投資用新築戸建て売却の基礎知識
投資用として購入した新築戸建てを売却する際、居住用とは異なる特有の注意点があります。賃借人がいる場合の賃貸借契約の承継、土地・建物の権利関係の確認、境界確定など、投資用戸建て特有の確認事項を理解しておくことが重要です。この記事では、投資用新築戸建て売却における契約・重要事項説明のポイントを解説します。
この記事のポイント
- 投資用戸建ては賃借人がいる場合、オーナーチェンジ物件として賃貸借契約ごと売却できる
- 新築戸建ては品確法により構造耐力・雨水侵入部分に10年間の瑕疵担保責任がある
- 土地・建物一体の権利関係を確認し、境界確定が済んでいることが売却の前提条件
- 建築確認済証・検査済証の有無を確認し、建築基準法に適合していることを証明する必要がある
- 敷金・保証金は買主に引き継がれ、賃借人への所有者変更の通知が必要
(1) 投資用戸建ての特徴
投資用戸建てとは、自己居住ではなく賃貸収入を目的として購入・所有する戸建て住宅です。
投資用戸建ての特徴
- 賃貸収入を得ることが主目的
- 賃借人がいる状態で売却することが多い(オーナーチェンジ)
- 土地・建物一体の権利関係が重要
- 境界確定、建築基準法適合性の確認が必須
マンションと異なり、戸建ては土地の権利も含まれるため、境界確定や接道義務など、土地に関する確認事項が重要です。
(2) 新築プレミアムと価格設定
新築戸建てを購入後すぐに売却する場合、新築プレミアムが喪失するため、購入価格より低い価格での売却となるのが一般的です。
新築プレミアムとは
- 新築というステータスに対する付加価値
- 購入価格の5-10%程度
- 入居後または一定期間経過後に喪失
価格設定の目安
- 購入後1-3年以内の売却:購入価格の80-90%
- 購入後3-5年の売却:購入価格の70-85%
投資用戸建ての場合、賃貸収入実績があれば、収益還元法で評価されることもあります。
(3) 売却タイミングの考え方
投資用戸建ての売却タイミングは、以下の要素を考慮して決定します。
売却を検討すべきタイミング
- 賃貸収入が安定している時期(入居者がいる状態)
- 大規模修繕前(修繕費用がかかる前)
- 税制優遇措置が適用できる時期
- 不動産市場が好調な時期
新築購入後5年以内の売却は、譲渡所得税が短期譲渡所得(税率約39%)となるため、可能であれば5年超の保有後に売却する方が税負担が軽くなります。
重要事項説明書での確認事項
重要事項説明書は、宅地建物取引業法第35条に基づき、契約前に宅建士が買主に対して説明する書面です。投資用新築戸建ての売却では、以下の点を重点的に確認します。
(1) 建物の権利関係
登記簿上の権利関係
- 所有者が売主本人と一致しているか
- 抵当権など権利の負担が設定されていないか(引渡し時に抹消されるか確認)
- 土地・建物の面積、用途地域
賃貸借契約の有無
- 賃借人がいる場合、現行の賃貸借契約内容
- 賃料、敷金、契約期間
- 賃借人の属性情報(滞納履歴など)
(2) 建築確認と完了検査
新築戸建ては、建築基準法に基づく建築確認と完了検査が必要です。重要事項説明では、以下の書類の有無を確認します。
必須書類
- 建築確認済証:建築計画が建築基準法に適合していることを証明
- 検査済証:完成した建物が建築基準法に適合していることを証明
これらの書類がない場合、買主が住宅ローンを組めない可能性があり、売却が困難になります。
(3) 新築物件の瑕疵担保
新築住宅は、**住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)**により、以下の部分について10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。
瑕疵担保責任の対象部分
- 構造耐力上主要な部分(基礎、柱、梁、耐力壁など)
- 雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁、開口部など)
責任期間
- 引渡しから10年間(法定責任)
- 10年間は無償で修理を請求できる
重要事項説明書には、瑕疵担保責任保険の加入状況も記載されます。
売買契約書のチェックポイント
売買契約書は、売主と買主の合意内容を記載した法的拘束力のある文書です。投資用新築戸建ての売却では、以下の点を重点的に確認します。
(1) 投資用物件としての表示
契約書には、物件が投資用(賃貸用)であることを明記します。
記載例
本物件は、投資用不動産として売買されるものであり、現在賃借人が入居中である。買主は、本物件を投資目的で購入することを承諾する。
(2) 賃貸借契約の承継
賃借人がいる場合、賃貸借契約は買主に自動的に承継されます。契約書に以下の内容を明記します。
記載例
本物件には、別紙賃貸借契約書の通り、賃借人が入居中である。買主は、引渡し日をもって当該賃貸借契約上の貸主としての地位を承継する。
承継される内容
- 賃貸借契約の権利・義務
- 敷金・保証金の返還義務
- 原状回復義務
(3) 引渡し条件
投資用戸建ての引渡し条件は、以下の通りです。
賃借人がいる場合
- 賃借人が入居した状態で引き渡す
- 敷金・保証金を買主に引き渡す
- 賃貸借契約書の原本を買主に引き渡す
空室の場合
- 建物を空室の状態で引き渡す
- 設備の動作確認を行う
- 鍵を買主に引き渡す
賃借人がいる場合の特別な手続き
賃借人がいる投資用戸建てを売却する場合(オーナーチェンジ)、以下の手続きが必要です。
(1) 賃借人の地位承継
賃貸借契約は、売買によって買主に自動的に承継されます(民法第605条の2)。買主は、新しいオーナーとして賃貸借契約上の権利・義務を引き継ぎます。
承継の流れ
- 売買契約締結時:賃貸借契約書の写しを買主に提供
- 決済・引渡し時:敷金・保証金を買主に引き渡す
- 引渡し後:賃借人にオーナー変更の通知を送付
(2) 敷金・保証金の引継ぎ
敷金・保証金は、賃借人から預かっている金銭です。売却時には、買主に引き継ぐ必要があります。
引継ぎの方法
決済時に、売主が買主に敷金・保証金相当額を支払います。
精算例
- 敷金:家賃2ヶ月分(20万円)
- 決済時:売主が買主に20万円を支払う
- 賃借人退去時:買主が賃借人に敷金を返還(原状回復費用を差し引く)
(3) 賃借人への通知
引渡し後、賃借人にオーナー変更の通知を送付します。
通知内容
この度、○○戸建ての所有者が変更となりました。
今後の賃料のお支払い先、お問い合わせ先は下記の通りとなります。
新所有者:山田太郎
賃料振込先:○○銀行 ○○支店 普通 1234567
連絡先:090-xxxx-xxxx
土地・建物の権利関係の確認
戸建ては土地と建物が一体となっているため、土地・建物の権利関係を詳細に確認する必要があります。
(1) 土地と建物の一体評価
投資用戸建ての売却では、土地と建物を一体として評価します。
評価のポイント
- 土地の面積、形状、接道状況
- 建物の構造、築年数、状態
- 賃貸収入実績(収益還元法で評価)
収益還元法の計算例
年間賃料収入:120万円(月額10万円) 期待利回り:6% 物件価格:120万円 ÷ 0.06 = 2,000万円
(2) 抵当権の有無
住宅ローンが残っている場合、土地・建物に抵当権が設定されています。売却時には、売却代金でローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。
抵当権抹消の流れ
- 決済時に売却代金を受領
- 売却代金でローンを一括返済
- 金融機関が抵当権抹消書類を発行
- 司法書士が抵当権抹消登記を申請
(3) 登記情報の確認
売却前に、登記情報を確認しましょう。
確認事項
- 土地・建物の所有者が売主本人か
- 抵当権など権利の負担の有無
- 地目、地積、用途地域
- 建物の床面積、構造、築年数
登記情報は、法務局で登記事項証明書を取得して確認できます。
境界確定と建築基準法適合性
戸建ての売却では、土地の境界確定と建築基準法への適合性確認が重要です。
(1) 境界確定の重要性
境界確定とは、隣地との境界を明確にし、測量図を作成することです。
境界確定が必要な理由
- 買主が境界確定を求めることが多い
- 境界未確定では住宅ローンが組めない場合がある
- 将来のトラブルを防ぐため
境界確定の流れ
- 土地家屋調査士に測量を依頼
- 隣地所有者の立会いのもと、境界を確認
- 境界標を設置
- 境界確認書を作成(隣地所有者の署名・押印)
- 測量図を作成
費用の目安
- 測量費用:30-100万円(土地の面積・形状により異なる)
- 隣地所有者が多い場合、費用が増加
(2) 接道義務の確認
建築基準法では、敷地が道路に2m以上接していることが義務付けられています(接道義務)。
接道義務の確認ポイント
- 敷地が建築基準法上の道路に2m以上接しているか
- 私道の場合、通行権が確保されているか
- セットバック(道路後退)の有無
接道義務を満たしていない場合、建物の建替えができず、資産価値が大きく下がります。
(3) 建築基準法適合証明
新築戸建てが建築基準法に適合していることを証明する書類を、買主に提供します。
必要書類
- 建築確認済証
- 検査済証
- 建築計画概要書
- 確認申請図書
これらの書類がない場合、建築基準法に適合していることを証明する「建築基準法適合証明書」を取得する必要がある場合があります。
まとめ
投資用新築戸建ての売却は、居住用とは異なる特有の手続きと確認事項があります。
投資用戸建て売却のポイント
- 賃借人がいる場合、オーナーチェンジ物件として賃貸借契約ごと売却できる
- 新築住宅は品確法により10年間の瑕疵担保責任がある
- 土地・建物の権利関係を確認し、抵当権を抹消する必要がある
- 境界確定が済んでいることが売却の前提条件
- 建築確認済証・検査済証の有無を確認し、建築基準法に適合していることを証明
賃借人がいる場合の手続き
- 賃貸借契約は買主に自動的に承継される
- 敷金・保証金は決済時に買主に引き渡す
- 引渡し後、賃借人にオーナー変更の通知を送付
トラブル防止策
- 境界確定測量を実施し、隣地所有者と境界確認書を交わす
- 建築確認済証・検査済証を買主に提供
- 賃貸借契約書の写しを買主に提供し、賃貸収入実績を開示
投資用戸建ての売却は、土地の権利関係や建築基準法への適合性など、専門的な知識が必要です。不動産会社、司法書士、土地家屋調査士などの専門家と連携して、適切に進めましょう。
よくある質問
Q1. 賃借人がいる投資用戸建てを売却できますか?
可能です。オーナーチェンジ物件として、賃貸借契約ごと売却できます。賃借人の地位は買主に自動的に承継され、敷金・保証金も引き継ぐ必要があります。引渡し後、賃借人にオーナー変更の通知を送付しましょう。
Q2. 境界確定は必ず必要ですか?
買主から要求されることが多いです。戸建ては土地の権利関係が重要で、境界未確定では売却が困難です。測量費用は30-100万円程度かかりますが、将来のトラブルを防ぐためにも境界確定を実施することをおすすめします。
Q3. 新築戸建てでも建築基準法の確認が必要ですか?
必須です。建築確認済証・検査済証の有無を確認しましょう。接道義務を満たしているか、違法建築でないかの確認が重要です。これらの書類がないと、買主が住宅ローンを組めない可能性があります。
Q4. 投資用物件の瑕疵担保責任はどうなりますか?
新築住宅は、品確法により売主が10年間の瑕疵担保責任を負います。対象は構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分です。契約書で責任範囲を明確化し、瑕疵担保責任保険の加入状況も買主に開示しましょう。