マンション買換え売却|契約・重要事項説明の実務ガイド

公開日: 2025/10/18

マンションの買い替えでは、売却と購入のタイミング調整が成功の鍵を握ります。買い替え特約、引渡し猶予、同時決済など、契約条項を適切に活用することで、仮住まいや二重ローンのリスクを軽減できます。本記事では、買い替え売却時の契約・重要事項説明の実務的なポイントを解説します。

この記事のポイント

  • 買い替え売却での重要事項説明の確認項目(管理費滞納、修繕計画等)
  • 買い替え特約の法的効果と適用条件の設定方法
  • 売却先行・購入先行のメリット・デメリット比較
  • 同時決済の実現方法とローン完済タイミング
  • 契約不適合責任とマンション特有の告知義務

1. 買い替え売却マンションの契約・重要事項の全体像

買い替えでは、売却と購入を並行して進めるため、通常の売却より複雑な契約管理が必要です。

(1) 売買契約から決済までの流れ

買い替え売却の基本的な流れは以下の通りです:

  1. 売却査定と購入物件探し(並行)
  2. 売却の買主が見つかる:価格交渉、契約条件の調整
  3. 売買契約締結:手付金受領(売却価格の5~10%)
  4. 重要事項説明:宅建士から買主への説明(契約前または契約時)
  5. 新居の購入契約:売却代金を頭金に充当する計画
  6. 決済・引渡し:残代金受領、抵当権抹消、鍵の引渡し
  7. 新居への入居:引越し

タイミング調整の3パターン

パターン 流れ メリット デメリット
売却先行 売却→仮住まい→購入 資金計画が明確 引越し2回、仮住まい費用
購入先行 購入→売却→旧居退去 引越し1回 二重ローン、資金負担大
同時決済 売却と購入を同日決済 引越し1回、資金効率◎ 調整が困難

(2) 買い替えで特に重要な3つの確認事項

買い替え売却では、以下3点を重点的に確認してください:

1. 住宅ローン残債と売却価格

  • ローン残債 < 売却価格:売却代金で完済可能(理想的)
  • ローン残債 > 売却価格:不足分を自己資金または買い替えローンで補填

2. 抵当権抹消のタイミング

  • 決済日にローンを完済し、同日に抵当権を抹消
  • 買主は抵当権が抹消された状態で所有権移転を受ける

3. 新居購入の頭金計画

  • 売却代金(ローン完済後の手取り額)を新居の頭金に充当
  • 売却と購入の決済タイミングがずれる場合はつなぎ融資を検討

2. 重要事項説明書の確認ポイント|マンション特有の項目

宅地建物取引業法35条に基づく重要事項説明では、以下を確認します。

(1) 法定記載事項と宅建業法35条の義務

重要事項説明は、宅建士が買主に対して契約前に行う法定説明です。

物件に関する事項

  • 登記された権利関係(所有権、抵当権等)
  • 法令上の制限(都市計画法、建築基準法等)
  • 私道負担、敷地権の割合
  • マンションの管理形態(管理会社、管理人の勤務形態)
  • 修繕積立金の積立総額と滞納状況

取引条件に関する事項

  • 代金の支払時期・方法
  • 契約解除の条件(買い替え特約、ローン特約等)
  • 損害賠償額の予定・違約金
  • 手付金の保全措置

マンション売却では、管理費・修繕積立金の清算が必須です。滞納がある場合、重要事項説明書に記載義務があります。

(2) 管理費・修繕積立金の滞納確認

滞納の確認方法

管理会社に「管理費等滞納証明書」を発行してもらい、以下を確認します:

  • 管理費の月額と滞納の有無
  • 修繕積立金の月額と滞納の有無
  • 滞納総額(ある場合)

滞納がある場合の対応

状況 対応方法
売主が滞納 決済時に売却代金から清算
前所有者が滞納 売主が承継した債務として決済時に清算
告知せずに引渡し 契約不適合責任を問われる可能性

滞納を告知せずに売却すると、買主から損害賠償を請求されるリスクがあります。必ず管理会社に確認し、重要事項説明書に正確に記載してください。

(3) 管理規約・使用細則の制限事項

確認すべき制限事項

  • ペット飼育の可否
  • 楽器演奏の可否・時間帯制限
  • リフォームの制限(床材、水回り等)
  • 専用庭・バルコニーの使用ルール
  • 駐車場・駐輪場の利用条件

管理規約違反の告知義務

現在または過去に管理規約違反(無断ペット飼育、騒音トラブル等)がある場合、重要事項説明で告知する必要があります。告知しないと契約不適合責任を問われる可能性があります。

3. 売買契約書の必須条項|買い替え特約と引渡し猶予

国土交通省の標準契約書式をベースに、買い替え特有の条項を確認します。

(1) 売買契約書の標準構成と必須項目

売買契約書の主な項目

  1. 売買の目的物:所在地、面積、専有部分の範囲
  2. 売買代金と支払時期:手付金、中間金、残代金の金額と支払日
  3. 所有権移転と引渡し:引渡し日、所有権移転の時期
  4. 契約解除:手付解除、ローン特約、買い替え特約
  5. 契約不適合責任:責任の範囲と期間(通常3ヶ月~1年)
  6. 特約事項:引渡し猶予、設備の付帯、修繕履歴等

買い替え売却で重要な条項

  • 残代金決済日:新居購入の決済日と調整
  • 引渡し猶予:売却後も一定期間居住できる特約
  • 抵当権抹消:決済日に完済し、同日抹消

(2) 引渡し猶予特約の活用とリスク

引渡し猶予とは

決済(残代金受領)後も、一定期間(通常1~3ヶ月)旧居に居住できる特約です。仮住まいを回避できます。

引渡し猶予の記載例

売主は、買主の承諾を得て、決済日から〇ヶ月間、無償(または月額〇万円)で
本物件を使用することができる。売主は〇年〇月〇日までに本物件を明け渡す。

設定時の注意点

項目 確認事項
期間 1~3ヶ月が一般的。長すぎると買主が嫌がる
費用 無償または月額賃料(管理費・固定資産税相当)
火災保険 期間中は売主が継続加入
退去遅延 期限を過ぎた場合の違約金(日額1~3万円等)を設定

引渡し猶予は買主の善意に依存するため、売却交渉時に早めに提案し、合意を得ておくことが重要です。

4. 買い替え特約の法的効果と適用条件

買い替え特約は、売主保護のための重要な条項ですが、買主にリスクを負わせるため慎重な設定が必要です。

(1) 買い替え特約の仕組みと解除権

買い替え特約とは

売主が一定期間内に新居を購入できなかった場合、売買契約を白紙解除できる特約です。買主から受領した手付金も全額返還します。

特約の記載例

売主は、〇年〇月〇日までに新居(予算〇〇〇万円以上)の購入契約を
締結できなかった場合、本契約を解除することができる。
この場合、買主は受領済みの手付金を無利息で売主に返還する。

法的効果

  • 売主の解除権:期限内に新居が見つからない場合、無条件で解除可能
  • 手付金の返還:買主は手付金を全額返還(利息なし)
  • 買主への影響:他の購入希望者を断っていた場合、機会損失が発生

(2) 特約適用の期限と条件設定の注意点

期限設定

  • 短期(1~2ヶ月):買主の不安を軽減、成約率向上
  • 長期(3ヶ月以上):売主の物件探し期間確保、ただし買主が嫌がる

条件設定の例

条件 内容 注意点
新居の予算 〇〇〇万円以上 具体的な金額を明記
購入契約締結 期限内に契約 単なる「検討中」は不可
住宅ローン承認 ローン審査通過 審査落ちでも解除可能

買主への配慮

買い替え特約は買主にリスクを負わせるため、以下の配慮で成約率を高めましょう:

  • 期限を短く設定(1~2ヶ月)
  • 新居購入の進捗を買主に報告
  • 解除時の違約金条項を設ける(手付金の一部放棄等)

不動産流通推進センターの資料も参考に、買主が納得できる条件設定を心がけてください。

5. 売却先行・購入先行のタイミング調整とリスク

買い替えのタイミング調整は、資金計画とライフスタイルに大きく影響します。

(1) 売却先行の場合|仮住まいと引越し2回

流れ

  1. マンション売却契約→決済
  2. 仮住まい(賃貸アパート等)へ引越し
  3. 新居探し→購入契約→決済
  4. 新居へ引越し

メリット

  • 売却代金が確定し、資金計画が明確
  • 二重ローンなし、資金負担が少ない
  • 新居探しに時間的余裕

デメリット

  • 仮住まい費用(家賃 + 敷金・礼金)
  • 引越し2回の手間と費用(1回30~50万円 × 2)
  • 荷物の一時保管が必要な場合も

コスト試算

  • 仮住まい家賃:月15万円 × 3ヶ月 = 45万円
  • 敷金・礼金:30万円
  • 引越し費用:50万円 × 2回 = 100万円
  • 合計:約175万円

(2) 購入先行の場合|二重ローンとつなぎ融資

流れ

  1. 新居購入契約→決済(つなぎ融資またはダブルローン)
  2. 新居へ引越し
  3. マンション売却契約→決済
  4. 売却代金でつなぎ融資返済またはローン完済

メリット

  • 引越し1回で済む
  • じっくり新居探しが可能
  • 仮住まい不要

デメリット

  • 二重ローン期間の返済負担(旧居+新居)
  • つなぎ融資の金利負担(年3~4%、住宅ローンの約3倍)
  • 旧居が売れないリスク

コスト試算(つなぎ融資の場合)

  • 借入額:2,000万円(旧居ローン残債)
  • 期間:3ヶ月
  • 金利:年4%
  • 利息:約20万円

(3) 同時決済の理想とローン完済タイミング

同時決済とは

旧居の売却決済と新居の購入決済を同日に行う方法です。

メリット

  • 仮住まい不要、引越し1回
  • つなぎ融資不要、金利負担なし
  • 旧居の売却代金を新居の頭金に充当

実現方法

  1. 旧居の売却契約と新居の購入契約を同時期に締結
  2. 決済日を同日に設定(午前:旧居売却、午後:新居購入)
  3. 旧居の売却代金で住宅ローン完済→抵当権抹消
  4. 残金を新居購入の頭金に充当

調整のポイント

  • 売主・買主・金融機関・司法書士と密に連携
  • 決済日の調整(売主・買主の都合を合わせる)
  • 引越し業者の手配(決済日当日または翌日)

同時決済は理想的ですが、売却と購入のタイミングを完全に合わせるのは困難です。不動産会社の経験とノウハウが成功の鍵となります。

6. 契約不適合責任とマンションの告知義務

2020年4月の民法改正で、瑕疵担保責任は契約不適合責任に変わりました。

(1) 2020年民法改正による売主責任の変更

旧:瑕疵担保責任(~2020年3月)

  • 「隠れた瑕疵」(買主が知らなかった欠陥)が対象
  • 責任期間:引渡しから1年以内に発見されたもの
  • 買主の権利:損害賠償請求、契約解除

新:契約不適合責任(2020年4月~)

  • 「契約内容との不適合」が対象(隠れているかは不問)
  • 責任期間:買主が不適合を知ってから1年以内に通知
  • 買主の権利:追完請求(修補)、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除

売主への影響

法務省の民法改正資料によれば、契約不適合責任では「隠れているか」ではなく「契約内容に適合しているか」が判断基準となります。契約書に記載のない不具合が見つかれば、売主責任を問われる可能性が高まりました。

(2) マンションで告知すべき瑕疵・不具合

必ず告知すべき事項

項目 内容
雨漏り 過去の雨漏り履歴、修繕の有無
給排水の不具合 水漏れ、排水の詰まり等
騒音・振動 上下階・隣室からの騒音トラブル
管理規約違反 無断ペット飼育、無断リフォーム等
事故物件 自殺、他殺、孤独死等
近隣トラブル 住民間の紛争、暴力団事務所等

告知方法

  • 重要事項説明書の「告知事項」欄に記載
  • 物件状況報告書(付帯設備表)に詳細を記載
  • 口頭での説明も記録に残す(録音、議事録等)

告知しなかった場合

契約不適合責任を問われ、以下のリスクがあります:

  • 修補費用の負担
  • 代金減額請求
  • 損害賠償請求
  • 契約解除

「現状有姿での引渡し」と契約書に記載しても、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は責任免除されません。誠実な告知が重要です。

まとめ

買い替えでのマンション売却は、タイミング調整と契約条項の適切な活用が成功の鍵です。

重要ポイント

  • 管理費・修繕積立金の滞納は決済時に必ず清算(告知義務あり)
  • 買い替え特約は売主保護だが、買主がリスクを負うため期限を短く設定
  • 引渡し猶予で仮住まいを回避できるが、買主の了承が必要
  • 売却先行は仮住まい費用(約175万円)、購入先行はつなぎ融資の金利負担(3ヶ月で約20万円)
  • 同時決済が理想だが、調整が困難。不動産会社との密な連携が必須
  • 契約不適合責任で「契約内容との不適合」が問題。知っている瑕疵は必ず告知

買い替えは複数の契約が絡み合う複雑な取引です。不動産会社、司法書士、金融機関などの専門家と協力し、計画的に進めましょう。

よくある質問

Q1. 買い替え特約をつけると売却に不利になりますか?

A. 買い替え特約は買主にリスクを負わせるため、成約率が下がる可能性があります。買主は「せっかく手付金を払ったのに、売主の都合で解除されるかもしれない」という不安を抱くためです。

対策

  • 売却先行なら特約不要(先に新居購入の見込みを立てる)
  • 購入先行で資金繰りが厳しい場合のみ検討
  • 期限を短く(1~2ヶ月)設定し、買主の不安を軽減
  • 新居購入の進捗を買主に報告(透明性を高める)
  • 解除時の違約金条項を設ける(手付金の一部放棄等)

買い替え特約は売主保護のための重要な条項ですが、買主の立場も考慮した条件設定が成約への近道です。

Q2. 管理費を滞納したまま売却できますか?

A. 法的には可能ですが、重要事項説明で告知義務があり、実務上は売却困難です。

理由

  • 宅建業法35条で管理費滞納の告知が義務化
  • 買主は滞納物件を嫌がる(滞納債務を承継するリスク)
  • 住宅ローン審査が通りにくい(金融機関が嫌がる)

対応方法

  1. 決済時に清算:売却代金から滞納分を差し引き、管理会社に支払う
  2. 売却前に完済:自己資金で滞納を解消してから売却活動

滞納額の確認:管理会社に「管理費等滞納証明書」を発行してもらい、正確な金額を確認してください。前所有者の滞納を承継している場合も、現所有者(売主)が清算する必要があります。

Q3. 売却と購入の決済日をずらせますか?

A. 可能ですが、資金繰りに注意が必要です。

売却先行(売却→購入)

  • メリット:売却代金を新居購入の頭金に充当できる
  • デメリット:仮住まい費用(家賃 + 敷金・礼金 + 引越し2回)
  • コスト:約175万円(家賃月15万円 × 3ヶ月 + 引越し50万円 × 2回)

購入先行(購入→売却)

  • メリット:新居に直接入居、引越し1回
  • デメリット:二重ローンまたはつなぎ融資の金利負担
  • コスト:つなぎ融資3ヶ月で約20万円(2,000万円、年4%の場合)

理想は同日決済:旧居の売却代金で新居の頭金を支払う。調整が難しい場合は、引渡し猶予(売却後も一定期間居住)や買い替えローンを検討してください。

Q4. 契約後に雨漏りが見つかった場合の責任は?

A. 契約不適合責任の対象となり、売主が修補費用や損害賠償を負う可能性があります。

2020年民法改正後のルール

  • 「契約内容との不適合」が判断基準(隠れているかは不問)
  • 買主が不適合を知ってから1年以内に通知すれば、売主責任を追及可能
  • 買主の権利:修補請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除

「現状有姿」条項の限界: 契約書に「現状有姿での引渡し」と記載しても、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は責任免除されません。例えば、過去に雨漏りがあり修繕した事実を知っていながら告知しなかった場合、責任を問われます。

免責期間:契約書で免責期間を設定できます(通常、引渡しから3ヶ月~1年)。期間内に発見された不適合のみが対象です。

売主の対応:引渡し前に把握している不具合(雨漏り、水漏れ、シロアリ被害等)はすべて告知してください。誠実な告知が後々のトラブルを防ぎます。

よくある質問

Q1買い替え特約をつけると売却に不利になりますか?

A1買い替え特約は買主にリスクを負わせるため、成約率が下がる可能性があります。対策として、売却先行なら特約不要、購入先行で資金繰りが厳しい場合のみ検討、期限を短く(1~2ヶ月)設定し買主の不安を軽減、新居購入の進捗を買主に報告(透明性を高める)、解除時の違約金条項を設ける(手付金の一部放棄等)などがあります。買主の立場も考慮した条件設定が成約への近道です。

Q2管理費を滞納したまま売却できますか?

A2法的には可能ですが、宅建業法35条で管理費滞納の告知が義務化されており、買主は滞納物件を嫌がるため実務上は売却困難です。対応方法として、決済時に売却代金から滞納分を差し引き管理会社に支払う、または売却前に自己資金で滞納を解消する方法があります。管理会社に「管理費等滞納証明書」を発行してもらい、正確な金額を確認してください。前所有者の滞納を承継している場合も、現所有者(売主)が清算する必要があります。

Q3売却と購入の決済日をずらせますか?

A3可能ですが、資金繰りに注意が必要です。売却先行は売却代金を新居購入の頭金に充当できますが、仮住まい費用(約175万円:家賃月15万円×3ヶ月+引越し50万円×2回)がかかります。購入先行は新居に直接入居・引越し1回で済みますが、二重ローンまたはつなぎ融資の金利負担(3ヶ月で約20万円:2,000万円、年4%)が発生します。理想は同日決済で、調整が難しい場合は引渡し猶予や買い替えローンを検討してください。

Q4契約後に雨漏りが見つかった場合の責任は?

A4契約不適合責任の対象となり、売主が修補費用や損害賠償を負う可能性があります。2020年民法改正後は「契約内容との不適合」が判断基準(隠れているかは不問)で、買主が不適合を知ってから1年以内に通知すれば売主責任を追及可能です。契約書に「現状有姿での引渡し」と記載しても、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は責任免除されません。免責期間は通常、引渡しから3ヶ月~1年です。引渡し前に把握している不具合はすべて告知してください。

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