投資用中古戸建て売却の譲渡所得税|減価償却・5年の壁

公開日: 2025/10/12

投資用中古戸建て売却時の譲渡所得税の基本

投資用の中古戸建てを売却する際、譲渡所得税の計算は居住用不動産とは異なる点があります。特に減価償却の扱いや適用できる特例の有無が大きく異なるため、事前の理解が重要です。

この記事のポイント:

  • 投資用不動産は3,000万円控除などの特例が使えない
  • 減価償却後の簿価が取得費になるため税額が高額になりやすい
  • 所有期間5年超で税率が39.63%→20.315%に半減
  • 譲渡年の1月1日時点で保有期間を判定
  • 消費税の課税事業者判定に注意が必要

(1) 譲渡所得の計算式

譲渡所得税の計算式は以下の通りです(国税庁: 譲渡所得の計算方法):

譲渡所得 = 収入金額 − 取得費 − 譲渡費用

  • 収入金額: 売却価格
  • 取得費: 購入代金 + 購入時諸費用 − 減価償却費
  • 譲渡費用: 売却時の仲介手数料、測量費など

投資用不動産の場合、減価償却費を差し引いた簿価が取得費になる点が重要です。減価償却が進むほど取得費が減少し、譲渡所得が増えます。

(2) 投資用物件と居住用物件の違い

投資用不動産と居住用不動産では、税務上の扱いが大きく異なります。

項目 居住用不動産 投資用不動産
3,000万円控除 適用可能 適用不可
軽減税率特例 適用可能 適用不可
減価償却 非事業用(1.5倍の耐用年数) 事業用(通常の耐用年数)
税負担 相対的に低い 相対的に高い

投資用不動産は特例が使えないため、税負担が大きくなる傾向があります。

短期譲渡と長期譲渡の税率差

(1) 5年の保有期間による税率の違い

譲渡所得税の税率は所有期間によって大きく異なります(国税庁: 長期譲渡所得と短期譲渡所得)。

判定基準: 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうか

所有期間 区分 所得税 住民税 合計税率
5年以内 短期譲渡 30.63% 9% 39.63%
5年超 長期譲渡 15.315% 5% 20.315%

短期譲渡の税率は長期譲渡の約2倍です。

判定の注意点:

  • 購入日: 2019年7月1日
  • 売却日: 2024年6月30日
  • 判定日: 2024年1月1日(所有期間4年6ヶ月) → 短期譲渡

実際の所有期間が5年近くでも、判定日基準では短期譲渡になる場合があります。

(2) 具体的な税額シミュレーション

前提条件:

  • 売却価格: 2,500万円
  • 購入時取得費: 2,500万円(土地1,500万円 + 建物1,000万円)
  • 減価償却費: 460万円(10年保有)
  • 減価償却後の取得費: 2,040万円(土地1,500万円 + 建物540万円)
  • 譲渡費用: 100万円
  • 譲渡所得: 2,500万円 − 2,040万円 − 100万円 = 360万円

税額比較:

保有期間 税率 税額
5年以内(短期) 39.63% 約143万円
5年超(長期) 20.315% 約73万円
差額 - 約70万円

5年超保有すると、約70万円の節税になります。

減価償却を考慮した取得費の計算

(1) 木造建物の減価償却(耐用年数22年)

投資用不動産の場合、建物部分は減価償却が必要です(国税庁: 減価償却資産の償却方法)。

木造建物の減価償却:

  • 耐用年数: 22年
  • 償却方法: 定額法
  • 償却率: 0.046(年4.6%)

計算例:

  • 建物購入価格: 1,000万円
  • 年間償却額: 1,000万円 × 0.046 = 46万円
  • 10年後の簿価: 1,000万円 − (46万円 × 10年) = 540万円

(2) 中古建物の減価償却計算

中古建物を購入した場合、残存耐用年数を算出して減価償却を計算します。

簡便法による残存耐用年数の計算:

  1. 法定耐用年数を超えている場合:

    • 残存耐用年数 = 法定耐用年数 × 0.2
    • 例: 木造(法定22年)の築30年物件 → 22年 × 0.2 = 4年(端数切捨て)
  2. 法定耐用年数を超えていない場合:

    • 残存耐用年数 = (法定耐用年数 − 経過年数) + 経過年数 × 0.2
    • 例: 木造(法定22年)の築10年物件 → (22年 − 10年) + 10年 × 0.2 = 14年

中古建物は耐用年数が短くなるため、年間の減価償却費が大きくなります。

投資用物件では使えない特例

(1) 3,000万円特別控除の適用条件

居住用財産を売却した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます(国税庁: マイホームを売ったときの特例)。

主な要件:

  • 自己の居住用財産であること
  • 居住しなくなってから3年以内の売却
  • 親子や配偶者など特別な関係者への譲渡でないこと

(2) 投資用物件が対象外となる理由

投資用不動産は「自己の居住用財産」ではないため、3,000万円特別控除の対象外です。

同様に、以下の特例も使えません:

  • 軽減税率の特例(所有期間10年超の場合の税率14.21%)
  • 買換え特例(特定居住用財産の買換えの場合の課税繰延)

これらの特例は居住用財産のみが対象で、投資用不動産には適用されません。

税負担の比較例:

譲渡所得3,000万円の場合:

種類 適用特例 課税所得 税額(長期)
居住用 3,000万円控除 0円 0円
投資用 特例なし 3,000万円 約609万円

投資用不動産の税負担は大きく増えます。

譲渡所得の確定申告方法

(1) 申告書の書き方と必要書類

投資用不動産を売却した場合、翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)が必要です。

必要書類:

  • 確定申告書(第一表・第二表)
  • 確定申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書のコピー(売却時・購入時)
  • 仲介手数料などの領収書
  • 登記事項証明書
  • 減価償却の計算明細

投資用不動産は毎年の不動産所得の申告で減価償却を計上しているため、その記録が必要です。

(2) 申告期限

譲渡所得の確定申告は、売却した年の翌年2月16日〜3月15日です。

期限内に申告しないと、以下のペナルティがあります:

  • 無申告加算税(15%〜20%)
  • 延滞税(年7.3%〜14.6%)

投資用不動産の税務は複雑なため、税理士のサポートを受けることをおすすめします。

投資用中古戸建て売却の節税ポイント

(1) 5年超保有による長期譲渡税率の適用

最も効果的な節税方法は、5年超保有して長期譲渡税率(20.315%)を適用することです。

短期譲渡(39.63%)と長期譲渡(20.315%)では税率が約2倍違うため、可能であれば5年超の保有を検討しましょう。

売却時期の検討:

  • 購入日: 2019年7月1日
  • 長期譲渡になる最短の売却日: 2025年1月1日以降

判定日(売却年の1月1日)を意識した売却計画が重要です。

(2) 譲渡費用の計上漏れ防止

譲渡費用として以下の項目を漏れなく計上しましょう:

認められる譲渡費用:

  • 仲介手数料
  • 測量費
  • 解体費
  • 登記費用(抵当権抹消など)
  • 印紙税
  • 立退料(賃貸中の場合)
  • 建物の取り壊し費用

認められない費用:

  • 修繕費(売却前の通常の維持管理費用)
  • 固定資産税・都市計画税
  • 管理費

これらの領収書を保管し、確定申告で漏れなく計上することで節税できます。

その他の節税ポイント:

  • 購入時の取得費を正確に計上(契約書・領収書の保管)
  • 資本的支出のリフォーム費用を取得費に加算
  • 減価償却の計算を正確に行う
  • 税理士に相談して最適な税務処理を行う

まとめ

投資用中古戸建てを売却する際の譲渡所得税は、居住用不動産とは大きく異なります。3,000万円控除などの特例が使えず、減価償却後の簿価が取得費になるため、税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。

所有期間5年超で税率が39.63%から20.315%に半減するため、売却時期の検討が重要です。判定は譲渡年の1月1日時点で行われるため、計画的な売却が節税につながります。

減価償却の計算や消費税の課税事業者判定など、専門的な判断が必要な場面が多いため、税理士のサポートを受けることをおすすめします。購入時から書類を保管し、正確な取得費・譲渡費用の計上で節税を図りましょう。

よくある質問

Q1: 投資用中古戸建てを5年以内に売却すると税金はいくらになりますか?

A: 短期譲渡所得として税率39.63%(所得税30.63%+住民税9%)が適用されます。減価償却後の譲渡所得に課税されるため、税額が高額になりやすいです。5年超保有すると長期譲渡税率20.315%が適用され、約半分の税率になります。

Q2: 中古建物の減価償却はどう計算しますか?

A: 木造は耐用年数22年が基本です。中古の場合は簡便法で残存耐用年数を算出します。法定耐用年数を超えている場合は「法定耐用年数×0.2」、超えていない場合は「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×0.2」で計算します。築30年の木造なら残存耐用年数は4年です。

Q3: 投資用物件でも3,000万円特別控除は使えますか?

A: 使えません。3,000万円特別控除は「自己の居住用財産」のみが対象です。投資用不動産は対象外で、軽減税率の特例や買換え特例も適用されません。居住用不動産と比べて税負担が大きくなる点に注意が必要です。

Q4: 5年の保有期間はいつから起算されますか?

A: 取得日から売却した年の1月1日までで判定します。実際の所有期間ではなく、譲渡年の1月1日時点で5年超かどうかを判定します。例えば2019年7月購入・2024年6月売却の場合、2024年1月1日時点で4年6ヶ月のため短期譲渡になります。

Q5: 減価償却後の簿価が取得費になるのはなぜですか?

A: 投資用不動産は毎年の確定申告で減価償却費を経費として計上しているため、その分を取得費から差し引く必要があります。既に経費として税務上の利益を受けているため、売却時には減価償却後の簿価で計算します。これにより譲渡所得が増え、税負担が大きくなります。

Q6: 消費税の課税事業者判定とは何ですか?

A: 基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の課税事業者になります。投資用不動産を売却する際、建物部分の売却価格に消費税がかかる場合があります。個人の小規模な不動産投資家は通常該当しませんが、複数物件を持つ場合は注意が必要です。

よくある質問

Q1投資用中古戸建てを5年以内に売却すると税金はいくらになりますか?

A1短期譲渡所得として税率39.63%(所得税30.63%+住民税9%)が適用されます。減価償却後の譲渡所得に課税されるため、税額が高額になりやすいです。5年超保有すると長期譲渡税率20.315%が適用され、約半分の税率になります。

Q2中古建物の減価償却はどう計算しますか?

A2木造は耐用年数22年が基本です。中古の場合は簡便法で残存耐用年数を算出します。法定耐用年数を超えている場合は「法定耐用年数×0.2」、超えていない場合は「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×0.2」で計算します。築30年の木造なら残存耐用年数は4年です。

Q3投資用物件でも3,000万円特別控除は使えますか?

A3使えません。3,000万円特別控除は「自己の居住用財産」のみが対象です。投資用不動産は対象外で、軽減税率の特例や買換え特例も適用されません。居住用不動産と比べて税負担が大きくなる点に注意が必要です。

Q45年の保有期間はいつから起算されますか?

A4取得日から売却した年の1月1日までで判定します。実際の所有期間ではなく、譲渡年の1月1日時点で5年超かどうかを判定します。例えば2019年7月購入・2024年6月売却の場合、2024年1月1日時点で4年6ヶ月のため短期譲渡になります。

Q5減価償却後の簿価が取得費になるのはなぜですか?

A5投資用不動産は毎年の確定申告で減価償却費を経費として計上しているため、その分を取得費から差し引く必要があります。既に経費として税務上の利益を受けているため、売却時には減価償却後の簿価で計算します。これにより譲渡所得が増え、税負担が大きくなります。

Q6消費税の課税事業者判定とは何ですか?

A6基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の課税事業者になります。投資用不動産を売却する際、建物部分の売却価格に消費税がかかる場合があります。個人の小規模な不動産投資家は通常該当しませんが、複数物件を持つ場合は注意が必要です。

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