離婚時マンション購入の譲渡所得税|財産分与・取得費引継ぎ・控除適用

公開日: 2025/10/12

離婚とマンション購入の基礎知識

離婚を機にマンションを購入するケースでは、財産分与で取得する場合と新規購入する場合で税務上の扱いが大きく異なります。本記事では、離婚時のマンション取得に関わる譲渡所得税の基礎知識を解説します。

この記事でわかること

  • 財産分与でマンションを取得した場合の税金の扱い
  • 取得費と所有期間の引き継ぎルール
  • 将来売却時の譲渡所得税の計算方法
  • 3,000万円特別控除の適用条件
  • 離婚時のマンション取得で保管すべき重要書類

(1) 離婚時の不動産処理

離婚時の不動産処理には主に3つのパターンがあります。

  1. 財産分与で一方が取得: 夫婦共有のマンションを一方が単独所有
  2. 売却して現金分配: マンションを売却し、代金を分け合う
  3. 新居を別途購入: 財産分与の現金を使って新しいマンションを購入

(2) 財産分与と新規購入

財産分与で受け取った資金を使って新しくマンションを購入する場合、購入時点では譲渡所得税は発生しません。ただし、将来そのマンションを売却する際には譲渡所得税の対象となります。

一方、財産分与でマンション現物を取得する場合、受け取る側には原則として税金はかかりません。ただし、分与する側(渡す側)には譲渡所得税が発生する可能性があります。

(3) 税金面での注意点

離婚時のマンション取得で特に注意すべき税務上のポイントは以下の通りです。

  • 財産分与は原則非課税だが、過大な分与は贈与税の対象
  • 財産分与で取得したマンションの取得費は元配偶者の取得費を引き継ぐ
  • 将来の売却時を見据えて、元配偶者の購入時の契約書や領収書を必ず保管
  • 新規購入時は住宅ローン控除の適用要件を確認

財産分与でマンションを取得した場合

(1) 取得する側の課税関係

財産分与でマンションを受け取る側は、原則として税金はかかりません。これは財産分与が夫婦の共有財産の清算であり、贈与とは性質が異なるためです。

参考: 国税庁|財産分与と税金

課税されないケース

  • 婚姻中に形成した共有財産の範囲内での分与
  • 夫婦の財産状況や婚姻期間に照らして妥当な金額

課税される可能性があるケース

  • 財産分与の額が過大である場合(贈与税の対象)
  • 租税回避を目的とした分与(贈与税の対象)

(2) 分与する側の譲渡所得税

マンションを渡す側(分与する側)は、マンションを売却したのと同じ扱いになり、譲渡所得税が課される可能性があります

計算例

  • 取得費: 3,000万円(10年前に購入)
  • 分与時の時価: 3,500万円
  • 譲渡所得: 3,500万円 - 3,000万円 = 500万円
  • 税額(長期譲渡20.315%): 約102万円

ただし、居住用財産の3,000万円特別控除を適用できれば、上記の例では非課税となります。

(3) 贈与税との違い

財産分与と贈与の違いは以下の通りです。

項目 財産分与 贈与
性質 共有財産の清算 一方的な無償譲渡
受ける側の税金 原則非課税 贈与税(年110万円超)
渡す側の税金 譲渡所得税 原則なし
タイミング 離婚時または離婚後2年以内 いつでも

取得費の引継ぎルール

(1) 元配偶者の取得費を引き継ぐ

財産分与でマンションを取得した場合、元配偶者が購入した時の取得費を引き継ぎます。これは将来の売却時に重要なポイントとなります。

引き継ぐ内容

  • 元配偶者の購入代金
  • 元配偶者が支払った仲介手数料、登記費用
  • 元配偶者が行ったリフォーム費用

計算例

元配偶者が10年前に3,000万円で購入したマンションを財産分与で取得し、5年後に4,000万円で売却した場合:

譲渡所得 = 4,000万円 - (3,000万円 + 譲渡費用)

財産分与時の時価(例: 3,500万円)ではなく、元配偶者の取得費3,000万円を使用します。

参考: 国税庁|譲渡所得の計算

(2) 元配偶者の取得時期を引き継ぐ

所有期間の計算も元配偶者が取得した日から計算します。これは長期譲渡所得(5年超)か短期譲渡所得(5年以下)かの判定に影響します。

判定例

  • 元配偶者の取得日: 2019年6月1日
  • 財産分与日: 2024年4月1日
  • 売却日: 2025年6月1日
  • 所有期間の判定日: 2025年1月1日時点
  • 判定結果: 2019年6月1日から計算し、長期譲渡所得(税率20.315%)

もし財産分与日から計算すると短期譲渡所得(税率39.63%)となり、税負担が約2倍になってしまいます。

(3) 必要な資料と記録

将来の売却に備えて、以下の書類を必ず保管してください。

元配偶者から入手すべき書類

  • 購入時の売買契約書
  • 購入時の領収書(仲介手数料、登記費用等)
  • リフォーム費用の領収書
  • 住宅ローンの返済予定表(参考資料)

財産分与時に作成すべき書類

  • 財産分与契約書(公正証書が望ましい)
  • 不動産の評価書(不動産会社の査定書等)

これらの書類がないと、将来の売却時に概算取得費(売却価格の5%)しか認められず、税負担が大幅に増える可能性があります。

将来売却時の譲渡所得税

(1) 譲渡所得の計算方法

財産分与で取得したマンションを将来売却する際の譲渡所得は以下の式で計算します。

譲渡所得 = 譲渡収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費に含まれるもの

  • 元配偶者の購入代金
  • 元配偶者が支払った購入時の諸費用
  • 元配偶者が行ったリフォーム費用
  • 建物部分の減価償却費を控除

譲渡費用に含まれるもの

  • 売却時の仲介手数料
  • 売買契約書の印紙代
  • 売却のための測量費、解体費等

(2) マンションの減価償却

マンション(建物部分)は、所有期間に応じて減価償却を行います。土地部分は減価償却しません。

減価償却の計算式(非業務用)

減価償却費 = 建物取得費 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

鉄筋コンクリート造マンションの償却率は0.015(耐用年数70年)です。

計算例

  • 建物取得費: 2,000万円
  • 所有期間: 10年(元配偶者5年 + 自分5年)
減価償却費 = 2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年 = 270万円
建物の取得費 = 2,000万円 - 270万円 = 1,730万円

(3) 短期・長期の税率

所有期間(元配偶者の取得日から計算)に応じて税率が異なります。

所有期間(売却年1/1時点) 税率
5年以下(短期譲渡所得) 39.63%
5年超(長期譲渡所得) 20.315%

所有期間の判定を誤ると税負担が約2倍になるため、売却タイミングは慎重に検討しましょう。

3,000万円特別控除の適用

(1) 居住用財産の特例要件

財産分与で取得したマンションを実際に居住用として使用していた場合、売却時に3,000万円特別控除を適用できます。

適用要件

  • 自己の居住用財産であること
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  • 配偶者や直系血族への売却でないこと
  • 前年・前々年に同特例を利用していないこと

参考: 国税庁|3000万円特別控除

(2) 離婚後の居住実態

財産分与で取得したマンションに実際に居住していることが重要です。

適用できるケース

  • 離婚前から夫婦で居住していたマンションを財産分与で取得し、引き続き居住
  • 財産分与で取得後、自己の居住用として使用

適用できないケース

  • 財産分与で取得したが一度も居住せず賃貸に出した
  • 投資用マンションとして保有していた

(3) 元配偶者から取得でも適用可能

財産分与でマンションを取得した場合でも、居住用財産の要件を満たせば3,000万円特別控除は適用できます。元配偶者から取得したという理由で制限されることはありません。

適用例

  • 譲渡収入: 4,000万円
  • 取得費(元配偶者の取得費を引継ぎ): 3,000万円
  • 譲渡費用: 150万円
  • 譲渡所得: 4,000万円 - (3,000万円 + 150万円) = 850万円
  • 3,000万円控除後の課税所得: 0円(非課税)

離婚時のマンション購入で準備すべき書類

(1) 財産分与契約書

財産分与の内容を明確にするため、財産分与契約書を作成しましょう。公正証書にすることで法的な証明力が高まります。

記載すべき内容

  • 分与する不動産の表示(登記簿通り)
  • 分与の理由(財産分与であることを明記)
  • 分与時の評価額
  • 引渡し時期

(2) 元配偶者の購入時の契約書

将来の売却時に必要となるため、元配偶者から以下の書類を入手しておきましょう。

必須書類

  • 購入時の売買契約書
  • 購入時の領収書(仲介手数料、登記費用等)
  • リフォーム費用の領収書

参考書類

  • 住宅ローンの契約書
  • 火災保険の証券
  • 管理費・修繕積立金の履歴

これらがないと、売却時に概算取得費(売却価格の5%)しか認められず、税負担が大幅に増えます。

(3) 新規購入時の契約書保管

離婚後に新しくマンションを購入する場合も、将来の売却に備えて以下の書類を保管してください。

  • 売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 仲介手数料の領収書
  • 登記費用の領収書
  • リフォーム費用の領収書
  • 住宅ローンの契約書

これらの書類は、将来の譲渡所得税の計算で取得費として認められます。

まとめ

離婚時のマンション取得では、財産分与の場合と新規購入の場合で税務上の扱いが異なります。

重要ポイント

  • 財産分与で取得する側は原則非課税、分与する側は譲渡所得税が発生
  • 取得費と所有期間は元配偶者のものを引き継ぐ
  • 所有期間は元配偶者の取得日から計算(5年超で税率半減)
  • 居住用として使用していれば3,000万円特別控除が適用可能
  • 元配偶者の購入時の契約書・領収書を必ず保管

特に、元配偶者の購入時の書類を入手・保管しておくことは、将来の税負担を大きく左右します。離婚協議の際に必ず確認しましょう。

よくある質問

Q1. 離婚で元配偶者からマンションを譲り受けた場合、税金はかかりますか?

財産分与として受け取る場合は原則非課税です。ただし、財産分与の額が夫婦の財産状況に照らして過大である場合は、贈与税の対象となる可能性があります。一方、マンションを分与する側(渡す側)には譲渡所得税が発生する可能性があります。

Q2. 財産分与で取得したマンションを売却する際の取得費はどうなりますか?

元配偶者が購入した時の取得費を引き継ぎます。そのため、元配偶者の購入時の売買契約書や領収書が必要になります。これらの資料がない場合、概算取得費(売却価格の5%)となり、税負担が大幅に増加する可能性があります。離婚時に必ず書類を入手しておきましょう。

Q3. 離婚後に新しく購入したマンションは3,000万円特別控除を使えますか?

新規購入後、実際に居住し一定要件を満たせば適用可能です。自己の居住用財産であること、居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することなどが要件となります。元配偶者から財産分与で取得したマンションでも、居住していれば同様に適用できます。

Q4. 財産分与で取得したマンションの所有期間はいつから計算しますか?

元配偶者が取得した日から計算します。財産分与日からではありません。所有期間が5年を超えるか否かで税率が大きく変わるため(5年以内: 39.63%、5年超: 20.315%)、売却タイミングの計画が重要です。判定は売却した年の1月1日時点で行います。

Q5. 財産分与で取得したマンションの評価額はどう決まりますか?

財産分与時のマンションの評価額は、夫婦間の協議で決定します。一般的には不動産会社の査定額や固定資産税評価額を参考にします。ただし、この評価額は将来の譲渡所得税計算には直接影響しません。重要なのは元配偶者の取得費を引き継ぐことです。

よくある質問

Q1離婚で元配偶者からマンションを譲り受けた場合、税金はかかりますか?

A1財産分与として受け取る場合は原則非課税です。ただし、財産分与の額が夫婦の財産状況に照らして過大である場合は、贈与税の対象となる可能性があります。一方、マンションを分与する側(渡す側)には譲渡所得税が発生する可能性があります。

Q2財産分与で取得したマンションを売却する際の取得費はどうなりますか?

A2元配偶者が購入した時の取得費を引き継ぎます。そのため、元配偶者の購入時の売買契約書や領収書が必要になります。これらの資料がない場合、概算取得費(売却価格の5%)となり、税負担が大幅に増加する可能性があります。離婚時に必ず書類を入手しておきましょう。

Q3離婚後に新しく購入したマンションは3,000万円特別控除を使えますか?

A3新規購入後、実際に居住し一定要件を満たせば適用可能です。自己の居住用財産であること、居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することなどが要件となります。元配偶者から財産分与で取得したマンションでも、居住していれば同様に適用できます。

Q4財産分与で取得したマンションの所有期間はいつから計算しますか?

A4元配偶者が取得した日から計算します。財産分与日からではありません。所有期間が5年を超えるか否かで税率が大きく変わるため(5年以内: 39.63%、5年超: 20.315%)、売却タイミングの計画が重要です。判定は売却した年の1月1日時点で行います。

Q5財産分与で取得したマンションの評価額はどう決まりますか?

A5財産分与時のマンションの評価額は、夫婦間の協議で決定します。一般的には不動産会社の査定額や固定資産税評価額を参考にします。ただし、この評価額は将来の譲渡所得税計算には直接影響しません。重要なのは元配偶者の取得費を引き継ぐことです。

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