,000万円以下なら、3,000万円特別控除+住宅ローン控除が有利
- 買い替え特例を選択すると、住宅ローン控除は利用不可
- 中古住宅は耐震基準適合証明が必須(証明書取得費用10~20万円)
- 贈与税の非課税枠(500万円~1,000万円)を活用すれば、親等からの資金援助が非課税
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置で、諸費用を大幅削減可能
買い替えは人生で何度もない大きな決断です。税制の仕組みを正しく理解し、専門家のアドバイスも受けながら、最適な選択をしてください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 買い替えで戸建てを購入する場合、住宅ローン控除は使えますか?
A: 適用要件を満たせば利用可能です。床面積50㎡以上、借入期間10年以上、合計所得金額2,000万円以下等の条件があります。中古住宅の場合は耐震基準適合証明書等が必要です。控除額は年末残高の0.7%(新築は13年間、中古は10年間)です。ただし、買い替え特例と併用不可のため選択が必要です。
Q2: 買い替え特例と3,000万円特別控除、どちらを選ぶべきですか?
A: 買い替え特例は譲渡益課税を繰り延べ(将来課税)、3,000万円特別控除は譲渡所得から3,000万円控除(非課税)します。両者は併用不可です。売却益が3,000万円以下なら特別控除が有利でしょう。3,000万円超の場合は将来の売却予定や税率を考慮して判断してください。なお、買い替え特例選択時は住宅ローン控除が使えない点に注意が必要です。
Q3: 買い替え購入で親から資金援助を受ける場合、贈与税はかかりますか?
A: 住宅取得等資金の贈与税非課税措置を適用できます。一般住宅は最大500万円、優良住宅(認定長期優良住宅・ZEH等)は最大1,000万円まで非課税です。要件は受贈者が18歳以上、合計所得金額2,000万円以下等です。贈与を受けた年の翌年3月15日までに確定申告が必要です。
Q4: 買い替えで中古戸建てを購入する場合、住宅ローン控除の築年数制限はありますか?
A: 築年数制限は撤廃されましたが、耐震基準適合が必須です。昭和57年以降の新耐震基準物件、または耐震基準適合証明書・既存住宅売買瑕疵保険加入・既存住宅性能評価書のいずれかで証明する必要があります。証明書取得には10~20万円程度の費用がかかります。適合しない場合は控除適用不可です。
Q5: 認定長期優良住宅を購入するメリットは何ですか?
A: 認定長期優良住宅には複数の税制優遇があります。登録免許税が0.1%(一般住宅0.3%)、不動産取得税の控除額が1,300万円(一般住宅1,200万円)、住宅ローン控除の借入限度額が高い(中古で3,000万円、一般住宅は2,000万円)などです。長期的に居住する予定であれば、認定住宅を選ぶことで大幅な節税が可能です。