土地購入の契約・重要事項の基本
土地の購入は、建物付き物件とは異なる特有の注意点があります。地目、用途地域、境界確定、接道義務など、建物を建てる前提で確認すべき項目が多岐にわたります。契約と重要事項説明の基礎知識を理解し、トラブルを未然に防ぎましょう。
この記事のポイント:
- 土地購入の契約の流れと重要事項説明で確認すべき項目を理解できる
- 用途地域・建ぺい率・容積率など建築制限の基礎を把握できる
- 境界確定・地目・土壌汚染など土地特有のリスクと対策がわかる
- 契約不適合責任と実印・印鑑証明の実務手順を理解できる
- よくあるトラブル事例とその予防策を学べる
(1) 土地購入の流れ
土地購入は以下の流れで進みます。
- 物件探し・現地確認: 希望エリア・予算で土地を探し、現地を確認
- 購入申込: 購入意思を不動産会社に伝え、売主と価格交渉
- 重要事項説明: 宅建士による物件・取引条件の説明(契約の1週間前が目安)
- 売買契約: 契約書への署名・押印、手付金の支払い(物件価格の5〜10%)
- ローン申込・承認: 住宅ローンの審査(土地+建物の一体ローンが一般的)
- 決済・引渡し: 残代金の支払い、所有権移転登記
- 建築計画・確認申請: 注文住宅の設計、建築確認申請
(2) 契約前の準備
契約前に以下の準備をしておくと、スムーズに手続きが進みます。
- 資金計画: 土地代金+建築費用+諸費用の総額を把握
- 実印・印鑑証明: 契約時に必要。印鑑登録がまだなら市区町村役場で手続き
- 本人確認書類: 運転免許証、パスポート等
- 住民票: 登記手続きで使用
- 建築プラン: 希望する建物が建てられるか事前確認(ハウスメーカー・工務店に相談)
重要事項説明のチェックポイント
重要事項説明(重説)は、宅地建物取引業法で義務付けられた契約前の説明です。宅建士が物件の法的条件や取引内容を詳しく説明します。土地購入では、建築に関わる制限事項を特に注意深く確認する必要があります。
(1) 法定記載事項の確認
重要事項説明書には、宅建業法で定められた法定記載事項が記載されます。
主な法定記載事項:
- 所在地・地番: 土地の所在地、地番(住所とは異なる場合あり)
- 地目: 登記上の土地の種類(宅地、田、畑、山林等)
- 地積: 登記上の面積(実測面積と異なる場合あり)
- 所有権以外の権利: 抵当権、地役権、賃借権等の有無
- 法令上の制限: 都市計画法、建築基準法、農地法等による制限
- 私道負担: 私道の持分、通行・掘削の承諾
- 飲用水・電気・ガス: 供給施設の有無と整備状況
- 契約不適合責任: 売主が負う責任の内容と期間
(2) 用途地域と建築制限
用途地域は、都市計画法で定められた土地の用途による区分です。12種類あり、それぞれ建築できる建物の種類や規模が制限されます。
主な用途地域:
用途地域 | 建築制限の概要 |
---|---|
第一種低層住居専用地域 | 低層住宅専用。2階建て以下が中心、店舗は小規模のみ |
第二種低層住居専用地域 | 低層住宅+小規模店舗・飲食店 |
第一種中高層住居専用地域 | 中高層住宅専用。病院・大学等も可 |
第一種住居地域 | 住宅と店舗・事務所が混在 |
近隣商業地域 | 日用品店舗中心、住宅も可 |
商業地域 | 商業施設中心、住宅も可 |
工業地域 | 工場中心、住宅も可だが環境に注意 |
市街化調整区域 | 市街化を抑制する区域。原則として建物の建築が制限される |
建ぺい率・容積率:
- 建ぺい率: 敷地面積に対する建築面積の割合の上限(例:60%)
- 容積率: 敷地面積に対する延床面積の割合の上限(例:200%)
例:敷地面積100㎡、建ぺい率60%、容積率200%の場合
- 建築面積は最大60㎡(1階の面積)
- 延床面積は最大200㎡(1階+2階の合計面積)
用途地域と建ぺい率・容積率により、建築できる建物の大きさが決まります。希望する建物が建てられるか、事前に確認しましょう。
(3) 接道義務の確認
接道義務とは、建物を建てるために、幅員4m以上の道路に2m以上接する必要がある規定です(建築基準法第43条)。
接道義務を満たさない土地のリスク:
- 建物を建てられない(再建築不可)
- 既存建物を解体すると新しく建てられない
- 融資を受けにくい
- 売却が困難
確認ポイント:
- 前面道路の幅員(4m以上か)
- 接道長さ(2m以上か)
- 道路の種別(建築基準法上の道路か、私道か)
- 私道の場合、通行・掘削の承諾があるか
接道義務を満たさない土地は、原則として購入を避けるべきです。特例で建築が認められる場合もありますが、行政との事前協議が必要です。
契約書の確認ポイント
売買契約書は、売主と買主の権利義務を定める重要な書類です。国土交通省が公開している標準契約書式を基に作成されることが一般的です。
(1) 売買価格と手付金
売買価格: 土地の代金総額を確認します。消費税は非課税です(土地の売買は消費税の対象外)。
手付金: 契約時に支払う金額で、売買価格の5〜10%が目安です。手付金には以下の性質があります。
- 証約手付: 契約成立の証拠
- 解約手付: 買主は手付金を放棄して解除可能、売主は手付金の倍額を支払って解除可能
手付解除は、相手が契約の履行に着手するまで可能です。履行の着手後は、契約違反による解除となり、違約金が発生します。
(2) 契約不適合責任
契約不適合責任とは、契約内容と異なる場合に売主が負う責任です(民法第562条以降)。土地の場合、以下が対象になります。
- 地中埋設物: コンクリート片、廃材、浄化槽等
- 土壌汚染: 有害物質による汚染
- 地盤の状態: 軟弱地盤、液状化リスク
- 面積の不足: 実測面積が登記面積より少ない場合
売主の責任内容:
- 買主は売主に対し、修補、代金減額、損害賠償、契約解除を請求できる
- 責任期間は契約書で定める(引渡しから3ヶ月〜1年が一般的)
契約書での確認事項:
- 契約不適合責任の対象範囲(何が対象か)
- 責任期間(いつまで請求できるか)
- 免責事項(売主が責任を負わない項目)
土地の場合、地中埋設物や土壌汚染が後から発見されるケースが多いため、契約不適合責任の内容を必ず確認しましょう。売主が「一切責任を負わない」とする特約がある場合、購入は慎重に検討すべきです。
(3) 引渡し時期と条件
引渡し時期: 残代金の支払いと同時に、土地の引渡しと所有権移転登記を行うのが一般的です。
引渡しの条件:
- 現況引渡し: 現在の状態のまま引渡し(更地とは限らない)
- 更地引渡し: 建物や工作物を撤去して引渡し
- 測量図付き引渡し: 測量を実施し、確定測量図を交付
- 境界確定後の引渡し: 隣地所有者と境界を確定してから引渡し
引渡しの条件により、買主の負担が変わります。現況引渡しの場合、建物の解体費用や測量費用は買主負担となる場合があります。契約前に確認しましょう。
土地特有の確認事項
土地購入では、建物と異なる特有の確認事項があります。境界確定、地目、土壌汚染、地盤調査など、建築前提で必ず確認すべき項目です。
(1) 境界確定と測量
境界確定とは、隣地所有者と境界を確認し合意することです。境界標(コンクリート杭、金属プレート等)を設置し、測量図を作成します。
境界確定の重要性:
- 隣地とのトラブル防止
- 正確な土地面積の把握
- 将来の売却時にスムーズ
確認ポイント:
- 確定測量図の有無(境界が確定しているか)
- 境界標の設置状況
- 隣地所有者の立会い・同意の有無
境界が未確定の土地は、将来のトラブルリスクが高いです。購入前に測量・境界確定を条件にするのが安全です。測量費用は売主負担とする場合と買主負担とする場合があり、契約で定めます。
(2) 地目と登記面積
地目: 登記上の土地の種類です。23種類あり、主なものは以下です。
- 宅地: 建物の敷地及びその維持・効用を果たすために必要な土地
- 田: 耕作地で用水を利用して耕作する土地
- 畑: 耕作地で用水を利用しないで耕作する土地
- 山林: 竹木の生育に利用される土地
- 雑種地: 上記以外の土地
地目が「宅地」以外の場合の注意点:
- 「田」「畑」は農地。農地法の規制があり、宅地転用に農業委員会の許可が必要
- 「山林」「雑種地」は造成・整地が必要な場合あり
登記面積と実測面積:
- 登記面積は登記簿に記載された面積
- 実測面積は測量で確定した面積
- 古い土地は登記面積と実測面積が異なる場合あり(公簿売買と実測売買の違い)
公簿売買: 登記面積で売買。実測面積との差異があっても代金の増減なし
実測売買: 測量して実測面積で売買。面積の過不足により代金を清算
実測売買の方が買主にとって安心ですが、測量費用がかかります。
(3) 土壌汚染と地中埋設物
土壌汚染: 工場跡地、クリーニング店跡地、ガソリンスタンド跡地等は、有害物質による土壌汚染の可能性があります。
確認ポイント:
- 土地の過去の利用履歴(重要事項説明で確認)
- 土壌汚染対策法の指定区域に該当するか
- 汚染が発見された場合の責任(契約不適合責任の範囲)
汚染が発見されると、除去費用が数百万円〜数千万円と高額になります。不安がある場合は、土壌調査を契約の条件にすることも検討しましょう。
地中埋設物: コンクリート片、廃材、浄化槽、井戸等が地中に埋まっている場合があります。
リスク:
- 建築の際に発見され、除去費用が発生
- 地盤改良の妨げになる
- 将来の建て替え時に再度除去が必要
契約書で地中埋設物に関する契約不適合責任の範囲を確認し、発見された場合の費用負担を明確にしましょう。
(4) 地盤調査の実施
地盤調査とは、土地の地盤の強度を調べる調査です。軟弱地盤の場合、地盤改良工事が必要になり、費用が数十万円〜数百万円かかります。
調査方法:
- スウェーデン式サウンディング試験(SWS試験): 一般的な戸建て住宅向け。費用5〜10万円程度
- ボーリング調査: より詳細な調査。費用20〜50万円程度
調査のタイミング:
- 土地購入前: 購入判断の材料にできるが、費用は買主負担
- 土地購入後(建築前): 建築プランに合わせた調査が可能
軟弱地盤のリスクが高い地域(埋立地、低湿地、旧河道等)では、購入前の調査を検討しましょう。
契約から引渡しまでの手続き
売買契約を締結した後、決済・引渡しまでに必要な手続きがあります。
(1) 所有権移転登記
所有権移転登記は、土地の所有者を売主から買主に変更する手続きです。司法書士に依頼するのが一般的です。
必要書類(買主):
- 実印・印鑑証明(発行後3ヶ月以内)
- 住民票
- 本人確認書類
- 登記費用(登録免許税+司法書士報酬)
登録免許税: 土地の固定資産税評価額の2%(令和8年3月31日まで軽減税率1.5%)
司法書士報酬: 5万円〜10万円程度
登記は決済と同日に行われることが一般的です。残代金の支払いと引き換えに、司法書士が法務局で登記申請を行います。
(2) 固定資産税等の清算
固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます。年の途中で売買があった場合、引渡し日を基準に売主と買主で日割り清算します。
清算方法:
- 起算日: 1月1日または4月1日(地域により異なる)
- 引渡し日以降の税金相当額を、買主が売主に支払う
例:引渡し日が7月1日、年税額12万円、起算日1月1日の場合
- 売主負担: 1月1日〜6月30日(181日)= 59,506円
- 買主負担: 7月1日〜12月31日(184日)= 60,494円
買主は売主に60,494円を支払います。
(3) 農地転用(該当する場合)
地目が「田」「畑」の農地を宅地に転用する場合、農業委員会の許可が必要です(農地法第5条)。
手続きの流れ:
- 農業委員会に転用許可申請
- 農業委員会の審査(1〜2ヶ月)
- 許可が下りたら売買契約・決済
- 地目変更登記(宅地に変更)
農地転用の許可が下りるまで売買契約を待つか、許可を停止条件とする契約を締結します。許可が下りない場合のリスクを考慮し、契約内容を慎重に検討しましょう。
よくあるトラブル事例と対策
土地購入では、以下のトラブルが発生しやすいです。事前の確認と対策でリスクを減らしましょう。
(1) 境界トラブル
トラブル例:
- 購入後に隣地所有者から「境界が違う」と主張される
- 境界標が見つからず、どこまでが自分の土地か不明
- 隣地の建物や塀が越境している
対策:
- 購入前に確定測量図の有無を確認
- 境界が未確定の場合、測量・境界確定を契約の条件にする
- 越境物がある場合、覚書を取り交わす(将来の建て替え時に是正する等)
(2) 建築制限による建築不可
トラブル例:
- 購入後に建築確認申請を出したら、接道義務を満たさず建築不可と判明
- 用途地域の制限により、希望する建物が建てられない
- 市街化調整区域で開発許可が下りない
対策:
- 購入前に建築プランをハウスメーカー・工務店に相談
- 重要事項説明で用途地域、建ぺい率・容積率、接道義務を詳しく確認
- 市街化調整区域の土地は、開発許可の可否を事前に行政に確認
(3) 地中埋設物・土壌汚染
トラブル例:
- 建築工事中に地中からコンクリート片や廃材が大量に出てきて、除去費用が数百万円
- 土壌汚染が発見され、浄化に数千万円かかる
対策:
- 重要事項説明で土地の過去の利用履歴を確認
- 工場跡地等はリスクが高いため、土壌調査を契約の条件にする
- 契約書で地中埋設物・土壌汚染に関する契約不適合責任の範囲を明確にする
- 売主が責任を免除する特約がある場合、購入は慎重に検討
まとめ
土地購入では、契約と重要事項説明を通じて、建築に関わる制限事項やリスクを確認することが重要です。用途地域、建ぺい率・容積率、接道義務を理解し、希望する建物が建てられるか事前に確認しましょう。境界確定、地目、土壌汚染、地中埋設物など土地特有のリスクにも注意が必要です。
契約書では、契約不適合責任の範囲と期間を必ず確認し、地中埋設物や土壌汚染が発見された場合の費用負担を明確にしておきましょう。接道義務を満たさない土地や境界未確定の土地は、トラブルリスクが高いため購入を避けるか、条件を付けて慎重に契約することをおすすめします。
不安がある場合は、不動産会社、司法書士、土地家屋調査士等の専門家に相談しましょう。