買い替え時のマンション売却における諸費用とは
買い替えでは、現在のマンションの売却と新しい住まいの購入を同時に進めるため、通常の売却よりも複雑な資金計画が必要です。売却と購入の両方で諸費用が発生し、タイミングによっては資金繰りに工夫が求められます。
本記事では、買い替え時のマンション売却における諸費用と、売却代金を活用した資金計画について詳しく解説します。
この記事のポイント
- マンション売却の諸費用は売却価格の4-7%が目安
- 買い替えでは売却・購入両方の諸費用が発生(合計で数百万円)
- 買い替えローンやつなぎ融資で資金繰りを調整可能
- 3000万円特別控除と買換え特例は併用不可(有利な方を選択)
- 売り先行と買い先行でキャッシュフローが大きく異なる
1. 買い替え時のマンション売却諸費用の全体像
買い替えでは、売却と購入の両方で諸費用が発生するため、総合的な資金計画が重要です。
(1) 売却側の諸費用(仲介手数料・登記費用・税金)
マンション売却時の主な諸費用は以下の通りです。
売却側の諸費用一覧
費目 | 金額の目安 |
---|---|
仲介手数料 | (売却価格×3%+6万円)×1.1 |
抵当権抹消登記費用 | 1-3万円 |
印紙税 | 1-3万円 |
譲渡所得税(譲渡益がある場合) | 譲渡益の20%または39% |
管理費・修繕積立金の清算 | 日割り計算 |
例えば、3000万円でマンションを売却する場合:
- 仲介手数料:(3000万円×3%+6万円)×1.1=105.6万円
- その他諸費用:5-10万円
- 合計:110-115万円(譲渡所得税を除く)
(2) 購入側の諸費用と合計金額の目安
購入側でも諸費用が発生します。
購入側の諸費用(物件価格の5-8%)
- 仲介手数料
- 登録免許税・司法書士報酬
- 不動産取得税
- 住宅ローン関連費用
- 火災保険料
買い替え全体の諸費用例
- 売却3000万円の諸費用:約115万円
- 購入4000万円の諸費用:200-320万円
- 合計:315-435万円
買い替えでは、数百万円規模の諸費用が必要となるため、事前の資金準備が重要です。
2. 仲介手数料・登記費用と管理費等の清算
買い替え時には、売却と購入の両方で仲介手数料が発生します。
(1) 仲介手数料の計算と両手取引の注意点
仲介手数料は、不動産会社に支払う報酬で、上限額が法律で定められています。
上限額(宅地建物取引業法) (売買価格×3%+6万円)×1.1(消費税)
買い替え時の仲介手数料
- 売却3000万円:約106万円
- 購入4000万円:約139万円
- 合計:245万円
両手取引の注意点
売却と購入を同じ不動産会社に依頼する場合、「両手取引」となります。
メリット:
- タイミング調整がしやすい
- 仲介手数料の値引き交渉の余地
デメリット:
- 売却価格が低くなる可能性(会社都合優先のリスク)
- 購入価格が高くなる可能性
複数の不動産会社から見積もりを取り、比較検討することを推奨します。
(2) 管理費・修繕積立金の日割り清算
マンション売却では、管理費・修繕積立金を引渡し日で日割り清算します。
清算方法
- 引渡し日の前日まで:売主負担
- 引渡し日以降:買主負担
例:月額管理費2万円、引渡し日が15日の場合
- 売主負担:2万円×14日÷30日=約9,333円
- 買主負担:2万円×16日÷30日=約10,667円
滞納がある場合の注意点
管理費・修繕積立金に滞納がある場合、売却前に清算が必要です。滞納があると、買主が購入を断る可能性が高まり、売却価格にも悪影響を及ぼします。事前に管理組合と清算方法を確認しましょう。
3. 買い替えローンとつなぎ融資の活用
買い替えでは、売却と購入のタイミングのずれによる資金ギャップを埋める必要があります。
(1) 買い替えローンの仕組みと審査基準
買い替えローンは、旧住宅の売却金で住宅ローンを完済できない場合に、不足分を新規ローンに組み込める商品です。
買い替えローンの仕組み
- 売却マンションのローン残債:2000万円
- 売却価格:1800万円
- 売却損:200万円
- 新居購入価格:4000万円
- 買い替えローン:4200万円(新居4000万円+売却損200万円)
審査基準
住宅金融支援機構によれば、買い替えローンの審査では以下が重視されます:
- 返済負担率(年収に対する年間返済額の割合):通常35%以内
- 年収の安定性
- 売却物件の査定額の妥当性
担保価値を超えた借入のため、通常の住宅ローンより審査が厳しくなる傾向があります。
(2) つなぎ融資とダブルローンの選択肢
買い先行の場合、つなぎ融資またはダブルローンを利用します。
つなぎ融資
- 利用目的:売却代金を受け取るまでの短期融資
- 金利:年1-3%(住宅ローンより高い)
- 事務手数料:10-30万円
- 期間:通常6ヶ月~1年以内
例:2000万円を6ヶ月間つなぎ融資で借入(金利2%) 2000万円×2%÷12ヶ月×6ヶ月=20万円(利息) 事務手数料を含めると30-50万円程度
ダブルローン
- 旧住宅のローンと新居のローンを一時的に併用
- メリット:つなぎ融資の事務手数料が不要
- デメリット:月々の返済額が2倍、審査が厳しい
どちらを選ぶかは、旧住宅の売却見込み時期と資金状況により判断します。
4. 3,000万円特別控除と買換え特例の選択
マンション売却で譲渡益が出た場合、税負担を軽減する特例があります。
(1) 3,000万円特別控除の適用要件
居住用財産を売却した場合、譲渡益から最高3000万円を控除できます。
適用要件(国税庁)
- 自分が住んでいたマンションを売却
- 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却先が配偶者・直系血族・同族会社等でないこと
節税効果
譲渡益1500万円、長期譲渡所得(所有期間5年超)の場合:
- 3000万円控除適用前:1500万円×20.315%=約305万円
- 3000万円控除適用後:(1500万円-1500万円)×20.315%=0円
- 節税額:305万円
(2) 買換え特例(譲渡税の繰延)との比較
買換え特例は、旧住宅の売却益への課税を次回売却時まで繰り延べられる制度です。
適用要件
- 所有期間10年超、居住期間10年以上
- 売却価格1億円以下
- 買い替え先の床面積50㎡以上
3000万円控除との比較
項目 | 3000万円控除 | 買換え特例 |
---|---|---|
適用効果 | 譲渡益3000万円まで非課税 | 課税の繰延 |
所有期間要件 | なし | 10年超 |
併用 | 不可 | 不可 |
将来の税負担 | なし | 次回売却時に課税 |
どちらを選ぶべきか
- 譲渡益が3000万円以下:3000万円控除が有利(完全非課税)
- 譲渡益が3000万円超+買い替え先が高額:買換え特例で当面の税負担を回避
- 将来売却予定がある:3000万円控除の方が総合的に有利
税理士への相談を通じて、最適な選択を検討しましょう。
5. 売り先行と買い先行のキャッシュフロー比較
買い替えでは、売却と購入のどちらを先行させるかにより、資金繰りが大きく変わります。
(1) 売り先行のメリット・デメリット
メリット
- 売却代金が確定し、資金計画が立てやすい
- 二重ローンのリスクがない
- 売却を急がないため、適正価格で売れる可能性が高い
- つなぎ融資が不要
デメリット
- 希望する物件を逃す可能性
- 仮住まいが必要な場合がある(費用70-120万円)
- 新居が決まるまでの期間が長引く可能性
キャッシュフロー
- マンション売却・決済(売却代金3000万円受領)
- 仮住まいへ引越し(費用30-50万円)
- 新居購入・決済(頭金+諸費用支払い)
- 新居へ引越し(費用30-50万円)
(2) 買い先行のメリット・デメリット
メリット
- 希望する物件を確実に購入できる
- じっくり物件を探せる
- 仮住まい不要で直接引越し可能(引越し1回分で済む)
デメリット
- つなぎ融資またはダブルローンの費用が発生(30-50万円)
- 売却を急ぐ必要があり、値下げリスク
- 資金的な余裕が必要
キャッシュフロー
- 新居購入・決済(つなぎ融資またはダブルローン利用)
- 新居へ引越し
- マンション売却・決済(売却代金でローン完済)
費用比較
項目 | 売り先行 | 買い先行 |
---|---|---|
引越し費用 | 2回(60-100万円) | 1回(30-50万円) |
仮住まい費用 | 50-100万円 | 0円 |
つなぎ融資費用 | 0円 | 30-50万円 |
合計 | 110-200万円 | 60-100万円 |
資金に余裕があれば買い先行の方が費用を抑えられる可能性がありますが、売却が長引くリスクも考慮する必要があります。
6. 買い替え全体の資金計画と注意点
買い替えを成功させるには、売却資金と新規ローンを組み合わせた綿密な資金計画が不可欠です。
(1) 売却資金と新規ローンの組み合わせ
売却代金の使途を明確にしましょう。
資金計画例
- マンション売却価格:3000万円
- 旧ローン残債:1500万円
- 売却諸費用:115万円
- 売却後の手元資金:1385万円
新居購入:
- 購入価格:4000万円
- 購入諸費用:300万円
- 必要資金総額:4300万円
- 売却資金:1385万円
- 新規ローン:2915万円
このように、売却資金を頭金に充てることで、新規ローンの借入額を抑えられます。
(2) 売却損が出た場合の繰越控除
売却損が出た場合、一定の要件を満たせば他の所得と損益通算し、控除しきれない損失を翌年以降に繰り越せます。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
要件:
- 所有期間5年超の居住用財産を売却
- 売却損が発生
- 買い替え先に住宅ローンを利用
例:売却損500万円、年間所得600万円の場合
- 1年目の所得:600万円-500万円=100万円
- 所得税・住民税が大幅に軽減
この特例により、売却損による税負担を軽減できます。ただし、適用には確定申告が必要です。
まとめ
買い替え時のマンション売却では、売却価格の4-7%の諸費用が発生します。購入側の諸費用と合わせると、数百万円規模の資金準備が必要です。
買い替えローンやつなぎ融資を活用することで、売却と購入のタイミングのずれによる資金ギャップを埋められます。3000万円特別控除と買換え特例は併用できないため、譲渡益の金額に応じて有利な方を選択しましょう。
売り先行と買い先行では、キャッシュフローと費用が大きく異なります。資金に余裕があれば買い先行、慎重な資金計画を優先するなら売り先行が適しています。
売却資金と新規ローンを組み合わせた綿密な資金計画と、不動産会社・金融機関との密な連携が、買い替え成功の鍵です。
よくある質問
Q1. 買い替え時、売却と購入のどちらを先にすべきですか?
A. 資金に余裕があれば買い先行で希望物件を確保できます。資金不足なら売り先行で売却代金を確定させることを推奨します。仮住まい費用や二重ローンのリスクも考慮して判断しましょう。
Q2. 3,000万円特別控除と買換え特例、どちらを選ぶべきですか?
A. 売却益が3000万円以下なら3000万円特別控除で完全非課税となります。売却益が大きく、買い替え先の価格が高い場合は買換え特例で税を繰延できます。併用不可のため、税理士に相談して最適な選択をしましょう。
Q3. 買い替えローンの審査は通常の住宅ローンより厳しいですか?
A. 売却物件のローン残債を新規ローンに上乗せするため、審査は厳しめです。返済負担率や収入が重視されます。売却価格の査定額も審査に影響するため、適正な査定を受けることが重要です。
Q4. マンションの管理費・修繕積立金に滞納がある場合、買い替えできますか?
A. 滞納分は売却時に清算が必要です。買主は滞納物件を敬遠するため、売却価格にも悪影響を及ぼします。事前に管理組合と清算方法を確認し、滞納を解消してから売却活動を始めることを推奨します。