住み替えに伴う新築戸建て購入時の税務基礎
住み替えで新築戸建てを購入する場合、購入時点では譲渡所得税は発生しません。譲渡所得税は不動産を「売却」した際に課される税金であり、「購入」は課税対象外です。しかし、住み替えでは旧居を売却するため、その際に譲渡所得税が課される可能性があります。税負担を最小化するには、特例の選択と売却・購入のタイミング調整が重要です。
住み替え時の税務ポイント
- 購入自体に譲渡所得税はかからない
- 旧居売却時に3,000万円控除または買換え特例を選択できる
- 住宅ローン控除と譲渡所得特例には併用制限がある
- 売却・購入のタイミングで特例適用可否が変わる場合がある
- 早期の税理士相談で最適な選択ができる
(1) 譲渡所得税の基礎知識
譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益に対して課される税金です。住み替えの場合、旧居の売却時に課税されます。
所有期間による税率
所有期間 | 区分 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|---|
5年以下 | 短期 | 30.63% | 9% | 39.63% |
5年超 | 長期 | 15.315% | 5% | 20.315% |
10年超(居住用) | 軽減 | 6,000万円以下部分:10.21% 超過部分:15.315% |
6,000万円以下部分:4% 超過部分:5% |
6,000万円以下部分:14.21% 超過部分:20.315% |
所有期間は売却した年の1月1日時点で判定します。
(2) 計算方法の基本
譲渡所得税は、以下の式で計算されます(国税庁による)。
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)
- 譲渡価額:売却価格
- 取得費:購入価格 + 購入時諸費用 - 減価償却費
- 譲渡費用:仲介手数料、測量費、印紙税など売却時の諸費用
旧居売却時の3,000万円特別控除
居住用財産を売却した場合、所有期間に関係なく譲渡益から最高3,000万円まで控除できます(国税庁による)。
(1) 適用要件
主な要件
- 自己の居住用財産であること
- 売却した年の前年・前々年に同特例を使っていないこと
- 売却先が親族など特別な関係でないこと
- 居住しなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却すること
(2) 住み替え時の活用方法
計算例
- 旧居購入価格:3,000万円(土地1,500万円、建物1,500万円)
- 購入時諸費用:100万円
- 売却価格:4,500万円
- 譲渡費用:150万円
- 所有期間:15年(木造、減価償却費:1,500万円 × 0.9 × 0.046 × 15年 = 931万円)
取得費:(3,000万円 + 100万円) - 931万円 = 2,169万円
譲渡所得:4,500万円 - (2,169万円 + 150万円) = 2,181万円
3,000万円控除適用後
課税対象:2,181万円 - 3,000万円 = 0円
譲渡所得税:0円
このケースでは、3,000万円控除により譲渡所得税をゼロにできます。
買換え特例の活用
「特定の居住用財産の買換えの特例」は、一定の要件を満たす買い替えで、譲渡益の課税を次回売却時まで繰り延べる制度です(国税庁による)。
(1) 課税の繰延べの仕組み
要件
- 売却資産:所有期間10年超、居住期間10年以上
- 買換資産:床面積50㎡以上、取得の前年から翌年までに取得・居住
- 売却価格が1億円以下
繰延べの仕組み
買換え特例を使うと、旧居の取得費が新居に引き継がれます。
例:
- 旧居取得費:2,000万円、売却価格:5,000万円
- 新居購入価格:6,000万円
新居の取得費 = 2,000万円 × (6,000万円 ÷ 5,000万円) = 2,400万円
新居を6,000万円で購入しても、取得費は2,400万円としか認められません。将来新居を売却する際、譲渡益が大きくなり、課税されます。
(2) 3,000万円控除との選択
買換え特例と3,000万円控除は併用できないため、どちらか一方を選択する必要があります。
ケース | 推奨 | 理由 |
---|---|---|
譲渡益が3,000万円以下 | 3,000万円控除 | 完全非課税となる |
譲渡益が大きく、将来も住み続ける | 買換え特例 | 課税を将来に繰り延べられる |
住宅ローン控除を使いたい | 3,000万円控除 | 買換え特例だと控除制限の可能性 |
最後の住み替え | 3,000万円控除 | 今回で課税関係を完結できる |
一般的には、譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円控除を選択するケースが多いです。
新居購入時の住宅ローン控除
新築戸建て購入時には、住宅ローン控除を受けられます。ただし、譲渡所得特例との併用には制限があります。
(1) 住宅ローン控除の基本
住宅ローンを利用して住宅を取得した場合、年末ローン残高の0.7%を所得税(控除しきれない場合は住民税)から控除できます(国税庁による)。
控除額
住宅区分 | 借入限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
認定住宅 | 5,000万円 | 13年間 | 455万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 13年間 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 13年間 | 364万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 13年間 | 273万円 |
(2) 譲渡所得特例との併用制限
重要な制限
3,000万円特別控除や買換え特例を使うと、その前後3年間は住宅ローン控除が使えなくなります。
例:
- 2023年4月に旧居を売却し、3,000万円控除を適用
- 2023年5月に新居を購入 → 2020年~2026年は住宅ローン控除不可
- 2027年以降の購入なら住宅ローン控除適用可能
どちらが有利か
項目 | 3,000万円控除 | 住宅ローン控除 |
---|---|---|
節税額(譲渡益2,000万円の場合) | 約406万円(長期譲渡) | 最大455万円(認定住宅・13年間) |
適用タイミング | 売却時(一時的) | 購入後13年間 |
譲渡益の規模、借入額、所得税額などにより、どちらが有利かは変わります。税理士に相談して最適な選択をすることが重要です。
売却・購入のタイミング調整
住み替えでは、旧居の売却と新居の購入のタイミングにより、資金計画や特例適用が変わります。
(1) 売却先行のメリット・デメリット
売却先行型:旧居を先に売却し、その資金で新居を購入
メリット
- 資金計画が明確になる
- 二重ローン(ダブルローン)を回避できる
- 売却を急ぐ必要がなく、適正価格で売れる可能性が高い
デメリット
- 仮住まいが必要(家賃・引越し費用が2回)
- 新居探しに時間的制約がある
- 仮住まい期間中の荷物保管が必要な場合も
(2) 購入先行のメリット・デメリット
購入先行型:新居を先に購入し、後から旧居を売却
メリット
- 仮住まいが不要(引越し1回)
- じっくり新居を探せる
- 旧居の売却を急がずに済む
デメリット
- 一時的に二重ローン(ダブルローン)になる可能性
- つなぎ融資が必要な場合も(利息負担)
- 売却が長引くと資金繰りが厳しくなる
税制上の有利不利
買換え特例を使う場合、売却の前年から翌年までに新居を取得し居住開始する必要があります。このタイミングを外すと特例が使えなくなるため、スケジュール管理が重要です。
3,000万円控除の場合、売却と購入のタイミングに直接的な制限はありませんが、前後3年間の住宅ローン控除との関係を考慮する必要があります。
税理士相談のポイント
住み替えの税務は複雑なため、税理士への相談をおすすめします。
(1) 相談すべきタイミング
住み替え計画の初期段階で相談
- 売却予想価格と購入予算が決まった段階
- 特例選択により税負担が大きく変わる
- 確定申告時期では手遅れの場合がある
(2) 特例選択の最適化
税理士に相談する際は、以下の情報を用意しておくとスムーズです。
必要な情報
- 旧居の購入時期・購入価格・諸費用
- 旧居の構造(木造・RC造等)
- 売却予想価格
- 新居の購入予算・住宅ローン借入予定額
- 現在の所得税額(源泉徴収票)
- 今後の住み替え計画(最後の住み替えか、将来も買い替える可能性があるか)
税理士はこれらの情報をもとに、以下を検討します。
- 3,000万円控除と買換え特例のどちらが有利か
- 住宅ローン控除との併用を考慮した最適な選択
- 売却・購入のタイミング調整
- 確定申告の準備と必要書類
税理士費用
譲渡所得の確定申告は、一般的に5万円~15万円程度です(譲渡益の規模や複雑さにより変動)。特例選択の相談も含めて依頼できます。
まとめ
住み替えで新築戸建てを購入する場合、購入自体には譲渡所得税はかかりませんが、旧居売却時の税務戦略が重要です。3,000万円控除と買換え特例のどちらを選ぶかは、譲渡益の規模、将来の住み替え計画、住宅ローン控除の活用方針によって変わります。
特に、3,000万円控除を使うとその前後3年間は住宅ローン控除が使えなくなるため、トータルでの税負担を見据えた判断が必要です。また、売却・購入のタイミングは資金計画や特例適用に影響するため、早期の計画が重要です。
住み替えの税務は複雑なため、計画の初期段階で税理士に相談し、最適な特例選択とタイミング調整を行うことをおすすめします。