相続資金で新築マンションを購入する際の準備
相続により資金を得た、または相続物件の売却益を活用して新築マンションの購入を検討する際、通常の購入とは異なる注意点があります。相続税の納付期限との調整、相続資金の使途証明、税制優遇措置の活用など、実務的に押さえるべきポイントが複数あります。
この記事では、相続資金を活用した新築マンション購入における諸費用と資金計画について、国税庁や総務省の規定に基づいて詳しく解説します。
この記事でわかること
- 新築マンション購入時にかかる諸費用の具体的な内訳(物件価格の3〜5%)
- 相続資金活用時の税金(不動産取得税・登録免許税・印紙税)
- 相続資金と住宅ローンを組み合わせる際のメリットと注意点
- 相続税納付期限(10か月以内)との資金繰り調整方法
- 相続時精算課税制度と暦年贈与の違いと活用方法
1. 相続購入新築マンションの諸費用の内訳
新築マンション購入時には、物件価格以外に複数の諸費用が発生します。国土交通省の調査によると、新築マンションの諸費用は物件価格の3〜5%程度が一般的です。
(1) 諸費用の総額目安(物件価格の3-5%)
例えば物件価格3,000万円の新築マンションの場合、諸費用は90〜150万円程度となります。主な内訳は以下の通りです。
費用項目 | 金額の目安 |
---|---|
登記費用(司法書士報酬含む) | 20〜30万円 |
不動産取得税 | 0〜30万円(軽減措置適用後) |
印紙税 | 1〜3万円 |
修繕積立基金 | 20〜40万円 |
火災保険料(10年一括) | 15〜30万円 |
住宅ローン関連費用 | 50〜100万円(借入する場合) |
(2) 新築マンション特有の費用(修繕積立基金)
新築マンション購入時に特有の費用として、修繕積立基金があります。これは将来の大規模修繕に備えて入居時に一括で支払う費用で、一般的に20〜40万円程度です。
この費用は物件価格に含まれず、別途現金で用意する必要があります。相続資金で一括購入する場合でも、この初期費用は必ず発生するため、資金計画に組み込んでおく必要があります。
(3) 相続資金での諸費用支払い
相続した現金で諸費用を支払う場合、相続資金そのものには既に相続税が課税済みのため、購入時に追加で相続税や贈与税がかかることはありません。
ただし、金融機関から相続資金の使途証明を求められる場合があります。その際は以下の書類を用意しておくとスムーズです。
- 遺産分割協議書
- 相続税申告書の控え
- 被相続人の通帳や口座からの送金履歴
2. 相続資金活用時の税金と登記費用
新築マンション購入時には、複数の税金と登記費用が発生します。法務局や国税庁、総務省の規定に基づいて解説します。
(1) 登記費用(所有権保存登記)
新築マンションの場合、所有権保存登記が必要です。法務局の規定により、登録免許税は固定資産税評価額の0.4%が原則ですが、新築住宅の軽減措置により0.15%に軽減される場合があります(2026年3月31日まで)。
軽減措置の適用要件:
- 床面積50㎡以上
- 個人が自己の居住用に取得
- 新築後1年以内の登記
住宅ローンを組む場合は、さらに抵当権設定登記が必要です。登録免許税は債権額(借入額)の0.4%が原則ですが、住宅用家屋の軽減措置により0.1%に軽減されます(2026年3月31日まで)。
これらに司法書士への報酬(通常10〜20万円程度)を加えると、合計で20〜30万円程度が目安です。
(2) 不動産取得税の軽減措置(1200万円控除)
不動産取得税は都道府県が課す地方税で、総務省の規定により固定資産税評価額の3%が原則です(2027年3月31日まで)。
ただし、新築住宅には軽減措置があり、以下の条件を満たせば課税標準から1,200万円(認定長期優良住宅は1,300万円)が控除されます。
軽減措置の適用要件:
- 床面積50㎡以上240㎡以下
- 個人が自己の居住用に取得
例えば固定資産税評価額が2,000万円の新築マンションの場合、(2,000万円 - 1,200万円) × 3% = 24万円となります。評価額が1,200万円以下の場合、不動産取得税はかかりません。
(3) 印紙税・登録免許税
不動産売買契約書や住宅ローン契約書には、国税庁の規定により印紙税がかかります。
契約金額 | 印紙税額(軽減措置適用後) |
---|---|
1,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円超〜1億円以下 | 3万円 |
2027年3月31日までは軽減措置が適用されます。
3. 相続資金と住宅ローンの組み合わせ方
(1) 相続資金を頭金にする場合のメリット
相続資金を全額使って一括購入するか、一部を頭金にして住宅ローンを組むか、選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを整理します。
一括購入のメリット:
- ローン返済の負担なし
- 住宅ローン関連費用(事務手数料・保証料)が不要
- 審査の手間なし
頭金+ローンのメリット:
- 住宅ローン控除を受けられる(年末残高の0.7%を最大13年間控除)
- 相続資金の一部を手元に残せる(緊急時の備え)
- 団体信用生命保険により、万一の際にローンが完済される
(2) 住宅ローン控除を最大化する借入額設定
国税庁の規定により、住宅ローン控除は年末ローン残高の0.7%を最大13年間、所得税(控除しきれない場合は住民税からも一部)から控除できます。
控除限度額(新築の認定住宅の場合):
- 認定長期優良住宅・認定低炭素住宅: 借入限度額4,500万円(最大控除額31.5万円/年)
- ZEH水準省エネ住宅: 借入限度額3,500万円(最大控除額24.5万円/年)
- 省エネ基準適合住宅: 借入限度額3,000万円(最大控除額21万円/年)
例えば金利0.5%で3,000万円を借りた場合、年間の利息負担は約15万円ですが、住宅ローン控除により年末残高の0.7%(初年度は約21万円)を控除できます。差額の約6万円が実質的な得となります。
ただし、この計算が成り立つのは所得税額が十分にある場合です。年収や所得税額によっては控除枠を使い切れないため、個別の試算が必要です。
(3) 相続資金の使途証明
住宅ローンを組む際、金融機関から自己資金(頭金)の出所を確認されることがあります。相続資金を頭金に充てる場合、以下の書類を求められる可能性があります。
- 遺産分割協議書
- 相続税申告書の控え
- 相続した預金口座の通帳や取引履歴
これは資金洗浄防止(マネーロンダリング対策)のためで、正当な相続資金であることを証明できれば問題ありません。
4. 資金計画のポイント(相続税納付との調整)
(1) 相続税納付期限(10か月以内)との調整
相続税の納付期限は、相続開始(被相続人の死亡日)から10か月以内と定められています。この期限内に相続税を納付しなければならないため、相続資金の一部を新築マンション購入に充てる場合、資金繰りに注意が必要です。
資金計画のポイント:
- 相続税額を正確に把握する(税理士に試算依頼)
- 相続税納付に必要な資金を確保する
- 残りの資金で購入可能な物件価格帯を検討する
新築マンションは契約から完成・引き渡しまで1〜2年かかることもあるため、相続税の納付期限との関係を考慮してスケジュールを組む必要があります。
(2) 相続不動産売却益の活用
相続した不動産を売却して得た資金で新築マンションを購入するケースも多くあります。この場合、売却にかかる譲渡所得税に注意が必要です。
相続不動産の売却に関する特例:
- 取得費は被相続人が購入した時の価格を引き継ぐ
- 相続税の取得費加算の特例: 相続開始から3年10か月以内に売却すれば、支払った相続税の一部を取得費に加算できる
売却にかかる諸費用(仲介手数料など)と税金を差し引いた手取額を把握した上で、購入資金計画を立てることが重要です。
(3) 小規模宅地特例適用後の資金繰り
相続した自宅に小規模宅地等の特例を適用した場合、その宅地を売却すると特例が取り消され、相続税が追加で課税される可能性があります(相続税申告期限から3年以内の売却の場合)。
この場合、追加の相続税納付が必要になるため、その資金も考慮した上で新築マンション購入の資金計画を立てる必要があります。
5. 相続時精算課税制度と贈与の活用
(1) 相続時精算課税制度の仕組み(2500万円非課税)
国税庁の規定により、相続時精算課税制度は60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫への贈与について、2,500万円まで贈与税を非課税とする制度です。
制度の特徴:
- 贈与時は2,500万円まで贈与税がかからない
- 相続時に、贈与を受けた財産を相続財産に加算して相続税を計算
- 一度選択すると撤回できず、同じ贈与者からの贈与は全て相続時精算課税の対象となる
この制度を利用すれば、親から2,500万円の資金援助を受けて新築マンションを購入し、親の相続時に改めて精算することができます。
(2) 暦年贈与との比較(年110万円非課税)
暦年贈与は、年間110万円までの贈与が非課税となる制度です。相続時精算課税制度と比較すると、以下の違いがあります。
項目 | 相続時精算課税制度 | 暦年贈与 |
---|---|---|
非課税枠 | 累計2,500万円 | 年間110万円 |
相続時の扱い | 贈与額を相続財産に加算 | 相続開始前3年以内の贈与のみ加算(2027年以降は7年) |
撤回 | 不可 | 可(毎年選択可) |
新築マンション購入のように一度に大きな資金が必要な場合は相続時精算課税制度、長期的に少しずつ資金援助を受ける場合は暦年贈与が適しています。
(3) 制度選択時の注意点(撤回不可)
相続時精算課税制度を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年贈与に戻ることはできません。また、相続時に贈与額が相続財産に加算されるため、親の資産状況によっては相続税が増える可能性があります。
制度の選択にあたっては、以下の点を専門家(税理士)に相談することをおすすめします。
- 親の資産総額と推定相続税額
- 他の相続人との関係(遺留分など)
- 将来の税制改正リスク
6. まとめ:相続資金で新築マンション購入を成功させる準備
相続資金を活用した新築マンション購入では、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 諸費用は物件価格の3〜5%程度(3,000万円なら90〜150万円)を見込む
- 修繕積立基金(20〜40万円)は新築マンション特有の費用
- 相続税の納付期限(10か月以内)を考慮した資金繰り調整が必要
- 住宅ローン控除を活用すれば、低金利時は借入併用が有利な場合も
- 相続時精算課税制度で親から2,500万円まで非課税で資金援助を受けられる
- 相続資金の使途証明として遺産分割協議書等を保管しておく
相続は人生で何度も経験することではないため、税理士や不動産会社の専門家に相談しながら、慎重に資金計画を立てることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続した現金で新築マンションを購入する場合、税金はかかりますか?
相続資金そのものには既に相続税が課税済みのため、購入時に追加で相続税や贈与税がかかることはありません。ただし、新築マンション購入時には不動産取得税、登録免許税、印紙税が通常通り発生します。不動産取得税は新築住宅の軽減措置により、課税標準から1,200万円が控除されるため、評価額が1,200万円以下の場合は実質的にかかりません。また、金融機関から相続資金の使途証明を求められる場合があるため、遺産分割協議書や相続税申告書の控えを保管しておくことが重要です。
Q2. 相続資金で一括購入する場合と住宅ローンを併用する場合、どちらが有利ですか?
住宅ローン控除(年末残高の0.7%を13年間控除)を受けられるため、低金利なら借入併用が有利な場合があります。例えば金利0.5%で借りて0.7%の控除を受ければ、差額の0.2%分が実質的な得となります。ただし、この計算が成り立つのは所得税額が十分にある場合で、年収や所得税額によっては控除枠を使い切れません。また、一括購入なら返済負担がなく、住宅ローン関連費用(事務手数料・保証料)も不要です。相続資金額、年齢、所得税額、今後の生活設計を総合的に考慮して判断することをおすすめします。
Q3. 相続時精算課税制度を使って親から資金援助を受けられますか?
60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫への贈与であれば、相続時精算課税制度により2,500万円まで贈与税が非課税で受け取れます。ただし、一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年贈与(年110万円非課税)に戻ることはできません。また、相続時に贈与を受けた財産を相続財産に加算して相続税を計算するため、親の資産状況によっては将来的に相続税が増える可能性があります。制度の選択にあたっては、親の資産総額や他の相続人との関係も考慮し、税理士に相談することをおすすめします。
Q4. 相続税の納付期限と新築マンション購入のタイミングはどう調整すべきですか?
相続税の納付期限は相続開始(被相続人の死亡日)から10か月以内です。新築マンションは契約から完成・引き渡しまで1〜2年かかることもあるため、まず相続税額を正確に把握し、納付に必要な資金を確保した上で、残りの資金で購入可能な物件を検討することが重要です。相続不動産を売却して資金化する場合、売却完了まで数か月かかることも考慮する必要があります。また、相続税の取得費加算の特例を活用する場合は、相続開始から3年10か月以内に売却する必要があるため、このタイムラインも考慮したスケジュール調整が求められます。
Q5. 新築マンションの修繕積立基金とは何ですか?
修繕積立基金は、将来の大規模修繕に備えて入居時に一括で支払う費用です。一般的に20〜40万円程度で、物件価格には含まれず、別途現金で用意する必要があります。この費用は通常の諸費用(登記費用・税金など)に加えて必要となるため、新築マンション特有の出費として資金計画に含めておくべきです。相続資金で物件を一括購入する場合でも、修繕積立基金や引っ越し費用、家具家電の購入費用などは別途発生するため、物件価格の5〜10%程度の余裕資金を残しておくことをおすすめします。