戸建て売却で知っておきたい税制優遇措置
戸建てを売却して利益が出た場合、譲渡所得税・住民税が課税されます。しかし、一定の要件を満たせば控除や特例を利用して税負担を軽減できます。初めて戸建てを売却する方にとって、どのような税制優遇があるのかを理解することは重要です。
この記事のポイント
- 3,000万円特別控除で譲渡所得から最高3,000万円を控除可能
- 所有期間10年超なら軽減税率の特例と併用できる
- 買換え特例は課税を繰り延べる制度(3,000万円控除と選択適用)
- 相続した空き家にも3,000万円控除が適用できる場合がある
- 確定申告が必要で期限は譲渡年の翌年2月16日〜3月15日
1. 戸建て売却で使える控除・特例とは
(1) 売却時に利用できる税制優遇の全体像
戸建て売却時に利用できる主な税制優遇措置は以下の通りです。
主な控除・特例
制度名 | 内容 | 主な要件 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 譲渡所得から最高3,000万円を控除 | 居住用財産であること |
軽減税率の特例 | 所有期間10年超で税率を軽減 | 3,000万円控除と併用可 |
買換え特例 | 課税を繰り延べ | 3,000万円控除と選択適用 |
空き家の3,000万円控除 | 相続した空き家の譲渡所得から控除 | 1981年5月31日以前築など |
国税庁の情報によれば、これらの制度を適切に利用することで、税負担を大きく軽減できる場合があります。
(2) 控除・特例の選択適用と併用
重要な点として、3,000万円特別控除と買換え特例は選択適用となります。両方を同時に使うことはできません。
一方、3,000万円特別控除と軽減税率の特例は併用可能です。どの制度を選ぶかは、譲渡益の金額や今後の売却予定などを考慮して判断する必要があります。
2. 3,000万円特別控除の基本
(1) 適用要件と控除額
国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によれば、自分が居住していた家屋と土地を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
3,000万円控除の主な要件
- 自分が居住していた家屋または家屋とともにその敷地を譲渡すること
- 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
- 親子や夫婦など特別の関係がある者への譲渡でないこと
- 前年・前々年にこの特例を受けていないこと
控除額は譲渡所得の額が上限です。例えば、譲渡所得が2,000万円の場合、控除額も2,000万円となり、課税所得はゼロになります。
(2) 居住用財産の定義
居住用財産とは、納税者が実際に居住している家屋のことです。単に所有しているだけでは該当しません。
別荘や投資用の賃貸物件は居住用財産に該当しないため、3,000万円控除は適用できません。ただし、以前は居住していた家屋であれば、居住しなくなってから3年以内の売却であれば適用可能です。
(3) 確定申告の手続き
3,000万円控除を受けるためには、譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。
確定申告に必要な主な書類
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書のコピー
- 登記事項証明書
- 住民票の写し(居住用財産であることの証明)
控除を適用した結果、譲渡所得がゼロになる場合でも、確定申告は必要です。
3. 軽減税率の特例
(1) 所有期間10年超の税率軽減
国税庁の「居住用財産の軽減税率の特例」によれば、所有期間が10年を超える居住用財産を売却した場合、譲渡所得税の税率が軽減されます。
通常の税率と軽減税率の比較
所有期間 | 譲渡所得金額 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|---|
5年以下(短期) | - | 30% | 9% | 39% |
5年超(長期) | - | 15% | 5% | 20% |
10年超(軽減) | 6,000万円以下 | 10% | 4% | 14% |
10年超(軽減) | 6,000万円超 | 15% | 5% | 20% |
※復興特別所得税(所得税額の2.1%)は別途
所有期間は、譲渡した年の1月1日時点で判定されます。例えば、2015年5月に購入した戸建てを2025年6月に売却した場合、2025年1月1日時点では所有期間9年となり、軽減税率は適用できません。
(2) 3,000万円控除との併用
軽減税率の特例は、3,000万円特別控除と併用できます。これは大きなメリットです。
併用時の計算例
- 譲渡所得:5,000万円
- 3,000万円控除適用後:2,000万円
- 軽減税率(14%)適用:2,000万円 × 14% = 280万円
もし軽減税率がなければ、2,000万円 × 20% = 400万円となり、120万円も税負担が増えることになります。
(3) 税率の計算方法
軽減税率は、6,000万円以下の部分と6,000万円超の部分で異なります。
例えば、3,000万円控除適用後の譲渡所得が7,000万円の場合:
- 6,000万円以下の部分:6,000万円 × 14% = 840万円
- 6,000万円超の部分:1,000万円 × 20% = 200万円
- 合計:1,040万円(復興特別所得税を除く)
4. 買換え特例
(1) 課税の繰延べの仕組み
国税庁の「特定の居住用財産の買換え特例」によれば、居住用財産を売却して新たな居住用財産を購入した場合、譲渡益への課税を繰り延べることができます。
これは非課税ではなく、あくまで課税の繰延べです。買い換えた新居を将来売却する際に、繰り延べられた譲渡益が課税されます。
買換え特例の主な要件
- 売却する家屋の所有期間が譲渡年の1月1日時点で10年超
- 売却する家屋に10年以上居住していた
- 譲渡価額が1億円以下
- 譲渡年の前年1月1日から譲渡年の翌年12月31日までに新居を取得
(2) 3,000万円控除との選択適用
買換え特例は、3,000万円特別控除と選択適用です。どちらか一方のみ適用できます。
有利判定の基準
- 譲渡益が3,000万円以下:3,000万円控除が有利(完全非課税)
- 譲渡益が3,000万円超で、近い将来に新居を売却する予定がある:3,000万円控除が有利
- 譲渡益が3,000万円超で、新居を長期保有する予定:買換え特例が有利な場合も
(3) 有利判定のポイント
買換え特例を選択すると、課税が繰り延べられるだけで、将来の売却時に課税されます。そのため、以下の点を考慮して判断する必要があります。
- 新居をいつ頃売却する予定か
- 将来の税率がどうなるか(税制改正の可能性)
- 譲渡益の金額
判断が難しい場合は、税理士への相談をおすすめします。
5. 譲渡所得の計算方法
(1) 譲渡価額・取得費・譲渡費用
国税庁の「譲渡所得の計算方法」によれば、譲渡所得は以下の式で計算されます。
譲渡所得の計算式
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
各項目の内容
項目 | 内容 |
---|---|
譲渡価額 | 売却代金(固定資産税等の精算金を含む) |
取得費 | 購入代金、購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用など) |
譲渡費用 | 売却時の諸費用(仲介手数料、測量費、解体費など) |
建物の取得費は、購入代金から減価償却費を差し引いた金額となります。
(2) 取得費が不明な場合の概算取得費
購入時の契約書が見つからず、取得費が分からない場合、概算取得費として譲渡価額の5%を取得費とすることができます。
概算取得費の例
- 譲渡価額:3,000万円
- 概算取得費:3,000万円 × 5% = 150万円
- 譲渡費用:100万円
- 譲渡所得:3,000万円 - 150万円 - 100万円 = 2,750万円
もし実際の取得費が1,500万円であれば、譲渡所得は1,400万円となり、概算取得費を使うと1,350万円も税負担が増えることになります。購入時の契約書等は大切に保管しておきましょう。
(3) 減価償却費の計算
建物の取得費は、購入代金から減価償却費を差し引いた金額です。減価償却費は、建物の購入代金を耐用年数で割って計算します。
非事業用建物の減価償却費の計算式
減価償却費 = 建物購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
主な償却率
- 木造:0.031(耐用年数33年)
- 軽量鉄骨造:0.025(耐用年数40年)
- 鉄筋コンクリート造:0.015(耐用年数70年)
例えば、木造戸建てを2,000万円(建物1,000万円、土地1,000万円)で購入し、20年後に売却した場合の建物取得費は以下の通りです。
減価償却費 = 1,000万円 × 0.9 × 0.031 × 20年 = 558万円
建物取得費 = 1,000万円 - 558万円 = 442万円
取得費合計 = 442万円(建物) + 1,000万円(土地) = 1,442万円
6. 空き家の3,000万円控除
(1) 相続した空き家の特例
国税庁の「相続した空き家を売却した場合の3,000万円特別控除」によれば、相続した空き家を売却した場合にも、一定の要件を満たせば3,000万円の控除を受けられます。
これは通常の居住用財産の3,000万円控除とは別の制度ですが、控除額は同じ3,000万円です。
(2) 耐震基準等の適用要件
空き家の3,000万円控除には、以下の要件があります。
主な要件
- 1981年5月31日以前に建築された戸建て(区分所有建物を除く)
- 被相続人が一人で居住していた家屋
- 相続開始直前まで被相続人以外に居住者がいなかった
- 耐震改修を行うか、家屋を取り壊して売却する
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 譲渡価額が1億円以下
耐震基準を満たさない古い戸建ては、耐震改修を行うか、取り壊して更地で売却する必要があります。
(3) 適用期限と注意点
空き家の3,000万円控除の適用期限は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。
例えば、2022年5月に相続が開始した場合、2025年12月31日までに売却する必要があります。
また、この特例は2023年12月31日までの譲渡が対象とされていましたが、税制改正により延長されています。最新の情報は国税庁のウェブサイトで確認することをおすすめします。
まとめ
戸建て売却時の控除・特例について、重要なポイントをまとめます。
重要ポイント
- 3,000万円特別控除は居住用財産の売却で適用可能
- 所有期間10年超なら軽減税率の特例と併用できる(最大14%の税率)
- 買換え特例は3,000万円控除と選択適用(譲渡益が3,000万円以下なら控除が有利)
- 取得費が不明な場合は概算取得費(譲渡価額の5%)となり税負担増
- 相続した空き家にも3,000万円控除が適用できる場合がある(期限は相続開始から3年経過後の年末まで)
- 確定申告は譲渡年の翌年2月16日〜3月15日が期限
税制優遇を適切に活用することで、税負担を大きく軽減できます。不明点がある場合は、税理士や不動産会社に相談しながら進めることをおすすめします。
よくある質問
Q1. 3,000万円控除と買換え特例はどちらを選ぶべきですか?
譲渡益が3,000万円以下であれば、3,000万円控除を選ぶのが有利です。控除により譲渡所得が完全にゼロになるため、課税されません。
譲渡益が3,000万円を超える場合は、慎重な判断が必要です。買換え特例は課税を繰り延べるだけで、新居を将来売却する際に課税されます。近い将来に新居を売却する予定があれば、3,000万円控除の方が有利な場合が多いでしょう。
判断が難しい場合は、税理士に相談することをおすすめします。
Q2. 所有期間10年未満でも3,000万円控除は使えますか?
はい、使えます。国税庁の情報によれば、3,000万円特別控除には所有期間の要件はありません。購入後すぐに売却した場合でも、居住用財産であれば適用可能です。
ただし、軽減税率の特例は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていることが要件です。3,000万円控除と軽減税率の特例は要件が異なる点に注意が必要です。
Q3. 取得費が分からない場合はどうなりますか?
購入時の契約書が見つからず、取得費が分からない場合は、概算取得費として譲渡価額の5%を取得費とすることができます。
しかし、概算取得費を使うと税負担が大きく増える可能性があります。例えば、3,000万円で売却した場合、概算取得費は150万円となります。実際の取得費が1,500万円であれば、1,350万円も譲渡所得が多くなってしまいます。
購入時の契約書、領収書、通帳の記録など、取得費を証明できる資料をできる限り探すことをおすすめします。
Q4. 空き家の3,000万円控除は誰でも使えますか?
国税庁の情報によれば、空き家の3,000万円控除には厳格な要件があります。
主な要件は以下の通りです。
- 相続した空き家であること
- 1981年5月31日以前に建築された戸建てであること
- 耐震改修を行うか、建物を取り壊して売却すること
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
これらの要件をすべて満たす必要があります。特に築年数と売却期限の要件は厳格なので、相続した空き家を売却する場合は早めに検討することをおすすめします。