相続購入新築マンションの契約・重要事項|完全ガイド

公開日: 2025/10/16

相続資金での新築マンション購入の基礎知識

相続で得た資金で新築マンションを購入する場合、資金の出所証明や税務処理、新築特有の契約リスクなど、通常の購入とは異なる注意点があります。契約と重要事項説明を通じて、相続資金の適切な活用方法と新築マンション購入のリスクを理解しましょう。

この記事のポイント:

  • 相続資金の使途として新築マンション購入が適切か判断できる
  • 重要事項説明書で確認すべき権利関係・管理規約・引渡し時期がわかる
  • 売買契約書のチェックポイント(手付金・完成遅延・モデルルームとの差異)を把握できる
  • 相続資金の出所証明と贈与税との関係を理解できる
  • 完成前契約のリスクと対策、手付金・中間金の支払いタイミングを学べる

(1) 相続資金の使途として適切か

相続で得た資金を新築マンション購入に充てる場合、以下の点を検討しましょう。

購入の目的:

  • 自己居住: 住み替え、独立、家族構成の変化等
  • 賃貸経営: 相続資金の運用、不動産投資
  • 資産保全: 現金を不動産に換えて資産分散

資金計画:

  • 相続資金の全額を使うか、一部を残すか
  • 住宅ローンを併用するか、現金一括購入か
  • 将来の維持費(管理費・修繕積立金・固定資産税等)を考慮

税務上の検討:

  • 相続税は既に支払済みか(申告期限は被相続人の死亡から10ヶ月以内)
  • 不動産取得税・固定資産税の負担を考慮
  • 将来の売却時の譲渡所得税を考慮(相続した不動産の取得費引継ぎ等)

(2) 新築マンション購入の特徴

新築マンションの購入には、中古マンションとは異なる特徴があります。

完成前契約:

  • 多くの新築マンションは、建物完成前に契約を締結します
  • モデルルームや図面を見て判断するため、実物との差異リスクがあります
  • 完成予定日が遅れる場合があり、引越スケジュールに影響します

10年保証:

  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、新築住宅には10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています
  • 構造耐力上主要な部分(基礎、柱、梁等)と雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁等)が対象です

管理組合:

  • 新築マンションは、入居後に管理組合を設立します
  • 当初は管理会社主導で運営されることが多く、住民主体の運営に移行するまで時間がかかります

(3) 資金計画の立て方

相続資金で新築マンションを購入する場合の資金計画を立てましょう。

購入費用:

項目 金額の目安
物件価格 例:5,000万円
諸費用 物件価格の6〜10%(300〜500万円)
- 仲介手数料 新築の場合は不要(売主直販)
- 登記費用 30〜50万円
- 不動産取得税 物件価格の3%(軽減措置あり)
- 固定資産税清算金 数万円〜数十万円
- 火災保険料 10〜30万円
- 修繕積立基金 20〜50万円(マンションによる)
合計 5,300〜5,500万円

維持費(年間):

項目 金額の目安
管理費 月1〜3万円(年12〜36万円)
修繕積立金 月0.5〜2万円(年6〜24万円)
固定資産税・都市計画税 年10〜30万円
合計 年28〜90万円

相続資金から購入費用と数年分の維持費を確保できるか確認しましょう。

重要事項説明書での確認事項

重要事項説明(重説)は、宅地建物取引業法第35条で義務付けられた契約前の説明です。売主側の不動産会社の宅建士が、買主に対して物件の法的条件や取引内容を詳しく説明します。

(1) マンションの権利関係

所有権の種類:

  • マンションの専有部分は「区分所有権」です
  • 土地は「敷地利用権」(所有権または借地権)です
  • 専有部分と敷地利用権は分離処分できません(一体で売買)

共用部分:

  • エントランス、廊下、階段、エレベーター、屋上、外壁等は共用部分です
  • 共用部分は区分所有者全員の共有です
  • 管理組合が管理します

敷地の権利:

  • 所有権: 土地を所有している場合(一般的)
  • 借地権: 土地を借りている場合(定期借地権、一般借地権)
    • 借地権の場合、期間満了時に建物を解体し土地を返還する必要があります(定期借地権)
    • 期間満了後の対応を確認しましょう

(2) 管理規約と管理費

管理規約:

  • マンションの管理や使用に関するルールを定めた規約です
  • ペット飼育、楽器演奏、リフォーム、民泊等の制限が記載されています
  • 購入前に内容を確認し、生活スタイルに合うか検討しましょう

管理費:

  • 共用部分の管理・清掃・設備維持等にかかる費用です
  • 月額1万円〜3万円程度が一般的です
  • 新築時は低めに設定されている場合があり、将来値上げされる可能性があります

修繕積立金:

  • 大規模修繕(外壁塗装・屋上防水・エレベーター更新等)に備えて積み立てる費用です
  • 月額5,000円〜2万円程度が一般的です
  • 新築時は低めに設定されている場合があり、将来値上げされる可能性があります

長期修繕計画:

  • マンションの大規模修繕の時期と費用を定めた計画です
  • 国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、30年以上の計画作成が推奨されています
  • 新築マンションでも長期修繕計画が策定されているか確認しましょう

(3) 完成予定と引渡し時期

完成予定日:

  • 新築マンションの建物完成予定日を確認します
  • 完成遅延のリスクがあるため、余裕を持ったスケジュールを組みましょう

引渡し時期:

  • 完成後、内覧確認を経て引渡しとなります
  • 引渡し予定日を確認し、引越スケジュールを調整します

完成遅延の違約金:

  • 契約書で、完成遅延時の違約金が定められているか確認します
  • 一般的には、遅延日数×日割り遅延損害金が支払われます
  • 著しい遅延(3ヶ月以上等)の場合、契約を解除できる条項があるか確認します

売買契約書のチェックポイント

売買契約書は、売主と買主の権利義務を定める重要な書類です。国土交通省が公開している標準契約書式を基に作成されることが一般的です。

(1) 手付金・中間金の支払い

手付金:

  • 契約時に支払う金額で、売買価格の5〜10%が目安です
  • 解約手付として機能します(買主は手付金を放棄して解除可能、売主は手付金の倍額を支払って解除可能)
  • 手付解除は、相手が契約の履行に着手するまで可能です

中間金:

  • 完成前に支払う場合があります(売買価格の10〜30%程度)
  • 中間金の支払い時期と金額を確認します
  • 中間金を支払った後は、手付解除ができなくなります(履行の着手とみなされる)

残代金:

  • 引渡し時に支払う金額です
  • 売買価格から手付金・中間金を差し引いた額です
  • 現金一括購入の場合、残代金を相続資金から支払います
  • 住宅ローンを利用する場合、融資実行日と引渡し日を調整します

(2) 完成遅延の違約金

新築マンションは、建物完成前に契約を締結するため、完成遅延のリスクがあります。契約書で以下を確認しましょう。

遅延損害金の条項:

  • 完成予定日を過ぎた場合の遅延損害金が定められているか
  • 一般的には、「遅延日数×売買代金×年14.6%÷365日」等の計算式が記載されます

契約解除の条件:

  • 著しい遅延(3ヶ月以上等)の場合、買主が契約を解除できる条項があるか
  • 解除の場合、手付金・中間金は全額返還されます

引越スケジュールへの影響:

  • 完成遅延により引越スケジュールがずれると、仮住まいが必要になる場合があります
  • 仮住まいの費用(賃料・引越費用等)を予備費として確保しましょう

(3) モデルルームと実物の差異

新築マンションは、モデルルームや図面を見て購入判断をするため、完成後の実物と差異が生じる場合があります。

差異のリスク:

  • 間取り・設備の仕様が図面と異なる
  • 眺望・日当たりが想定と異なる
  • オプション設備と標準設備の区別が不明確

契約書での確認:

  • 図面と実物に差異があった場合の対応が契約書に記載されているか
  • 「重要な差異がある場合、契約不適合責任を追及できる」旨の条項があるか

内覧確認:

  • 完成後、引渡し前に内覧確認を行います
  • 図面通りに施工されているか、設備の動作確認を行います
  • 不具合があれば、引渡し前に修補を求めます

相続資金の出所証明と贈与税

相続資金で新築マンションを購入する場合、資金の出所証明と贈与税との関係を理解することが重要です。

(1) 資金の出所証明書類

新築マンション購入時、売主や金融機関から資金の出所を問われる場合があります。相続資金であることを証明する書類を準備しましょう。

必要書類:

  • 遺産分割協議書: 相続人全員の署名・押印がある協議書のコピー
  • 相続税申告書: 相続税を申告した場合、申告書のコピー
  • 通帳の履歴: 相続資金が入金された通帳のコピー
  • 被相続人の死亡診断書または除籍謄本: 相続の事実を証明

反社チェック:

  • 売主は、買主が反社会的勢力でないか確認する義務があります
  • 多額の現金での購入の場合、資金の出所を確認されることがあります
  • 相続資金であることを証明することで、スムーズに手続きが進みます

(2) 贈与税との関係

相続で取得した資金は、既に相続税を支払済み(または相続税が発生しない範囲)であるため、贈与税は発生しません。

贈与税が発生しないケース:

  • 被相続人から相続で取得した資金を使用する場合
  • 相続税の申告期限(被相続人の死亡から10ヶ月以内)内に申告・納税済み

贈与税が発生するケース:

  • 生前に親から資金の贈与を受けた場合(年110万円超)
  • 親が健在で、親名義の資金を使って子供名義でマンションを購入する場合(みなし贈与)

住宅取得等資金の贈与税非課税特例:

  • 直系尊属(父母・祖父母)から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税
  • 令和6年1月1日以降、省エネ等住宅は1,000万円、一般住宅は500万円まで非課税
  • 相続資金とは別の制度のため、混同しないよう注意

(3) 金融機関への説明

住宅ローンを併用する場合、金融機関の審査で頭金の出所を問われることがあります。

審査での確認事項:

  • 頭金の金額と出所
  • 相続資金であることの証明(遺産分割協議書、通帳のコピー等)
  • 他に借入がないか(相続に関連する債務等)

説明のポイント:

  • 相続資金であることを明確に伝える
  • 必要書類を事前に準備する
  • 相続税の申告状況を説明できるようにする

完成前契約のリスクと対策

新築マンションは、建物完成前に契約を締結するため、完成前契約特有のリスクがあります。リスクを理解し、対策を講じましょう。

(1) 完成遅延のリスク

遅延の原因:

  • 工事の遅れ(天候不良、資材不足、人手不足等)
  • 設計変更
  • 建築会社の倒産

影響:

  • 引越スケジュールがずれる
  • 仮住まいが必要になり、費用が発生
  • 現在の住まいの退去日と新居の入居日が合わない

対策:

  • 契約書で完成遅延時の違約金条項を確認
  • 著しい遅延の場合の契約解除条項を確認
  • 余裕を持ったスケジュールを組む(引越予定日は完成予定日の数ヶ月後に設定)

(2) 建築会社の倒産リスク

リスク:

  • 建築会社が倒産すると、建物が完成しない可能性があります
  • 支払済みの手付金・中間金が返還されないリスクがあります

対策:

  • 完成保証制度: デベロッパーや建築会社が倒産した場合、第三者が工事を引き継ぎ完成させる制度
    • 制度の有無を重要事項説明で確認
    • 保証会社の名称と保証内容を確認
  • 手付金等保管制度: 手付金・中間金を第三者(銀行・保証会社等)が保管し、引渡し時に売主に支払う制度
    • 制度の利用有無を確認

(3) 完成保証制度の確認

完成保証制度とは:

  • デベロッパーや建築会社が倒産した場合、保証会社が工事を引き継ぎ、マンションを完成させる制度です
  • 買主は追加費用なしで完成したマンションを取得できます

確認ポイント:

  • 重要事項説明書に完成保証制度の記載があるか
  • 保証会社の名称と連絡先
  • 保証の対象範囲(建物のみか、共用部分も含むか)
  • 保証の条件(倒産の定義、保証開始のタイミング等)

完成保証制度がない場合、デベロッパーや建築会社の経営状況を事前に調査することをおすすめします。

手付金・中間金の支払いタイミング

新築マンション購入では、手付金・中間金・残金と複数回に分けて代金を支払います。相続資金での支払いスケジュールを確認しましょう。

(1) 契約時の手付金

金額: 売買価格の5〜10%が一般的です。

支払方法: 契約時に現金または振込で支払います。

相続資金での支払い:

  • 相続資金を銀行口座に入金済みであれば、その口座から支払います
  • 現金で相続した場合、契約前に銀行口座に入金し、振込で支払うのが一般的です

手付金の保全措置:

  • 売買価格の5%または1,000万円を超える手付金の場合、保全措置(銀行等による保管)が義務付けられています
  • 保全措置があれば、デベロッパーの倒産時に手付金が返還されます

(2) 中間金の支払い時期

金額: 売買価格の10〜30%程度が一般的です(物件により異なる)。

支払時期: 建物の上棟時、完成時等、契約書で定められたタイミングで支払います。

相続資金での支払い:

  • 中間金の支払い時期を事前に確認し、相続資金を準備します
  • 相続税の申告・納税後に支払う場合、納税資金と購入資金を分けて管理しましょう

中間金の保全措置:

  • 手付金と同様、売買価格の5%または1,000万円を超える場合、保全措置が義務付けられています

(3) 残金決済と引渡し

金額: 売買価格から手付金・中間金を差し引いた額です。

支払時期: 建物完成後、内覧確認を経て引渡し時に支払います。

決済の流れ:

  1. 内覧確認: 引渡し前に建物を確認し、図面通りに施工されているか確認
  2. 残金決済: 司法書士立会いのもと、残代金を支払い
  3. 所有権保存登記: 司法書士が法務局で登記手続き
  4. 鍵の引渡し: 引渡し完了、入居可能

相続資金での支払い:

  • 残金の金額が大きいため、振込限度額を事前に金融機関に確認
  • 決済当日に振込が完了するよう、事前に金融機関と調整

まとめ

相続資金で新築マンションを購入する場合、契約と重要事項説明を通じて、資金の出所証明、税務処理、新築特有のリスクを理解することが重要です。重要事項説明書では、マンションの権利関係、管理規約・管理費、完成予定と引渡し時期を確認しましょう。売買契約書では、手付金・中間金の支払いスケジュール、完成遅延の違約金、モデルルームと実物の差異への対応をチェックします。

相続資金の出所証明では、遺産分割協議書、相続税申告書、通帳のコピー等を準備し、売主や金融機関に提出できるようにしましょう。相続で取得した資金は贈与税が発生しませんが、資金の出所を明確にすることが重要です。

完成前契約では、完成遅延、建築会社の倒産、モデルルームと実物の差異等のリスクがあります。完成保証制度の確認、契約書の遅延違約金条項・契約解除条項の確認、内覧確認の徹底で、リスクを軽減できます。不安がある場合は、不動産会社、司法書士、税理士等の専門家に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1相続した現金でマンションを購入する場合、贈与税はかかりますか?

A1相続で取得した資金は既に相続税を支払済みであるため、贈与税は発生しません。ただし、資金の出所を証明する書類(遺産分割協議書、相続税申告書、通帳のコピー等)が必要です。売主や金融機関から資金の出所を問われた際に提出できるよう、事前に準備しましょう。

Q2完成前に契約する場合のリスクは何ですか?

A2完成前契約のリスクには、完成遅延、モデルルームと実物の差異、建築会社の倒産リスクなどがあります。完成保証制度の確認、契約書の遅延違約金条項と契約解除条件の確認が重要です。引渡し前の内覧確認で図面通りに施工されているか確認しましょう。

Q3手付金はいくら必要ですか?

A3一般的に売買価格の5〜10%が手付金の目安です。新築マンションの場合、手付金のほか中間金(売買価格の10〜30%程度)の支払いが発生することがあります。支払いスケジュールを事前に確認し、相続資金の準備を計画的に行いましょう。

Q4相続資金の証明はどのように行いますか?

A4遺産分割協議書、相続税申告書、通帳の履歴、被相続人の死亡診断書または除籍謄本等で証明します。金融機関の住宅ローン審査や売主の反社チェックで必要になるため、事前に準備しましょう。多額の現金での購入の場合、資金の出所確認が特に重要です。

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