戸建て購入の契約の流れ
戸建て購入を検討する際、「契約ってどんな流れで進むの?」「重要事項説明って何?」と疑問に思う方は多いでしょう。不動産の売買契約は、重要事項説明と売買契約締結の2段階で進みます。特に重要事項説明書は、物件の詳細や法令上の制限など、購入判断に重要な情報が記載されており、契約前にしっかり理解することが大切です。
この記事では、戸建て購入の契約から引渡しまでの流れ、重要事項説明書と売買契約書のチェックポイント、手付金やローン特約の仕組みまで、初心者向けに詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 重要事項説明と売買契約の2段階の流れが分かる
- 重要事項説明書の必須チェック項目が理解できる
- 手付金・手付解除・ローン特約の仕組みが明確になる
- 契約時の必要書類と準備方法が把握できる
(1) 申込から契約までの段階
戸建て購入の契約は、以下のような流れで進みます。
購入から引渡しまでの流れ:
段階 | 主な内容 | 期間の目安 |
---|---|---|
1. 物件探し・内見 | 希望条件に合う物件を探す | - |
2. 購入申込 | 購入意思を表明し、価格交渉 | 申込から1〜2週間 |
3. 重要事項説明 | 宅地建物取引士から物件の詳細説明 | 契約の数日前〜当日 |
4. 売買契約締結 | 契約書に署名・押印、手付金支払い | 申込から1〜2週間 |
5. 住宅ローン申込 | 金融機関に本審査を申し込む | 契約から1〜2週間 |
6. 残代金決済・引渡し | 残金支払い、所有権移転、鍵の受領 | 契約から1〜2ヶ月 |
購入申込から引渡しまでは、通常1.5〜3ヶ月程度かかります。
(2) 重要事項説明と売買契約の2段階
戸建て購入の契約は、「重要事項説明」と「売買契約締結」の2段階で構成されます。
1. 重要事項説明(契約の前段階)
- 宅地建物取引業法35条に基づく法定手続き
- 宅地建物取引士が物件の詳細や取引条件を説明
- 重要事項説明書に署名・押印
2. 売買契約締結(契約の本体)
- 売買契約書に署名・押印
- 手付金を支払う
- 契約成立
国土交通省によると、重要事項説明は契約の前提となる情報提供であり、内容を十分に理解した上で売買契約を締結することが重要です。
(3) 契約から引渡しまでの期間
売買契約を締結してから、実際に物件が引き渡されるまでの期間は、通常1〜2ヶ月程度です。
契約から引渡しまでの主な流れ:
- 住宅ローン本審査: 契約後1〜2週間(金融機関により異なる)
- ローン承認: 審査結果の通知
- 残代金決済の日程調整: 売主・買主・金融機関・司法書士で日程調整
- 残代金決済・引渡し: 契約から1〜2ヶ月後
ローン特約を付けている場合、住宅ローンが承認されないと契約は白紙解除されます。承認期限は契約書に明記されているため、必ず確認しましょう。
2. 重要事項説明書とは
(1) 重要事項説明の目的
重要事項説明は、宅地建物取引業法35条に基づき、契約前に買主が物件や取引条件の重要事項を理解するための法定手続きです。
重要事項説明の特徴:
- 宅地建物取引士が実施(資格者証を提示)
- 対面または「IT重説」(オンライン)で実施可能
- 重要事項説明書への署名・押印が必要
- 説明を受けた後、納得してから売買契約に進む
国土交通省のIT重説に関する指針では、重要事項説明書を事前に受け取り、内容を熟読してから説明を受けることが推奨されています。
(2) 必須チェック項目
重要事項説明書には、以下のような重要な情報が記載されています。
【物件に関する事項】
- 登記簿の内容(所有者、抵当権の有無など)
- 法令上の制限(用途地域、建ぺい率、容積率、接道義務など)
- インフラ状況(水道、電気、ガス、下水道など)
- 私道負担の有無
【取引に関する事項】
- 代金以外の金銭の授受(手付金、固定資産税の精算など)
- 契約解除に関する事項(手付解除、ローン特約など)
- 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の範囲と期間
- 損害賠償額の予定または違約金
全国宅地建物取引業協会連合会によると、特に接道義務や用途地域は、将来の建て替えや増築に影響するため、詳細に確認することが推奨されています。
接道義務の確認:
- 建築基準法上、敷地は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接している必要がある
- 接道義務を満たしていない場合、建て替えができない可能性がある
- 「再建築不可」の物件は住宅ローンが利用できないことが多い
(3) 事前受領の重要性
重要事項説明書は、法律上は契約当日に説明を受けても問題ありませんが、実務上は数日前に受け取り、事前に熟読することが強く推奨されます。
事前受領のメリット:
- 内容を十分に理解する時間がある
- 不明点を事前に質問できる
- 専門家(弁護士、建築士など)に相談できる
- 契約当日に慌てて判断するリスクを避けられる
重要事項説明書は専門用語が多く、数十ページに及ぶこともあります。契約当日に初めて見ても理解しきれないことが多いため、事前受領を不動産会社に依頼しましょう。
3. 売買契約書のチェックポイント
(1) 物件の表示と価格
売買契約書には、売買の対象となる物件の詳細が記載されます。
確認すべき項目:
- 土地の所在地、地番、面積(実測か公簿か)
- 建物の構造、床面積、建築年
- 売買代金の総額(税込)
- 手付金の金額と支払日
- 残代金の金額と支払日
土地の面積については、「実測売買」か「公簿売買」かを確認しましょう。実測売買の場合、契約後に実際に測量し、面積差があれば代金を精算します。公簿売買の場合、登記簿上の面積で取引し、実際の面積が異なっても精算しません。
(2) 引渡し条件
引渡しに関する条件も重要です。
確認すべき項目:
- 引渡し日(残代金決済日と同日が一般的)
- 引渡し時の物件の状態(現況有姿、空き家渡しなど)
- 引渡し前の物件の使用方法
- 所有権移転登記の時期
「現況有姿」の場合、物件の現在の状態のまま引き渡されます。建物の修繕や残置物の撤去は行われないため、事前に確認が必要です。
(3) 付帯設備の確認
戸建ての場合、建物本体以外に付帯設備があります。
付帯設備の例:
- エアコン、照明器具
- カーテン、カーテンレール
- 物置、カーポート
- 庭木、植栽
売買契約書には、これらの設備が「売買の対象に含まれるか」「引渡し時に撤去されるか」が明記されます。特に高価な設備(エアコン、カーポートなど)は、引渡し後のトラブルを防ぐため、契約書で明確にしておくことが重要です。
4. 手付金と解除条件
(1) 手付金の相場と役割
手付金は、売買契約締結時に買主が売主に交付する金銭です。
手付金の相場:
- 一般的に売買価格の5〜10%
- 3,000万円の戸建てなら150万円〜300万円程度
- 100万円前後が実務上の相場
国土交通省の標準契約書式では、手付金は「解約手付」として扱われ、以下の役割を持ちます。
手付金の3つの役割:
- 解約手付: 買主は手付金を放棄することで契約を解除できる
- 証約手付: 契約成立の証明
- 違約手付: 違約があった場合の損害賠償額の一部
(2) 手付解除の仕組み
手付解除とは、一定の期限内であれば、買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を買主に返還することで、契約を解除できる制度です。
手付解除の具体例:
- 手付金: 100万円
- 買主が解除する場合: 手付金100万円を放棄(返還されない)
- 売主が解除する場合: 手付金100万円を返還+さらに100万円を支払う(合計200万円を買主に支払う)
手付解除は、買主・売主の双方に認められた権利ですが、買主にとっては手付金を失うリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
(3) 解除期限の確認
手付解除ができる期限は、契約書に明記されています。
一般的な手付解除期限:
- 「売主が契約の履行に着手するまで」
- 具体的な日付(例:契約日から1ヶ月以内)
「契約の履行に着手」とは、売主が物件の引渡し準備を開始することを指します。例えば、売主が引っ越しを開始した場合、履行の着手と見なされ、手付解除はできなくなります。
手付解除期限を過ぎた後に契約を解除する場合、違約金が発生するため、契約書の記載を必ず確認しましょう。
5. ローン特約と違約金
(1) ローン特約とは
ローン特約(融資利用の特約)とは、住宅ローンの承認が得られなかった場合に、契約を白紙解除できる特約です。
ローン特約の仕組み:
- 買主が住宅ローンを利用する場合に付ける特約
- ローンが承認されなかった場合、契約は自動的に解除される
- 手付金は全額返還される(買主の負担なし)
- 違約金も発生しない
ローン特約がない場合、ローンが承認されなくても契約は解除できず、違約金が発生する可能性があります。住宅ローンを利用する場合は、必ずローン特約を付けましょう。
ローン特約の記載例:
- 借入先: ○○銀行
- 借入額: 2,500万円
- 金利: 年1.0%
- 承認期限: 契約日から1ヶ月以内
(2) 違約金の金額と条件
手付解除期限を過ぎた後に契約を解除する場合、違約金が発生します。
違約金の相場:
- 売買価格の10〜20%が一般的
- 3,000万円の戸建てなら300万円〜600万円
違約金は、契約書の「損害賠償額の予定または違約金」の条項に記載されています。違約金は、実際の損害額にかかわらず、契約書に記載された金額を支払う必要があります。
違約金が発生するケース:
- 買主の都合による契約解除(手付解除期限後)
- 売主の都合による契約解除(手付解除期限後)
- 契約書に定められた義務の不履行
(3) 契約解除のリスク
契約解除には、以下のようなリスクがあります。
買主のリスク:
- 手付解除: 手付金を失う(売買価格の5〜10%)
- 違約解除: 違約金を支払う(売買価格の10〜20%)
- ローン不承認: ローン特約がなければ違約金が発生
売主のリスク:
- 手付解除: 手付金の倍額を支払う
- 違約解除: 違約金を支払う
契約解除は多額の金銭的負担が発生するため、契約前に十分に検討し、不明点があれば必ず不動産会社に確認しましょう。
6. 契約時の必要書類と準備
(1) 本人確認書類
売買契約時には、本人確認書類が必要です。
認められる本人確認書類:
- 運転免許証
- パスポート
- マイナンバーカード(個人番号カード)
- 健康保険証(写真なしの場合は2点必要なことも)
有効期限内で、氏名・住所が現住所と一致している必要があります。住所変更をしていない場合は、事前に変更手続きを行いましょう。
(2) 印鑑と印鑑証明
売買契約書への押印には、実印が必要な場合があります。
印鑑の種類:
- 実印: 市区町村に登録した印鑑(印鑑証明書が発行できる)
- 認印: 登録していない印鑑
売買契約書への押印は、実印でなくても法律上は有効ですが、不動産会社によっては実印と印鑑証明書の提出を求められることがあります。事前に不動産会社に確認しましょう。
印鑑証明書の取得方法:
- 市区町村役場の窓口で取得
- マイナンバーカードがあればコンビニでも取得可能
- 手数料: 200〜400円
- 有効期限: 発行後3ヶ月以内(契約により異なる)
(3) 手付金の準備方法
手付金は、現金または預金小切手で準備します。
手付金の準備方法:
方法1: 現金で準備
- 契約当日に持参
- 高額のため、安全な運搬方法を検討
方法2: 預金小切手で準備
- 銀行で発行(手数料1,000円程度)
- 高額でも安全に持ち運べる
- 不動産会社によっては受け取り可能か事前確認が必要
方法3: 事前振込
- 契約前に売主の口座へ振込
- 振込手数料は買主負担が一般的
- 領収書を契約当日に受け取る
不動産会社や売主によって対応が異なるため、契約前に準備方法を確認しておきましょう。
まとめ
戸建て購入の契約は、重要事項説明と売買契約締結の2段階で進みます。重要事項説明書は、物件の詳細や法令上の制限など、購入判断に重要な情報が記載されており、契約前に十分に理解することが大切です。
特に、接道義務や用途地域は将来の建て替えに影響するため、詳細に確認しましょう。また、手付金は売買価格の5〜10%程度が相場で、手付解除する場合は放棄する必要があります。住宅ローンを利用する場合は、ローン特約を必ず付けることで、ローン不承認時のリスクを回避できます。
契約は多額の金銭が動く重要な手続きです。不明点があれば、契約前に必ず不動産会社に確認し、納得した上で契約を進めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 重要事項説明は契約当日でも大丈夫ですか?
A. 法律上は契約当日に重要事項説明を受けても問題ありませんが、事前受領を強く推奨します。重要事項説明書は専門用語が多く、数十ページに及ぶこともあります。契約当日に初めて見ても内容を十分に理解する時間がないため、数日前に受け取り、熟読することが重要です。不明点があれば事前に不動産会社に質問し、納得した上で契約に臨みましょう。
Q2. 手付金はいくら必要ですか?
A. 手付金は一般的に売買価格の5〜10%が相場です。3,000万円の戸建てであれば、150万円〜300万円程度ですが、実務上は100万円前後が多いです。手付金は、手付解除する場合に放棄する必要があるため、慎重な金額設定が重要です。手付金の金額は売主・買主の合意で決まるため、不動産会社を通じて交渉することも可能です。
Q3. ローン特約とは何ですか?
A. ローン特約(融資利用の特約)とは、住宅ローンの承認が得られなかった場合に、契約を白紙解除できる特約です。ローン特約があれば、ローンが承認されなかった場合でも、手付金は全額返還され、違約金も発生しません。住宅ローンを利用する場合は、必ずローン特約を付けることをおすすめします。また、承認期限(通常は契約日から1ヶ月以内)を契約書で確認し、期限内にローン審査を完了させることが重要です。
Q4. 契約後に解除したい場合はどうなりますか?
A. 契約後の解除には、以下の3つのパターンがあります。
手付解除(手付解除期限内): 買主は手付金を放棄することで契約を解除できます。売主が解除する場合は手付金の倍額を支払います。
ローン特約による解除: 住宅ローンが承認されなかった場合、ローン特約があれば契約は白紙解除され、手付金は全額返還されます。
違約解除(手付解除期限後): 手付解除期限を過ぎた後に契約を解除する場合、違約金(売買価格の10〜20%程度)が発生します。
契約解除は多額の金銭的負担が発生するため、契約前に十分に検討し、不明点があれば必ず不動産会社に確認しましょう。