投資用中古戸建て売却時の諸費用一覧
投資用中古戸建てを売却する際、物件価格以外に複数の諸費用が発生します。居住用住宅と異なり、投資用不動産特有の税務処理や費用項目があるため、出口戦略を立てる上で正確な理解が必要です。
この記事の結論
- 諸費用は売却価格の5-10%が目安(居住用と同程度)
- 減価償却費が取得費から差し引かれるため、譲渡所得が大きくなる
- 3,000万円特別控除は適用されない(居住用のみ)
- 保有期間5年超で税率20.315%、5年以下で39.63%
- 賃借人がいる場合、オーナーチェンジ売却または立退き費用が必要
(1) 仲介手数料の計算方法
不動産会社を通じて売却する場合、仲介手数料が発生します。宅地建物取引業法により上限が定められており、売却価格が400万円を超える場合の計算式は以下の通りです:
仲介手数料=売却価格×3%+6万円+消費税
具体例
- 売却価格2,000万円:72.6万円(消費税込)
- 売却価格3,000万円:105.6万円(消費税込)
- 売却価格5,000万円:171.6万円(消費税込)
投資用物件の場合、買主は投資家が中心となるため、収益性(利回り)を重視した価格設定が必要です。
(2) 登記費用(抵当権抹消等)
投資用不動産ローンを完済した際、抵当権を消す登記手続きが必要です:
登記の種類 | 登録免許税 | 司法書士報酬 |
---|---|---|
抵当権抹消登記 | 不動産1個につき1,000円 | 1-3万円 |
所有権移転登記 | 買主負担 | - |
土地と建物でそれぞれ抵当権が設定されている場合、登録免許税は合計2,000円程度となります。
(3) 賃借人への立退き費用
賃借人がいる物件を空室にして売却する場合、立退き費用が発生します:
立退き費用の目安
立退料:家賃6ヶ月~1年分程度
引越し代:10-30万円
合計:家賃の6-12ヶ月分程度
例:月額家賃10万円の場合
立退料:10万×6ヶ月=60万円
引越し代:20万円
合計:約80万円
ただし、オーナーチェンジ物件として賃借人付きで売却すれば、立退き費用は不要です。
投資用物件特有の税務処理
(1) 事業用不動産の譲渡所得計算
投資用不動産の譲渡所得は以下の式で計算されます:
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
取得費
- 土地:購入価格
- 建物:購入価格-減価償却累計額(簿価)
譲渡費用
- 仲介手数料
- 測量費
- 売買契約書の印紙税
- 立退料(空室にして売却する場合)
(2) 居住用との税務の違い
投資用不動産と居住用住宅では、税務処理が大きく異なります:
項目 | 投資用 | 居住用 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 適用なし | 適用あり |
軽減税率(所有期間10年超) | 適用なし | 適用あり(14.21%) |
譲渡損失の繰越控除 | 適用なし | 適用あり(一定条件) |
減価償却 | 必須 | 不要 |
投資用不動産は、居住用に比べて税制優遇が少ないため、税負担が大きくなる傾向があります。
減価償却費と取得費の調整
(1) 減価償却費の計算方法
投資用不動産の建物は、経年劣化により価値が減少するため、毎年減価償却費を経費計上します。売却時の取得費計算では、累計の減価償却費を差し引く必要があります:
減価償却費の計算(木造住宅の場合)
年間減価償却費=建物取得価格×0.9×償却率0.046
例:建物取得価格1,500万円、保有期間10年の場合
年間減価償却費=1,500万×0.9×0.046=約62.1万円
減価償却累計額=62.1万×10年=621万円
(2) 簿価(調整後取得費)の算出
売却時の建物取得費は、購入価格から減価償却累計額を差し引いた簿価となります:
建物の簿価=建物取得価格-減価償却累計額
例:建物取得価格1,500万円、減価償却累計額621万円の場合
建物の簿価=1,500万-621万=879万円
重要なポイント 減価償却により建物の取得費が減少するため、売却価格が購入価格と同じでも、譲渡所得が発生し課税されます。賃貸期間が長いほど減価償却が進み、税負担が大きくなります。
具体的な譲渡所得の計算例
売却価格:3,000万円
土地取得費:1,200万円(減価償却なし)
建物簿価:879万円(1,500万-621万)
譲渡費用:110万円(仲介手数料等)
譲渡所得=3,000万-(1,200万+879万+110万)=811万円
譲渡所得税(長期20.315%):811万×20.315%=約165万円
賃借人がいる場合の売却手続き
(1) オーナーチェンジ物件としての売却
賃借人がいる物件は、オーナーチェンジ物件として売却するのが一般的です:
オーナーチェンジ売却のメリット
- 立退き費用が不要
- 即座に賃料収入を得られる(買主にとって)
- 売却手続きがスムーズ
オーナーチェンジ売却のデメリット
- 空室物件より売却価格が低くなる傾向
- 賃借人の入居状況に影響を受ける
- 買主が投資家に限定される
価格の目安
オーナーチェンジ価格≒年間家賃収入÷期待利回り
例:年間家賃収入120万円、期待利回り8%の場合
オーナーチェンジ価格≒120万÷8%=1,500万円
(2) 賃貸借契約の承継手続き
オーナーチェンジ売却の場合、賃貸借契約を買主に引き継ぎます:
手続きの流れ
- 賃借人に所有者変更を通知(売買契約後)
- 賃貸借契約書の引継ぎ
- 敷金・保証金の引継ぎ
- 賃借人への挨拶(買主が実施)
引き継ぐもの
- 賃貸借契約書
- 敷金・保証金(買主が承継)
- 未払い賃料(あれば)
- 修繕履歴
賃貸借契約の承継により、買主は賃貸人としての権利義務を引き継ぎます。
長期譲渡と短期譲渡の税率差
(1) 保有期間5年の境界線
投資用不動産の譲渡所得税は、保有期間により税率が大きく異なります:
保有期間の判定 取得日から売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで判定されます。
例:2019年7月1日取得の場合
- 2024年12月31日売却:保有期間5年(2024年1月1日時点で4年6ヶ月)→短期譲渡
- 2025年1月1日売却:保有期間5年超(2025年1月1日時点で5年6ヶ月)→長期譲渡
(2) 税率の違い(39.63% vs 20.315%)
区分 | 保有期間 | 税率(所得税+住民税) |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
税率差による税額の違い 譲渡所得が1,000万円の場合:
短期譲渡:1,000万×39.63%=約396万円
長期譲渡:1,000万×20.315%=約203万円
差額:約193万円
保有期間が5年に近い場合、5年を超えるまで待つことで大幅な節税が可能です。ただし、保有期間中の固定資産税や管理費も考慮する必要があります。
売却タイミングの判断
- 保有期間が4年11ヶ月の場合:1ヶ月待って長期譲渡にする方が有利
- 保有期間が3年の場合:2年待つコスト(固定資産税・管理費等)と節税額を比較
投資収支の最終清算
投資用中古戸建ての売却は、投資の出口戦略として最終的な収支を確定させる重要なステップです。
投資収支の計算
総収入:
家賃収入合計
売却価格
総支出:
物件取得費
購入時諸費用
保有期間中の費用(固定資産税・修繕費・管理費等)
売却時諸費用
譲渡所得税
純収益=総収入-総支出
具体例(保有期間10年の場合)
【収入】
家賃収入:月10万×12ヶ月×10年=1,200万円
売却価格:3,000万円
収入合計:4,200万円
【支出】
物件取得費:2,500万円
購入時諸費用:200万円
保有期間中の費用:年50万×10年=500万円
売却時諸費用:110万円
譲渡所得税:165万円
支出合計:3,475万円
純収益:4,200万-3,475万=725万円
年間利回り:725万÷2,700万÷10年=約2.7%
投資判断のポイント
- 純収益がプラスであれば投資成功
- 利回りが預金金利や他の投資商品と比較して十分か
- 賃貸期間中の手間やリスクに見合った収益か
これらを総合的に判断し、次の投資戦略を立てることが重要です。
まとめ
投資用中古戸建ての売却では、諸費用として売却価格の5-10%程度が発生します。仲介手数料・登記費用などの通常費用に加え、賃借人がいる場合は立退き費用も考慮する必要があります。
投資用不動産は居住用と異なり、3,000万円特別控除などの税制優遇が適用されません。また、減価償却により建物の取得費が減少するため、譲渡所得が大きくなり税負担が増える傾向があります。
保有期間5年超で税率20.315%、5年以下で39.63%と大きな差があるため、売却タイミングは慎重に検討する必要があります。賃借人がいる場合は、オーナーチェンジ売却と空室売却のメリット・デメリットを比較し、最適な方法を選択しましょう。
投資用不動産の売却は税務処理が複雑なため、税理士への相談をおすすめします。