離婚購入新築マンションの譲渡所得税基礎
離婚に伴い新築マンションを購入する場合、購入方法により税務処理が大きく異なります。財産分与として取得する場合と、離婚後に新規購入する場合では、譲渡所得税の取扱いが異なるため、正確な理解が重要です。
離婚時の新築マンション購入のポイント
- 財産分与による取得は原則非課税(贈与税不要)
- 財産分与で取得した場合、元配偶者の取得費・取得日を引き継ぐ
- 離婚後の新規購入は通常の購入と同じ税務処理
- 将来の売却時には譲渡所得税が課される可能性がある
- 離婚協議書で財産分与の内容を明確にしておく必要がある
(1) 譲渡所得税とは
譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益に対して課される税金です。離婚時の新築マンション購入では、購入時点で譲渡所得税は発生しませんが、将来この新築マンションを売却する際に課税される可能性があります。
所有期間による税率
所有期間 | 区分 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|---|
5年以下 | 短期 | 30.63% | 9% | 39.63% |
5年超 | 長期 | 15.315% | 5% | 20.315% |
所有期間は売却した年の1月1日時点で判定します。ただし、財産分与で取得した場合、元配偶者の取得日から起算します。
(2) 離婚時の不動産と税金
離婚時に不動産を取得する方法は主に以下の2つです。
1. 財産分与による取得
離婚に伴う財産分与として、元配偶者から新築マンションを取得する場合。原則として贈与税は非課税です(国税庁による)。
2. 離婚後の新規購入
離婚後、財産分与で得た資金や自己資金で新たに新築マンションを購入する場合。通常の購入と同じ税務処理になります。
財産分与による取得の税務処理
財産分与により新築マンションを取得する場合、贈与税の取扱いと将来の譲渡所得税の計算方法を理解する必要があります。
(1) 課税・非課税の判定
財産分与は原則非課税
財産分与は、離婚時に夫婦の共有財産を分割する行為であり、贈与ではありません。そのため、原則として贈与税は課されません(国税庁による)。
過大な分与は課税される
ただし、以下のケースでは贈与税が課される可能性があります。
- 財産分与が夫婦の財産や婚姻期間などを考慮しても過大である場合
- 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
例:
- 夫婦の共有財産が3,000万円なのに、一方が5,000万円相当の不動産を取得した場合
- 超過部分の2,000万円に贈与税が課される可能性がある
(2) 財産分与と贈与の区分
財産分与と贈与を区別するため、離婚協議書に以下を明記することが重要です。
離婚協議書に記載すべき内容
- 財産分与として不動産を譲渡すること
- 不動産の評価額
- 夫婦の財産総額と分与の割合
- 財産分与の理由(共有財産の清算など)
これにより、税務調査があった場合でも、財産分与であることを証明できます。
取得費の計算方法
財産分与で取得した新築マンションを将来売却する際、譲渡所得の計算に必要な「取得費」は、元配偶者の取得費を引き継ぎます。
(1) 財産分与時の取得費引継ぎ
重要な原則
財産分与により不動産を取得した場合、元配偶者が支払った購入価格(減価償却後)を取得費として引き継ぎます(国税庁による)。
財産分与時の時価ではなく、元配偶者の購入時の価格が取得費となります。
計算例
- 元配偶者の購入価格:4,000万円(土地2,000万円、建物2,000万円)
- 購入時諸費用:200万円
- 財産分与時の時価:3,500万円
- 財産分与から5年後に売却:5,000万円
- 譲渡費用:150万円
- 構造:RC造(償却率0.022)、築5年で分与、分与後5年保有(合計築10年)
減価償却費(10年分):2,000万円 × 0.9 × 0.022 × 10年 = 396万円
取得費:(4,000万円 + 200万円) - 396万円 = 3,804万円
譲渡所得:5,000万円 - (3,804万円 + 150万円) = 1,046万円
(2) 元配偶者の取得費・取得日を引き継ぐ
所有期間の判定
所有期間は、元配偶者が購入した日から起算します。財産分与を受けた日ではありません。
例:
- 2018年1月に元配偶者が購入
- 2021年1月に財産分与で取得
- 2024年12月に売却
所有期間は、2018年1月から起算し、2024年1月1日時点で6年超となるため、長期譲渡所得(税率20.315%)となります。
離婚後の新規購入
離婚後、財産分与で得た資金や自己資金で新たに新築マンションを購入する場合、通常の購入と同じ税務処理になります。
(1) 新規購入時の税務処理
購入時にかかる税金
税目 | 概要 | 軽減措置 |
---|---|---|
不動産取得税 | 標準税率4% | 新築住宅は軽減措置あり |
登録免許税 | 所有権保存登記・抵当権設定登記 | 住宅用家屋は税率軽減あり |
印紙税 | 売買契約書・ローン契約書 | 契約金額により変動 |
取得費の記録
新規購入の場合、将来の売却時に備えて以下を記録・保管しておく必要があります。
- 売買契約書
- 領収書(購入代金、仲介手数料、登記費用等)
- 不動産取得税の納税証明書
(2) 住宅ローン控除の適用
離婚後に新規購入する場合、要件を満たせば住宅ローン控除を受けられます(国税庁による)。
控除額
住宅区分 | 借入限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
認定住宅 | 5,000万円 | 13年間 | 455万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 13年間 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 13年間 | 364万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 13年間 | 273万円 |
要件
- 床面積50㎡以上(合計所得1,000万円以下なら40㎡以上)
- 引き渡しから6か月以内に居住開始
- 合計所得2,000万円以下
- 住宅ローンの返済期間が10年以上
離婚後の新規購入は、通常の購入と同じ要件で住宅ローン控除を受けられます。
将来売却時の注意点
財産分与で取得した新築マンションを将来売却する際、以下の点に注意が必要です。
(1) 取得費の証明
財産分与で取得した場合、元配偶者の取得費を引き継ぐため、以下の書類が必要です。
必要書類
- 元配偶者の購入時の売買契約書
- 購入時の諸費用の領収書
- 離婚協議書(財産分与の内容が記載されたもの)
- 登記事項証明書(財産分与による所有権移転の記録)
これらの書類がないと、元配偶者の取得費を証明できず、概算取得費(売却価格の5%)しか認められない可能性があります。
計算例
売却価格5,000万円の場合:
- 元配偶者の取得費を証明できる:3,800万円
- 概算取得費:5,000万円 × 5% = 250万円
取得費の差:3,550万円
譲渡所得の差:3,550万円
税額の差(長期譲渡):3,550万円 × 20.315% = 約721万円
元配偶者の購入時の書類を保管しておくことで、約721万円の節税になります。
(2) 離婚協議書の重要性
離婚協議書には、以下を明記しておくことが重要です。
記載すべき内容
- 財産分与として不動産を譲渡すること
- 不動産の評価額
- 元配偶者の取得時期・取得価格
- 夫婦の財産総額と分与の割合
これにより、将来の売却時に税務署から財産分与であることを疑われることがなくなります。
専門家への相談
離婚時の不動産処理は、税務・法律の両面で複雑なため、専門家への相談をおすすめします。
(1) 税理士への相談
相談すべきタイミング
離婚協議の初期段階で相談することをおすすめします。財産分与の方法により税金が大きく変わるためです。
税理士への相談内容
- 財産分与が過大でないかの判断
- 将来の売却時の譲渡所得税の試算
- 取得費の引継ぎ方法の確認
- 必要書類の準備
(2) 弁護士への相談
弁護士への相談内容
- 離婚協議書の作成
- 財産分与の割合の適正性
- 慰謝料と財産分与の区分
- 所有権移転登記の手続き
税理士と弁護士の両方に相談することで、税務・法律の両面から最適な財産分与の方法を検討できます。
まとめ
離婚に伴い新築マンションを購入する場合、財産分与による取得と離婚後の新規購入では税務処理が大きく異なります。財産分与は原則非課税ですが、将来の売却時には元配偶者の取得費を引き継ぐため、購入時の書類を保管しておく必要があります。
離婚後の新規購入は通常の購入と同じ税務処理となり、住宅ローン控除も適用できます。財産分与の場合、離婚協議書に財産分与の内容を明確に記載し、元配偶者の購入時の書類を引き継いでおくことが、将来の売却時の節税につながります。
離婚時の不動産処理は複雑なため、離婚協議の初期段階で税理士と弁護士の両方に相談することをおすすめします。