新築マンション購入の譲渡所得税|取得費の範囲と将来の特例

公開日: 2025/10/16

新築マンション購入時の譲渡所得税基礎

新築マンションを購入する際、多くの方は購入時の諸費用や住宅ローン控除に関心を持ちますが、将来売却する際の譲渡所得税についても理解しておくことが重要です。購入時に適切な記録を残し、税制の基礎を理解しておくことで、将来の売却時にスムーズな手続きと適切な節税対策が可能になります。

この記事で分かること(要点まとめ)

  • 譲渡所得税は購入時ではなく、将来売却時に発生する税金である
  • 譲渡所得税の計算には、購入代金や諸費用(取得費)の記録が不可欠
  • 所有期間5年超で税率が約半分になるため、売却タイミングが重要
  • 居住用財産として売却すれば、3,000万円特別控除などの優遇措置を受けられる可能性がある
  • 購入時の契約書、領収書などの書類を確実に保管しておく必要がある

(1) 譲渡所得とは

譲渡所得とは、不動産や株式などの資産を売却して得た利益に対する所得のことです。不動産の場合、売却価格から取得費(購入代金や諸費用)と譲渡費用(売却時の諸費用)を差し引いた金額が譲渡所得となり、これに対して税金が課されます。

譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率

重要なポイント:

  • 譲渡所得税は売却時に発生する税金であり、購入時には課税されない
  • 売却価格が取得費と譲渡費用の合計を下回る場合、譲渡損失となり税金は発生しない
  • 居住用財産の売却には、特別控除などの優遇措置がある

(2) 購入時に知っておくべき税務知識

新築マンション購入時に将来の譲渡所得税について知っておくべきポイントは以下の通りです。

1. 取得費の記録が将来の税額を左右する

購入代金だけでなく、仲介手数料、登記費用、不動産取得税などの諸費用も取得費に含まれます。これらの費用を正確に記録し、証明書類を保管しておくことで、将来の譲渡所得を減らし、税負担を軽減できます。

2. 所有期間の計算は購入日から開始

所有期間は、不動産の引渡しを受けた日(原則として登記日)から起算します。ただし、売却時の所有期間判定は「売却した年の1月1日時点」で行うため、実際の保有年数と税務上の所有期間が異なる場合があります。

3. 居住実態が特例適用の鍵

将来売却する際、自己居住用として使用していれば3,000万円特別控除などの優遇措置を受けられる可能性があります。投資用や賃貸用として使用すると、これらの特例は適用できません。

譲渡所得の計算方法

(1) 譲渡所得の計算式

譲渡所得は、以下の式で計算します。

譲渡所得 = 譲渡価額 − (取得費 − 減価償却費) − 譲渡費用

各要素の説明:

  • 譲渡価額: 売却価格(実際に受け取る金額)
  • 取得費: 購入代金 + 購入時諸費用 − 減価償却費
  • 譲渡費用: 売却時の仲介手数料、測量費、印紙税など

具体例:

  • 購入価格: 5,000万円
  • 購入時諸費用: 150万円
  • 減価償却費: 200万円(10年保有した場合の概算)
  • 売却価格: 5,500万円
  • 譲渡費用: 170万円
取得費 = 5,000万円 + 150万円 − 200万円 = 4,950万円
譲渡所得 = 5,500万円 − 4,950万円 − 170万円 = 380万円

(2) 短期・長期譲渡の税率の違い

譲渡所得税の税率は、所有期間によって大きく異なります。

所有期間 区分 所得税 住民税 合計税率
5年以下 短期譲渡所得 30.63% 9% 39.63%
5年超 長期譲渡所得 15.315% 5% 20.315%

※所得税には復興特別所得税(2.1%)が含まれています。

所有期間の判定:

所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。

具体例:

  • 購入日(引渡日): 2020年3月1日
  • 売却日: 2025年6月30日

判定は2025年1月1日時点で行います。2020年3月1日から2025年1月1日までは4年10ヶ月であり、5年を超えていないため短期譲渡所得となります。

もし売却を2026年1月1日以降に延期すれば、5年超となり長期譲渡所得として税率が約半分になります。

税額比較(譲渡所得500万円の場合):

  • 短期譲渡所得: 500万円 × 39.63% = 約198万円
  • 長期譲渡所得: 500万円 × 20.315% = 約102万円
  • 差額: 約96万円

所有期間が5年前後の場合、売却タイミングを数ヶ月調整するだけで大きな節税効果があります。

取得費の計算と記録

(1) 取得費に含まれる費用

取得費には、以下の費用が含まれます。

費用項目 内容 取得費への算入
購入代金 マンションの売買代金
仲介手数料 不動産会社への仲介手数料
登録免許税 所有権移転登記の税金
登記手数料 司法書士への報酬
不動産取得税 購入時の不動産取得税
印紙税 売買契約書の印紙代
ローン事務手数料 金融機関への手数料(一部) ○(土地・建物取得分のみ)
固定資産税清算金 売主との日割り清算分
管理費・修繕積立金 毎月の管理費等 ×
火災保険料 火災保険・地震保険料 ×
引越し費用 引越し代金 ×

減価償却について:

建物部分は、時間の経過とともに価値が減少するため、減価償却費を取得費から差し引く必要があります。居住用建物(非事業用)の場合、以下の式で計算します。

減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

マンション(鉄筋コンクリート造)の償却率は0.015です。

具体例:

  • 建物取得価額: 3,000万円
  • 経過年数: 10年
減価償却費 = 3,000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年 = 405万円

(2) 証明書類の保管

将来の確定申告時に取得費を証明するため、以下の書類を確実に保管しておく必要があります。

必須書類:

  • 売買契約書(購入時)
  • 重要事項説明書
  • 仲介手数料の領収書
  • 登記費用の領収書
  • 不動産取得税の納税通知書
  • 固定資産税清算金の明細

推奨書類:

  • ローン契約書
  • 金融機関への手数料の領収書
  • リフォーム費用の契約書・領収書(大規模修繕の場合、取得費に算入できる可能性がある)

これらの書類を紛失すると、取得費を証明できず、概算取得費(売却価格の5%)で計算せざるを得なくなり、税負担が大きく増加します。

将来売却時に使える特例

(1) 3,000万円特別控除の要件

3,000万円特別控除(租税特別措置法35条)は、居住用財産を売却した際に譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。

主な要件:

  1. 自己の居住の用に供していた家屋またはその敷地であること
  2. 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  3. 売却先が配偶者、直系血族、生計を一にする親族などでないこと
  4. 前年・前々年に同じ特例を受けていないこと
  5. 売却した年の前年・前々年に「買換え特例」等を受けていないこと

適用効果:

譲渡所得が3,000万円以下であれば、税金が0円となります。譲渡所得が3,000万円を超える場合でも、超過分にのみ課税されます。

具体例:

  • 譲渡所得: 2,500万円
  • 特別控除: 2,500万円(全額控除)
  • 課税所得: 0円
  • 譲渡所得税: 0円

(2) 所有期間と税率の関係

前述の通り、所有期間が5年超であれば長期譲渡所得として低い税率(20.315%)が適用されます。さらに、所有期間が10年超の居住用財産を売却した場合、軽減税率の特例(租税特別措置法31条の3)により、6,000万円以下の部分に14.21%の税率が適用されます。

軽減税率の特例:

  • 所有期間10年超の居住用財産が対象
  • 譲渡所得6,000万円以下の部分: 14.21%
  • 譲渡所得6,000万円超の部分: 20.315%
  • 3,000万円特別控除と併用可能

具体例(所有期間12年、譲渡所得4,000万円の場合):

ステップ1: 3,000万円特別控除
4,000万円 − 3,000万円 = 1,000万円

ステップ2: 軽減税率適用(1,000万円 < 6,000万円)
1,000万円 × 14.21% = 約142万円

通常税率の場合:
1,000万円 × 20.315% = 約203万円

節税額: 約61万円

住宅ローン控除との関係

(1) 住宅ローン控除の基本

住宅ローン控除は、住宅を購入する際にローンを組んだ場合、年末のローン残高の一定割合を所得税・住民税から控除できる制度です。新築マンション購入時には、最長13年間にわたり控除を受けられます。

2024年以降の住宅ローン控除(新築の場合):

  • 控除率: 0.7%
  • 控除期間: 13年
  • 借入限度額: 省エネ基準適合住宅3,000万円、ZEH水準省エネ住宅3,500万円、長期優良住宅・低炭素住宅4,500万円

(2) 特例の併用制限

住宅ローン控除と譲渡所得の特例(3,000万円特別控除等)には、併用制限があります。

制限の内容:

  • 旧居を売却して3,000万円特別控除を適用すると、新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなる(租税特別措置法41条20項)
  • 買換え特例を適用する場合は、この制限はない

選択の判断:

  • 3,000万円控除が有利: 旧居の譲渡益が大きく、控除による節税額が住宅ローン控除3年分を上回る場合
  • 住宅ローン控除優先: 旧居の譲渡益が小さく、住宅ローン控除3年分の方が節税額が大きい場合

税理士に両方のパターンを試算してもらい、有利な方を選択することをお勧めします。

記録管理と出口戦略

(1) 取得費証明書類の保管

購入時の書類は、将来の売却時(何十年後になる可能性もある)まで保管する必要があります。

保管方法の推奨:

  1. 原本の保管: 重要書類は原本を保管し、ファイルにまとめる
  2. デジタル化: スキャンしてPDFで保存し、クラウドストレージにバックアップ
  3. 複製の作成: コピーを別の場所に保管し、災害時のリスク分散
  4. 一覧表の作成: 書類の種類、金額、保管場所を一覧表にまとめる

特に、売買契約書や仲介手数料の領収書は、紛失すると取得費を証明できなくなるため、厳重に保管してください。

(2) 将来の売却を見据えた準備

新築マンション購入時から、将来の売却を見据えた準備をしておくことが重要です。

準備のポイント:

  1. 所有期間の把握: 購入日を記録し、5年超・10年超のタイミングを意識する
  2. 居住実態の確保: 投資目的での購入でない限り、実際に居住して居住用財産の要件を満たす
  3. 修繕履歴の記録: 大規模なリフォームや修繕を行った場合、契約書・領収書を保管する(取得費に算入できる可能性がある)
  4. 税制改正の把握: 税制は定期的に改正されるため、売却検討時に最新情報を確認する
  5. 早めの税理士相談: 売却を検討し始めた段階で税理士に相談し、最適な売却タイミングと節税対策を検討する

まとめ

新築マンション購入時には、購入時の諸費用や住宅ローン控除に関心が集まりがちですが、将来の売却時に発生する譲渡所得税についても理解しておくことが重要です。

重要なポイント:

  • 譲渡所得税は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税される
  • 所有期間5年超で税率が約半分になるため、売却タイミングが重要
  • 居住用財産として売却すれば、3,000万円特別控除などの優遇措置を受けられる可能性がある
  • 購入時の契約書、領収書などの書類を確実に保管しておく必要がある
  • 3,000万円特別控除と新居の住宅ローン控除には併用制限があるため、どちらが有利か試算が必要

新築マンションは人生で最も大きな買い物の一つです。購入時から将来の出口戦略を見据え、適切な記録管理と税務知識を備えておくことで、将来の売却時にスムーズな手続きと最大限の節税効果を得られます。

よくある質問

Q1新築マンション購入時に譲渡所得税はかかりますか?

A1購入時には譲渡所得税はかかりません。譲渡所得税は、将来そのマンションを売却した際に発生する税金です。ただし、購入時の書類(売買契約書、領収書など)は将来の売却時に取得費を証明するために必要になるため、確実に保管しておく必要があります。これらの書類がないと、取得費を証明できず、概算取得費(売却価格の5%)での計算となり、税負担が大きく増加します。

Q2新築マンションの取得費に含まれる費用は何ですか?

A2購入代金に加えて、仲介手数料、登録免許税、登記手数料、不動産取得税、印紙税、ローン事務手数料(土地・建物取得分)、固定資産税清算金などが取得費に含まれます。一方、管理費、修繕積立金、火災保険料、引越し費用などは取得費に含まれません。これらの費用を正確に記録し、契約書や領収書を保管しておくことで、将来の譲渡所得を減らし、税負担を軽減できます。

Q3所有期間5年の判定はいつの時点で行いますか?

A3所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。例えば、2020年2月に購入し2025年12月に売却した場合、判定は2025年1月1日時点で行われ、この時点では4年11ヶ月しか経過していないため短期譲渡所得(税率39.63%)となります。もし2026年1月以降に売却すれば、5年超で長期譲渡所得(税率20.315%)となり、税率が約半分になります。

Q4将来売却する際に3,000万円特別控除は使えますか?

A4実際に居住していれば使えます。3,000万円特別控除は、自己の居住の用に供していた家屋またはその敷地が対象です。投資用や賃貸用として使用していた場合は適用できません。また、親族間売買や、前年・前々年に同じ特例を受けている場合も適用外です。特例を適用するには、売却した年の翌年に確定申告が必要です。税額が0円になる場合でも申告は必須です。

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