住み替え売却中古マンションの契約・重要事項|完全ガイド

公開日: 2025/10/16

住み替え時の中古マンション売却契約の重要性

住み替えで中古マンションを売却する場合、売買契約と重要事項説明の内容を十分に理解することが重要です。売り先行と買い先行のどちらを選ぶかによって、契約の特約条項や引渡し時期の調整方法が異なります。また、契約不適合責任や告知義務を正しく理解しておかないと、後からトラブルに発展する可能性があります。住み替えローンやつなぎ融資、買い替え特約などの活用方法も含めて、実務的な契約知識を身につけておくことが成功への鍵となります。

この記事で分かること:

  • 住み替え時の売買契約書と重要事項説明の確認ポイント
  • 売り先行・買い先行のパターン別契約戦略
  • 引渡し猶予特約など住み替え特有の特約条項
  • 契約不適合責任と売主の告知義務
  • 3,000万円特別控除と買換え特例の選択基準

住み替え時の中古マンション売却における契約の基礎知識

売買契約書の基本構成と必須記載事項

国土交通省の「不動産売買契約書のひな型」によると、売買契約書には以下の事項が記載されます。

基本事項:

  • 売買物件の表示(所在、地番、面積、構造)
  • 売買代金と支払方法(手付金、中間金、残代金)
  • 引渡時期と所有権移転登記の実行時期
  • 公租公課(固定資産税・都市計画税)の分担
  • 手付金の性質(解約手付)
  • 契約不適合責任の範囲と期間
  • 特約事項(ローン特約、買い替え特約、引渡し猶予特約など)

住み替えの場合、特約事項が重要で、引渡し時期や住宅ローンの扱いについて明確に記載する必要があります。

住み替えならではの契約上の注意点

住み替えで売却する場合、以下の点に特に注意が必要です。

1. 住宅ローンの残債処理

売却代金で住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。売却代金が住宅ローン残高を下回る場合(オーバーローン)は、自己資金で補填するか、住み替えローンを利用します。

2. 引渡し時期の調整

新居への引越しタイミングと売却マンションの引渡し時期を調整する必要があります。引渡しが早すぎると仮住まいが必要になり、遅すぎると新居の購入に支障が出ます。

3. 税務上の特例適用

居住用財産の3,000万円特別控除や買換え特例を適用する場合、要件を満たしているか確認が必要です。

契約から引き渡しまでの標準的な流れ

1. 売買契約締結(契約日)

  • 売買契約書の締結
  • 手付金の受領(売買代金の5〜10%)
  • 重要事項説明の確認

2. 住宅ローンの事前準備(契約後〜引渡し前)

  • 住宅ローンの一括返済手続き
  • 抵当権抹消書類の準備
  • 新居購入の住宅ローン手続き(買い先行の場合)

3. 引渡し・決済(引渡し日)

  • 残代金の受領
  • 住宅ローンの一括返済
  • 抵当権抹消登記
  • 所有権移転登記
  • 鍵の引き渡し

契約から引渡しまでの期間は通常1〜3ヶ月です。

重要事項説明書の確認ポイント

マンション管理規約と修繕積立金の確認

国土交通省の「重要事項説明書の説明義務」によると、売主は買主に対して以下の事項を重要事項説明書で開示する必要があります。

管理規約の確認項目:

  • ペット飼育、楽器演奏などの制限
  • 専有部分の使用制限
  • 駐車場・駐輪場の利用ルール
  • 管理組合の決議事項

修繕積立金・管理費の確認:

  • 月額の管理費・修繕積立金の金額
  • 滞納の有無(売主に滞納がある場合、引渡し前に清算)
  • 大規模修繕の実施予定と一時金徴収の可能性
  • 修繕積立金の積立状況(不足していないか)

修繕積立金の滞納がある場合、買主に引き継がれる可能性があるため、引渡し前に清算しておくことが重要です。

築年数と設備の経年劣化状態

中古マンションは築年数に応じて設備が経年劣化します。重要事項説明では以下の状態を開示します。

設備の状態:

  • 給排水管の状態(水漏れ、錆、詰まりの有無)
  • 電気設備の状態(配線、ブレーカーの容量)
  • 換気設備の状態(換気扇、24時間換気システム)
  • エアコン、給湯器などの設備(残置物として引き渡す場合、動作状況を明記)

共用部分の状態:

  • 外壁の劣化状態(ひび割れ、剥離)
  • エレベーター、給排水設備の更新履歴
  • 大規模修繕の実施時期と内容

告知書(物件状況確認書)の記載事項

国土交通省の「告知書(物件状況確認書)の記載事項」によると、売主は物件の状況を買主に告知する義務があります。

告知すべき事項:

  • 雨漏りの有無と修繕履歴
  • シロアリ被害の有無と駆除履歴
  • 給排水管の水漏れ・詰まり
  • 騒音問題(上下左右の住戸、共用部分)
  • 近隣トラブル(騒音、臭気、境界紛争など)
  • 事故・事件の有無(自殺、殺人、孤独死など)
  • リフォーム・増改築の履歴
  • 設備の故障・不具合

告知書に虚偽の記載をすると、契約不適合責任を問われる可能性があります。知っている事実は全て正直に記載することが重要です。

売り先行・買い先行のパターン別契約戦略

売り先行のメリットと契約上の工夫

売り先行は、現在のマンションを先に売却してから新居を購入する方法です。

メリット:

  • 売却代金を新居の購入資金に充てられる
  • 二重ローンのリスクがない
  • 資金計画が立てやすい
  • 売却を急がないため、適正価格で売れる可能性が高い

デメリット:

  • 仮住まいが必要になる場合がある
  • 引越しが2回になる(仮住まい→新居)
  • 仮住まいの賃料・引越し費用が余計にかかる

契約上の工夫:

1. 引渡し猶予特約の設定

売却後も一定期間(1〜3ヶ月)居住を継続できる特約を設定します。新居への引越しまでの時間的余裕を確保できます。

2. 仮住まいの手配

引渡し猶予特約が設定できない場合、短期賃貸マンションやマンスリーマンションを仮住まいとして利用します。

買い先行のリスクと買い替え特約の活用

買い先行は、新居を先に購入してから現在のマンションを売却する方法です。

メリット:

  • 住まいが途切れない(引越しが1回で済む)
  • 新居探しに時間をかけられる
  • 売却を焦らずに済む

デメリット:

  • 二重ローンのリスク(売却が遅れると2つの住宅ローンを抱える)
  • 資金繰りが厳しくなる
  • 売却を急ぐと安値で手放すリスク

買い替え特約の活用:

買い替え特約は、一定期間内に現在のマンションが売れない場合、新居の購入契約を白紙解除できる特約です。ただし、売主にとっては契約が確定しないリスクがあるため、期間や条件を明確にすることが重要です。

買い替え特約の条件例:

  • 期間: 3ヶ月以内に売却
  • 最低売却価格: 3,000万円以上
  • 解除条件: 期間内に売却できなかった場合、手付金を返還して契約解除

住み替えローンとつなぎ融資の利用

住み替えローン:

売却代金で住宅ローンを完済できない場合(オーバーローン)、新居の購入資金と合わせて借り入れるローンです。

計算例:

  • 住宅ローン残高: 2,500万円
  • 売却代金: 2,000万円
  • 不足額: 500万円
  • 新居購入代金: 4,000万円
  • 住み替えローン: 4,500万円(不足額500万円 + 新居4,000万円)

住み替えローンは通常の住宅ローンより金利が高く、審査も厳しい傾向があります。

つなぎ融資:

買い先行で新居を購入する際、売却代金が入るまでの期間(通常3〜6ヶ月)に利用する短期融資です。

つなぎ融資の流れ:

  1. 新居購入時につなぎ融資を利用
  2. 現在のマンションを売却
  3. 売却代金でつなぎ融資を一括返済
  4. 残額を新居の住宅ローンに充当

つなぎ融資は短期間でも金利が高く、手数料もかかるため、費用を事前に確認する必要があります。

住み替え特有の特約条項と引き渡し時期の調整

引き渡し猶予特約の設定と期間

引渡し猶予特約は、売却後も一定期間売主が居住を継続できる特約です。

設定方法:

  • 売買契約書に「引渡し猶予特約」を明記
  • 猶予期間を具体的に記載(例: 引渡し日から2ヶ月後まで)
  • 無償か有償か明記(有償の場合、月額賃料相当額を支払う)

猶予期間の目安:

  • 短期: 1ヶ月(新居がほぼ決まっている場合)
  • 標準: 2〜3ヶ月(新居探しと引越し準備に余裕を持たせる場合)
  • 長期: 3ヶ月以上(買主の了承が得にくい)

引渡し猶予期間が長すぎると、買主に受け入れられにくくなるため、必要最小限の期間に設定することが重要です。

ローン特約と買い替え特約の併用

ローン特約:

買主が住宅ローンの審査に通らなかった場合、契約を白紙解除できる特約です。売主にとっては、契約が確定しないリスクがありますが、一般的な特約として広く利用されています。

買い替え特約:

買主が現在の住宅を売却できなかった場合、契約を白紙解除できる特約です。売主にとっては、ローン特約と同様に契約が確定しないリスクがあります。

併用時の注意点:

ローン特約と買い替え特約を併用する場合、期間や条件を明確にすることが重要です。

  • ローン特約の期間: 通常1ヶ月以内
  • 買い替え特約の期間: 通常2〜3ヶ月以内
  • 解除条件を具体的に記載(最低売却価格など)

新居購入との引き渡しタイミング調整

住み替えで最も重要なのが、売却マンションの引渡しと新居の引渡しのタイミング調整です。

理想的なタイミング:

  1. 売却マンションの引渡し日を決定
  2. 引渡し日の1〜2週間前に新居の引渡しを設定
  3. 新居への引越しを済ませてから、売却マンションを引き渡す

調整が難しい場合:

  • 引渡し猶予特約を設定(売却後も一定期間居住)
  • 仮住まいを利用(短期賃貸マンション)
  • つなぎ融資を利用(買い先行の場合)

タイミング調整は不動産会社と綿密に打ち合わせ、スケジュールを早めに確定させることが成功の鍵となります。

契約不適合責任と告知義務

契約不適合責任の基本的な考え方

民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変更されました。「契約不適合責任(改正民法)」によると、売主が引き渡した物件が契約内容に適合しない場合、買主は以下の権利を行使できます。

買主の権利:

  • 修補請求(欠陥の修理を求める)
  • 代金減額請求(修補できない場合、代金を減額)
  • 損害賠償請求(損害が発生した場合)
  • 契約解除(重大な欠陥がある場合)

売主は契約不適合責任を負うため、物件の状態を正確に告知し、契約内容に適合するよう引き渡す必要があります。

中古マンションの設備劣化と免責範囲

中古マンションは築年数に応じて設備が経年劣化するため、全ての不具合に責任を負うわけではありません。

契約不適合責任の範囲:

項目 売主の責任 免責条件
告知した欠陥 責任あり 告知内容と実際の状態が一致していれば免責
告知しなかった欠陥(知っていた) 責任あり 免責不可
告知しなかった欠陥(知らなかった) 責任あり 中古物件は免責期間を設定可能(引渡から3ヶ月など)
経年劣化による故障 免責 契約内容に「経年劣化による設備不良は免責」と明記

中古マンションの場合、「現状有姿」として契約不適合責任を免責または期間限定(引渡から3ヶ月など)とする特約が一般的です。ただし、売主が知っていて告げなかった欠陥は免責されません。

売主として告知すべき事項と記載方法

告知書(物件状況確認書)には、売主が知っている物件の状況を全て記載します。

告知すべき事項:

物理的瑕疵:

  • 雨漏り、水漏れ
  • シロアリ被害
  • 給排水管の詰まり・故障
  • 外壁のひび割れ
  • 設備の不具合(エアコン、給湯器など)

環境的瑕疵:

  • 騒音問題(上下左右の住戸、道路、線路)
  • 臭気(下水、ゴミ置き場)
  • 日照・眺望の障害(近隣に高層建築物の建設予定)

心理的瑕疵:

  • 自殺、殺人、孤独死などの事故・事件
  • 近隣の嫌悪施設(墓地、火葬場、暴力団事務所など)

法的瑕疵:

  • 建築基準法違反(違法建築、違法増改築)
  • 境界紛争
  • 共有部分の使用権トラブル

告知書に「知らない」「分からない」と記載しても、後から買主が知っていたことを証明できれば、契約不適合責任を問われる可能性があります。正直に記載することが重要です。

住み替え時のマンション売却に関する税務と特例

居住用財産の3,000万円特別控除

国税庁の「居住用財産の買換え特例」によると、自己居住用マンションを売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。

適用要件:

  • 自分が住んでいたマンションを売却(別荘や投資用は対象外)
  • 売却相手が親族や関連会社ではない
  • 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていない
  • 住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却

控除額の計算例:

  • 売却価格: 4,000万円
  • 取得費: 2,500万円
  • 譲渡費用: 150万円
  • 譲渡所得: 1,350万円
  • 特別控除: 3,000万円
  • 控除後の譲渡所得: 0円(税金なし)

居住用財産の買換え特例と選択基準

買換え特例は、マンションを売却して新しい住宅を購入する場合、譲渡益への課税を繰り延べる特例です。

買換え特例の要件:

  • 所有期間が売却した年の1月1日時点で10年超
  • 居住期間が10年以上
  • 売却価格が1億円以下
  • 買換え住宅の床面積が50㎡以上

3,000万円特別控除と買換え特例の選択基準:

項目 3,000万円特別控除 買換え特例
税負担 即時に軽減 将来に繰延(新居売却時に課税)
適用条件 所有期間制限なし 所有期間10年超
併用 10年超所有の軽減税率と併用可 他の特例と併用不可
推奨ケース 譲渡益が3,000万円以下 譲渡益が3,000万円超で、新居を長期保有予定

一般的には3,000万円特別控除を選ぶケースが多いですが、譲渡益が大きい場合や、新居を長期保有して売却しない予定の場合は、買換え特例が有利な場合もあります。

住宅ローン一括返済と抵当権抹消

売却代金で住宅ローンを一括返済し、抵当権を抹消する必要があります。

一括返済の流れ:

  1. 金融機関に一括返済の申し出(引渡し日の1〜2週間前)
  2. 金融機関が返済額を計算(元金+利息+手数料)
  3. 引渡し日に売却代金から一括返済
  4. 金融機関から抵当権抹消書類を受領
  5. 司法書士が抵当権抹消登記を実行

注意点:

  • 一括返済手数料がかかる場合がある(数万円程度)
  • 抵当権抹消登記費用がかかる(登録免許税+司法書士報酬で2〜3万円)
  • 引渡し日に抵当権抹消と所有権移転を同時に行う

住宅ローンの残債が売却代金を上回る場合(オーバーローン)は、自己資金で補填するか、住み替えローンを利用します。

まとめ

住み替えで中古マンションを売却する場合、売買契約と重要事項説明の内容を十分に理解し、売り先行・買い先行のどちらが適しているかを判断することが重要です。引渡し猶予特約や買い替え特約などの活用により、新居への引越しタイミングを調整し、二重ローンや仮住まいのリスクを最小限に抑えることができます。

契約不適合責任と告知義務を正しく理解し、物件の状況を正直に告知することで、後からのトラブルを防ぐことができます。中古マンションは経年劣化による設備不良を免責とする特約が一般的ですが、売主が知っていて告げなかった欠陥は免責されないため、注意が必要です。

税務面では、居住用財産の3,000万円特別控除または買換え特例を活用することで、譲渡所得税を大幅に軽減できます。どちらの特例を選ぶかは、譲渡益の金額や新居の保有期間を考慮して判断してください。住宅ローンの一括返済と抵当権抹消は、引渡し日に同時に行うため、事前に金融機関と調整し、スムーズな手続きを心がけることが重要です。

よくある質問

Q1売り先行と買い先行、どちらが有利ですか?

A1資金面では売り先行が安全です。売却代金を新居の購入資金に充てられるため、二重ローンのリスクがありません。ただし、引渡しまでに新居が見つからない場合、仮住まいが必要になります。買い先行は住まいが途切れないメリットがありますが、売却が遅れると二重ローンや資金繰りのリスクが発生します。引渡し猶予特約を活用すれば、売り先行でも仮住まいを避けられる可能性があります。

Q2引き渡し猶予特約はどのくらいの期間設定できますか?

A2一般的には1〜3ヶ月です。買主の了承が必要で、無償の場合と有償(月額賃料相当額を支払う)の場合があります。新居への引越しまでの時間的余裕を確保できますが、長期間は買主に受け入れられにくい傾向があります。必要最小限の期間に設定し、売買契約書に具体的な期間と条件を明記することが重要です。

Q3買い替え特約とはどのような特約ですか?

A3買主が現在の住宅を売却できなかった場合、新居の購入契約を白紙解除できる特約です。売主にとっては、契約が確定しないリスクがあるため、期間(通常2〜3ヶ月)や最低売却価格などの条件を明確にすることが重要です。ローン特約と併用されることが多く、両方の期間と解除条件を売買契約書に明記する必要があります。

Q43,000万円控除と買換え特例はどちらを選ぶべきですか?

A43,000万円特別控除は即時に税負担を軽減できる特例で、譲渡益が3,000万円以下であれば税金がかかりません。買換え特例は課税を繰り延べるだけで、将来新居を売却する時に課税されます。一般的には3,000万円特別控除を選ぶケースが多いですが、譲渡益が3,000万円を大きく超える場合や、新居を長期保有して売却しない予定の場合は、買換え特例が有利な場合もあります。

Q5契約不適合責任を免責にできますか?

A5中古マンションの場合、「現状有姿」として契約不適合責任を免責または期間限定(引渡から3ヶ月など)とする特約が一般的です。ただし、売主が知っていて告げなかった欠陥については免責されません。経年劣化による設備不良は免責可能ですが、雨漏り・水漏れ・シロアリ被害など重大な欠陥は告知義務があります。告知書(物件状況確認書)に正直に記載することで、後からのトラブルを防ぐことができます。

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