離婚売却中古戸建ての諸費用・清算|財産分与完全ガイド

公開日: 2025/10/20

離婚時の中古戸建て売却諸費用一覧

離婚に伴い共有名義の中古戸建てを売却する際、複数の諸費用が発生します。財産分与の清算を正確に行うためには、これらの諸費用を正しく理解し、売却代金から差し引いた手取り額を分配対象とすることが重要です。

この記事の結論

  • 諸費用は売却価格の5-8%が目安
  • 仲介手数料は売却価格×3%+6万円+消費税が上限
  • 財産分与は原則2分の1ずつ、売却代金から諸費用を差し引いた額が対象
  • オーバーローン時は任意売却または自己資金補填が必要
  • 3,000万円特別控除は離婚時の売却でも適用可能

(1) 仲介手数料の計算方法

不動産会社を通じて売却する場合、仲介手数料が発生します。宅地建物取引業法により上限が定められており、売却価格が400万円を超える場合の計算式は以下の通りです:

仲介手数料=売却価格×3%+6万円+消費税

具体例

  • 売却価格2,000万円:72.6万円(消費税込)
  • 売却価格3,000万円:105.6万円(消費税込)
  • 売却価格4,000万円:138.6万円(消費税込)

仲介手数料は成功報酬のため、売買契約が成立しなければ支払いは発生しません。

(2) 登記費用(抵当権抹消等)

住宅ローンを完済した際、抵当権を消す登記手続きが必要です:

登記の種類 登録免許税 司法書士報酬
抵当権抹消登記 不動産1個につき1,000円 1-3万円
所有権移転登記 買主負担 -

共有名義の場合、土地と建物でそれぞれ抵当権が設定されていることが多く、登録免許税は合計2,000円程度となります。

(3) 印紙税・その他費用

売買契約書に貼付する印紙税は売却価格により異なります:

売却価格 印紙税(軽減措置適用後)
1,000万円超5,000万円以下 1万円
5,000万円超1億円以下 3万円

※令和9年3月31日まで軽減措置が適用(国税庁)

その他、住宅ローン完済に伴う事務手数料(0-3万円程度)が金融機関により発生する場合があります。

財産分与の計算方法と清算

(1) 財産分与の按分計算

離婚時の財産分与は、原則として婚姻中に形成した財産を2分の1ずつ分割します。中古戸建ての場合、売却代金から諸費用とローン残債を差し引いた手取り額が分配対象となります:

財産分与対象額=売却価格-諸費用-ローン残債

具体例(売却価格3,000万円の場合)

売却価格:3,000万円
-仲介手数料:105.6万円
-登記費用:3万円
-印紙税:1万円
-譲渡所得税:100万円(所有期間・売却益による)
-ローン残債:1,500万円
=財産分与対象額:1,290万円

各人の受取額:1,290万円÷2=645万円

(2) 売却代金の分配方法

売却代金の分配は、通常以下の手順で行われます:

1. 決済時の清算 引渡し時に、売却代金から諸費用とローン残債を差し引いた金額を受け取ります。

2. 分配方法の選択

  • 現金で直接分配:受け取った手取り額をその場で按分
  • 後日振込:一方が受け取り、後日相手方に振込

3. 離婚協議書への明記 分配方法・金額・支払時期を離婚協議書に明記し、公正証書にすることで後のトラブルを防げます。

オーバーローン時の対応策

(1) ローン残債の処理方法

売却価格がローン残債を下回る場合(オーバーローン)、通常の売却はできません。以下の対応策があります:

対応策1:自己資金で補填

売却価格:2,500万円
ローン残債:3,000万円
不足分:500万円(自己資金で補填)

対応策2:任意売却

  • 金融機関の同意を得て、残債を下回る価格で売却
  • 残債は無担保債務として残り、分割返済を継続
  • 金融機関との交渉が必要

対応策3:物件を保有し続ける

  • 一方が住み続け、ローンを返済
  • 財産分与協議で他の財産で調整

(2) 債務の負担割合

オーバーローン時の債務負担は、以下の方法で決定します:

パターン1:共有持分割合で負担

  • 夫60%・妻40%の共有名義の場合、債務も6:4で分担

パターン2:収入に応じて負担

  • 収入が多い方が多く負担

パターン3:協議により自由に決定

  • 離婚協議書で個別に取り決め

どの方法を選択するかは当事者間の協議により決定します。離婚協議書に明記しておくことが重要です。

譲渡所得税と3000万円特別控除

(1) 3000万円特別控除の適用要件

マイホームを売却した場合、一定の条件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。離婚による売却でも適用可能です。

主な適用要件

  • 自分が住んでいた住宅であること
  • 住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却
  • 売却先が配偶者や直系血族ではないこと(元配偶者はOK)
  • 前年・前々年にこの特例を受けていないこと

共有名義の場合 夫婦それぞれが3,000万円控除を適用できます。例えば、売却益が4,000万円で夫婦が共有名義(持分50%ずつ)の場合:

夫の譲渡所得:4,000万×50%=2,000万円
妻の譲渡所得:4,000万×50%=2,000万円

各人の控除後:2,000万-3,000万=0円(非課税)

(2) 離婚時の税制優遇

離婚に伴う財産分与により不動産を譲渡した場合、譲渡する側に譲渡所得税が課税される可能性があります:

譲渡所得税の計算

譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得税=譲渡所得×税率

税率(所有期間による区分)

  • 長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%
  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%

※所有期間は売却した年の1月1日時点で判定(国税庁)

重要なポイント

  • 財産を渡す側に譲渡所得税が課税される
  • 受け取る側には原則として贈与税は課税されない
  • 3,000万円特別控除を適用すれば税負担を大幅に軽減可能

共有名義解消の手続き

離婚に伴い共有名義の中古戸建てを売却する場合、以下の手続きが必要です:

1. 両者の同意を得る 共有名義の不動産は、共有者全員の同意がなければ売却できません。離婚協議と並行して、売却の同意を得る必要があります。

2. 不動産会社への依頼 複数の不動産会社から査定を取り、適正価格を把握します。3社以上から査定を取ることをおすすめします。

3. 売買契約の締結 買主が見つかれば、売買契約を締結します。共有者全員が契約書に署名・押印する必要があります。

4. 金融機関への連絡 ローン残債がある場合、金融機関に売却の意思を伝え、抵当権抹消の手続きを確認します。

5. 引渡しと清算 引渡し時に、売却代金から諸費用とローン残債を清算し、手取り額を分配します。

注意点 離婚協議が難航している場合、一方が売却に同意しないことがあります。この場合、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することも可能ですが、時間と費用がかかります。

売却タイミングと税務上の注意点

離婚時の中古戸建て売却では、売却タイミングにより税務処理が異なる場合があります:

離婚前の売却

  • メリット:夫婦で協力して売却手続き可能
  • デメリット:売却益が財産分与対象となり、分配が複雑化
  • 税務:各人が3,000万円控除を適用可能

離婚後の売却

  • メリット:権利関係が明確
  • デメリット:元配偶者との連絡・調整が必要
  • 税務:3,000万円控除は転居後3年目の12月31日まで適用可能

税務上の注意点

  • 3,000万円控除は「住まなくなった日から3年後の12月31日まで」が期限
  • 離婚協議が長引くと、この期限を過ぎる可能性あり
  • 所有期間5年超で長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下で短期譲渡所得(税率39.63%)

売却タイミングは、税務面だけでなく、離婚協議の進行状況や生活環境の変化も考慮して決定しましょう。

まとめ

離婚時の中古戸建て売却では、諸費用として売却価格の5-8%程度が発生します。仲介手数料・登記費用・印紙税などの通常費用に加え、譲渡所得税も考慮する必要があります。

財産分与は原則2分の1ずつで、売却代金から諸費用とローン残債を差し引いた手取り額が分配対象となります。オーバーローン時は任意売却または自己資金補填が必要です。

3,000万円特別控除は離婚時の売却でも適用可能で、共有名義の場合は各人が最高3,000万円を控除できます。売却タイミングは税務面・離婚協議の進行状況を考慮して決定しましょう。

離婚時の不動産売却は法務・税務が複雑に絡むため、弁護士・司法書士・税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1ローン残債がある場合、どう売却しますか?

A1売却代金でローンを完済できれば通常の売却が可能です。完済できない場合(オーバーローン)は、不足分を自己資金で補填するか、金融機関の同意を得て任意売却を行う必要があります。オーバーローンの不足分を夫婦で分担するか、どちらかが負担するかは離婚協議で決定します。

Q2財産分与の割合はどう決まりますか?

A2原則として2分の1ずつです。婚姻中に形成した財産は夫婦で等分するのが基本です。ただし各自の財産形成への寄与度や特別な事情があれば割合が変わる場合もあります。分配対象額は、売却代金から諸費用とローン残債を差し引いた手取り額となります。

Q3譲渡所得税の3000万円控除は使えますか?

A3居住用財産であれば適用可能です。自分が住んでいた家の売却なら3,000万円特別控除を受けられます。離婚による売却でも適用されますが、転居後3年目の12月31日までに売却する必要があります。共有名義の場合、夫婦それぞれが最高3,000万円の控除を受けられます。

Q4離婚前と離婚後、どちらで売却すべきですか?

A4税務面では離婚前後で大きな差はありませんが、手続きの簡便さは離婚前です。共有名義の場合、離婚前なら夫婦で協力して売却手続きを進められます。離婚後は元配偶者との連絡・調整が必要で手間がかかります。ただし、財産分与は離婚後2年以内に請求可能なため、急ぐ必要はありません。

Q5共有名義の売却に一方が同意しない場合は?

A5共有名義の不動産は、共有者全員の同意がなければ売却できません。一方が同意しない場合、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することも可能ですが、時間と費用がかかります。離婚協議と並行して、売却の必要性を説明し、同意を得る努力が重要です。弁護士への相談をおすすめします。

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