はじめに:買い替え時の戸建て購入は通常と異なる諸費用が発生
現在の住宅を売却して戸建てに買い替える場合、通常の購入と比べて諸費用の構造が複雑になります。購入時の諸費用に加えて、売却と購入のタイミング調整に伴う「つなぎ融資の利息」「仮住まい費用」「引越費用2回分」など、買い替え特有の追加費用が発生するためです。
本記事では、買い替え時の戸建て購入における諸費用を体系的に解説し、売却先行・購入先行・同時決済の各パターンでどのような費用が発生するかを明確にします。
この記事のポイント:
- 買い替えでは通常の購入諸費用(物件価格の6~10%)に加え、特有の追加費用が発生
- つなぎ融資利息、仮住まい費用、引越費用2回分などの追加コストを把握すべき
- 売却先行・購入先行で発生する費用の種類が異なる
- 譲渡損失の繰越控除など買い替え特有の税制優遇が利用できる
- 新居の購入では住宅ローン控除を新たに適用可能
1. 買い替え購入戸建ての諸費用とは
(1) 購入時の主な諸費用一覧
まず、買い替えであっても基本的な購入諸費用は通常の購入と同様に発生します:
費用項目 | 目安金額 | 備考 |
---|---|---|
仲介手数料 | 物件価格×3%+6万円+消費税 | 仲介物件の場合 |
登録免許税 | 物件価格の1~2%程度 | 所有権移転・抵当権設定 |
司法書士報酬 | 10~25万円 | 登記手続き代行 |
不動産取得税 | 0~30万円 | 軽減措置で大幅減額の場合が多い |
ローン保証料 | 借入額の0.5~2% | または金利上乗せ型 |
ローン事務手数料 | 3~10万円または借入額の2% | 金融機関により異なる |
火災保険料 | 15~40万円(10年分) | 構造・補償内容により変動 |
地震保険料 | 3~10万円(5年分) | 地域・構造により変動 |
印紙税 | 1~3万円 | 売買契約書・ローン契約書 |
固定資産税等清算金 | 数万~数十万円 | 引渡し日による日割り計算 |
これらの基本的な諸費用は、物件価格の6~10%程度となります。
(2) 仲介手数料の計算方法
国土交通省の不動産売買の仲介手数料に関するルールによれば、仲介手数料には法定上限があります:
計算式:
仲介手数料 = 物件価格 × 3% + 6万円 + 消費税
計算例(物件価格3,000万円):
仲介手数料 = 3,000万円 × 3% + 6万円 + 消費税
= 90万円 + 6万円 + 消費税
= 105.6万円(税込)
買い替えの場合、売却側でも仲介手数料が発生するため、売却・購入の両方で手数料を支払うことになります。
(3) 不動産取得税
総務省の不動産取得税についてによれば、不動産を取得した際には不動産取得税(都道府県税)が課税されます。
税率:
- 標準税率:4%
- 住宅用土地・建物:3%(2027年3月31日まで)
軽減措置(戸建ての場合):
- 建物:評価額から1,200万円控除(新築の場合)
- 土地:評価額 × 1/2 × 3%(さらに減額措置あり)
- 要件:床面積50㎡以上240㎡以下、自己居住用など
軽減措置により、多くの場合は不動産取得税はゼロまたは数万円程度に抑えられます。納税通知書は購入から3~6か月後に届きます。
2. 登記関連費用の詳細
(1) 所有権移転登記と登録免許税
戸建ての購入では、売主から買主へ所有権を移転する登記が必要です。法務局の不動産登記の手続きに基づき、登録免許税の税率を紹介します:
所有権移転登記(中古戸建て):
- 土地:固定資産税評価額 × 2.0%(軽減税率:1.5%、2026年3月31日まで)
- 建物:固定資産税評価額 × 2.0%(軽減税率:0.3%、要件あり)
所有権保存登記(新築戸建て):
- 建物:固定資産税評価額 × 0.4%(軽減税率:0.15%、要件あり)
軽減税率の要件:
- 自己居住用住宅
- 床面積50㎡以上
- 取得後1年以内の登記
- 中古の場合は築20年以内(耐火建築物は25年以内)または耐震基準適合
計算例(中古戸建て3,000万円、評価額:土地1,500万円・建物700万円):
- 土地:1,500万円 × 1.5% = 22.5万円
- 建物:700万円 × 0.3% = 2.1万円
- 合計:24.6万円
(2) 抵当権設定登記
住宅ローンを利用する場合、金融機関が担保として抵当権を設定する登記が必要です:
税率:
- 債権額(借入額) × 0.4%(軽減税率:0.1%、要件あり)
計算例(借入額2,500万円):
登録免許税 = 2,500万円 × 0.1% = 2.5万円
(3) 司法書士報酬の相場
登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的で、その報酬は登録免許税とは別に必要です:
司法書士報酬の相場:
- 所有権移転登記:5~10万円
- 抵当権設定登記:3~7万円
- 登記事項確認・事前調査:1~3万円
- 合計:10~25万円程度
報酬は地域や事務所により異なるため、複数の司法書士に見積もりを取ることをお勧めします。
3. ローン関連費用
(1) 保証料・事務手数料の仕組み
住宅ローン利用時には、保証料または事務手数料が発生します。住宅金融支援機構の住宅ローンの保証料・事務手数料で詳細が解説されています。
保証料型(従来型):
- 支払方法は2種類:
- 一括前払い型: 借入額の0.5~2%程度
- 金利上乗せ型: 金利に0.2%程度上乗せ
- 繰上返済時に保証料の一部が返還される場合がある
事務手数料型(フラット35など):
- 一般的に借入額の2%程度
- 完済しても返還されない
計算例(借入2,500万円、保証料型・一括前払い1%の場合):
保証料 = 2,500万円 × 1% = 25万円
(2) 団体信用生命保険料
住宅ローンの団体信用生命保険(団信)は、借主が死亡・高度障害時にローン残債が弁済される保険です:
- 多くの金融機関では保険料が金利に含まれている(追加費用なし)
- がん団信、3大疾病団信など特約を付ける場合は金利上乗せ(0.1~0.3%程度)
(3) 火災保険・地震保険
戸建て購入時には火災保険の加入が実質的に必須です:
火災保険料の決定要素:
- 建物の構造(T構造:耐火構造、H構造:非耐火構造)
- 建物の所在地
- 補償内容(火災のみ、水災・風災等も含むか)
- 保険金額(建物の評価額)
- 契約期間(最長10年)
保険料の目安(建物評価額2,000万円):
構造 | 火災保険(10年) | 地震保険(5年) |
---|---|---|
T構造(耐火) | 15~25万円 | 3~7万円 |
H構造(非耐火) | 30~40万円 | 7~10万円 |
買い替えの場合、旧居の火災保険を解約すると残存期間分の保険料が返還される場合があります。
4. 買い替え特有の追加費用
(1) つなぎ融資の利息
購入先行で買い替える場合、旧居の売却代金が入る前に新居の購入資金が必要になるため、「つなぎ融資」を利用することがあります。
つなぎ融資の仕組み:
- 旧居の売却代金が入るまでの短期間(3~6か月程度)の融資
- 金利:2~4%程度(住宅ローンより高い)
- 利息は日割りで発生
利息の計算例(借入3,000万円、金利3%、期間90日):
利息 = 3,000万円 × 3% × 90日 ÷ 365日 = 約22.2万円
つなぎ融資を使わずに済むよう、売却先行または同時決済が望ましいですが、市場環境や物件の売れ行きによっては難しい場合もあります。
(2) 仮住まい費用と引越費用(2回分)
売却先行で買い替える場合、旧居を引き渡してから新居の入居までの間、仮住まいが必要になることがあります:
仮住まい費用(期間3か月の場合):
- 賃料:月10~20万円 × 3か月 = 30~60万円
- 敷金・礼金:賃料の2~4か月分 = 20~80万円(一部は退去時に返還)
- 合計:50~140万円程度
引越費用(2回分):
- 1回目:旧居から仮住まいへ = 10~30万円
- 2回目:仮住まいから新居へ = 10~30万円
- 合計:20~60万円程度
仮住まいを避けるため、引渡し猶予(売却後も一定期間居住可能)を交渉する方法もあります。
(3) 住宅ローン重複期間の利息
購入先行で買い替える場合、旧居のローンと新居のローンが一時的に重複する期間が発生します:
重複期間の利息例(旧居ローン残債2,000万円、金利1%、重複期間3か月):
重複期間の利息 = 2,000万円 × 1% × 90日 ÷ 365日 = 約4.9万円
この期間は両方のローンの返済が必要となるため、資金繰りに注意が必要です。
5. 買い替え特有の税制優遇
(1) 譲渡損失の繰越控除の要件
旧居を売却して損失が出た場合、その損失を給与所得等から控除できる「譲渡損失の繰越控除」という制度があります。国税庁の買い替え特例(譲渡損失の繰越控除)で詳細が解説されています。
適用要件:
- 旧居の所有期間が5年超
- 旧居の売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を購入
- 新居の床面積50㎡以上
- 新居の住宅ローンの借入期間10年以上
- 新居取得の翌年12月31日までに居住
控除の内容:
- 譲渡損失を給与所得等から控除(損益通算)
- 控除しきれない損失は翌年以降3年間繰越可能
計算例:
- 旧居の売却価格:3,000万円
- 旧居の取得費等:3,500万円
- 譲渡損失:500万円
- 給与所得:600万円
- 課税所得:600万円 − 500万円 = 100万円(大幅に減少)
この制度により、売却損が出た場合の税負担を大幅に軽減できます。
(2) 売却と購入のタイミング制約
譲渡損失の繰越控除を受けるには、売却と購入のタイミングに制約があります:
タイミング要件:
旧居の売却年の前年1月1日 ~ 翌年12月31日
└─── この期間内に新居を購入する必要がある ───┘
具体例:
- 旧居の売却:2025年7月
- 新居の購入期限:2026年12月31日まで
- 対象期間:2024年1月1日~2026年12月31日(3年間)
このタイミング制約を満たすよう、売却・購入のスケジュールを計画する必要があります。
6. 買い替え購入後に使える控除・減税
(1) 住宅ローン控除の適用要件
新居の購入では、住宅ローン控除を新たに適用できます。国税庁の住宅ローン控除の適用要件によれば、主な要件は以下の通りです:
適用要件:
- 自己居住用住宅であること
- 床面積50㎡以上(合計所得1,000万円以下なら40㎡以上)
- 借入期間10年以上
- 合計所得3,000万円以下(新築の場合は2,000万円以下)
- 取得後6か月以内に居住開始
控除額(2024年入居の場合):
- 新築認定住宅:年間最大35万円 × 13年間
- 新築ZEH水準省エネ住宅:年間最大31.5万円 × 13年間
- 新築省エネ基準適合住宅:年間最大28万円 × 13年間
- 中古住宅:年間最大14~21万円 × 10年間(省エネ性能による)
注意点: 旧居で住宅ローン控除を受けていた場合でも、新居で新たに適用可能です。ただし、譲渡損失の繰越控除と併用する場合は、一定の制約があります。
(2) 不動産取得税の軽減措置
新居の購入では、不動産取得税の軽減措置が適用できます(前述の通り):
軽減措置(戸建ての場合):
- 建物:評価額から1,200万円控除(新築の場合)
- 土地:評価額 × 1/2 × 3%(さらに減額措置あり)
- 要件:床面積50㎡以上240㎡以下、自己居住用など
軽減措置を受けるには、都道府県税事務所への申請が必要です。申請期限は取得後60日以内(都道府県により異なる)のため、忘れずに手続きしましょう。
まとめ:買い替え購入の諸費用は事前の資金計画が重要
買い替え時の戸建て購入では、通常の購入諸費用に加えて、つなぎ融資利息、仮住まい費用、引越費用2回分など、買い替え特有の追加費用が発生します。これらを含めた総費用は、物件価格の8~12%程度になる場合もあります。
重要なポイントの再確認:
- 基本的な購入諸費用は物件価格の6~10%程度
- 買い替え特有の追加費用として、つなぎ融資利息・仮住まい費用・引越費用2回分などが発生
- 売却先行は仮住まい費用、購入先行はつなぎ融資利息が必要
- 譲渡損失の繰越控除で売却損を所得から控除可能
- 新居の購入で住宅ローン控除を新たに適用できる
買い替えは売却と購入の2つの取引を並行して進めるため、資金計画とスケジュール管理が重要です。不動産会社・税理士・ファイナンシャルプランナーなど専門家のアドバイスを活用し、計画的に進めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 買い替え時の戸建て購入で諸費用はいくらかかりますか?
A: 通常の購入諸費用(物件価格の6~10%)に加え、つなぎ融資利息、仮住まい費用、引越費用2回分などの追加費用が発生します。3,000万円の戸建てなら、基本諸費用180~300万円に、買い替え特有の追加費用50~200万円を加えた、合計230~500万円程度が目安となります。売却先行か購入先行かで追加費用の内訳が異なります。
Q2: 売却先行と購入先行、どちらが諸費用を抑えられますか?
A: 売却先行は仮住まい費用(50~140万円程度)と引越費用2回分(20~60万円程度)が発生しますが、つなぎ融資が不要です。購入先行はつなぎ融資利息(20~50万円程度)とローン重複期間の利息が必要ですが、仮住まいは不要です。総額では同程度になる場合が多いですが、資金繰りの面で売却先行の方が安全と言えます。
Q3: 買い替え特例を使うための条件は?
A: 譲渡損失の繰越控除を受けるための主な条件は、旧居の所有期間が5年超、旧居の売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を購入、新居の床面積50㎡以上、新居の住宅ローンの借入期間10年以上などです。これらの要件を満たせば、売却損を給与所得等から控除でき、控除しきれない損失は翌年以降3年間繰越可能です。
Q4: 買い替えでも住宅ローン控除は使えますか?
A: 新居の購入で住宅ローン控除を新たに適用可能です。旧居で住宅ローン控除を受けていた場合でも、新居で再度適用できます。ただし、譲渡損失の繰越控除と併用する場合は、一定の制約があります。新居の床面積50㎡以上、借入期間10年以上、取得後6か月以内に居住開始などの要件を満たす必要があります。