相続資金でマンションを購入する際の税務について
相続で現金や不動産を受け取った方の中には、その資金を活用してマンションを購入する方も多くいらっしゃいます。相続資金でマンションを購入する場合、相続税の問題や購入時の税金、将来の売却時の税金など、通常の購入とは異なる税務上のポイントがあります。
本記事では、相続資金を活用したマンション購入時の税務について、購入時にかかる税金から将来の売却時の譲渡所得税まで、包括的に解説します。
この記事のポイント
- マンション購入時に譲渡所得税は発生しないが、相続税は別途申告が必要な場合がある
- 購入時には不動産取得税や登録免許税がかかるが、軽減措置を利用できる
- 相続資金でもローンを組めば住宅ローン控除を適用できる
- 将来の売却時に備えて、購入時の契約書や領収書を大切に保管する必要がある
- 2024年4月から相続登記が義務化され、相続不動産を取得したら3年以内の名義変更が必要
1. 相続マンション購入と譲渡所得税の関係
(1) 購入時には譲渡所得税は発生しない
譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益に対して課される税金です。マンションを購入する際には、譲渡所得税は発生しません。
これは、相続資金で購入する場合でも、通常の購入でも同じです。譲渡所得税は、将来マンションを売却して利益が出た場合に初めて発生します。
(2) 将来の売却時に備えた取得費の記録
譲渡所得税は購入時には発生しませんが、将来マンションを売却する可能性がある場合、購入時点から準備をしておくことが重要です。
譲渡所得税の計算式は以下の通りです(国税庁「譲渡所得の計算」より)。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費を証明するためには、購入時の契約書や領収書が必須です。これらを紛失すると、取得費を証明できず、**概算取得費(売却価格の5%)**を使用することになり、税負担が大幅に増える可能性があります。
保管すべき書類:
- 売買契約書
- 重要事項説明書
- 仲介手数料の領収書
- 登記費用の領収書
- 不動産取得税の納税証明書
- リフォーム工事の契約書・領収書(実施した場合)
これらの書類は、マンションを所有している間はすべて大切に保管しましょう。
2. 相続・贈与の税務基礎知識
(1) 相続税の基礎控除
相続で財産を受け取った場合、相続税がかかる可能性があります。ただし、基礎控除額を超える財産がある場合にのみ課税されます(国税庁「相続税の基礎控除」より)。
基礎控除額の計算式:
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が3人の場合、
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
相続財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税は課税されません。
(2) 贈与税との違い
相続税と混同されやすいのが贈与税です。両者の違いは以下の通りです。
項目 | 相続税 | 贈与税 |
---|---|---|
課税時期 | 相続時(被相続人の死亡時) | 贈与時(生前) |
基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 | 年110万円(暦年課税) |
税率 | 10%~55%(累進課税) | 10%~55%(累進課税) |
親から生前にマンション購入資金の援助を受ける場合は贈与税が、親が亡くなって相続で財産を受け取る場合は相続税が課されます。
ただし、「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」を利用すれば、一定額までの住宅取得資金の贈与は非課税になります(国税庁「住宅取得等資金の贈与税の非課税」より)。
(3) 相続税の申告期限(10ヶ月)
相続税の申告が必要な場合、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納税する必要があります。
この期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税が課される可能性があるため、相続が発生したら早めに税理士に相談することをお勧めします。
相続資金でマンションを購入する場合、相続税の申告と並行して購入手続きを進めることになるため、スケジュール管理が重要です。
3. マンション購入時にかかる税金
(1) 不動産取得税の税率と軽減措置
マンションを取得した際には、一度だけ「不動産取得税」が課されます(総務省「不動産取得税」より)。
基本的な税率:
不動産取得税 = 固定資産税評価額 × 4%
ただし、住宅用の建物と土地については、以下の軽減措置があります。
軽減措置(令和6年3月31日まで):
- 建物:税率3%
- 土地:税率3%
さらに、新築住宅の場合は建物の固定資産税評価額から1,200万円を控除できるなど、追加の軽減措置もあります。
中古マンションの軽減措置: 中古マンションでも、以下の要件を満たせば軽減措置を受けられます。
- 自己の居住用であること
- 床面積が50㎡以上240㎡以下
- 昭和57年1月1日以降に建築、または耐震基準適合証明書がある
これらの軽減措置により、実際の税負担は大幅に軽減されます。
(2) 登録免許税の計算
マンションの所有権移転登記を行う際には、「登録免許税」が課されます(国税庁「登録免許税」より)。
基本的な税率:
- 売買による所有権移転登記:固定資産税評価額 × 2%
- 抵当権設定登記(住宅ローン):債権金額 × 0.4%
ただし、住宅用家屋の軽減税率があります。
軽減税率(令和8年3月31日まで):
- 所有権移転登記:0.3%(新築)、0.3%(中古で一定要件を満たす場合)
- 抵当権設定登記:0.1%
例えば、固定資産税評価額2,000万円の中古マンションを購入し、3,000万円の住宅ローンを組む場合、
所有権移転登記:2,000万円 × 0.3% = 6万円
抵当権設定登記:3,000万円 × 0.1% = 3万円
合計:9万円
軽減措置を利用しない場合は48万円になるため、大きな差があります。
4. 相続資金を活用した住宅ローン控除
(1) 住宅ローン控除の適用要件
相続資金でマンションを購入する場合でも、住宅ローンを組めば「住宅ローン控除」を適用できます(国税庁「住宅ローン控除」より)。
住宅ローン控除は、年末のローン残高の0.7%を所得税(控除しきれない場合は住民税)から最大13年間控除できる制度です。
主な適用要件:
- 自己の居住用であること
- 床面積が50㎡以上であること(合計所得金額1,000万円以下なら40㎡以上)
- 住宅ローンの返済期間が10年以上であること
- 合計所得金額が2,000万円以下であること
- 居住開始から6ヶ月以内に確定申告すること
控除額の例: 年末ローン残高3,000万円の場合、
控除額 = 3,000万円 × 0.7% = 21万円
この金額が所得税から控除されます。
(2) 相続資金と住宅ローンの併用
相続で現金を受け取った場合、全額を頭金にせず、一部を住宅ローンで賄うことで住宅ローン控除を活用できます。
例:
- マンション購入価格:5,000万円
- 相続資金:3,000万円
- 住宅ローン:2,000万円
この場合、2,000万円の住宅ローンに対して控除を受けられます。
メリット:
- 住宅ローン控除による税負担軽減
- 相続資金の一部を運用や緊急時の備えに回せる
デメリット:
- 住宅ローンの利息負担
- 団体信用生命保険の加入が必要
現在の住宅ローン金利は低水準であり、住宅ローン控除の控除率0.7%と比較して、借入が有利な場合もあります。税理士やファイナンシャルプランナーに相談して、最適な資金計画を立てましょう。
5. 将来の売却時の譲渡所得税
(1) 取得費の計算方法
将来マンションを売却する際、譲渡所得税が発生する可能性があります。計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費に含められる費用:
- マンションの購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 印紙税
- リフォーム費用(資産価値を高めるもの)
これらの費用を取得費に含めることで、譲渡所得が減少し、税負担を軽減できます。
建物の減価償却: 建物部分の取得費は、購入価格から減価償却費を差し引いた金額となります。減価償却費の計算方法は以下の通りです。
減価償却費 = 建物購入価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
マンションの償却率は0.015(耐用年数70年)です。
(2) 購入時の領収書等の保管
取得費を証明するためには、購入時の契約書や領収書が必須です。これらを紛失すると、取得費を証明できず、概算取得費(売却価格の5%)を使用することになります。
領収書紛失のリスク: 例えば、4,000万円で売却した場合、
- 実際の取得費が3,500万円の場合:譲渡所得 = 4,000万円 - 3,500万円 = 500万円 → 税額約101万円(長期)
- 概算取得費を使用した場合:譲渡所得 = 4,000万円 - 200万円(5%)= 3,800万円 → 税額約772万円(長期)
領収書を紛失しただけで、税額が約671万円も増える可能性があります。
保管のベストプラクティス:
- 原本を大切に保管:専用のファイルに入れて保管
- スキャンしてデジタル保存:原本が破損した場合のバックアップ
- クラウドストレージに保存:災害時のリスク分散
- 定期的に確認:引越し時などに紛失していないか確認
6. 相続登記義務化と名義変更の手続き
(1) 相続登記義務化の概要
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料に処される可能性があります。
(2) 相続登記の手続き
相続登記の基本的な流れは以下の通りです。
- 戸籍謄本等で相続人を確定
- 遺産分割協議書の作成(複数の相続人がいる場合)
- 登記申請書の作成
- 法務局への申請
- 登記完了
自分で手続きする場合は無料ですが、司法書士に依頼する場合は5万円~10万円程度の費用がかかります。
(3) 相続マンションの売却または賃貸
相続でマンションを取得した場合、以下の選択肢があります。
選択肢:
- 自己使用:相続したマンションに住む
- 売却:第三者に売却して現金化
- 賃貸:賃貸に出して収入を得る
相続したマンションを売却する場合、「相続税の取得費加算特例」を利用できる可能性があります。この特例により、相続税申告期限から3年以内に売却すれば、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を節税できます。
詳しくは、税理士に相談することをお勧めします。
まとめ
相続資金でマンションを購入する際には、購入時の税金(不動産取得税、登録免許税)や、将来の売却時の譲渡所得税を理解しておくことが重要です。
購入時には譲渡所得税は発生しませんが、将来の売却時に備えて、購入時の契約書や領収書を大切に保管しておきましょう。これらの書類を紛失すると、将来の税負担が大幅に増える可能性があります。
また、相続資金でもローンを組めば住宅ローン控除を適用でき、税負担を軽減できます。相続資金の全額を頭金にせず、一部をローンで賄うことも検討する価値があります。
相続登記も2024年4月から義務化されたため、相続不動産を取得したら3年以内の名義変更を忘れずに行いましょう。
税務は複雑で、個々の状況によって最適な選択肢が異なります。不安な場合は、税理士や不動産の専門家に相談することをお勧めします。