相続購入戸建ての諸費用完全ガイド|相続税・税制優遇

公開日: 2025/10/20

はじめに:相続資金で戸建てを購入する際の諸費用とは

相続した資金で戸建て購入を検討されている方にとって、購入価格以外の諸費用がどれくらいかかるのかは重要な関心事です。相続税の納付と並行して購入を進める場合、資金計画を正確に立てることが成功の鍵となります。

この記事で分かること:

  • 相続資金での戸建て購入時にかかる諸費用の全体像(物件価格の6-10%が目安)
  • 登記費用、ローン関連費用、各種税金の具体的な内訳
  • 相続税納付と購入諸費用の資金計画における優先順位
  • 取得費加算の特例など相続に関連する税制優遇措置
  • 住宅ローン控除など購入後に活用できる控除・減税制度

1. 相続購入戸建ての諸費用とは

戸建て購入時の諸費用は、物件価格とは別に発生する様々な費用の総称です。相続資金での購入であっても、基本的な諸費用の構造は通常の購入と変わりません。

(1) 購入時の主な諸費用一覧

戸建て購入時に発生する主な諸費用は以下の通りです。

費用項目 目安金額
仲介手数料 物件価格×3%+6万円(税別)が上限
登録免許税(所有権移転) 固定資産税評価額×2%
登録免許税(抵当権設定) 借入額×0.4%
司法書士報酬 8-15万円程度
不動産取得税 固定資産税評価額×4%(軽減措置あり)
ローン保証料・事務手数料 借入額の2%前後
火災保険料 10-30万円(10年一括の場合)
印紙税 売買契約書・ローン契約書に各1-3万円

合計の目安: 物件価格の6-10%程度。例えば3,000万円の戸建てなら180-300万円程度の諸費用が発生します。

(2) 仲介手数料の計算方法

不動産会社に支払う仲介手数料は、国土交通省の規定により上限が定められています(国土交通省: 不動産売買の仲介手数料に関するルール)。

計算式(税抜):

  • 物件価格×3%+6万円

具体例:

  • 3,000万円の戸建て: 3,000万円×3%+6万円=96万円(税抜)→ 105.6万円(税込)
  • 4,000万円の戸建て: 4,000万円×3%+6万円=126万円(税抜)→ 138.6万円(税込)

仲介手数料は成功報酬であり、契約が成立した場合のみ支払います。売主が直接販売する物件(仲介なし)の場合は不要です。

(3) 不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した際に都道府県に納める地方税です(総務省: 不動産取得税について)。

標準税率: 固定資産税評価額×4%

住宅の軽減措置:

  • 土地・建物ともに標準税率3%に軽減(2027年3月31日まで)
  • 新築住宅は建物評価額から1,200万円控除
  • 中古住宅も築年数に応じて控除あり

相続による不動産取得は非課税ですが、相続資金で「新たに購入」する場合は不動産取得税の対象となる点に注意が必要です。

2. 登記関連費用の詳細

不動産を購入すると、法務局で所有権移転登記を行う必要があります。ローンを利用する場合は抵当権設定登記も必要です。

(1) 所有権移転登記と登録免許税

所有権移転登記は、売主から買主へ所有権が移ったことを公的に記録する手続きです(法務局: 不動産登記の手続き)。

登録免許税(土地): 固定資産税評価額×2%(2026年3月31日まで1.5%に軽減)

登録免許税(建物): 固定資産税評価額×2%(一定要件を満たす住宅は0.3%に軽減)

具体例(3,000万円の戸建て、評価額が土地1,500万円・建物1,000万円の場合):

  • 土地: 1,500万円×1.5%=22.5万円
  • 建物: 1,000万円×0.3%=3万円
  • 合計: 25.5万円

(2) 抵当権設定登記

住宅ローンを利用する場合、金融機関は購入する不動産に抵当権を設定します。

登録免許税: 借入額×0.4%(一定要件を満たす住宅は0.1%に軽減)

具体例(2,000万円の借入の場合):

  • 2,000万円×0.1%=2万円

(3) 司法書士報酬の相場

登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。報酬は自由化されていますが、一般的な相場は以下の通りです。

  • 所有権移転登記: 5-8万円
  • 抵当権設定登記: 3-5万円
  • その他(事前調査・書類作成等): 2-3万円
  • 合計: 8-15万円程度

地域や物件の複雑さにより変動するため、複数の司法書士から見積もりを取ることをお勧めします。

3. ローン関連費用

相続資金で全額を賄えない場合や、相続税納付のために現金を残したい場合は住宅ローンを併用することになります。

(1) 保証料・事務手数料の仕組み

住宅ローンには大きく分けて2つのタイプがあります。

保証料型:

  • 保証会社に保証料を支払う(借入額の2%前後、または金利に0.2%上乗せ)
  • 事務手数料は3-5万円程度と安価

事務手数料型:

  • 保証料は不要
  • 事務手数料が借入額の2.2%程度と高額

具体例(2,000万円借入の場合):

  • 保証料型: 保証料40万円+事務手数料3万円=43万円
  • 事務手数料型: 事務手数料44万円

総額は近似しますが、繰上返済時の保証料返戻の有無など特性が異なります。

(2) 団体信用生命保険料

団体信用生命保険(団信)は、借入者が死亡・高度障害になった際にローン残債が完済される保険です。

  • 一般的な団信: 金利に含まれており別途費用不要
  • がん団信・三大疾病特約等: 金利に+0.1-0.3%上乗せ

フラット35の場合は団信が任意加入で、加入する場合は別途年間保険料(借入残高の約0.36%)が必要です。

(3) 火災保険・地震保険

住宅ローンを組む際、火災保険への加入が義務付けられています。

火災保険料:

  • 10年一括払い: 15-30万円程度(建物構造・補償内容による)
  • 年払い: 2-4万円程度

地震保険料:

  • 5年一括払い: 10-20万円程度(地域により大きく異なる)
  • 年払い: 2-5万円程度

地震保険は火災保険とセットでのみ加入でき、補償額は火災保険の30-50%が上限です。

4. 相続特有の注意点

相続資金での購入には、通常の購入とは異なる税務上の注意点があります。

(1) 相続税との関係

相続により財産を取得した場合、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える部分に相続税が課されます(国税庁: 相続税の計算方法)。

相続税の申告期限: 相続開始を知った日の翌日から10か月以内

この期限内に相続税を納付する必要があり、延滞すると延滞税が発生します。戸建て購入の資金計画を立てる際は、相続税納付を最優先することが重要です。

(2) 相続税納付と購入諸費用の資金計画

相続資金での戸建て購入では、以下の順序で資金計画を立てることをお勧めします。

  1. 相続税額の確定: 税理士に相談し正確な相続税額を把握
  2. 納税資金の確保: 相続税納付を最優先し、延滞税リスクを回避
  3. 購入予算の設定: 残余資金で物件価格+諸費用を賄えるか検討
  4. ローン併用の検討: 資金が不足する場合は住宅ローンの併用を検討

相続税の納付方法には一括納付のほか、延納(分割払い)や物納(不動産等で納付)の選択肢もありますが、要件が厳しいため専門家への相談が必須です。

(3) 相続登記費用と購入登記費用の違い

相続した不動産がある場合、その相続登記と新しく購入する戸建ての購入登記は別の手続きです。

相続登記:

  • 被相続人から相続人へ所有権を移す登記
  • 登録免許税: 固定資産税評価額×0.4%
  • 2024年4月から義務化(3年以内)

購入登記(所有権移転登記):

  • 売主から買主へ所有権を移す登記
  • 登録免許税: 固定資産税評価額×2%(軽減措置あり)

両方の登記が同時期に必要な場合、司法書士報酬も増加するため、資金計画に組み込んでおく必要があります。

5. 相続関連の税制優遇

相続に関連して不動産を売却・購入する場合、活用できる税制優遇措置があります。

(1) 取得費加算の特例

相続した不動産を売却して新しい戸建ての購入資金にする場合、取得費加算の特例を活用できる可能性があります(国税庁: 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)。

適用要件:

  • 相続または遺贈により財産を取得した人が譲渡すること
  • 相続税を納付していること
  • 相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すること

効果:

  • 譲渡所得の計算上、相続税額の一部を取得費に加算できる
  • 結果として譲渡所得税の負担が軽減される

具体例: 相続した実家を3,000万円で売却し、相続税を200万円納付した場合、その200万円のうち売却した不動産に対応する部分を取得費に加算できます。これにより譲渡所得が圧縮され、譲渡所得税が減額されます。

(2) 相続税申告期限と特例適用のタイミング

取得費加算の特例を活用する場合、売却のタイミングが重要です。

期限: 相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで

具体例:

  • 相続開始: 2024年1月1日
  • 相続税申告期限: 2024年11月1日
  • 特例適用期限: 2027年11月1日

この期限内に相続不動産を売却し、その資金で新しい戸建てを購入することで、税負担を抑えながら住み替えを実現できます。ただし、売却と購入のタイミング調整が必要なため、早めに税理士・不動産会社へ相談することをお勧めします。

6. 購入後に使える控除・減税

戸建て購入後に活用できる税制優遇措置についても把握しておきましょう。

(1) 住宅ローン控除の適用要件

住宅ローン控除は、住宅ローンを借りて家を購入した人が所得税・住民税の控除を受けられる制度です(国税庁: 住宅ローン控除の適用要件)。

主な適用要件:

  • 自らが居住すること
  • 床面積が50m²以上(2023年までに建築確認を受けた新築は40m²以上)
  • 借入期間が10年以上
  • 合計所得金額が2,000万円以下(床面積40-50m²未満の場合は1,000万円以下)

控除額:

  • 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅等: 借入限度額4,500-5,000万円
  • 省エネ基準適合住宅: 借入限度額4,000万円
  • その他の住宅: 借入限度額3,000万円(2024年以降は2,000万円)
  • 控除率: 年末借入残高×0.7%
  • 控除期間: 新築13年、中古10年

相続資金との関係: 相続資金の有無は住宅ローン控除の適用要件に影響しません。相続資金で頭金を賄い、残りをローンで調達した場合でも、上記要件を満たせば控除を受けられます。

(2) 不動産取得税の軽減措置

不動産取得税には、一定の要件を満たす住宅用不動産について軽減措置が設けられています。

新築戸建ての場合:

  • 建物評価額から1,200万円控除
  • 土地は評価額×1/2×3%(さらに一定額控除あり)

中古戸建ての場合:

  • 築年数に応じて350-1,200万円を控除
  • 土地も新築と同様の軽減措置あり

適用要件:

  • 床面積50m²以上240m²以下
  • 自己居住用または賃貸用

これらの軽減措置により、不動産取得税の負担は大幅に軽減されます。取得後60日以内に都道府県税事務所に申告することで適用を受けられます。

まとめ

相続資金で戸建てを購入する際の諸費用は、物件価格の6-10%(3,000万円の戸建てなら180-300万円程度)が目安です。主な費用項目は仲介手数料、登記費用、ローン関連費用、各種税金です。

相続資金での購入では、相続税納付(10か月以内)を最優先し、残余資金で購入諸費用を賄う資金計画が重要です。相続不動産を売却して購入資金にする場合は、取得費加算の特例(相続税申告期限の翌日以後3年以内の売却)を活用することで税負担を軽減できます。

住宅ローンを利用する場合は、相続資金の有無に関わらず住宅ローン控除(年末借入残高×0.7%、最大13年間)の適用を受けられます。不動産取得税も軽減措置を申告することで負担を抑えられます。

相続と不動産購入が重なる場合は、税務・法務の専門知識が必要です。税理士・司法書士・不動産会社と連携しながら、適切な資金計画と手続きを進めることをお勧めします。

よくある質問

Q1: 相続した資金で戸建てを購入する場合、諸費用はいくらかかりますか?

A: 物件価格の6-10%が目安です。例えば3,000万円の戸建てなら180-300万円程度です。内訳は、仲介手数料(物件価格×3%+6万円)、登記費用(登録免許税+司法書士報酬で30-40万円)、ローン関連費用(借入額の2%前後)、不動産取得税(軽減措置適用後)、火災保険料などです。相続資金で全額を賄う場合はローン関連費用が不要となり、諸費用総額は低く抑えられます。

Q2: 相続した不動産を売却して新しい戸建てを購入する際の税金は?

A: 売却時には譲渡所得税が発生します。譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、所有期間5年超の長期譲渡所得は20.315%、5年以下の短期譲渡所得は39.63%の税率です。ただし相続税申告期限の翌日以後3年10か月以内に売却すれば、取得費加算の特例により相続税額の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税の負担を軽減できます。売却のタイミングは税負担に大きく影響するため、税理士への相談をお勧めします。

Q3: 相続資金での購入でも住宅ローン控除は使えますか?

A: はい、使えます。住宅ローン控除の適用要件は、床面積50m²以上、借入期間10年以上、自己居住用、合計所得金額2,000万円以下などです。購入資金の出所(相続資金か自己資金か)は要件に含まれていません。相続資金で頭金を支払い、残りを住宅ローンで調達した場合でも、上記要件を満たせば年末借入残高の0.7%を最大13年間(中古住宅は10年間)控除できます。

Q4: 相続税の納付と購入諸費用、どちらを優先すべきですか?

A: 相続税の納付を最優先すべきです。相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内の納付が必須で、期限を過ぎると延滞税(年7.3-14.6%程度)が発生します。まず相続税額を確定し、納税資金を確保した上で、残余資金で戸建て購入の予算を組むことをお勧めします。資金が不足する場合は、住宅ローンの併用や、相続税の延納(分割払い、年利3.6%程度)を検討します。資金計画については税理士への相談が不可欠です。

Q5: 相続登記と購入登記の費用はそれぞれいくらかかりますか?

A: 相続登記は登録免許税が固定資産税評価額×0.4%、司法書士報酬が5-8万円程度です。購入登記(所有権移転登記)は登録免許税が評価額×2%(軽減措置で土地1.5%、建物0.3%)、司法書士報酬が5-8万円程度です。例えば評価額2,000万円の相続不動産と3,000万円の購入戸建て(土地1,500万円・建物1,000万円)がある場合、相続登記は約13万円(8万円+5万円)、購入登記は約30万円(25.5万円+5万円)となります。両方が同時期に発生する場合は、合計40-50万円程度を諸費用に計上しておきましょう。

よくある質問

Q1相続した資金で戸建てを購入する場合、諸費用はいくらかかりますか?

A1物件価格の6-10%が目安です。例えば3,000万円の戸建てなら180-300万円程度です。内訳は、仲介手数料(物件価格×3%+6万円)、登記費用(登録免許税+司法書士報酬で30-40万円)、ローン関連費用(借入額の2%前後)、不動産取得税(軽減措置適用後)、火災保険料などです。相続資金で全額を賄う場合はローン関連費用が不要となり、諸費用総額は低く抑えられます。

Q2相続した不動産を売却して新しい戸建てを購入する際の税金は?

A2売却時には譲渡所得税が発生します。譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、所有期間5年超の長期譲渡所得は20.315%、5年以下の短期譲渡所得は39.63%の税率です。ただし相続税申告期限の翌日以後3年10か月以内に売却すれば、取得費加算の特例により相続税額の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税の負担を軽減できます。売却のタイミングは税負担に大きく影響するため、税理士への相談をお勧めします。

Q3相続資金での購入でも住宅ローン控除は使えますか?

A3はい、使えます。住宅ローン控除の適用要件は、床面積50m²以上、借入期間10年以上、自己居住用、合計所得金額2,000万円以下などです。購入資金の出所(相続資金か自己資金か)は要件に含まれていません。相続資金で頭金を支払い、残りを住宅ローンで調達した場合でも、上記要件を満たせば年末借入残高の0.7%を最大13年間(中古住宅は10年間)控除できます。

Q4相続税の納付と購入諸費用、どちらを優先すべきですか?

A4相続税の納付を最優先すべきです。相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内の納付が必須で、期限を過ぎると延滞税(年7.3-14.6%程度)が発生します。まず相続税額を確定し、納税資金を確保した上で、残余資金で戸建て購入の予算を組むことをお勧めします。資金が不足する場合は、住宅ローンの併用や、相続税の延納(分割払い、年利3.6%程度)を検討します。資金計画については税理士への相談が不可欠です。

Q5相続登記と購入登記の費用はそれぞれいくらかかりますか?

A5相続登記は登録免許税が固定資産税評価額×0.4%、司法書士報酬が5-8万円程度です。購入登記(所有権移転登記)は登録免許税が評価額×2%(軽減措置で土地1.5%、建物0.3%)、司法書士報酬が5-8万円程度です。例えば評価額2,000万円の相続不動産と3,000万円の購入戸建て(土地1,500万円・建物1,000万円)がある場合、相続登記は約13万円(8万円+5万円)、購入登記は約30万円(25.5万円+5万円)となります。両方が同時期に発生する場合は、合計40-50万円程度を諸費用に計上しておきましょう。

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